第59話 萌葱&扶桑親子の息抜き旅行③
射撃訓練後、昼食を食べ格闘戦の実習を行う。
屋内練習場に2人の姿が現れると、隊員達が一斉にざわめきだした。
「扶桑!そのお嬢ちゃんも参加するのか?!」
「ええ!勿論!」
Oh!隊員の驚きの声が上がる。
扶桑はピンクのバンダナを萌葱と自分の頭に巻き、「お揃いね」と微笑み、隊員達に向かって「Bring it on!」と叫ぶ。
隊員達は扶桑と萌葱の前に綺麗に整列した。
扶桑の前にはがっしりとした大男が並び、萌葱の前には中肉中背、細め、太目の男達が並ぶ。
萌葱は体格を考慮してくれたのかと考えるが、どうもそうでないことに気付く。
男達が互いの列に「lolicon bastard!」(ロリコン野郎!)「granny specialty!」(ババア専!)「Are you afraid of big breasts and buttocks?!」(でかい乳房と尻が怖いか?)「Weirdos who just like chunks of fat!」(ただの脂肪の塊が好きな変人共!)と罵りあっていた。
扶桑は萌葱列の男達の発言に頬を引きつらせている。
そして萌葱に「手加減しなくていいよ、ボコボコしてやって!」と話しかけた。
自分の列の男達が、特殊性癖なんだなぁと、なんとなく理解した萌葱は「うん!」と力強く答えた。
扶桑が男達を数秒で戦闘不能にすることは、基地の隊員にとって見慣れた光景であったが、萌葱が一撃で男達を瞬殺する光景は衝撃であり、とても関心を引くものであった。
2人の格闘戦の様子が基地全体に広がり、手の空いた野次馬が続々と練習場に現れ、ピンクのバンダナを見るとこぞって列に並んだ。
いつの間にか女性隊員も、主に萌葱の列に並んでいるのが見えた。
「ハーイ!萌葱!あんた凄いね!キュートなのにハードだわ!」
「ジェシーさん!手加減しませんよ!」
「ところで萌葱!あんたそのバンダナの意味わかってる?」
「?、なんかあるんですか?」
「ああ、いいよ。知らないなら。ではよろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
2人は互いに礼をすると同時に動いた。
ジェシーの構えを柔道スタイルと一瞬で見抜き、質量を残した残像の突きで誘導を行い、本体は足払いして転倒をさせる。
後は、男は金的に、女は子宮に悪戯技(振動寸勁)を仕掛けて悶絶させるという攻撃パターンになっていた。
ジェシーは萌葱の単純な突きを見て、躱した瞬間に腕を取り背負い投げをイメージして、その目論見になった。
確かに腕を掴んだが、そこには腕が無かった。
突然、足がすくわれて上下の感覚がなくなり、背中が床に叩きつけられた感触と、胎を揺さぶる強烈なポルチオイキが同時に脳に伝わり、脳がバグってしまう。
ジェシーは今迄感じたことのない快感に飲まれ、失禁とエクスタシーを繰り返し意識を失った。
病床が失神者で埋まり、練習場のそこかしこで、失神者が寝かされている。まるで野戦病院のような様相になりつつある状況を見て、司令官は実習中止を命じる。
なお、萌葱、扶桑は介抱をする傍らで、密かに治癒・回復を発動させていたので、覚醒した対戦者は皆、以前より体調良好となっていた。
「萌葱!何なんだ!あれはゴーストアタックか?!」
夕食時、萌葱の対戦者が周りを取り囲み、質量を持った残像について問うてくる。
萌葱が返答に困っていると、扶桑が耳元で囁いたアドバイスをそのまま答えた。
「忍術です!私は忍者ガール!秘密をばらしたら切腹です!」
すると隊員達は「Oh!NINJYA girls !」と、納得したように頷いて解散していった。
「彼らにとっては忍者は「考えてもしかたない存在」なのね。
日本人が忍者と言えば、それ以上追求してこないのよ、不思議ね。」
ペロッ舌を出して笑う扶桑を見て、「ああ、ママの仕業だな。」と思わずにいられない萌葱だった。
就寝時、萌葱は扶桑の同衾を拒んだ。
「ダメです!私が死んでもいいんですか?!」
「昨夜は不満な状態だったから抱きついたのよ!
今夜は大丈夫だから、ネッ!ネッ!」
傍から見ると、新婚夫婦の夜の攻防に見える。
結局萌葱は根負けして扶桑の同衾に許可を出した。
「ママ、ジェシーさんが、バンダナのこと知っているかって聞いてきたけど、何か意味があるの?」
「あれは「私とFuckしたかったら勝負しな!」って意味があるのよ。」
「私が負けたらどうするつもりだったの?」
「何も。ここの男達は見てくれは野蛮人だけど、ベッドの中はとても紳士よ。萌葱も国際交流してみるのいいんじゃない?」
「しませんよ!」
ぷうと頬を膨らませて向けた背に、扶桑はギュッと抱き着いた。
翌日も銃器訓練と格闘戦を行い、一日が終了する。
格闘戦で萌葱はバンダナを外したが、リベンジをしたい者、忍術を体験したい者で、扶桑の列より多くの男が列に並んだ。
そして大規模作戦の当日、それぞれに分担が割り振られる。
萌葱は後方支援として、補給物資の運搬補助を命じられ、扶桑は最前線での遊撃が命じられる。
ジェフリーは補給線の警戒部隊に任命された。
「作戦名は「双頭鷲の砂豚狩り」だ。
ゲリラ3大拠点の1つを徹底して叩く。
この拠点は某国の大規模支援により軍事基地と化した。
合衆国への脅威度が最大レベルに達した。
幹部以外の生存は考慮しない。
いいか!幹部以外は全て排除対象だ!
覚悟を持て!合衆国への忠誠を今こそ示せ!
各自の健闘を祈る!解散!」
司令官の檄が飛び、隊員が持ち場へ散らばっていく。
扶桑は萌葱の肩を抱いて、作戦室を後にした。
「いいこと、自分の身を守ることに注力してね。
戦場では何が起こるか分からない。
想定していない事はしばしば起きるわよ。」
萌葱の装備を点検し、ヘルメットを被せ、顎紐を緩く締める。
「戦場に着いたら顎紐は外してね。
爆風でヘルメットごと頭を飛ばされてしまうからね。」
「これでよし」と呟くと、萌葱に口付けをして微笑む。
「ママも気を付けてね。」
「ありがとう、萌葱。行ってきます。」
扶桑はウィンクを飛ばすと部隊へ駆けていった。
AM5:30
強襲部隊を乗せた輸送ヘリ「CH-47」3機、護衛の戦闘ヘリ「AH-64 アパッチ」6機が出撃していく。
扶桑は一番槍の強襲部隊と共にCH-47に乗り込んでいた。
AM6:00
3機編隊のF-15E「ストライクイーグル」の精密爆撃で、敵対空施設の全てが沈黙する。
アパッチの駆逐掃討が行われ、散発していた抵抗が止むと、CH-47が主要施設近くに着陸、隊員が素早く隊列を組み陣地確保を行う。
ボロキレになった敵兵を横目で見ながら施設内に突入、トラップを解除しながら、司令官室を目指した。
「おかしくないか?少なすぎるぞ。」
第一波突入隊長が扶桑に話しかける。
侵入して40分経つが人影が無い。
屋内はトラップが張り巡らされ、解除に時間を取られる。
扶桑は嫌な予感に焦燥感を募らせた。
司令官室に辿り着き、手信号で突入準備を行う。
マジックハンドでドアノブを回すとカチリと鳴り、爆発音と共にドアが吹き飛ぶが、隊員達は被害無く室内に突入した。
「Damn it !」(くそ !)
室内はもぬけのからで壁に「你们输了!」(お前らの負けだ!)と、ペンキで殴り書きが残されていた。
この時点で、作戦情報が漏洩し敵に裏をかかれたと確信した。
「全隊!大至急基地に帰投だ!」
隊長が無線で指示を出すと、扶桑は全員を振り切る速度で走った。
「今すぐ飛ばせ、私は足に掴まる。」
「扶桑無茶だ!」
「いいから飛ばせ!」
扶桑の射抜くような眼力に圧倒されて、操縦士がアパッチを起動させ機体が浮き上がると、着陸脚に扶桑が飛び付いた。
AM5:55
萌葱は後続の中型汎用トラック「M1078 LMTV」に乗り込み、出発の時間を荷台で待つ。
上空にジェット機の爆音が聞こえる。
敵の対空火器の無力化を担う、攻撃機の編隊が基地の上空を通り過ぎていくのが見えた。
5分後、ヒュルヒュルと風切り音が微かに聞こえる。
数秒後、基地内で幾つもの爆発が起こる。
基地に非常事態を知らせるサイレンが鳴り響いた。
「敵襲!全員降車して基地防衛に着け!」
隊長の指示で皆がトラックから降車し、身を低くして建屋内に駆けこんで行く。
榴弾砲の炸裂がトラックの周りで起こり、隊員がひとり倒れる。
萌葱はトラックから飛び降り、その隊員を担ぎ上げ、屋内に駆け込んだ。
「ジェフリー!」
萌葱が隊員を床に降ろすと衛生兵が駆け寄り、負傷兵の名を呼んだ。
榴弾は腹を切り裂き、大量の出血と腸の一部をはみ出させていた。
「そんな!アンタ扶桑から慰めを貰ったんだろ!」
素人目に見ても助かりそうにない事は確かだった。
萌葱は咄嗟にジェフリーの腹に手を当て治癒を発動した。
みるみる塞がっていく傷を見て、周りの兵士達は言葉を失う。
すっかり傷が塞がったのを見て、発動を止めると顔を上げて皆に告げた。
「これは忍術です!」
衛生兵は唖然としたが、HaHaHa!と大笑いした後に「Amazing!」と親指を突き出した。
次々と負傷兵が屋内に運ばれてくる。
致命傷を負った隊員は申し合わせたように、萌葱の元に運ばれてきた。
「萌葱!忍術をお願い!」
「はい!」
千切れた腕を治癒を発動し繋ぎ合わせると、周りで歓声が沸き起こる。
いつしか萌葱のいる建屋を最重要拠点として、司令官自らが守備部隊の指揮を始めた。
ゲートは既に占領され、ゲリラの戦闘車が次々と侵入してくる。
最新の銃火器で武装したゲリラの攻撃は、今迄で類を見ない位に激しく、次第に後退を余儀なくされ、負傷者の数も増えていく。
重火器を使用しないところを見ると、基地の装備の奪取も目的のようだ。
現に出撃準備を済ませ駐車してある、ストライカー装甲車「M1126歩兵戦闘車」に乗り込み、動かし始めている。
ゲリラの中に、装備の扱いを知る者がいる事は明らかであった。
司令官は基地対空設備のシステムシャットダウンと、管制室及び武器庫のロックダウンを命じる。
すぐさま指令は実行され、帰投する部隊の安全は一先ず確保された。
「部隊帰投は1時間後だ!それ迄ガンバレ!」
基地には80名ほど残っているが、実戦経験者は40名弱、残りは事務方や補助要員で、慣れない銃器の扱いに手間取っている。
実戦経験者は初戦で20名が負傷、戦闘不能になり、かなりの劣勢を強いられていた。




