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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第74話 学園編㉗ 学園祭狂騒曲 1日目 その7

六花は自分をお気に入りにする男達と進んで夫婦杯を酌み交わした。


「これで今日この場所だけの夫婦だな!Hも合意の上での合法だぞ!」

茜の宣誓に児童買春に怯えていた男達の顔が晴れる。

四具祖が「こりゃ参った」と呟き、茜からウィンクを飛ばされた。


胸のつかえが下りた男達は持ち前のバイタリティを発揮して、名刺交換を行い互いの自己紹介を始める。

頭領達から聞いた世界規模の紛争勃発について、まだ信じられない気持ちはあるが、いざ始まった時に備えておく事は無駄では無いと考えていた。


「日本経済がひとつになり、超集合国家企業体となりそれらをまとめるのが、あそこで踊っている少女達か夢物語だな。」

「旦那様、夢や物語ではございません。

なにせ親友の私達が実現のお手伝いをいたします。

勿論、旦那様もご協力していただけますよね。」

「ここで交換条件を出せば君らの恩義を無にすることになるな。

出来る限りの協力をすることを妻に誓うよ。

できれば今日以降も妻と呼ばせてもらいたいものだ。

夜花子さん。」

「男と女がひとつの処に長く共に居ても良い事はありません。

1年に1度、そう織女と彦星のような関係が素敵だと思います。」

「素晴らしい提案だ!二度と会えなくなるよりはこの提案を飲むしかあるまい、連絡先を教えて貰えるかい?」

「その日が来たら私があなたの元に参ります。

楽しみにしていてください、あなた。」

何か言いたそうな男を唇で塞ぎ、きつく抱擁すると別の男の元に向かう夜花子、男は夜花子の後を追うことはせず、同じような約束をした男と酒を酌み交わし将来の展望を語り合った。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


切見世では学園生徒を優先して遊女体験が行われている。

切見世は全部で6室用意され1室3名が定員で既に全てが埋まり、整理券も抽選でありながら即時完売していた。


檻のような格子の向こうで18名の即席遊女が目を輝かせて、通りを歩く男達に声をかけ手招きしている。

その中に波多野 正美の姿があった。


正美は黒屋儀決戦時、黒い仔山羊に姿を変え学園屋上で力を吸い取られ人の姿に戻り、しばらく入院生活をおくっていたが、幾度か萌葱が見舞いに来るも一度も顔を合わせずに退院をし、学園に復帰してからも逃げるように萌葱を避け続ける。

そんな時、萌葱から手紙が送られてきた。


「会って話がしたいけど元気でいてくれたらいいや。」

同封されていた手紙にその一文のみ書かれていた。


「私も会いたいよ、でもあんな酷い事言って会えるわけないよ。

ごめん、ごめんなさい萌葱。」

正美は黒屋儀に憑依されていた時の記憶を鮮明に覚えている。

何故あんな事を言ったのか、それが本心だったのか言わされたことなのかは判別がつかない。

正美は萌葱を前にしてまた言ってしまわないかそれを恐れていた。


「こ、これは!」

手紙と同封されていた遊女体験招待券と野外ライブ招待券を見て思わず飛び上がる。

生徒の間で騒がれている幻の招待券である。

存在自体が不明であり、あるともないとも噂され中堅財閥や大企業社長の令嬢が、破格の値段で買い取ると宣言しているプラチナチケットであった。


「こんなモノどうやって?!萌葱って何なの?!

本当はどこかの財閥令嬢じゃないの?!

それよりも私が持っているなんてことが知れたら何をされるか!

売る?いえダメよ、また萌葱を傷つけてしまう!

それに私、絶対に参加したい!」

正美は学園生活に新たな希望を見出し、その日が来るまで平静を装い目立つことなく日々を過ごした。


学園祭当日、正美の乗り込んだエレベーターが学園階に停止する。

ここで降りるのは屋上の催しにそぐわないとされる、平民の生徒達であり、正美もその中の1人であった。


「あら、あなた降りないの?この先はあなたに縁のない世界よ。」

「はい、ちょっとだけでも、雰囲気を味わいたいなと思って。

学生の身分ならそういうのもありだと思うんです。」

「ふん!そうね、今だけの特典かしらね。雰囲気だけ楽しみなさい。」

保護者も同伴しているが誰も彼女の暴言を諫めようとしない。

全員が侮蔑と差別の目で正美を見ていた。


エレベーターが屋上で止まり、特権階級の人々が降りていくのに続いて、正美も降りようとすると先ほどの生徒に肩を押さえられた。


「雰囲気は十分楽しんだでしょう、ここから降りることは許さないわ。

下の世界に戻りなさい。」

前を見ると入口ゲートに待ち人がいない。

降りた人々はゆっくりと歩を進め、半分の距離にも至っていない。

正美は本能のままに動いた。


抑えられた手を払いのけると猛然と駆け出す。

自分では精一杯の駆け足だが50m20秒の鈍足である。

あっという間に生徒に追いつかれスカートを掴まれ転倒した。


「どういう事かしら!この学園に居られなくなってもいいの!

さっさとエレベーターに戻りなさい!」

「嫌です!私はあそこに行くんです!」

立ち上がり駆け出そうとするがスカートを引っ張られ再び転倒する。


「あなたがあそこに行っても何も得るものはないわ!」

「あります!友達がくれた大切なチケットが!」

「えっ!あなたもしかして招待券を持っているの?!」

「そうです!だから行かせてください!」

正美は渾身の力で立ち上がり振りほどこうと体を動かした。


「あなたが持っていても意味がないわ!私に譲りなさい!

10万、いいえ100万だすわよ!」

「幾らお金を積まれても友達の思いは譲れません!」

ビッと音を立ててホックが弾け飛びスカートが脱げ落ちる。

自由になった正美はそのままゲートに駆け込んだ。


「おめでとう、よくがんばったね。切見世部屋は「い」よ。

楽しい時間を過ごしてね。」

ゲート守衛の女性に褒められ照れる正美は下を見て、パンツが丸見えな姿である事に気付きしゃがみこんで声を上げた。


「いやああああ!」

大声を上げ更に周囲の視線を集め「痴女」「露出狂」とささやかれる。

ブルブルと震え、今にも泣き出しそうな正美にスカートが投げつけられた。


「みっともない、早くそれを履いて行きなさい!目障りよ!」

先ほどの生徒が仁王立ちして見下ろしていた。


「あんたの根性、見上げたものね。今回は見逃してあげる。」

生徒は踵を返すと振り向かずに去っていった。


スカートを履くとポシェットから安全ピンを取り出し仮止めをする。

ずり落ちないことを確認すると特設テントに駆けていった。


正美が入場した時、丁度、花魁道中の最中で客を迎えるために太夫達が入口に付いたところであった。

特設テント内はまさに異世界と思える風景であり、この風景が100年前には存在していた事実に驚かされる。

日光を通さないテント内はロウソクや提灯、行灯、灯篭の灯でうす暗く、赤い建物や花魁達を幻想的に照らし出していた。


「うわあ!もしかして五大財閥の御令嬢様?とても綺麗!可愛い!

あれ?萌葱?!なんで萌葱が花魁なの?!」

太夫ほど着飾っていない散茶の中に萌葱の姿を見て驚愕する。


(やっぱり萌葱は特別な人なんだ、そんな人に無礼を働いて私の家大丈夫かな?お父様解雇されたりしないかしら・・・)

そんな不安な心を見透かすように萌葱の視線が正美を捉えていた。


「ひっ!」

思わず声を上げ顔を背けようとするが体が硬直して動かない。

突き刺すような視線が柔らかなものに変わり笑顔が浮かび上がった。


「また後で」

萌葱の口が動き確かに正美にそう聞こえた。


中央通りの両端に格子窓が続き、正面に大きな館が見える。

正美が向かう切見世「い」は左奥にあり、玄関に入ると地味な和服を着た中年女性が出迎えてくれた。


「波多野 正美さんね、私はやり手の生糸きいとです。

本日はよろしくお願いしますね。

源氏名は「波美なみ」でいいかしら?」

「は、はい。」

「では波美さん、立派な遊女に変身しましょうか。」

部屋の奥に連れていかれるとそこは大きな化粧室ですでに数名、遊女コスプレを行っていた。


「では、下着を含めて全て脱いでください。」

「ええっ?!」

全裸になるのに抵抗があったがどうにも拒否できる雰囲気ではなく、仕方なく生糸の指示に従った。


生糸は慣れた手つきで肌襦袢を着せ化粧を始める。

白粉おしろいを顔から胸元まで塗りたくられ、真っ白になった顔に派手なメイクを施されること20分、こうがいで彩られたカツラを被せられまずはメイクが終わった。


(あ、頭が重い!)

別人になった顔に戸惑いを覚えながら、グラグラしそうな頭を頑張って支える。

その後、小袖2枚、打掛1枚を着せられ、前結びの帯、扇子を渡されコスプレが終了した。

ここまで切見世に入場してから30分が経過していた。


「準備は完了しました。切見世開店まであと5分位かな。

もう表に出たいかしら?」

「はい!こんなに綺麗にしてもらったので、皆さんに見てもらいたいです!どんな反応があるか凄く楽しみです!」

「それはよかった、がんばった甲斐があるわ。

ひとつ聞いておきたいのだけど、あなたはここで何をしたいですか?」

「何を、ですか?どういう意味なんでしょうか?」

「事前情報だとほとんどの方が将来の伴侶、それも玉の輿レベルの夫を得るために参加しているそうよ。

中堅財閥の縁者やそれこそ五大財閥のご子息も参加している。

正に優良物件の狩場ね。

まあ、やり捨てされる可能性は大きいけど上手くやれば超セレブ妻も夢ではないわね。

この日の為に排卵調整してるって話も聞いたわ。

あなたはどうかしら?」

生糸の話を聞き正美は酷く混乱した。


(ええ!ここってそういう場所だったの?!

超話題の場所だから浮かれて来ちゃったけど、私そんな気全然ないよ!

結婚する迄は処女でいたいし、初めてはお互いをちゃんと理解した恋人でなきゃイヤだ!

帰ろうかしら、でも今更そんなことできっこない。

ああ、こんなことなら100万円で売っちゃえばよかった。)

うじうじと考えているうちに開店を知らせる大太鼓の音が響き渡る。

生糸は迷っている正美にアドバイスを与えた。


「波美さん、別に無理に結婚相手を探す必要はないのよ。

男に求められても拒否すればいいだけだから。

無理強いされないように私達やり手がちゃんと監視しているからね。

安心して楽しんできなさいな。」

そう言われて少し気が楽になった正美は勇気を出して一歩踏み出した。


表座敷に入ると同部屋の遊女2人が手を伸ばして、これはと思った男に手招きをしている。

男は誘われるまま玄関から座敷に上がってくると、正美ともう1人の遊女を値踏みするような目で見て誘われた女の元に向かう。

男が着座すると料理と酒の乗ったお膳が運ばれ、しばしの歓談時間が始まり、ここで意気投合すれば奥座敷に案内される。

個室内で何をしようがそれは本人達の自由であり、暴力行為や薬物使用など違法行為を行わなければ、干渉しない決まりであった。


5分ほど話をしていただろうか、2人が手を取り合って立ち上がり奥座敷に消えていく。

ほどなくして女の嬌声が微かに聞こえてくる。

残された遊女は闘志が湧いたのか格子から手を伸ばして男を誘う。

一方の正美は耳を押さえて、奥座敷から一番離れた格子側の壁際で固まっていた。

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