第60話 萌葱&扶桑親子の息抜き旅行④
ゲート正面にあるこの建屋は、非常事態に備えて作られた要塞の役割があり、分厚いコンクリートの壁に覆われ、ガラス窓は無く、銃撃用の小窓が幾つか備えられている。
戦車でも持ってこなければ攻略は不可能と思われた。
奪取された「M1126歩兵戦闘車」から機関砲と榴弾が打ち込まれる。
応戦とばかりに、M107対物ライフルで狙撃するが全く効果がない。
「くそー!うちの装甲車は固すぎなんだよ!」
悪態をつく司令官に、更に最悪な情報が伝えられる。
「WZ-130Aだと!」
中華大帝国の最新鋭第4世代型戦車がゲートをくぐり抜けてくると、建屋に向けて発砲を開始した。
一発で壁を突き抜け、弾芯が室内の壁に着弾してコンクリートの塊が降り注ぐ。
司令官の撤退の声が爆音でかき消される。
次々と着弾した弾が壁を崩し、隊員達の姿がむき出しとなり、戦車の砲身が萌葱に照準を合わせた。
萌葱は向けられた砲身を見て、「ああ、死ぬんだ」と思い、側にいた名も知らない隊員の手を握った。
握られた隊員も萌葱の手をきつく握り返した。
「キンッ!」甲高い金属音が、静まり返った場に響き渡る。
砲身がズリ落ち、車体に当たり地面を転がる。
土煙の中を人影が尋常でない速度で動き、断末魔の悲鳴が上がる。
戦車、装甲車がアパッチの対地ミサイル攻撃で次々と爆散していく。
萌葱は立ち上がると、身体強化をフル発動して、土煙の中に飛び込んだ。
「ママ!」
「萌葱!」
2人は互いを背にして、ゲリラを次々と叩きのめしていた。
形勢は一気に逆転した。
2人は竜巻のように次から次へとゲリラを宙に打ち上げ、戦闘不能に陥れる。
呆然と見ていた隊員達であったが、司令官の「続け!」の一喝で動ける隊員は兵士へと変わり、銃を取り突撃する。
やがて、帰投した部隊が戦線に間に合い、死者0名、重傷23名、軽傷48名という奇跡的結果で戦闘は終了した。
「萌葱、貴女に大統領自由勲章を捧げたい、受けて貰えるかな?」
司令官は厳粛な表情で、萌葱の手を握った。
「萌葱、貰えるものは何でも貰いなさい。」
扶桑が優しく微笑み、萌葱の頭を撫でる。
萌葱は扶桑の意図を読み取った後、司令官に向かって頷いた。
「では、授与式のスケジュールは空けて置いてくれよ。」
司令官はウィンクし、萌葱を抱き上げ、隊員に向かい手を上げ宣言した。
「忍者ガール萌葱を称える者は声を上げてここに示せ!」
基地は「萌葱!」の称える声で包まれた。
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萌葱は1人、C-17「グローブマスターIII」に搭乗し、沖縄の在日米軍基地に向かっている。
安定飛行になり、仮設席から立ち上がり操縦席を覗きこむ。
前方左右に護衛のF/A-18E/F 「スーパーホーネット」の機影が見える。
ロードマスターから席に戻りなさいと注意をされ、「はーい」と返事をして、窓の無い貨物エリアの仮設シートに座る。
扶桑は、これから辞令の発せられる特務のため、基地への待機を命じられ同行を許されなかった。
中華大帝国の関与が、もはや支援レベルを超えていると判断したアメリカ政府は、日本政府へ「チーム雌ゴリラ」の特務派遣を要請、CIAと共に帝国内部の調査を行うと決定した。
「これまでお金だけを出して、決して本体を露見させなかった中国政府にしては、明らかにやり方がおかしいの。
紛争地帯に本国の最新装備を持ち出してくるなんて、気が狂ったとしか思えないわ。
CIAは、中国指導部になんらかの異常事態が発生していると、推測しているし私もそう思う。
蛟龍会や五虎将の件もあるし、ちょっと本格的に調べてくるね。」
日本帰還の前日、萌葱は扶桑の乳首を吸いながら、話を聞いていた。
また、当分会えなくなる寂しさで、ギュッと抱き着くと、扶桑の手が背中を優しくトントンとする。
その手がとても心地よく、いつしか萌葱の意識が薄れていく。
朦朧とする意識の中、口の中に甘い母乳が広がるのを感じ、無意識に吸い続けながら眠りにおちた。
空の生活物質輸送用コンテナが満載された貨物室内は、萌葱以外の搭乗員はいない。
行きの20ℓリュックひとつと違い、帰りは更に満杯の50ℓボストンバックを2つ持たされる。
中身は中東土産で隊員が現地で購入していたものをプレゼントされた。
本人達曰く、死を遠ざける幸運のお守り、空飛ぶ魔法の絨毯、無限に清水の湧くの壺、そして一番多かったのは「魔法のランプ」である。
ランプをくれた人は皆「これは本物」と保証していたが、誰一人ランプの精を呼び出すことは叶わなかったらしい。
その他も空を飛ぶ、水が湧き出すでもなくただの置物にすぎなかった。
「それもそうだよね。」
異世界ならまだしも、現実世界で精霊を呼び出せるわけがないことは、重々承知していたが、善意を断るわけにもいかず頂いてしまった。
萌葱はボストンバッグから、一番古びたランプを取り出し、ハアーと息を吹きかけ、タオルでキュッキュッと拭き上げる。
「んん?」
黒ずんでサビていた部分が、金色の光沢を取り戻している。
もう一度息を吹きかけて拭くとやはりサビが落ち、金色の光沢が現れる。
機内ですることがない萌葱はランプ磨きに熱中しはじめた。
「できたー!」
錆びて黒ずんでいたランプが見違えるように黄金の輝きを取り戻す。
萌葱は満足してランプを掲げて、その美しさに見惚れていた時、機内に非常警報が鳴り響いた。
ドン!と爆発音が鳴り響き、輸送機が急激に高度を下げる。
シートベルトをしていない萌葱の体がフワリと浮かび上がった。
「あわわわ!」
空中でバタバタと手足を動かしバランスを取ろうとすること1分、体に重力を感じ床に落下する直前に態勢を取り直す。
操縦室に駆け込むと、眼前に海面が広がっていた。
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「大丈夫!萌葱は生きている!私の魂が萌葱の命を感じている!」
エリア55に輸送機遭難の一報が入り、司令官が扶桑に伝えると、彼女は力強く、確信を持って答えた。
「それも忍術なのかい?」
「違うわ。私達はSpirit Link(魂の絆)をしているの。だから分る。」
悲壮感の全くない扶桑を見て、司令官はあまりのショックに正気を失ったと思い、カウンセリングを強く勧めた。
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萌葱が行方不明の知らせは、3日後、山城から狼牙に伝えられた。
「扶桑が生きていると言っているから生きているの!」
「しかし、遭難して72時間が経過しているんだぞ!もう1秒も無駄にできない!」
今にも飛び出して行きそうな狼牙の腰にお糸がぶら下がっている。
狼牙の狼狽ぶりに呆れかえる山城と薄葉。
「狼牙君が焦っても仕方ないでしょう。
遭難したのはベンガル海上空よ、今からどうしようもないでしょう。
米軍が24時間体制で捜索しているの、信じて待ちましょう。
それよりも、ベイビー達の心のケアをよろしくね。
くれぐれも暴走列車にならないように注意してね。
薄葉さん、お糸ちゃん、あとはよろしくお願いします。」
「わかりんした。こちらは任せておくんなんし。
山城、お勤め気を付けて行ってらしゃい。」
山城が深々と頭を下げて通信は切れた。
「旦那様!少し落ち着いておくんなんし。
主さんが取り乱していると、子供達が余計に動揺しんす。
この家の主らしゅう、どんと構えていておくんなんし。」
お糸が、今にも飛び出しそうな狼牙の足を掴んで離さない。
本気を出しているのにもかかわらず動けないことに、狼牙は驚愕し、そのおかげで冷静さを取り戻した。
「萌葱を失うと思ったら、居ても立ってもいられなくなった。
情けないな、すまなかった。」
狼牙はがっくりと膝をついて項垂れた。
「萌葱が行方不明!」
5人が帰宅後、山城からの情報を伝える。
茜「ヒコーキが落ちたんだろ!いくら萌葱でも死ぬぞ!」
夜花子「でも扶桑ママは生きているって言ったんだよね!」
狼牙「ああ、確かに生きていると言ったそうだ。」
桔梗「なら、生きてるよ!ママが言ったなら絶対生きてる!」
珊瑚「生きてるにしても、ここからどの位離れてるんだ!」
蒼「ざっと5000km位ね。おまけに海上ともなると船が必要ね。」
茜「西園寺に言って用意させるか。」
桔梗「あたち、侑加ちゃんにお願いしゅる!」
夜花子「綾小路と京極にも支援要請をしよう。」
蒼「なら、予算を計上しないとな!」
狼牙は、暴走し始めた子供達にストップをかけるべく、大声を上げた。
「ちょっと待て!何を考えている!
萌葱の捜索は米軍が既に始めている!
お前達が出しゃばると余計に混乱が起きる!
おかしな事は考えるな!いいか!絶対にするなよ!
言う事を聞かないと弁当を作らないし、夕食も抜きだ!
それでもいいか!絶対に押すなよ!」
5人はスマホを片手に発信ボタンを押そうとしたが指が止まる。
「お前さん達落ち着きなんし。萌葱の事は大人達に任せねえ。
人の世話になるという事は貸しを作ることでありんすよ。
それも今回はとても大きな貸しになることでありんしょう。
その貸しを返す事を想像してみておくんなんし。
返しきれなくて母や旦那様に迷惑をかけることが想像できんすか。
茜は先日、権力の恐さを知ったばかりでありんしょう。
お前さん達が貸しを作ろうとする者たちを侮ってはいけんせんよ。」
薄葉の説得に何も言い返せずに、自分らの無力を思い知る。
それでも、今苦しんでいるかもしれない萌葱の為に、何かをしなくてはならないという思いが、噴火寸前のマグマのように煮えたぎる。
茜「ダメだ!我慢できねえ!どんな貸しだろうと必ず返す!
オレは萌葱がいなくなるなんて絶対に考えられねえ!」
桔梗「あたちも!萌葱ちゃんが助かるなら何だってするー!」
夜花子「そうよね!何を迷ってたんだろう!」
蒼「あたし達は6人姉妹!6人揃って六花なのよ!」
珊瑚「という訳で狼牙、薄葉さん、お糸ちゃん、ごめん!」
茜が西園寺に、桔梗が伊集院に、夜花子が綾小路に、蒼が京極に電話発信を押した。
「あ、あ・・・」
狼牙が頭を抱えて蹲る。
薄葉とお糸が狼牙の背中を撫でながら、慰めの言葉を掛けた。
その時!
「ただいま!どうしたのそんなに騒いで。」
真っ赤に日焼けした萌葱が襖を開けて入ってきた。
皆が唖然として2人を見る。
萌葱は痛々しい位に日焼けしているが、満面の笑みで両手に持ったボストンバックを「はい!お土産!」と掲げている。
茜たちは、スマホから「もしもし!」の声が聞こえると、正気に戻り「おやすみなさい!」と一言残し通話を切ると、萌葱に飛びついた。
「よかった!萌葱!よかったー!」
萌葱は自分を抱きしめてワンワン泣く姉妹たちを見て、しばらく好きなようにさせていた。




