第68話 学園編㉑ 学園祭狂騒曲 1日目 その1
5大財閥は総力を挙げ、3日間で特設会場(屋外ステージ・特設テント)を作り上げた。
特設テント内は遊郭の町並を、映画のセットを参考に再現。
20mの通りを中心に、突き当りに大見世と両脇に切見世を配置し、照明を薄暗くすることで、チープさが隠される。
即席のテーマパークにしては、良い加減の雰囲気を作りだしていた。
また「当時の文化を体験」を謳い文句に、両脇の切見世では遊女体験コーナーを併設、希望者は遊女のコスプレと江戸時代の食事を楽しむことができるイベントが開催される。
なお特設テント内では、未成年でも成人と看做される。
酒を飲んでもよし、口説き落とした女性と行為に及ぶもよし。
切見世には布団を敷いた個室も用意してあり、全ての行いと判断は自己責任として許可される。
大見世では、廓遊びショーが開催され、5人の令嬢太夫がおもてなしを務める。
AM9:00に花魁道中で当選客を入口にお迎えして、午前中は踊りや座敷遊びに興じ、午後は食事を交えて令嬢太夫への告白合戦となるであろうと予測されている。
1日の参加人数は20名に絞り、頭首達の思惑もあり入場権は有料(20万円)となった。
特設会場の日程及び参加者情報が2日前に公表される。
学園祭の3日間の日程に合わせて、大見世は初日と2日目に開催される。
最終日は六花+AKBF33研修生スペシャルライブと、切見世も引き続き開催される。
大見世太夫は西園寺、財前、伊集院、綾小路、京極の5令嬢と散茶として六花が参加する。
忘八 5大財閥頭首
弾左衛門(黒子装束)四具祖理事長、各財閥筆頭執事5人の計6人。
やり手(黒留袖)茜音、各財閥筆頭メイド長5人の計6人。
警備・フロアスタッフ 総指揮官 ナイラー、各財閥若衆選抜50人
カメラマン 木荒 助手 矢崎、石橋親子
この情報が公表されるや、生徒や保護者で騒動が発生する。
5大財閥の令嬢が率先して参加すること、頭首達が全面的にバックアップをするという情報が、あっという間に各派閥に知れ渡る。
結果、生徒は遊女体験参加権を、保護者は大見世入場権を求めて、学園祭運営本部に殺到した。
「特設会場での催しは学園祭運営本部の管轄外です。
参加権については、当日発表をすると理事長からのお達しです。」
運営本部からの通達により一度は沈静化したものの、水面下では権謀術数を弄する非道な駆け引きが行われていた。
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「宝来さん、貴女まさか!遊女体験に参加をしようと、考えてはいませんよね?ご自分の立ち位置を理解されているのならば、そんな無謀なことできませんわよね。」
放課後、人気の無い理科準備室で、宝来 朋果が5人の生徒に囲まれ、小突き回されていた。
「九条さん!やめてください!私はそんな脅しには屈しません!」
宝来は気丈にも九条を睨みつけ、拒否の態度を取り続けている。
九条 沙也加は宝来の髪を掴み、3度往復ビンタを喰らわせた。
「貴女程度の家柄であの方々に近づこうなんて、おこがましいと思わないのかしら?」
人を殴っても全く動じない九条が冷めた目で見下ろす。
「家柄なんて関係ありません!
私は純粋にイベントを楽しみたいだけなんです!
あんな魅力的なイベントに今後出会える機会はないです!」
九条に飛び掛かろうとするも、取り巻き達に体を押さえられる。
「貴女、そんな低俗な考えで参加を考えていたの!
本当にどうしようもない人なのですね。
あの場に集まる方々の価値を理解しているのかしら?
私はお父様にあの方々と縁を結ぶように厳命されているの。
多分、5大財閥の結婚適齢期の殿方が幾人も訪れるわ。
決して一同に揃う事が無いと言われてきた5大財閥よ。
そんなチャンス、この先あるか分かったものではないわ。
それを、イベントを楽しみたいから参加するですって!
貴女もこの学園に通う生徒であるならばその価値を理解しなさい!」
九条に一喝され、宝来は力無く床に膝をついた。
「貴女に参加する資格が無いと理解できたかしら?
私たちの戦いは既に始まっているのよ。
では、当日貴女の顔を見ないためにも、もう少しお仕置きをしておこうかしらね、みなさんやっておしまい。」
九条に命令で取り巻き達が一斉に殴る蹴るの暴行を始める。
宝来は顔を守るように体を丸めた。
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学園祭前日、欠席をするもの、痛々しい姿で登校するものの人数が、全体の半数以上を数える。
本部長 佐藤 美樹は学園祭そのものの開催を危ぶみ、生徒の行き過ぎた行動を自粛をするように、昼休みの学園内放送で呼びかけることにした。
「なんですか!あなた達は!」
放送が始まった直後、佐藤の怒鳴り声が聞こえたかと思うと中断され、教師が放送室へ向かう。
3名の生徒が放送室を慌てて飛び出していくのを目撃し、急ぎ室内に駆け込むと佐藤が倒れているのを発見する。
幸いにも大きなタンコブだけの軽傷だった。
報告を受けた四具祖理事長は、「仕方のない生徒達だな」と笑い飛ばし、午後の学園祭準備活動を全て打ち切らせ下校を指示した。
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AM5:00
大きな葛籠を担いだ六花が魔法の絨毯で学園屋上に着陸する。
屋上には特設テントとステージが建てられ、多くの作業員が今だ作業を継続して動き回っていた。
「爺ちゃん、今日よろしくな!」
茜は絨毯から飛び降り、出迎えの四具祖に抱き着いた。
「おお茜!相変わらず可愛らしいの!」
四具祖は茜に頬を擦り付け、己の感情を目一杯表現した。
「あらあら、まるで本物の祖父と孫みたいね。」
四具祖の側に立つ老女が口元を押さえてフフフと笑った。
「茜やこの婆さんは茜音という名前だ。
お主の名前の茜に音と書く。仲良くしてやってくれ。」
「婆ちゃん、よろしくお願いします。」
茜は茜音の前に立つとペコリと頭を下げた。
「何じゃ、大人しいな。照れておるのか?」
「違うよ、爺ちゃんが紹介するって事は大切な人なんだろ。
爺ちゃんみたいな男と連れ添う女性には敬意を払わないとな!
色々と苦労させたんだろ!」
じろりと視線を向けられて、あたふたし始める四具祖に茜音は体を震わせて笑いだした。
「本当に!あなたは人を見る目があるのね。
茜さん、私からもよろしくお願いしますね。」
茜は差し出された手を両手で包み込むように握った。
「皆さま、おはようございます。」
声を掛けられ振り向くと、5大財閥令嬢が一同に揃い立っている。
彼女らの後には、1人づつ老齢の執事長が付き添っていた。
「本日は私どもの提案にご賛同いただき、誠にありがとうございます。
失われた遊郭文化を、六花の皆様を中心に再現できること、とても嬉しく思います。
先日この学園にて大勢の「春をひさぐもの」が出るという、「たいへん嘆かわしいとされる」事態が発生いたしました。
生徒及び父兄の大半は「春をひさぐもの」を悪と決めつけ、いまだに断罪を求めておりますが、そのような思考停止した輩に衝撃を与えるような素晴らしい催しにいたしましょう。」
西園寺の挨拶に皆がニヤリと悪そうな笑みを浮かべ拍手をした。
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AM7:00
開場1時間前にも関わらず、エレベータホールは既に人で溢れかえり、長蛇の列を作っている。
今日、エレベータは非常時以外使われることの無い、屋上行きが解禁されていた。
今回の学園祭参加者は、生徒1人につき保護者、親族合わせて最大3人と規制されている。
例年ならば、母親とその兄弟姉妹の組み合わせがほとんどであったが、今回は生徒と父親、そして結婚適齢期の男女の組み合わせがほぼ全てで、各自の本気度が窺い知れた。
「叔父様、あの方はどこの派閥なのでしょう?」
伊集院派閥である九条の姪、美奈(23歳)が男を指差し尋ねた。
「ふむ、あれは西園寺の孫だな。確か宗近(20歳)だと思うが。」
「えっ!次期党首候補ではありませんか?!」
「なんだ、気に入ったか?」
「ええ!私より年下ですが良い人相をしております。」
美奈は真っ赤な唇を舐め、ニヤリと笑った。
「奇遇ですね美奈お姉さま。私も良いお方だと思ってますのよ?」
九条の娘、生徒である沙也加が、美奈に不敵な眼差しを送った。
「私は3歳年下ですの。若さは最大の武器と申します。」
「あら、私の方が殿方の扱いに関して長けているわよ。
沙也加の貧相な体をありがたがる男がいるのかしら?」
「確かに美奈お姉さまはグラマラスでいらっしゃいますが、
全体的にボリュームがおありでなくて。」
2人の女の静かな舌戦に、沙也加の弟、隆司(15歳)はガクガクと震えていた。
「ふん、まあどちらでもよい。期待しておるぞ。」
九条は娘と姪の肩を叩いて、対抗心を更に煽った。
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AM8:00
会場を告げるチャイムが鳴り、エレベーターの扉が開く。
機内にはエレベーターガールが居て、搭乗人数ギリギリまで誘導をする。
目的階を聞くが「屋上」以外の返答は無かった。
10分ほどで九条一行がエレベーターに乗り込み、屋上に運ばれる。
到着し全員が降りると、入れ替わりに人々が乗り込んで行く。
どの顔も不満げな様子で、納得していないのは一目瞭然であった。
前方に金属探知機のようなゲートが見える。
どうやら抽選と危険物のチェックを兼ねているようだ。
跳ねられた人は先ほどの人と同じ顔をして、エレベーター待ちの列に並んでいた。
ついに九条一行の順番になり、父親が最初にゲートを潜ると落選のブザーが鳴り響く。
次に美奈も落選のブザーが鳴り、鬼の形相で振り返るとヒールをガツガツと鳴らして歩き去る。
そして沙也加がゲートを潜ろうとした時、宝来 朋果がゲートの向こう側にいるのを見た。
(あのアマ!)
一瞬歩みが止まり、後続の隆司に体当たりされゲートを潜る羽目となる。
ゲートが落選のブザーを鳴らした時、沙也加は再び朋果を見た。
「ざまあ!」
確かに朋果の口が声を出さずに動いた。
「殺してやる!」
沙也加は激高して走りだそうとしたが、あっけなく取り押さえられエレベーター前に連行された。
一連のやり取りを唖然として見ていた隆司は「先に進むように」と声を掛けられ、ゲートを潜った。
「おめでとうございます!楽しい1日をお過ごしください!」
当選した隆司は、背後の突き刺さる視線から逃げるように走り出した。
「おめでとう。あなた、九条さんの関係者?」
隆司は呼び止めた生徒を見る。
女性は顔のあちこちに青あざがあり、両手、両足に包帯を巻いていた。
「は、はい、僕の姉です。」
「ふーん、そうなんだ。名前を教えてくれる?」
「九条 隆司です。」
「お幾つ?」
「15歳です。」
「中学生かしら?」
「はい。」
「私、九条さんと仲が良くなくてね。
このケガ、九条さんにやられたの。」
隆司は一気に青ざめて、頭を下げた。
「も、申し訳ございません!」
「あら、謝ってくれるの。嬉しいわ。
彼女、絶対に謝らないと思うから。
関係者から謝罪されると少しは胸のつかえが取れるわ。」
生徒はプルプル震える隆司の手を取り引っ張り始めた。
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九条 沙也加は弟 隆司が宝来 朋果に連れて行かれる現場を目撃した。
「ダメよ!隆司!戻りなさい!」
大声で叫ぶが周りの雑踏でかき消される。
スマホで連絡を取ろうとするが繋がらない。
2人の姿が見えなくなり、いよいよ焦りだした。
(あの女は危ない!私の可愛い隆司が危険だ!
でもどうしたらいいの?!
そうだ、私の派閥の誰かが会場入りしていれば!)
アドレスを片っ端から掛けてみるが、誰にも繋がらない。
(そうよね、出るわけないか。
私だって、こんな日に出るなんて愚かな事はしない。
所詮はみんながライバル、仮初の友情。)
「お父様、隆司が同級生に連れて行かれました。」
「それがどうした?」
「相手の女は校内売春メンバーの1人です。」
「ほう、例のアレか。」
「気にならないのですか?」
「別にいいのではないか。よい経験値稼ぎの相手ではないか。」
「そんな!隆司は九条家の跡取りですよ!
それをあんな穢れた女に近づけるなんて、良いのですか?!」
「沙也加は初心なのだな。
家長なるもの「清濁併せ吞む」くらいでなければ務まらん。
隆司は少々甘やかし過ぎた。
そろそろ現実の女というものを教えようと思っていた。
手間が省けて助かるというものだ。」
まるで話を聞こうとしない父親に、沙也加が苛立ち始めた時、美奈から横槍が入った。
「叔父様、私も隆司君を「いじって」いいかしら?」
「程ほどにな。女の怖さを知るのは必要だ。
しかし、トラウマを与えるのはNGだ。」
「お任せください。必ず九条家にふさわしい男にします。」
「うむ、期待している。」
2人の会話に嫌悪感を覚え、一瞬感情が表情に現れるも平静を取り戻す。
(分かっている事じゃない。私達は平民と違う。そう、特権階級よ。
いわば貴族。貴族にはそれに相応しい矜持をもたなくてわ。
こんな事で動揺するなんて、私もまだまだ甘いわね。)
沙也加は気持ちを切り替えると、本来の学園祭に参加すべくエレベーターに乗り込んだ。




