第61話 萌葱とゼヒレーテの帰宅
5分ほど泣いた後、萌葱を連れて風呂に入り、萌葱の体に異常が無いか隅々まで調べあげる。
萌葱は体に薄く保護膜のような障壁を張る術を覚え、外部からの触覚を防いでいた。
「2日半、海の上を飛んでたから日焼けが痛くてさ。
なんとかならないものかと、色々試した結果なのよ。」
「へえ、便利だね。それはともかく解除しなさいよ。
体を洗えないでしょ。」
珊瑚が指をワキワキさせながら迫ってくる。
「自分で洗うからいいよ!」
「だーめ!アンタが遭難して私達がどんだけ心配したと思ってるの?
私たちの想いを少しわからせてあげる。」
夜花子が手を泡立てて迫ってくる。
萌葱はじりじりと壁際に追い込まれた。
「わかった!わかったから!優しくよ!優しく!」
観念した萌葱は障壁を解いて、手足を開いて目を瞑った。
5人の手が萌葱の肌に触れ、激痛で大騒ぎになると思いきや、大人しく体を洗われている。
癒しを発動させながら、隅から隅まで陰唇や尻穴も丁寧に洗い上げた。
ぬるま湯シャワーを浴びせられ、桔梗のシャンプータイムが始まり、頭皮のマッサージに至福の声が思わず洩れる。
「髪だいぶ痛んじゃったね。」
治癒を発動しながら、髪を指ですく桔梗が悲し気に呟く。
「でも桔梗が元通りにしてくれるでしょう?」
「勿論でち!」
嬉しい桔梗がシャワーで髪を洗い流す、温度調節を忘れて。
「ぎにゃあああ!」
萌葱の叫び声が風呂場に響き渡った。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
六花が風呂に向かうと、狼牙はLINEで萌葱の帰宅を、雌ゴリラグループに送信を行う。
移動中なのか返信はなかった。
薄葉、お糸が土産に渡されたボストンバックの中身を見て、驚きの声を上げた。
「まあ、なんて立派な海老でありんしょう!」
生きた30cm以上のカノコイセエビが、ボストンバック2つにぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
狼牙は早速、調理場のシンクに氷水を貯めて、エビを放り込む。
全部で60匹を数え、さてどうしたものかと、しばし思案する。
焼き、汁、刺身は鉄板として、なにしろ数が多い。
ここは贅沢にフライにしてみようと思い、調理にかかった。
風呂上がり、萌葱は保湿効果のある化粧水を肌にたっぷり塗られ、テカテカになって出て来ると、薄葉とお糸の前に正座をして、心配させたことを詫びた。
「わちきは別に怒ってなどおりんせん。
それより無事に帰ってきたことがとても嬉しいのでありんす。
お帰りなんし萌葱。可愛い娘。」
ぎゅうと抱きしめられた萌葱は「ありがとう、お母さん。」と小さく呟いて、自らも薄葉を抱きしめた。
「晩飯ができたぞ!配膳してくれ!」
調理場から狼牙の声が聞こえると、六花は「はーい」と返事をして、立ち上がる。
萌葱が立ち上がろうとすると、お糸が「今日は甘えろ」と言い、膝の上に座った。
テーブルの上に次々とエビ料理が並べられていく。
塩半生焼き、刺身、汁物、そしてエビフライ!
「ソースはエビミソを使ったオリジナルだ!味は保証する!」
狼牙は自信満々に言い放ち、冷えた而今の一升瓶を片手に腰を下ろした。
「今日は無礼講だ。ひとり2杯まで許可する。」
わーと湧く六花がマイ純銅冷酒カップに並々と酒を注ぐ。
全員に行き渡ると「お帰り萌葱!」の音頭で一気に飲み干した。
「うんめー!もう一杯!」
「おい!ひとり2杯迄だぞ!分かっているのか?」
「もう!けち臭いオヤジはモテませんよ!」
蒼に羽交い締めされ、茜が一升瓶をひったくると、それぞれのカップに再び並々と注ぐ。
狼牙は「もう勝手にしろ」と苦笑いをした。
「なんなんだこのエビフライ!美味しすぎるぞ!」
興奮した顔でモグモグと味わい咀嚼する茜。
「塩焼きの半生感が最高!甘味と塩気が超絶マッチしてる!
それにこのミソがとってもお酒に合う!ああ口福!」
片手にカップを持ち、顔を上気させる蒼。
「上品な甘さと臭みのない白く透き通る身は、もはや芸術ね!」
すっかり評論家気取りだが、せわしなく箸を動かしあっと言う間に刺身を平らげる夜花子。
「エビの旨味の全てが凝縮されたお味噌汁こそ至高の椀!」
くうーと身をよじらせながら汁をすする珊瑚。
「萌葱ちゃん、こんなにたくさんのエビさん、どうやって捕まえたんでちか?エビさん、海の中にいるんでちよね?」
手づかみで塩焼きの身をほじくり返しながら桔梗が質問した。
「これね、人魚さん達が捕まえてきてくれたの。」
「人魚?!」
全員がハモッて驚愕した。
「不思議な人魚さん達でね、上半身が魚で下半身が人間なのよ。
それでね、人の言葉を喋るの。
るるいえってところに住んでるって言ってたな。
ゼヒレーテの知り合いで、エビとか貝とか獲ってきてくれたわ。
獲れたての踊り食いも美味しいけど、料理するともっと美味しいね。」
「ちょっと待て、ゼヒレーテとは誰だ?」
狼牙は、もしやショックで萌葱が妄言を喋っているのではと心配になった。
「そういや、そもそもどうやってここまで帰ってきたんだ?」
茜の質問に全員がうんうんと頷いた。
「ちょっと待ってね。」
萌葱は膝からお糸を降ろすと玄関に向かう。
玄関でなにやらぶつぶつと囁く声が聞こえると、すぐにプカプカ浮かぶ、畳み1畳ほどの絨毯に乗って廊下に現れる。
全員が言葉を失い「?!」の状態で萌葱を凝視した。
「これが空飛ぶ絨毯です!
今1/8に折りたたんであるけど、全部広げるとみんなが乗れるよ。
飛行速度は時速300km位かな、人に見られないように海沿いを飛んできたから、結構時間がかかっちゃった。」
「まあ、賢明な判断よね。大騒ぎになっちゃうだろうし。」
蒼がうんうんと頷き写メを撮る。
「ちょっと待て、空飛ぶ絨毯だぞ。どこでそんな物を手に入れたんだ。」
萌葱は中東土産の件と事の経緯を話した。
「海面にぶつかる瞬間に全気力を放出して、障壁を張ったのよ。
パイロットさん達と私を包む感じで。
そしたら手に持ってたランプからゼヒレーテが出て来て、私たちを飛行機の外に出してくれて、ついでにお土産も回収してくれて。
それでゼヒレーテに言われた通り、お土産に気力を注入したら全部が能力を発動したの。
この世界には魔力が無いでしょう。
気力が魔力の代わりになったみたい。」
死を遠ざける幸運のお守り、無限に清水の湧く壺、魔法のランプを並べはじめた。
「そのゼヒレーテはこのランプから現れるのか?」
「そうよ、呼んでみようか?」
ランプに気力を注入すると、ピカッと輝き注ぎ口から白いモヤが噴き出し、あっと言う間に少女になった。
「皆さーん!初めましてー!私がゼヒレーテでーす!」
ゼヒレーテの身長は萌葱とほぼ変わらず、むき出しの上半身は無駄のない美しい筋肉が白磁のように輝き、金糸、銀糸、宝石で装飾された胸当てを着け、シースルーの白のハーレムパンツを着用している。
金髪を頭の頂点で一つに結び、編み込まれた髪が腰まで垂れ下がり、顔は萌葱と瓜二つで、猫の目のような金色の瞳をしていた。
「いつ呼び出してもらえるかワクワクして待ってたのー!
あなた達が萌葱の家族ですね、会えて嬉しいでーす。
私もあなた達の家族に加えてくださーい!お願いしまーす!」
ゼヒレーテがペコリと頭を下げた。
「私からもお願いするよ。この子とってもいい子なの。
なんか、私の分身みたいでとっても気が合うの。」
「それはそう、萌葱の力で復活したから、子供みたいなものよー。
だから、ほら、そっくりでしょー!」
並んでみると確かに双子に見えた。
「ゼヒレーテ、萌葱を助けてくれて本当にありがとう。」
狼牙がゼヒレーテの手を取り、涙ながらに礼を述べた。
「狼牙さん、私の命は萌葱と一心同体でーす。
萌葱が存在しなければ私は消滅してしまいまーす。
だからWin-Winな関係なんでーす。」
「それでも感謝したい。本当にありがとう。」
「萌葱、愛されてますねー。」
ゼヒレーテは萌葱を見てニヤニヤと笑う。
萌葱は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「狼牙くん!萌葱が帰って来たって?!」
翌朝の6:00にエリア55に到着した山城から電話連絡が入る。
狼牙は萌葱の無事と帰還の経緯を簡単に説明した。
「沖縄の在日米軍基地から、パイロットの救助に関する問い合わせが来ているわよ。
まあ、真実は話せないわね、取り合えず誤魔化しておくわ。
それと、扶桑が先行して現地入りしているから、これから私達も合流するけど、しばらく会えなくなるから、ベイビー達のことよろしくね!」
「了解。気をつけてな。」
「ふふ、ありがとう。またね。」
通信を終えると、狼牙は館内マイクのボリュームを最大にして、大きく息を吸い込み、ニヤリと笑った。
「ビックリするじゃんかよ!」
寝起きで寝ぐせのついた頭の茜が狼牙に抗議をする。
狼牙が悪びれた様子もなく、寝ぐせを撫でつけると、茜は唇を尖らしムウとすると洗面所に向かった。
視線を感じて振り向くと、六花と薄葉、お糸が列を作っている。
狼牙は無言でひとりひとりの頭を撫でつける。
再び、家族全員が集まった日常が始まった。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「茜、今夜もお休みコールくださいね!」
教室に入ると西園寺がすっ飛んできて、茜の手を握り懇願する。
茜はすごく面倒くさい顔をして「分かった」と答えた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「桔梗ちゃん、昨晩はとても気持ち良い夢が見れました。」
伊集院は桔梗を見つけると抱き着き、潤んだ目で見つめる。
「今夜もお電話お待ちしております。」
桔梗は耳を甘噛みされ囁かれると「分かりまちた」と力無く答えた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
夜花子、蒼は綾小路、京極に教室の隅に連れて行かれる。
2人はもじもじしながら夜花子、蒼に話はじめた。
「その、お2人は同性愛に関して理解がありますか?」
まさかの京極のカミングアウトに固まる夜花子と蒼。
「実は昨晩、私達は一緒に居たのだよ。」
「そこで、お2人から電話がありまして、たった一言でしたが私たち互いに嫉妬してしまい、とうとう肉体関係を結んでしまいました。」
「NTRというのかな?もう居ても立っても居られなくなってね。
お互いの初めてを捧げ合ったんだ。
でも後悔はしていない。」
「そこでお願いなんですが、またお電話を頂けないでしょうか?」
「よろしく頼むよ!」
夜花子、蒼は気まずそうに顔を見合わせ、些細な事で性癖を歪ませてしまうのだなと気の毒に思った。
結果的に4人の即切り電話が、大財閥の4人に貸を作ってしまった事をまだ知らずにいた。




