第73話 学園編㉖ 学園祭狂騒曲 1日目 その6
「わっちも娘達の晴れ姿が見とうござりんすね。
とても綺麗でありんしょうね。
写真じゃのう生でみとうござりんすね。」
「おらさも生六花が見たいぞ、狼牙は羨ましいな。」
襖の影から薄葉とお糸が出かける寸前の狼牙をジッと見ている。
その目はどんよりと曇り怨念すら感じさせた。
「待て待て!連れて行きたいのは山々だが、この家から出る手段がないだろう、今回は諦めてくれ。」
薄葉は地縛霊、お糸は座敷童である。
共にこの家に縛られている故に外出は不可能であった。
「主様に怨念級の執着があれば憑りつけるのでありんすが、生憎と憎しみはありんせんからね。
何かよい方法は何ありんせんでしょうかね。」
「おいおい、憑りつくって怖い事言わないでくれ。
執着か・・・2人共この家にあるもので一番大切な物は何だ?
人以外で。」
フムと2人は考え、直ぐに返事を返した。
「人以外でありんすと、わちきは証文でありんすね。」
「おらは仏像だ。」
「俺がそれを持っていれば憑りつくことができないか?
モノは試しだやってみよう。」
狼牙は証文と仏像をバックパックに入れ敷地を出た。
「ウオッ!」
突然背中に推定70Kg前後の重量がかかり思わず声が出る。
しかし、強化印を刻み込んだ体には大きな負担にならなかった。
「やりんした!主様!無事憑りつくことができんした!」
「うわぁ!外に出るのは300年ぶりだあ!」
背中に張り付いた2人が喜びの声を上げる。
通行人が驚いて見たが「やだおかしい人?」と、小声が聞こえてくるあたりどうやら見えていないようである。
「2人とも大声を上げないでくれるか、俺が変人だと思われる。」
「はーい!」
2人の合唱にまた衆人からの視線が集まった。
「頼むよ、これから電車に乗るんだ。大人しくしててくれ。」
「はーい」
今度は小声で返事が返ってきた。
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何度も質問責めに合いながらも、ようやく学園に到着する。
狼牙は打ち合わせ通り、理事長室直通のエレベーターに乗り誰にも見られることなく、特設テント関係者入口から入場する。
そこで、ナイラーに出迎えられた。
「おひさしぶりね、狼牙くん。元気だった?」
ナイラーは狼牙に抱き着くと股間をまさぐった。
黒屋儀との決戦時、狼牙は獣人化するため「神威」をパージした。
全てが終了し目が覚めた時、六花と四具祖、ナイラーに周りを囲まれ「ナニ」の品評会が行われていた。
「太さは四具祖様ですが、長さとカリの大きさは狼牙くんかしら。」
ナイラーがグビッと生唾を飲み込んだ。
「なんじゃ試してみたいのか?好きモノじゃのう。」
「四具祖様のお許しがあれば。」
「許すも何も儂らはそういう関係ではなかろう、何でもありの友人じゃ。
お前が誰と寝ようと儂らの関係が破綻することはないぞ。」
四具祖がナイラーの肩をポンポンと叩く。
ナイラーは六花に向かい合い狼牙との関係を尋ねた。
茜「今は全員の仮のダンナだよ!」
夜花子「結婚も婚約もしてるわけではありません。」
珊瑚「私達が大人になるまで結婚しません。」
蒼「大人の女になることを望まれています。」
桔梗「あたち達が他に好きな男ができてもいいそうでち。」
萌葱「私達が自由なので狼牙も自由です、狼牙の意志を尊重します。」
どうやら彼女らが大人になるまで結婚しないが、それまでは誰と付き合おうと問題視しないと結論を出した。
「私とSEXしても恨まない?」
「特に問題ないぞ!オレも他の男としてるからな!」
「信頼が強いのか倫理観がぶっ壊れいるのか微妙なところね。」
とりあえず言質をとったナイラーは満足した。
「相変わらず大きいのね、ちょっと時間があるの。
そこの個室で休憩しない?」
「ナイラーさん折角のお誘い有難いんですが、今日は特別な事情がありまして無理なんです。」
「事情?」
ナイラーは見えない「なにか」に、体の中を触られる感触を覚え思わず「ヒッ!」と声を上げた。
「ほう、珍しい女子でありんすね。
チンコとボボが両方とも付いてちゃんと機能しているのでありんすね。」
突然の女性の声にナイラーは周りをキョロキョロと見回す。
「声が聞こえましたか?実は幽霊に憑りつかれているんですよ。
目に見えませんが背中に張り付いています。」
「ナイラーさんでありんすね、六花の母親の薄葉でありんす。
この度は娘達がたいへんお世話になりんした。
誠にありがとうござりんす。」
「おらからも礼を言う、ありがとな。」
明らかに女性の大人と子供の声が聞こえ、背筋に冷や汗が流れた。
「ああ、ちっこいのはお糸といいます。」
「よろしくな!おらは座敷童だ!」
「そういう訳で今日は辞退させてください。
また今度ゆっくりとお願いします。」
「・・・分かりました。ではこちらへ案内いたします。」
ナイラーは心臓をバクバクさせながら先を歩いた。
「こちらが関係者の控え室になります。
荷物はこちらのロッカーをご使用ください。」
それだけ言うとナイラーは逃げるように去っていった。
「怖がらせてしまいんしたね。」
「案外みんな幽霊が怖いんだな。」
「そういう狼牙もすごく怖がってたぞ。」
「まあ、そうだな。さてと俺は今日厨房に入らなければならない。
2人はどうする?時間が来る迄ロッカーの中でいいか?」
「それは嫌だ!」
「わちきも嫌でありんすね。」
「そうだよな、かといって大事な物を放置するわけにいかんだろ。」
「お座敷のどこかに置いておいてくれんせんか。」
「持ち去られたりしないか?」
「大丈夫だ!そんなことしようもんならおらが罰を与える!」
「これを見えねえように、意識の外に持っていくから、見つけることは不可能でありんすよ。」
「へえ、便利だな。分った座敷に行くか。」
狼牙は座敷に出向き、客席の後ろの衣装掛けにバックパックを掛けた。
「これでどうだい?」
「ようござんす。全体が良う見えんす。」
「一応言っておくけどくれぐれも騒ぎを起こさないでくれよ。
穏便にただ見ているだけだぞ。」
「わかりんした。」
「わかった!」
不安を残しながら狼牙は控室に戻り、コックコートに着替えると厨房に向かった。
「ようこそ!あんた、三ツ星クラスの料理人なんだって!
この通り猫の手を借りたい有様だ!
早速厨房に入ってくれると助かる!」
挨拶もそこそこに老齢のコック長から指示が飛ぶ。
狼牙は厚焼き玉子を任された。
「何々コンセプトは江戸時代の料理を再現、調味料は塩・砂糖・醤油・味噌・カツオと昆布のだし汁のみか。
そういえばあいつらも食べるのかな。
あいつらの好みの味付けにしてみるか。」
早速玉子を割り、六花の大好きな厚焼き玉子を作り始めた。
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薄葉とお糸は笑いをこらえるのに必死である。
太夫令嬢の踊りは見事であり並の芸者以上の実力と認める。
しかし、その後の六花達の男喰いから始まった騒動に、思わず吹き出してしまったが気づかれることはなかった。
「わちきの教えた手練手管をちゃんと実践できてやす。
あの娘達は色事の素質が十分に備わってやすね。」
薄葉は六花個人の性格や考え方から、男に最大限自分を魅せる方法を助言し、そのためのテクニックを教え込んだ。
見事に六者六様の女が出来上がり、そのどれもが魅力的で甲乙つけがたい存在に仕上がった。
「あとは男の好みの問題でありんす。自分に合うと思った男を積極的に攻めていけばすぐにでも手中に落せましんす。」
「どうやって見分ければいいですか?」
勉強熱心な蒼が手を上げて質問した。
「女のカンに頼りなんし、バカにしたモノではありんせん。」
「分かりりましたー!」
得心いった表情で六花は元気に返事をした。
一騒動が終わり、今は男達だけで宴席を行っている。
誰も料理に手を付けずに頭領と思われる爺の話を聞いている。
時折悲鳴に似た声や怒声が上がるが静かな話し合いであった。
「折角の料理が冷めちまいましんす。」
「おらあの卵焼きが食いてえ、狼牙の卵焼きの匂いがする。」
「ここはわちきが場を盛り上げてみんしょうかね。」
薄葉は証文を広げて手を差し込むと三味線を取り出し、べべんと奏でる。
すると一瞬で花魁に変身して姿を現した。
「お糸、三味線は任せんした。」
「あい、分った!」
お糸が流暢に三味線を奏でると、薄葉がしゃなりしゃなりと宴席に進み始め、男達は突然現れた花魁に目を丸くした。
「旦那様方、折角のお料理が冷めて不味うなっちまいましんす。
まずはお料理とお酒を楽しみながらお話をいたしんせんか。」
薄葉は四具祖の脇に座ると、お銚子を手に取り一献勧める。
四具祖は成熟した薄葉の色香に久しぶりに胸の高鳴りを覚えた。
「ささ、どうぞ。」
四具祖が持つおちょこが僅かに震えている。
薄葉は震えるおちょこから一滴も零さずに並々と酒を注いだ。
グイッと飲み干したおちょこをおねだりして受け取ると、酒を注いで貰い一気に飲み干した。
「杯で結ばれた旦那様とわちきは、今日ここだけの夫婦でありんす。
わちきの名前は薄葉、どうか可愛がっておくんなんし。」
四具祖が堪えきれずに、思わず抱きしめようとした手をスルリと抜け出すと、西園寺頭領の脇に座り「夫婦杯」を勧める。
西園寺頭領はこれ以上はないほど表情を崩し喜んで受け入れる。
そして抱きしめようとしてスルリと逃げられる。
四具祖は西園寺頭領を見てニヤリと笑った。
薄葉は頭領達と「夫婦杯」を交わすと、三味線の音色に合わせて踊る。
その優雅な舞は男達の心を惑わせ惹きつけていく。
老若問わず男達は薄葉に心を奪われた。
すっかり調子を取り戻した太夫令嬢と六花はお色直しを済ませる。
宴席に向かう途中で三味線の音色が聞こえ始め、珊瑚が「お糸ちゃんの三味線だ!」と裾を捲くり上げ駆け出した。
宴席で薄葉が舞をしているのを見て更に驚く。
太夫令嬢と六花が宴席に近づくが誰も気が付かない。
薄葉の本気の舞に心を奪われたのは男だけでなく女も同様であった。
「ささ、咲いたばかりの花もようやくのお出ましでありんす。
お前さんら旦那様にお酌をしなんし。
お料理もたんと召し上がっておくんなんし。」
薄葉の指示で太夫令嬢は踊りの準備を始め、六花は客の周りに散り酌をはじめる。
薄葉とお糸は頭領達に近づき正座をするとお辞儀をした。
「おら卵焼きが食べたい!」
頭領達は一斉に箸を持ち玉子焼きをお糸に差し出す。
お糸は端から玉子焼きを頬ばり満面の笑顔でモグモグと咀嚼する。
薄葉もアーンをするとこれまた争うように卵焼きを差し出し、一口づつ齧っては微笑みながら頭を軽く下げる。
頭領達は残った卵焼きをありがたそうに頬ばると口の中で溶けて無くなるまで咀嚼する。
ようやく宴席が本来の賑やかさを取り戻した。




