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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
67/128

第66話 薄葉の人生

六花のイラストUPしました


中央下 萌葱

中央上 桔梗

左下 茜

右下 蒼

左上 夜花子

右上 珊瑚

挿絵(By みてみん)



桔梗の数式魔法「視認阻害」を「魔法の絨毯」に付与すると、周りの風景に溶け込み見えなくなる。

試しに全員で乗り、下から狼牙に確認して貰ったところ、「何も見えない」と返答があった。


「横や上から見られない限り、乗員の姿が見えない。」と結論付けて、桔梗の要望通り通学に使用することを決めた。


また「無限に清水の湧く壺」に「温水化」を付与して風呂に設置、家計の節約に貢献している。


更には「死を遠ざける幸運のお守り」の改良量産化に取り組んでいる。

人が持つ微量の気でも効果が現れるように、皆で知恵を持ち寄っているが、特殊な性質の材料の複製目途が立たず、頓挫しようとしていた。


「これブラックダイヤモンドかなぁ?」

お守りを手にとって、まじまじと見つめる珊瑚。

細長い黒い水晶のような見た目で、光を通すと虹色の光が見える。


「ネットで調べたけど、こんな輝き方はしないみたいよ。」

珊瑚から受け取ったお守りを片手に、ノートパソコンから顔を上げ、浮かぬ顔をする夜花子。


「何かの骨か牙に見えない事もないね。」

夜花子から受け取ったお守りを、指でなぞる蒼。

微妙な曲線を描き、先端が尖っている見た目はそれを連想させる。


「そうするとこの世界のモノじゃないかもね。」

「あたちの魔法で「物質創造」は無理でち。」

「お手上げだな!」

萌葱、桔梗、茜とお守りが手渡された時、お守りが嬉しそうに輝いていた事に誰も気づかない。

じゃんけんの結果、お守りは蒼が所持することに決まった。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


「さてと、着物を出しましょうかねぇ。」

11月の半ばの晴れた日曜日の朝、朝食を食べ終わると薄葉が告げる。

六花はすぐに食器を片付けると、薄葉の指示でテーブルを部屋の隅に移動した。


「こことここの畳を外しておくんなんし。」

畳を持ち上げると、鉄製の扉が現れ皆が驚く。

薄葉は懐から鍵を取り出して、錠前を解錠する。


「開けていいか?!かーちゃん!」

茜がワクワクして薄葉の顔を見上げる。


「ようござりんすよ。ゆっくりと開けておくんなんし。」

右の扉に茜、左の扉に桔梗が手を掛け、ゆっくりと持ち上げる。

ギギギと軋む音を立て開かれた扉の先に石造りの階段が見える。

階段には踊り場があり、その先は見えなかった。


「驚いた。こんな仕掛けがあるなんて初めて知りました。」

狼牙は飛び込んでいきそうな茜を抱きかかえ中を覗き込む。


「前の旦那様もこれを知らのうござりんした。

あちきが嫁入り前に建て替えた時に見つけたそうでありんす。

だから何時からこれがあったのかわかりんせん。」

薄葉は狼牙の腕の中でじたばたする茜の頭を撫でた。


「茜、これを見つけた強欲な大工の親方が中に入り込み、死んだ経緯がありんす。」

じたばたしていた茜の動きがピタリと止まる。


「そういうことがありんしたので、入る前に中の換気を行いんす。

ちょっと着いてきくれんすか。」

薄葉は階段の前でしゃがみ込むと、蹴上を外して中の留め金を外した。


「ちゃんと動けばいいのでありんすが。夜花子、蒼、ここを力一杯踏み込んでおくんなんし。」

2人は言われた通り、踏面を思い切り踏み込んだ。

階段の下でボシュと音を立てて、踏面が沈み込んだ。


「良うござりんした。まだ動きんした。足を離してみておくんなんし。」

足を離すと、踏面がポンと元に戻る。


「これはふいごですか?」

「そうでありんすよ旦那様。地下の空気は屋根の筒から吸い出されて、居間の空気が中に吸い込まれましんす。」

「なるほど。それでどれくらい踏みつつづければいいんですか?」

「そうね、前の時は半刻くらいでありんしたね。」

狼牙はニヤリと笑いながら六花に告げた。


「よし、これから1時間ふいご踏みだ。がんばれよ。」

最初ギャアギャアと騒ぎ立てていたが、今は歌いながら交代でふいごを踏んでいる。

狼牙はシークワーサーで作ったアイスを差し入れして皆を労った。


薄葉を先頭にジャンケンで決めた順番で後に続く六花、そして最後尾はお糸を抱っこした狼牙である。

六花と狼牙はヘルメットにヘッドライトを装備して地下に赴く。

ヘッドライトの光は先頭の薄葉を透過して、地下室の暗闇を照らす。

階段の踊り場を二つ経由して、地下室の地面に着く。

地面は石畳で乾いており、薄っすらと塵が積もっていた。


左を見ると倉庫のように木箱が積まれ奥に伸びている。

天井の高さは2mで幅が3m、奥行きが10m位である。

木箱は地面より10cm程高い石の上に綺麗に積まれていた。


「これは全て桐の箱で、中にはわちきが花魁の時に着ていた着物が納められてやす。

かんざしやら帯、下駄、装飾品、あっ!そう言えばヘソクリもあったような気がしんす。

どこにしまいんしたでありんしょうか。」

なにやら薄葉がソワソワとし始めた。


「お母さん!とりあえず木箱を全部上に持ち出そう!」

萌葱の提案に薄葉は真顔でコクコクと頷く。

六花は身体強化を発動させ、木箱30箱を居間に全て運び出した。


「では、開けます。」

ひと箱目の蓋を持った萌葱の声が若干震えている。

着物の寿命は100年ほどと言われている。

薄葉の着物は最高級の絹や綿である。

既に耐用年数を遥に超えている。

果たして着れる着物が1着でも残っているのか。


「やああ!」

萌葱の気合の籠った声と共に蓋が開けられる。

中には着物を包んだ「たとう紙」が見える。

萌葱は「たとう紙」を手に取り、そっと持ち上げ畳の上に置く。

薄葉と目が合い、真剣な眼差しで力強く頷くと頷き返す。

薄葉の細く白い指が留め糸を解き、静かに「たとう紙」を開いた。


「おおっ!」

その場に居た全員が感嘆の声を上げた。

着物は金糸、銀糸の輝きを損なわずに残っている。

萌葱は着物を手に取り、立ち上がると袖を通した。


「ああっ!」

皆が落胆の声を上げた。

着物は縫い目の部分から解けてバラバラになってしまった。


「縫い糸が限界だったみたい。生地は綺麗だから縫い直せばいけるんじゃない。」

蒼は生地を拾い上げ縫い目を確認してうんと頷いた。


「着物は手縫いが基本だから大変でありんすよ。」

「母さん、任せてください。裁縫なら全員得意なんです!」

萌葱が立ち上がり宣言すると、六花全員が立ち上がり、円陣を組むと手を重ね合わせた。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


「ほう、みんな針仕事が上手でありんすね。感心感心。」

薄葉は針仕事を見て、手際の良さを褒めて回る。

任せて問題無いと判断すると、残りの木箱を開けて中身を確認し始めた。


「凄いな、帯、かんざし、下駄。

どれも今じゃ重要文化財級じゃないのか?

素人目に見ても、伝わるものがある。」

薄葉は木箱からものを取り出すと、サラシの上に丁寧に並べ、それらを見た狼牙が感嘆の声を上げた。


「花魁ともなれば、半端な品を身に着けるわけにはいきんせん。

当代一の職人に大金払って、こさえて貰ったものばかりでありんす。」

当時を思い出したのか、目を潤ませ感慨深げに息を漏らす。

木箱の中に西陣織の風呂敷を見つけると雰囲気が一変した。


「旦那様!これ!この風呂敷包を取り出しておくんなんし!早う!」

興奮して声を上げる薄葉に、六花達も興味を引かれ集まってきた。


「おっと、かなり重いぞ。」

風呂敷包を取り出し畳に置くと、押しのけるように薄葉が来て包を解く。縦40cm、横15cm、深さ13cmの重厚な木箱が現れた。


「この中にわちきの人生の証が入ってやす。

またお目にかかる日が来ようとは、思ってもいのうござりんした。」

特殊な錠前のようで、カチャカチャと取っ手を動かす。

やがてカチンと音を立てて錠前が外され、ゆっくり蓋を上げる。

中には和紙で帯封おびふうされた小判が綺麗に並べられていた。


「すっげー!かーちゃんこれ小判ってやつか!」

「はい、そうでありんすよ。持ってみんすか?」

「うん!」

目をランランとさせる茜に帯封小判を手渡すと、他の全員にも手渡した。


「これが、お母さんの人生の証、なんかとても重く感じる。」

受け取った夜花子がしみじみと語る。


「ふふ、金子もそうでありんすけど、わちきにとっては、こちらのほうが大切な証なのでありんすよ。」

薄葉は書付を開いて皆に見せた。


「これは、わちきが見受けされた時の証文なのでありんす。

わちきを人と認めてくれた前の旦那様との大切な証。

普通の人として生きていくことが許された証文なのでありんす。」

壮絶な薄葉の人生を垣間見た気分になり、落ち込む六花と狼牙。

薄葉は書付を畳むと、胸にしまい込んだ。


「ありゃ、場をシラケさせちゃいんしたね。

わちきの事で気落ちしねえでおくんなんし。

今は幽霊でありんすけどとても幸せなんでありんすよ。」

そう言うと大きく腕を広げる。

六花は誘われるように薄葉の腕の中に包まれた。


目録を作り、木箱に張り付け整理を終えると一度地下に戻す。

時刻は丁度昼時になっていた。


「今日は海老と魚の煮天丼だ。みんなこっちで食べなさい。」

狼牙は調理台に飯を持ったどんぶりを並べ、煮汁に浸した作り置きの天ぷらを乗せると、すまし汁を用意した。


「これで海老と魚は終了だ。よく味わって食べなさい。」

黙って頷くとカッカッカッと天丼をかき込み、直ぐに針仕事を再開する。

狼牙は薄葉と顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。


六花は今日の予定を全てキャンセルして、針仕事に打ち込む事に決めた。

薄葉も加わり、今迄聞けなかったことを質問しながら作業を進めた。


「お母さんの姿が見えない時はどこにいるんですか?」

「この家の幽世にいましんす。

あの世とこの世の狭間にもう一軒、同じ家があると思ってくれればようござりんすよ、萌葱。」

この家の幽霊が居て、そこに別荘?本宅?があると理解した。


「お母さんが業界入りした年齢、デビューした年齢、引退した年齢を教えて。」

「珊瑚、業界入りとは遊郭で働きだした年のことでありんすよね。

わちきは遊女の子として生まれ6才で禿になり、15才で新造、これがデビューでありんしょう。

実際に床入りしたのは16才で、呼び出しになったのは18才。

以後、29才で見受けされる迄、位は下がりんせんでありんした。」

少し得意気に話す仕草を可愛いと珊瑚は思った。


「前の旦那さんが亡くなったのは何歳ですか?」

「前の旦那様は55才であの世に行きんした。

腹の上でポックリと、幸せそうな笑顔でありんしたよ。

わちきはね、蒼。

旦那様の幸せな顔を見てとても嬉しゅうなりんした。

愛する男の最期を自分の胎の中で迎えさせた事をでありんす。」

キリッと誇りに満ちた、それでいて優しい笑顔の薄葉を見習いたいと心から願う蒼だった。


「お母ちゃんは何才でちんだんでちゅか?

何でユーレイになっちゃったんでちか?」

「わちきがおさらばしたのは45才でありんすよ。

この姿が死んだ時のままの姿でありんす。

当時の寿命が50才くらいだから、まあ少し若死にでありんした。

おさらばする寸前に酷い頭痛がしたから、頭の血管が切れたのでありんしょうね。

酒に溺れた生活だから仕方ありんせんでしょう。

あの日は何を思ったのか、数十年ぶりに花魁の装束で酒を飲んでやした。

きっと虫のしらせで、綺麗な姿のままでおさらばしたかいんしたと思いんす。

幽霊になった理由はわかりんせん。

ただ、子供が欲しゅうござりんしたと未練はありんすね。」

「お母ちゃん!きっと赤ちゃんできましゅ!

でも、あたち達がいる間はジョーブツしちゃイヤでちゅ!」

桔梗は薄葉の背中を抱きしめ、頬に顔を擦り付ける。

薄葉は桔梗の頭を優しく撫でつけた。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


日が傾き、照明の灯りが手元を照らす頃、皆は密かに撮影する木荒の姿に気がついた。


「木荒さん!何時からそこに!」

蒼が飛び上がるように立ち上がる。

木荒はあちゃーとした表情を作ると、頭を掻いて経緯を説明した。


「今日、久しぶりに全員参加で、チームAとレッスンすると聞いて行ってみると、キャンセルされているじゃないか。

キャンセル理由が着物の縫い直しと聞いてね。これは面白い写真が撮れるとピン!ときてね。案の定イイ写真が撮れたよ!みんなありがとう!」

ニコニコ顔で六花に礼を述べると、狼牙に挨拶をして帰っていった。


「以蔵さん、この写真とても素敵!」

木荒の膝に乗った指差が、パソコンに映し出された六花達を見て、興奮した声を上げる。


「この子達は何を撮っても絵になる。写真家泣かせだよ。」

どれを写真集に載せるか、2人にとって非常に悩みの種であった。


「凄い着物ね。とても派手だけどとても綺麗。」

「学園祭の催しで着るみたいだ。是非とも撮りに行かないとね。」

「わあ!私も見にいきたいわ!珊瑚にお願いしなくちゃ!」

「なら僕の分もお願いしていいかい?莉乃。」

「もう、そんなの当たり前じゃないですか。」

膝の上でクルリと向きを変えて、対面すると口付けを交わす。

木荒は指差を抱きかかえると、事務所の奥へ消えていった。

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