第65話 10月最後の週の出来事
1週間、南国バカンスを満喫した六花は意気揚々と我が家へ帰宅した。
「ただいまー!」
「おかえりんす。」
タスキ掛けをした和服姿の薄葉が、はたきを持って出迎えてくれる。
お糸がパタパタと駆け寄り、萌葱に飛びついてきた。
「ただいま、お母さん、お糸ちゃん!」
お糸は皆に抱っこをせがみ、六花はそれに応えた。
「うーん、やっぱりうちの匂いが一番!」
夜花子が深呼吸をして感慨に耽る。
「おかえり。南国は楽しかったか?」
狼牙が調理場から顔を覗かせている。
「はい!とっても楽しかったでーす!」
六花の日に焼けた顔がとても満足気であることに狼牙は安堵した。
「狼牙さん!これお土産です!」
六花はそれぞれ運んできた大きなクーラーボックスを持ち上げると、調理場に運び入れた。
「ぜんぶ、アタチたちが捕まえまちた!」
「あっちの海ってすげえのな!魚捕り放題だった!」
殊更大きな笑顔を浮かべる桔梗と茜。
クーラーボックスを開けるとひんやりした冷気が漏れ出し、色彩豊かで大きな魚、小さな魚が一杯に詰められていた。
「凄いな!アカジンミーバイ、マクブ、タマン、グルクン、クチナジどれも美味い魚ばかりじゃないか!」
「理事長が捕まえた魚を厳選してくれたんだよ。
これが美味いとか言ってさ。」
珊瑚がアカジンミーバイを持ち上げ、「これが一番」と説明する。
「釣りは初めてだったろ?ビギナーズラックだな。」
「釣り?釣りはしたことありませんよ。」
蒼が皆を見ると「うん」と頷く。
「え?どうやって捕まえたんだ?」
狼牙は興味深々で尋ねてみた。
「理事長にクルージングに連れていって貰って海で泳いだんです。
とても綺麗な海で魚が目の前をよぎるんですよ。
それで、エイッて手掴みで捕まえました。
そしたら競争になっちゃって。」
萌葱が手を伸ばして実演混じりで話をしてくれる。
狼牙は「魚って手で捕まえられるもんなんだなー」と漠然と想像する。
「途中でサメとか来たんだけどよ、ぶん殴ったら逃げてった!」
ニシシと笑いながらファイティングポーズを決める茜。
「で、誰が一番なんだ?」
「数は萌葱だけど、質は私です!」
エッヘンと偉ぶる夜花子。
「アカジンミーバイ、マクブは8割くらい夜花子よね。」
珊瑚がアカジンミーバイ、マクブを持ち上げて見比べている。
「ふふん!高級魚を調べておいた私に死角はない!
だから狼牙さん!褒めて!」
「撫でろ」と言わんばかりに頭をずずいと狼牙に差し出す。
「ああ、よくやった。夜花子。」
狼牙は夜花子を抱き寄せると、頭を優しく撫でる。
当たり前のように夜花子の後ろには列ができていた。
晩ご飯はアカジンミーバイのマース煮(塩煮)、マクブの寿司、タマンのバター焼き、グルクンの唐揚げ、クチナジの刺身、醤油にはシークヮーサーを加えた。
そして、魔法瓶に詰められた四具祖秘蔵の泡盛。
一斗瓶で熟成された泡盛を、四具祖自ら一滴もこぼさず魔法瓶に移し替えた、魂の篭った酒である。
泡盛と狼牙の料理に舌鼓を打ち、にぎやかな夜は更けていった。
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夜花子の独り言
我が家の毎日は割と規則正しい。
朝6:30のモーニングコールと、19:00の晩ご飯は鉄板だ。
みんな寝る時間はまちまちだけど、狼牙さんデーの土日は23:00から1:00までの2時間と決まっていて、終わると自分の部屋に戻って就寝するの。
この間まで萌葱がローテから外れてたけど、中東旅行から帰ってきてからは、気持ちが吹っ切れたのかローテに戻ってきたわ。
このまま戻ってこなかったらどうしようと思っていたけど、杞憂だったみたい良かった。
波照間島、楽しかったなぁ。
理事長のお陰でラグジュアリーなバカンスを満喫できた。
目が覚めると目の前に広がる青い海!ベランダで潮風に当たりながらコーヒーを飲むなんて夢みたい!
美味しい食事にマリンスポーツ、それが全部無料なんて最高!
素潜りも忘れられない経験だった。
障壁膜で体を覆って空気だまりを作って、身体強化発動して、いざみんなで潜水開始!
どのくらい潜ったんだろう。
太陽の光が段々と届かなくなって、周りが青から群青そして藍に変わり、ほとんど光が届かない静寂の世界。
わっちら恐くなって、抱き着きあった時に不思議なモノを見たのよ。
足元をとても大きなタコ?みたいな黒い影が通り過ぎたの。
それの赤く光る目を見たら、みんなパニックになって全力で海面を目指したわ!
海って不思議な生き物が、まだ知られずに生息してるんだなぁってつくづく実感しました。
多湖先生のお家にも遊びにいったけど、茜の顔を見たバカ女がファビョって大変なことになってた。
で、あのバカ女、結局反省なんかしてない事が判明したのよ。
猫被ってたのね。
茜を罵って、多湖先生に恨みつらみぶつけたわ。
「あんたなんかに心は無い!あんたはただのATM!利用するために一緒に居るんだ!私を不幸にした報いよ!」
多湖先生はがっくりと落ち込んでたなぁ。
茜が怒って殺気を当てたら、バカ女、泡吹いて卒倒しちゃったけど。
多湖先生これからどうするんだろう。
「離婚する気はない。」って言ってたけど。
寝取られ体質なのかな。
そういえば11月の後半に文化祭があります。
わっちら準備なにも手伝ってないけど、綾小路と京極が進めてました。
男装ホストのお茶会をやるそうです。
萌葱と桔梗は着物を着て野点をするんだと言ってたな。
着物は薄葉母さんが用意するんだって!
100年以上前の着物ってどうなんだろう?
珊瑚はAKBF33の研修生を呼んで、ミニライブするって。
本人は参加せずマネージャーするみたい。
茜は四具祖杯(異種格闘技大会)に出場しようとして、理事長に止められてたね。
まあ、仕方ない。
そうだ、お茶会でリラックスできるようにお香を焚こうかな。
わっちの自作ブレンドを幾つか試したいんだよね。
よし!部長に相談しよう。
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蒼の独り言
なんだろう、波照間島から帰ってきてから、創作意欲が止まらん!
学園再開迄の1週間、部屋に引き籠り裁縫に明け暮れた。
テーマは「南海」。
透き通った青い海、色とりどりの魚、珊瑚、イソギンチャク。
そうそうイソギンチャクに指を突っ込むとニュポと吸われるのよ。
あの感触を再現できないもんか。・・・違う!そうじゃない!
今は裁縫の話だ。
出来上がるたび、リリスちゃんに着せてSNSに投稿してたら、フォロワーが1万人超えた!やったね!
が!最近リリスちゃんを売ってくれと書き込む輩が増えた。
実はリリスちゃん、萌葱に化粧をしてもらってたりする。
私の衣装を着せるなら、量産顔でなくオンリーワンにしたい。
というわけで、萌葱に依頼した。
「詐欺メイク」「純欲メイク」というのかあれ?
あそこまでいくとSFXと遜色ないな、正直驚いた。
特殊メイクに使われる粘りけのあるワックスで、理想の顔の形を作り上げるんよ。
「あんたルパ〇三世か?」思わず声に出したわ。
あれに騙されたら男も堪らんよな。
試しに私もメイクして貰ったら、二重のデカ目美少女になった。
素顔が分からん。
で、試しにSNSにUPしたらフォロワーが5万人超えた。
恐いよ詐欺メイク!
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桔梗の独り言
「桔梗はね、サヴァン症候群なの。」
友子ママがハナちてくれまちた。
あたちは「記憶」と「計算」の能力が、人より優っているそうでち。
中学生までは先生の言ってることがムジュカちくて、お勉強大嫌いだったけど、友子ママが「では教科書を全て暗記するといいぞ。」
って言われて、暗記ちまちた。
そちたらテストで80点以上とれるようになりまちた。
「応用問題」とか「作文」が苦手なのー!
あたちは電車が嫌いでち。
「魔法の絨毯」で学校に行けたらいいなーって思いまちた。
でも夜花子ちゃんと蒼ちゃんに「人目についたらパニックになるからダメ!」って言われまちた。
でもでも、やっぱり絨毯で行きたいでち。
萌葱ちゃんが「絨毯が見えなくなればいいのになぁ」って言って、あたちの頭の上で「ピコーン」が閃きまちた!
元素記号とか数字を掛け合わせて見えない魔法を作れないかなって。
あたちの記憶から「光の屈折」とか、「屈折させるために必要な元素」とか、引っ張りだちて計算ちてみまちた。
その答えを図形にちたら、ノートが見えなくなりまちた!
「狼牙さーん!これ見てくだちい!」
「何も見えなえいぞ?」
そうでちた!
あたちは図形の辺りに鉛筆でバッテンちまちた。
「おおう!ノートだ!」
狼牙さん凄くビックリしてあたち嬉ちい!
消しゴムでゴシゴシするとノートが消えて、狼牙さんまたビックリ!
「凄いぞ桔梗!どうやったらそんな魔法みたいな事が出来るんだ!」
あたち、狼牙さんにどうちたか一生懸命説明ちまちた。
「偉いぞ桔梗、きみは天才だ。」
いっぱい褒めてもらって、いっぱいギューちてもらって、いっぱい頭撫でて貰いまちた!狼牙さん!ダイシュキー!
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珊瑚の独り言
横浜アリーナ公演に向けて、絶賛特訓中です。
主にチームAをですが。
あと一歩なんだけどな。
突き抜けてくれないかな。
原因がプライドなのは分かってる。
9月頃に比べたら全然ましだけど。
なんか起爆剤が欲しい。
研修生に囲まれて「コーチ」を頼まれた。
歌も踊りもまだまだだけど、熱意はAよりある。
もしかして使えるかもしれない。
サッシーさんに考えを説明したらOK貰った。
あたしは研修生を鍛える事にした。
教える代わりに条件を付けた。
毎日5kmのマラソン、腹筋100回、腕立て伏せ100回を歌いながらすること。
学園祭に参加すること。
学園祭まで1ヶ月しかない。
この20名のうち何名が残るんだろう?
歌とダンスの練習は、あたし達と研修生合同でやってる。
毎日、21時から23時の2時間。
場所はどこかの公園。
毎回終わる頃には見物客で公園がいっぱい。
最近、追っかけが出没するようになった。
場所知らせてないのに、練習を始めると30分以内に現れる。
追っかけの熱意に影響を受けて、研修生のやる気が半端ない。
いい傾向、もっとやれ。
桔梗が凄い事やった!
数式魔法なるものを作りあげた!
凄い!凄い!!すごーい!!!
みんな自分のことのように喜んで、褒めちぎった!
そんで、その日の晩ご飯はあたし達で作った。
萌葱は「炎のチャーハン」
茜は「ふわとろオムレツ」
夜花子は「大葉のチーズつくね」
蒼は「豚バラの逆ロールキャベツ」
あたしは「ベーコンチーズポテト」
インスタ料理だけど、どれも美味しかった!
数式魔法で身体強化の図形を作ってもらった。
体に図形を書き込むと20%身体機能が上昇する。
それも永続的に!
ただし、欠点がある。
書き込んだら刺青みたいに消えない。
桔梗が自分の足の裏で試したら、何しても消えないと落ち込んでた。
それを聞いて、あたし達も足の裏に書いた。
当たり前だろ、あたし達は姉妹だ。
みんなお揃いだよ。
それで今更だけど、爪に書けばいずれ消えると気が付いた。
あたしは研修生に図形を書き込む事にした。
団結の証とか適当な事を言って。
研修生は喜んで受け入れた。
それでネイルアートで親指に書き込んだ。
さて、どうなることやら。




