第70話 学園編㉓ 学園祭狂騒曲 1日目 その3
20代の結婚適齢期の男ばかり、20名が花魁道中のゆっくりとした歩みに、かなり焦らされて大見世に入場する。
花魁達が座敷に上がる迄の間、男達は玄関で一度止められ、更に時を待つことになり、一部の男達のイライラが頂点に達しようとしていた。
「皆様よくお越しくださいました。
私は当妓楼「六花亭」の忘八の1人、西園寺でございます。
本日は現実の日常はサッパリと忘れて、心行くまでお楽しみください。」
「お爺様?!」
「おお、宗近よ、無事抽選を越えてきたな。頭首たるもの強運も必要だ。お前は運に恵まれておるな良い事だ。」
「西園寺頭首のお爺様がなぜこんな所に?」
「ははは、可愛い寿子のお願いだ。聞かないわけにはなかろう。」
「そうです!その寿子です!あいつは何を考えてこんな事を?!」
「あの子の考えは凄いものだ。宗近も話を聞いてあげるとよい。」
「はあ、お爺様がそう仰るならば。」
西園寺頭首はにっこりと笑うと、地に頭を付け歓迎の礼をする。
2人の話を聞いていた男達は、西園寺頭首より深く頭を地に着けた。
すっかり毒気を抜かれた男達は、びくつきながら西園寺頭首の後を着いて座敷に上がり、思い思いの座布団に座ると、やはり友好派閥同志が集まり集団を作る。
その光景を影から見ていた各財閥頭首は溜息を洩らした。
「元はと言えば、儂らが作り上げた派閥だ。
なかなか思った通りにはいかんものだな。」
「仕方あるまいよ、戦後から続いてきた習慣だ。」
「それを考慮すると、孫娘達は偉いものだ感心させられるな。」
「全く持って同感だ。」
4人は腕を組み、うんうんと頷いた。
「それでは5人の太夫による舞をご鑑賞ください。」
全員が着座し酒と少量のつまみの乗せられたお膳が配膳され、ほろ酔い気分になり始めた頃、余興の始まりが告げられた。
お囃子と三味線の音色が鳴り始めると、5人の花魁令嬢が袖幕から現れ両手に扇子を広げながら、ひらひらと舞い踊る。
幼い頃から習い事として、舞踊を教え込まれた花魁令嬢の踊りに、男達の目が釘付けとなる。
どこからか、甘く香しいお香の煙が立ち上り、扇子に煽られ室内に満遍なく広がると、男達の表情がだらしなく惚けていく。
男達は花魁令嬢に「ガチ恋」をしていた。
(ああ、なんて美しいんだ。)
(1人を選ぶなんてできない。)
(全員を手に入れたい。)
(その為なら俺は全てを彼女達に捧げてもよい。)
大方の男が、洗脳されたように同じ考えに捕らわれていた。
「なあ、夜花子。なんか変な雰囲気じゃねえか?」
袖幕から座敷の様子を覗いていた茜が夜花子に振り返った。
「お、おかしいわね。気持ちを鎮静化させるお香なんだけど。」
合成した香木をくんくん嗅ぎながら首を捻る。
「なんか、お兄さんたちピンク色に見えるでち。」
「ああ、オーラの色ね。ここに来た時は真っ赤な炎だったのにね。」
桔梗と同じ目線で男達を見る珊瑚が呟いた。
「そろそろ、私達の出番だよ。」
「ねえ、本当にお酌して回るの?」
「散茶なんだから仕方ないでしょ。
太夫は当分踊りと長唄のステージショーなんだから。いくよみんな!」
萌葱は不服そうな蒼の手を引いて、袖幕から踊り出た。
花魁令嬢に夢中で散茶六花に気付く男がいない。
不服そうだった蒼はその様子に少し腹を立てた。
(ちょっとムカつくわね、少し悪戯してやろうかしら。)
5人は座敷に散らばるとお銚子を手に取り男に声を掛けた。
「お兄さん、おひとついかがでありんすか?」
蒼は膝を着いて男に酒を勧めるが見向きもされない。
こめかみに青筋が浮かびあがりピクリと動く。
思い返せば男に無視されたのは小学生以来である。
蒼は胡坐をかいている膝の上に腰を下ろし、首に手を回した。
「な、なんだ!君はっ・・・」
一瞬、怒りの表情を見せた男だったが、目の前に妖艶な笑顔の美女を見て、すぐに表情を緩めた。
「お声を掛けても気付いてくださらねえものでありんすから、少し強引にしてみんした。ご迷惑でありんしたでありんしょうか?」
少し眉間にシワを寄せて潤んだ目で男を見つめる。
男は目尻を下げて首を左右に振った。
「そんなことあるわけないじゃないか。
こんな美人さんが膝の上に乗ってくれるなんて、僕はとても幸運だよ。」
男は蒼の体を支えるように片手を回す。
蒼はお銚子を手に取り一献勧める。
男はおちょこを手に取り酒を注いでもらうと、グイッと一気に飲み干した。
「まあ!男らしゅうござりんす!素敵でありんす!ささ、もうお一ついかがでありんすか?」
「僕ばかりでは申し訳ないな。返杯させて貰ってもいいかな?」
「あら、わちきにお酌していただけるのでありんすか?
嬉しゅうござりんす。ではお言葉に甘えてお一つ頂きんす。」
蒼は男が手に持つおちょこを奪い取ると差し出した。
「それは僕が使ったものだけどいいのかい?」
「かまいんせん。その方が主さんもうれしいでありんしょう?」
男はニコッと笑うと、酒をおちょこに注ぐ。
蒼は並々と注がれた酒をクイッと飲み干した。
「驚いた、君はお酒が普通に飲めるんだね。」
「この程度、飲んだうちに入りんせん。もう一つ頂けんすか?」
もう一度注いだ酒をクイッと口に含むと、男の唇に吸い付き口移しで酒を飲ませる。
割って入る舌に面食らうも、すぐに絡ませ合い次第に激しさを増していき、ついには互いの性器をまさぐり合い始める。
ノーパンがデフォルトの剥き出しの性器は熱く濡れ、男はためらいなく指を体内に差し込んだ。
「ンクッ!」
蒼の体がビクリ動き甘い吐息を漏らす。
男は執拗に反応する部位を責め立てた。
(お兄様!蒼!何をしているんですか?!)
他の観客や六花は2人の行為にまるで気が付いていないが、花魁令嬢にはまる分かりであった。
西園寺 寿子は兄、宗近と蒼の行為に動揺し集中力が途切れ、振り付けを度々間違える。
やがて、蒼が宗近に跨るような体位になり、艶めかしく腰を振り始めるのを見て、正気を失い絶叫した。
「お兄様!だめぇー!」
その瞬間、宗近の体がブルルと震え恍惚の表情になるのが見える。
西園寺はその場に膝を着いて放心した。
皆が何事かと寿子に注目している間に、宗近の性器をズボンに押し込み、何事もなかったかのように脇に座り直した。
(1人目ゲット!寿子の兄貴かぁー。寿子ごめん!)
蒼は呆然として見つめている寿子に、手を合わせてゴメンのポーズを取り、片目を瞑り舌をペロッと出す。
寿子は蒼の元に向かうと周りに聞こえない距離まで近づき、耳元で囁くように話始めた。
「蒼、どういう事ですか?こんな公衆の面前でSEXなんて。」
「なんかさ成り行きでやっちゃったんだよ。
この人兄貴なんだろいい男じゃん。
寿子は私と兄貴がやっちゃったの気に入らない?」
「そんな事は申しません。
するならひとけのない場所でする方がよいと思います。」
「誰にも気づかれてないし結果オーライでしょ。
それに凄く興奮して気持ち良かった。
だから、ここにいるいい男をできる限り喰いたいんだよ。
男の目を寿子達に釘付けにして欲しいんだけど。
頼める?ここってそういう場だろ?」
蒼の悪戯っ子の目が寿子の目を覗き込んだ。
(全ての行いと判断は自己責任として許可する)
寿子は祖父の言葉を思い出し反芻した。
(主催側が干渉するなど恥ずべき行為ね。
ここでは全てが自由、まだ常識に囚われていた私が無粋。
そう、花魁に成りきらないと。)
「分かったわ。蒼のお陰で吹っ切れそう。協力させてもらう。」
「ありがとう寿子。ところで、他にも兄貴来てるんだろう?
知ってる?」
「残念ながら知らないわ。全員喰っちゃえばいいんじゃない?」
「そっか、よし全員喰い目指そう。」
ガシッと握手する2人に宗近が話しかけてきた。
「蒼さん、僕と結婚してください!」
手を握り締めたまま宗近を見た2人の目が大きく見開かれる。
宗近は蒼の顔を真剣な眼差しで見つめている。
声を聞いた忘八頭首と散茶六花が集まって来ると、3人の周りに囲いを作り外の目から隠した。
「宗近、なかなか聞き流せない言葉を聞いたのだが?」
西園寺頭首が気迫を込めて宗近に詰め寄ってくる。
宗近は怯むことなく自分の気持ちを話し始めた。
「僕は今まで沢山の女性と行為をしてきましたが、蒼さんは別次元です。
全ての女性が霞んでしまうほどです!いやもう忘れました!
今後、蒼さんほどの名器と出会うことなど無いでしょう!
この僕が僅か三擦り半で果てるなど思いもしませんでした!
蒼さんを得られない人生など半分を失うに等しい!
僕は蒼さんを手に入れたい!お願いします!お許しくださいお爺様!」
クワッと目を見開き、唾を飛ばす勢いで頭首に思いの丈をぶつける。
西園寺頭首は自分の孫にこれほど胆力があったのかと驚いた。
「お兄様、お待ちください。
まるで蒼の体が目当てのような言いようは失礼かと存じます。」
んだんだと周りが頷いた。
「女のお前には知りようがないと思うが、男にとって蒼さんの名器はまさに宝だ!至宝だ!自分の人生を支払っても良いと決断させるモノだ!
お願いです蒼さん!僕の宝になってください!」
ガバッと勢いよく土下座をされるが、蒼は至って冷静に答えた。
「それは、お兄さんが気持ち良いだけで私はイッてませんよ。
気持ちよかったけど、不完全燃焼です。
私を中イキさせることができるようになったら考えます。」
「本当ですね!言質はとりましたよ!では早速試してみましょう!個室がありましたよね!さあ行きましょう!」
「え?!ちょっ!」
宗近は蒼を抱き上げると、待機していたメイド長に個室へ案内される。
袖幕の向こうから「坊ちゃん!ファイト!」の声が聞こえた。
「ふう、うちのメイド共は本当に宗近に甘いからなぁ。」
西園寺頭首はやれやれとポーズを取ったあと、客に詫びをして10分後にショーの再開を宣言した。
太夫令嬢は打ち合わせの為に舞台裏へ引っ込み、散茶六花は部屋の隅に固まり会話を始めた。
茜「いつの間にHしてたんだ?全然気が付かなかったぞ。」
珊瑚「みんなが踊りに気を取られていたとはいえあり得ないよね。」
桔梗「蒼ちゃん気配を消してたでち。」
夜花子「あいつ忍者、いや、くのいちにジョブチェンジしたか?」
萌葱「あの子の生理周期は・・・安全日かぁ。最近狼牙さんとご無沙汰だからね。でもかなり変じゃない?私もモヤモヤするし。」
夜花子「やっぱりお香のせいかなぁ。催淫効果は無いはずなんだけどなぁ。一度消してくるよ。」
夜花子が袖幕の向こうに消えて数分すると煙が薄くなり消えると、頭を簪でポリポリしながら戻ってくる。
「ちょっと聞き耳立ててきたけどすんごい声が聞こえてた。」
「エッ!蒼が負けそうなの?!」
「ちゃうちゃう、お坊ちゃんの方。
あれもう蒼から離れらんないと思うよ。」
「そうだよねぇ。」
萌葱はまさかと思いつつも少し心配そうな顔をした。
「蒼、まんざら嫌そうでなかったし、あいつのこと気に入っているんじゃねえかな?珊瑚どう思う?」
「同感、そもそも簡単に拉致られすぎ。抵抗する気無しでしょう。」
皆がンダンダと再び頷く。
「ねえ、今日は特別な日でしょう?羽目を外さない?」
少し目の色が変化した夜花子が皆に提案する。
お互いが顔を見合わせ、やがて口角が上がり始めた。
「いいかもね、ここにいる男達はいずれ日本経済の中核になるから、今から手懐けておくのもいいかもしれない。」
萌葱の一言で男喰い競争が始まる。
部屋には消した筈のお香の煙がいつのまにか漂っていた。




