第56話 学園編⑰ 萌葱と遥の入院
遥が室内に飛び込むと、扶桑が何者かに殴り掛かっているのが見える。
強烈な連打を受けた女から黒いモヤが爆散して、部屋中をあっという間に覆い尽くす。黒いモヤが遥の周りに立ち込め、得も言われぬ匂いが鼻を衝いた。
「状況!ガス!」
すぐに息を止めて扉の外に飛び出すと、後続に向けて警告を叫ぶ。
「うぐっ!」
猛烈な吐き気に襲われ、その場で嘔吐していると、鹿島が抱きかかえ安全地帯まで運びだした。
「井上!大丈夫か!誰か救急車を呼べ!」
「バカ、あんた迄ガスにやられたら・・・」
喋りきらずに遥は気を失い、ガクリと頭を落とした。
「全員現フロアから退避!捜査員は建物内住人の避難を最優先!
清水、消防と化研に応援要請!鹿島!井上を運んで1階まで降りろ!
急げ、ひとりも死者を出すな!」
局長の発破で捜査員が階下に向かって階段を駆け下りる。
鹿島は遥をおぶると、磐田が待機しているエレベーターに乗り込む。
背中で断続的に嘔吐する遥に、鹿島は大声で励ました。
「オラアアア!」
扶桑の拳の連撃が女に打撃を与えると、黒いモヤが爆発するように拡散し、周りの男女がもがき苦しみはじめる。
瞬時にマスクが展開して口元を覆うと、ゴーグル内部にアラートが表示され、ガスの成分解析がはじまった。
?ガス:5秒以上の吸入で傀儡化、マスク有効
(マスク有効だが、このままじゃ萌葱が!)
ベッドの上で意識を失っている萌葱を担ぎ上げ、一時撤退を選択するが、何者かに操られ人々が行く手を塞ぐように集まってくる。
パンパンと銃声が響き、扶桑の周りに障壁が自動展開されると、銃弾が全て弾かれた。
異世界における魔法、スキル、特殊攻撃に対抗するべく作られた、対異世界用特殊作戦スーツ、別名「神威」。
ブラックドラゴンの表皮に、クラーケンの粘液を塗布することで衝撃無効、斬撃無効、突撃無効、耐熱、耐寒、毒無効を付与、表皮に魔法陣が書き込まれ精神系魔法を無効化、攻撃魔法半減、弱攻撃魔法・回復魔法放出可、装着者の精神力を源に障壁を自動展開し、時間経過と共に体力、精力を自動回復する、現代科学と異世界魔法が融合した魔法戦闘衣である。
「パコ!ガスを無効化する手段を検索!」
「ニャー、ちょっと待つニャン!」
人工知能パコは異世界の情報と現世界の情報を頭脳に持つ、シリコン製の魔法生物である。
亜空間経由でヘッドバイザー通信を行うため、妨害されずタイムロスが発生しないスーパーアドバイザーだった。
「水ニャン!スプリンクラーを作動させて、大気中のガスを分散するニャン!天井にたくさんあるから適当にファイアするニャン!」
「ありがとパコ!」
扶桑は脳内で炎をイメージして、「ファイア!」と叫ぶ。
スーツ表面に赤い光線が幾つも浮かび上がり、突き出された手の平から火炎が放射された。
火炎は天井を焼き、スプリンクラーから一斉に水が散布され、黒いモヤが消失すると操られていた人々がバタバタと倒れる。
扶桑はぶっ飛ばした女の元に赴くと、別人の少女が瀕死状態で痙攣をしているのを見つけた。
「ヒーリング」
少女は緑色の光に包まれ痙攣が収まる。
脈を測り安定したことを確認すると、ペントハウスから撤退した。
屋上でヘリに乗り込むと、遥がガスを吸い込み重体の無線を傍受する。
扶桑は無線に割り込み、ヘリで回収、1階で待機を伝えた。
ヘリのローター音が頭上で聞こえ、強烈なスポットライトが照射される。
縄梯子が降ろされると、鹿島は遥を上着でしっかりと固定して、縄梯子を登りはじめた。
「貴方が鹿島さんですか。先輩から良く話を聞いています。」
「どんな話ですか?」
「とってもウザイと。」
扶桑はニコリと笑い、親指を突き立てた。
鹿島は膝の上に抱いた遥の口元をハンカチで優しく拭き取る。
ヘリは急旋回をして自衛隊中央病院に進路を向けた。
3日後、意識を取り戻した遥は自分がベッドの上だと気付き、周りを見ると、扶桑が萌葱の手を握っているのを見た。
「扶桑、萌葱ちゃん大丈夫?」
扶桑は遥が目覚めたことを喜び、ナースセンターに連絡を入れた。
「先輩、目覚めて良かった。鹿島さんがとても心配していました。」
「へえ、あいつがねぇ。」
「鹿島さん、勤務が終了すると真っ先に訪れて、先輩の手をずっと握ってたんですよ。先輩、愛されてますね。」
「ば、ばか言うなよ!」
扶桑にからかわれ、遥は布団で顔を隠した。
「なあ、扶桑。あれは何なんだ?」
「異世界の邪神。といってもこの世界に神がいないので、理解できないと思います。」
「私が部屋に入った時、一瞬だけどアレを見た。アレはこの世界に存在しないモノだった。あれが邪神なのか?」
「正確には邪神に憑依された人です。」
「邪神は何が目的なんだ?」
「あいつらが求めるモノは混沌の世界。
法も秩序も用をなさない、善も悪も意味を持たない世界。」
「そんな世界、想像もできない。ある意味究極に平等な世界なのか?」
「弱肉強食の世界でもあります。」
「人権なんてなさそうだしな。」
2人が哲学的な問答をしていると、鹿島が慌てて病室に飛び込んできた。
「井上!良かった!」
鹿島は布団を被っている遥の上に覆いかぶさると、布団ごと抱きしめ、どれだけ心配したかを語りはじめる。
そして事件当日の様子と、どれだけ自分がたいへんだったかをアピールし続けた。
時折、告白ぽい表現もあったが、遥はスルーをした。
「遥さん羨ましい。あんなに思ってくれる人がいるなんて。」
面会時間が過ぎ、今は扶桑もいない。
病室は萌葱と遥のふたりきりであった。
「私は萌葱ちゃんが羨ましいわ。狼牙君のお嫁さんなんでしょ。」
「遥さん、私の夢は生涯1人の男に操を立てて、添い遂げることなんです。もう叶わないんですけどね。」
「あら、古風な考え方してるのね。」
「産みの親がビッチの見本みたいな人だったので、その反動だと思います。」
「ねえ、例えば初恋の人とSEXするじゃない。
多分ほとんどの女の子が、一生を共にする覚悟で抱かれると思うのよ。
その気持ちは本物だよね。
でも、別れてしまったら、その気持ちは偽物だったってことなのかな?」
「違うと思います。」
「そうよね。一度SEXすれば体は非処女だけど、心まで非処女になることはないんじゃない。心は自分でなければ変えることができない。
だったら心は処女のままでいればいいじゃない。
いつか心の処女まで捧げたくなる男に出会えるわよ。
その男に心の操を捧げればいいのよ。
ちなみに私の心はまだかろうじて処女よ。
できれば狼牙君に奪ってほしいのだけどね!
萌葱は狼牙君じゃないの?」
萌葱はその問いに答えることなく沈黙した。
扶桑は診察室で細胞が変化する様子を、萌葱の主治医と見ている。
細胞が異物を猛烈な速度で浸食、同化をしていた。
「これが竜のエキスを取り込んだ人の免疫細胞です。
がん細胞、HIV、エボラで試験してみましたが、結果は同じでしたね。
同化し抗体を作る、まさに無敵の進化細胞です。」
「先生、サンプルで送ったエキスから、抗体を作れなかったんですか?」
「サンプル原液ではただ死滅させるのみです。抗体は発生しません。
マウスの試験では、マウスのみ有効な抗体が作られます。
どうやら、媒介された生物の遺伝子を強化しているようですな。
こちらではまだ人体実験を行っていないので、この結果はたいへんありがたいですよ。」
主治医は扶桑に頭を下げて礼をした。
「ただ、利点ばかりではありません。
この細胞は異物細胞を片端から同化してしまいます。
エキスを注入したマウスは即死しました。
水、餌と一緒に与えるとマウスは生き残りますので、経口による消化器官からの吸収が唯一の方法となります。
血清は作成不可能でしょうな。」
なるほど異世界では竜を食べて力を取り込んでいたなと思い返す。
「更に問題点があります。
生殖についてですが、進化精子が異常に強く、通常卵子と受精すると卵子を破壊します。逆に進化卵子は通常精子を駆逐します。
進化細胞と現細胞では自然受胎は不可能です。」
思わず「おお!」と声を上げてしまった扶桑だった。
「ほう、それでは避妊が不必要で性病の心配もないのか。」
「まあ、こっちの世界の男ならね。あっちの世界じゃ進化細胞持ち多そうだから要避妊よ。伊勢。」
伊勢は少し惜しい顔をする。
異世界では伊勢が小柄に見える亜人もいて、お気に入りも数名いる。
ピルの効き目がない体になってしまい、避妊が特注スキン一択になり少しばかり物足りなさを感じていた。
「黒いガス女の事、何か情報あるかしら?」
「異世界でもそれらしい魔物、魔法使いの情報はないね。
それこそ、邪神の情報なんて皆無だ。
まるで異世界の邪神は存在そのものを抹消されたような感じだ。
邪神情報も白虎王のうろ覚えだしな。」
「仕方ないか。私はしばらく萌葱の看護するからよろしく。」
「ああ、完治するまで側にいてあげろ。」
「ありがと、伊勢。」
扶桑は通信を切ったあと黒いガス女を考える。
いたいけな少女に憑依して、言霊で萌葱を闇落ちさせ、形勢不利とみると即撤退ができる機転のきく厄介な奴。
久しぶりの強敵に興奮している事に気がつき、自分を戒めるため瞑想を始めた。
遥の退院の日、鹿島は有休を取り迎えにくる。
嫌がる遥を無視して抱き上げると自分の車に押し込み走り去った。
「遥さん、嫌がってるわりに嬉しそうだった。」
「そりゃそうよ、先輩は真正のドMなんですもの。」
扶桑は乳房を出すと有無を言わせず萌葱に吸わせた。
「鹿島!どういう事!」
鹿島はクルマをラグジュアリーなホテルに入れると、遥を抱え部屋へ直行し、ソファーの上に座らせた。
「遥、俺はずっと我慢してた。でも、もう限界だ。俺のモノにする。」
「ちょっと!ふざけた事言わないでよ!」
「本気だ!」
「私には好きな人がいるの!悪いけど無理!」
「そいつとは無理だ!遥と生きる世界が違う!」
真実を告げられた遥は反論できずに言葉に詰まった。
「遥はこの世界で普通に子供達を更生に導き、生き甲斐にしてればいい。彼らの世界は普通ではない。」
「あんた、何を知っているの?」
「遥の後輩やその子供達が生きる世界だ。」
「なら話が早い。私もあちらの世界へ行く!」
「ダメだ!俺は行かせない!遥はこちらの世界で俺と幸せになるんだ!」
「あんたが私を幸せに?できるの?ヘタレなくせして!」
遥は狼牙に初めて抱かれる日の前日、鹿島を誘惑した。
当時、1人暮らしを始めた鹿島の家に行き、酔っぱらったふりをして、裸になり関係を迫った。
「井上、俺はまだ責任が取れる男じゃない。気持ちはすごく嬉しい。
でも、俺は責任を取れる大人になってから、井上と付き合いたいんだ、だから今は友達でいよう。
俺が大人になって、井上がまだフリーだったら俺から必ず告白する。」
そう言って遥に上着を被せて部屋を出て行ってしまった。
翌日、狼牙に抱かれ、鹿島への想いを断ち切った遥はその日以来、良き友人として付き合いを継続した。
「俺は責任を取れる大人になった!・・・つもりだ。
遥はまだフリーだ、だから告白する。
遥!好きだ!愛してる!俺と結婚してくれ!」
「いやだ。」
数瞬、沈黙の時間が流れ、2人は見つめ合った。
「どうして?」
声を絞り出し問いかける。
「あんたと居ても多分退屈。私は刺激が欲しいの。」
「刺激なら、現場に出ればいくらでも刺激的じゃないか。」
「そういうのじゃない。あんたチン〇でかい?」
「お、おう!自信があるぞ!素人の女の子に逃げられる位だ!」
「へえ、見せて。」
「よ、よし!見て驚け!」
鹿島はアタフタしながらズボンを脱ぎ、パンツを脱ぎ捨てた。
「あら、立派。これ普通の女の子サイズじゃないわね。
もしかして童貞?」
「ど、ど、童貞ちゃうわ!」
「誰としたの?」
「ソープだ!若い子じゃ入らないから人妻系だ!
俺より推定20才は年上だったな!」
「素人童貞か。ププッ!」
「なんだその意味深な笑いは!」
「よし!あんたの必死さに免じてテストをしてあげる。
私から結婚したいって言わせてみなさい。」
ニヤニヤ笑いながら、遥は服を脱ぎ捨て煽情的なポーズを取った。
「さーて、まずはどうするのかしら?」
遥は股を広げ、陰唇を指で開け閉めして鹿島を誘った。




