第67話 プロジェクト六花
六花のイラストUPしました
中央下 萌葱
中央上 桔梗
左下 茜
右下 蒼
左上 夜花子
右上 珊瑚
学園祭の1週間ほど前に着物の裁縫が終了した。
六花はそれぞれのイメージカラーに近い着物を着て、髪を結い上げ、化粧をするとお休みコールと合わせて集合写メを送付した。
「どうかな?花魁コスプレ!」
写メを受け取った者は総じて呼吸が乱れ、寝具の上で激しく身悶えた。
「伊賀、ここへ。」
10秒もしないうちに、闇の中から筆頭執事の伊賀が姿を現す。
「プロジェクト六花を発動します。」
「しかし、お嬢様。お父上の承諾なしに対抗財閥と接触するのは危険かと進言いたします。」
「これは、学園内での学友同士の交流です。
今しかチャンスはないのです。
卒業すれば私は一切の自由を捨て、家の為に仕えて生きていく所存です。
ですが、思い出がほしいのです。
どんな辛いことがあっても乗り越えていく糧となる思い出が。
どうか協力してください、爺や。」
「お嬢様にそのように言われたら、断ることなどできませんな。
かしこまりました。
この爺がお嬢様の願い承りました。」
涙をぼろぼろ流し懇願する寿子を見て、伊賀は必ずや成功させてみせると気を引き締めて部屋を後にした。
伊賀は自分の執務室に戻ると机に座り、引き出しからダイヤルの無い黒電話を取り出した。
一度、目を瞑り、深呼吸をして受話器を上げる。
果たして電話が繋がるかどうかは相手次第であり、そもそも互いに対立している相手であり応答する必要もない。
平時の自分なら呼び鈴が鳴っても無視しているだろう。
呼び出し音が鳴り続けること5分が過ぎようとしている。
諦めて受話器を置こうとしたとき「もしもし」と声が聞こえた。
「甲賀か?」
「伊賀か久しぶりだな。」
「伊賀と甲賀のホットラインか驚いたな。」
「柳生か?!」
「悪いが風魔も参加させてもらう。」
「真田もいるぞ。」
5大財閥の御庭番が一同に揃う奇跡が、終戦の日以来再び起きた。
「お主らも「娘の涙」に絆された口か?」
「人の事は言えんだろう、伊賀。」
「全くだ、甲賀。」
受話器から複数の含み笑いが聞こえる。
頭達は独自の秘匿ネットワークを、仕える娘達の為に構築する事を約束した。
「互いにもう年だ。これが最後の大きな奉公になる事を願おう。」
目には見えないが、電話の向こう側から同意する雰囲気を感じる。
頭達は静かに受話器を置いた。
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翌日、頭に願いを託した娘達にスマホが手渡される。
皆が寝静まった午前1:00、スマホでテレビ電話通話が始まった。
「こうしてお話するのは初めてですね。
伊集院様、綾小路様、京極様。
今まではお家の確執でお話することが憚られていました。
これからは垣根を飛び越えて「六花」のことを語り合いましょう。」
「西園寺様、このような機会を与えて頂きとても嬉しく思います。
私達は「六花」で結びつけられた言わば同志。
今後ともよろしくお願いいたします。」
伊集院は無表情でありながら声は妙に甲高く感情的であった。
「西園寺様、伊集院様、初めまして。
私、綾小路、京極共に今回の出会いに感謝と敬意を払いたいと思います。
この出会いが今後の私達、いえ、日本のより良き未来の指針となればと、心より願うものです。
ああ、この台本は私のパートナーである、京極の脚本です。」
「先ほどの綾小路の発言に勘違い無きように。
これは私の心からの願いであり、本音でございます。」
綾小路の後に直ぐに京極が訂正を告げる。
京極の顔は嘘偽りのない本気の顔だった。
「皆様のお気持ちは西園寺様含め、私もしっかりと受け止めました。
では、ここからはお家の体面を捨て本音で語りあいませんか?
私、茜に「親友ならば名前を呼び捨てにする」と諭されました。
まずはここから始めませんか?」
財前の申し出に皆がニコリと笑みを浮かべた。
「かしこまりました、康子。」
京極は直ぐに対応し、皆の名前を呼び捨てにする。
そして、学園祭についての計画を述べ始めた。
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5大財閥連名で企画書が四具祖に提出されたのが学園祭5日前。
その際、西園寺と共に4人の令嬢が現れ、企画書を直接手渡しした。
四具祖はこの時、時代の変革を予感した。
対立していた財閥が手を取り合い、行動するなど予想外である。
そして、互いの名を呼び捨てにしている。
企画書にざっと目を通し「六花」の名を見た時、すぐに許可を出した。
「君らの思う通り、好きにしなさい。
儂は君らの行動に全面的な支援を無条件で約束する。」
令嬢達は安堵した後喜びを爆発させた。
「君らの障害になりそうな者は儂が排除する。」
四具祖は令嬢達に約束すると、「プロジェクト六花」を発動した。
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四具祖は令嬢達が退出すると、各財閥の頭首に「私的な話をしたい」とメールを発信する。
5分もしないうちに「時間と場所は?」と返信が返ってきた。
「本日、PM12:00。場所は学園理事長室。昼食を用意する。」
「了解した。」
かくして話し合いの場が設けられた。
「ナイラーよ、昼食の用意を頼む。メニューはそうだな。
具無しの塩むすび、底の見えそうな味噌汁、たくあんが3切れほどで、米は古々米で良い。」
「御意」
四具祖の真意を感じ取ったナイラーは自ら厨房へ向かった。
「総料理長、本日の昼食の献立です。戦時中の味を再現してください。」
ナイラーは80歳を超えた総料理長に献立表を提示した。
「ほう、戦時中か。それにしちゃ豪華だな。
俺たちは米を食べることなんかなかったな。」
「客は財閥の方々ですので。6人分お願いします。」
「任せてくれ。」
総料理長は大きく口角を上げると自ら厨房に入っていった。
AM11:55、頭首5人がエレベーターホールで鉢合わせになる。
一瞬険悪な雰囲気になるが、四具祖自らの出迎えがあり解消された。
「忙しいところ、誠に申し訳ない。
今日は過去の因縁を忘れて、腹を割って話したい。」
6人は揃ってエレベーターに乗り込んだ。
理事長室に入ると、割烹着を着たナイラーが、ちゃぶ台に食事を配膳している。
頭首達は男装を解いたナイラーに驚き立ち止まった。
「秘書は男、いや、女性だったのか?」
「ああ、騙すつもりはなかったんだが、あいつは男に舐められたくないと言い張ってな。
本当に強情な女なのだよ。」
四具祖は、目を細めてナイラーの顔をガン見する西園寺頭首の肩を叩いて着座を勧めた。
各自は何とも粗末な料理ではない食事を見て唖然とする。
すると一番年若い、伊集院頭首が激高して四具祖を見た。
「四具祖さん!あなたの誘いだから来たがこれは何の冗談だ!
悪いが帰らせてもらう!」
「まあ、待て。君は戦後高度成長期生まれだったな。
ならば、仕方あるまい。
この食事は、私らにとって戒めであるのだよ。」
綾小路頭首は着座すると何かを思い出すように目を閉じる。
次々と着座する頭首を見て伊集院頭首も嫌々着座した。
「まずは食事にしましょう、いただきます。」
西園寺頭首の音頭で皆が手を合わせる。
「うむ、不味いな。」
「あの頃はこれがご馳走であったのにな。」
財前頭首、京極頭首がしみじみと感想を漏らす。
「君も食べてなさい。そして感想を聞かせてほしい。」
四具祖の勧めで塩むすびを手に取り、口に運ぶ伊集院頭首。
「何ですかこれは、米がパサパサで臭みがある。
これは味噌汁なのですか?味噌の味がしませんよ。
タクアンも塩辛いだけだ。
人の食べるものじゃない!不快だ!」
四具祖は立ち上がろうとする伊集院頭首の肩を押さえつけた。
「そうだ、今の日本人にとってこの食事はとても耐えられるもんじゃないのは、儂も承知しておる。
しかしな、もう10年もしたら、この食事さえご馳走になるかもしれん。
これを見たまえ。」
天井からモニターが降りてくると、世界地図上に人口推移、食料生産等の数値が表示される。
「こんなものは毎日見ていますよ。別段珍しくないでしょう。」
「そうだな、ではこれはどうだ。」
表示されている数字に新たに数字が上書きされ、それを見た頭首達にどよめきが起きた。
「待ってください!この数字の根拠はありますか?!」
伊集院頭首の訴えに反応するように、数々の写真や動画が表示された。
「これを君らはどう見るかな?」
「世界的紛争、いや世界大戦の前触れか。」
西園寺頭首が眉間に指を押し当て苦渋の表情になった。
「この流れを止めることは儂らでは無理だ。
現在、合衆国と日本政府が、共同で事態回避のために動いているが、果たして間に合うかどうか。
だが、ただ指を咥えて事態を受け入れる事は避けたい。
そこでだ、財閥間の垣根を越えた「超企業体」の創設を提案したい。」
「そのような夢物語を聞かせるために、この場を設定したのですか?
何とも馬鹿馬鹿しい。
そのような事ができるならば、もうできてるでしょう。」
伊集院頭首は首を振って否定した。
「儂らの代では無理であろうな。
だが、希望はある。君らの孫娘達だ。
これを見て欲しい。」
先ほど令嬢達が訪れてきた様子をビデオに流すと一瞬目尻が下がる。
そして、なんの遠慮もないやりとりを見て驚いた。
「孫たちはいつのまにあれほど仲良くなったんだ?」
「息子からはお主の孫とは一度も接触が無いと聞いているぞ。」
西園寺頭首と綾小路頭首は目を丸くして顔を見合わせた。
「そして、彼女達が手を取り合い実現しようとしている企画がこれだ。」
企画書のコピーをナイラーが配布してまわる。
「なんと、荒唐無稽な!しかし面白そうな企画だな!」
京極頭首は老眼鏡を取り出し、真剣に目を通し興味を持った。
「四具祖さん、ちょくちょく「六花」と出ますが、何ですかな?」
「儂が呼び寄せた政府直属のエージェント。の見習いですな。
実は「六花」こそが、彼女達を結び付けた立役者でもある。
「六花」の後見人は「チーム雌ゴリラ」。
何度もお世話になっている方も多いと思うが。」
「チーム雌ゴリラ」の名を聞いて、頭首達の顔つきが悪人に変わる。
「儂はこの企画を学園で開催することを許可した。
あと必要なものは君らの決断と金だ。時間は無いぞ。」
頭首達はそれぞれの思惑を胸に秘め、企画実現のために協力体制を作ることを約束した。
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PM17:00、各財閥傘下の大手ゼネコンに、頭首からの発注書が直接届くと、社長をはじめ社員全員の残業が確定した。
「無理です!こんなもの実質3日しかないのに、作るなんて到底不可能です!いくら予算があろうと無理なものは無理です!」
各社企画部長がTV電話で、絶望的状況に吠えるような声を上げた。
「1から建屋を作るのではなく、セットを作りましょう。
はりぼてですよ、はりぼて!
緊急事態なのでデザインは、ネットから著作権を買い上げれば、大幅な時間短縮になります。」
中年男性部長の横から顔を覗き込ませた、若い女性社員の提案に皆が食いついた。
「この際だ、やれることは何でもやろう!」
「映画村にセットがあったな!至急現地社員に連絡だ!」
日本全国の建設業を巻き込んだ、大プロジェクトが開始された瞬間であった。




