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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第54話 学園編⑮ 萌葱、闇落ちする

萌葱と遥はメガ・ドンキの館内を、学園生徒の姿を探して歩き回る。

数名生徒を見つけるが、いずれも目が合うと逸らされ、接触しようとせずに姿を隠してしまった。


「警戒されてますね。」

「確かに。同類に見られたくないのかしら。」

萌葱はメンヘラルックを失敗したかなと思い始める。

目撃した生徒は皆、過度な化粧や着崩しをしておらず、真面目な学生に見えた。


「萌葱ちゃん、男からの接触を待とう。」

かなり目立つ格好の学生が、何度もエスカレーターで登り降りを繰り返し、わざとパンツが見えるように腰を突き出している。

SNSで発信されると、2人を目当てに男達が集まりだしていた。


「いやあ、久しぶりに獲物を狩る男の視線を感じるわ〜。

中身が30オーバーだと知らないくせに!ぷぷっ!」

遥が上機嫌で腰を大きく振って歩いているが、視線の多くは萌葱に集まっている。

SNS上の投稿も萌葱が中心で、遥の半身が切れているものがほとんどだったが、中には遥が中心の画像もあり、それが更に大胆な動きを助長させた。


2人は大人のオモチャ売り場に踏み込み、キャアキャア騒ぎながらグッズを見て回る。

そこで、小太りで髪が薄くなりはじめた中年男性に声をかけられた。


「あなた達がNO1036ですか?」

「えっ、はい!」

萌葱はNOの意味を理解していなかったが、客の接触だと瞬時に判断した。


「では、私のハンドルネームを答えてください。」

(しまった!急ぎすぎた!)

答えられなければ男に逃げられるだろう、折角の手がかりを不意にしてしまう。

間違えても結果は同じ、ならばもう取り押さえてしまおうかと考えた時、遥がお腹を押さえて呻きながらしゃがみこんだ。


「痛い!お腹が痛い!ヤバい痛さ!救急車呼んで!119!」

男は遥に声を掛けることもせずにすぐに逃げ出す。

萌葱が追いかけようとすると、遥が手を掴んで阻止した。


「深追いしてはダメよ。これなら体調不良のクレームだけで済むわ。

騒ぎを起こしたらもうここでは捜査ができなくなる、我慢よ。」

遥に諭されてコクリと頷く。

萌葱は奥歯をギリッと嚙み締めた。


メガ・ドンキを出ると、10人のチンピラに周りを取り囲まれ、体を拘束されるが2人は抵抗しない。

リーダーらしき男が萌葱に近づき、顔と体を舐めまわすように見たあと、「連れてこい」と部下に命令すると、2人は黙って付き従った。


クラブのVIPルームに連れていかれ、意外にも丁重な扱いをされ、少し驚いていると、黒服がシャンパングラスを人数分配膳して、シャンパンを開封しグラスに注いでいく。


「安心しなよ、クスリは入れてねえよ。」

リーダーが最初にグラスを空け、部下も続いてグラスを空ける。

遥が鼻を近づけてスンスンと動かすと、クイッと一気に飲み干した。


「うっまー!おかわりちょうだい!」

部下の一人がシャンパンを注ぐとすぐに飲み干し、次を要求した。


「おいおい、飲み過ぎて潰れるなよ。」

「こんなのジュースと同じよ!おかわり!」

遥は男からボトルを奪い取ると手酌でカパカパ飲みはじめる。

萌葱は一口飲むと、グラスをテーブルに置いた。


「お前ら初めて見るツラだが、学園の生徒だよな。」

「そうよ。メイクで化けてるから分からないでしょう。」

「メイクを落としたら、地味顔が現れるのか?ウケルわ!」

リーダーが萌葱の肩を抱き寄せ、鼻が付きそうなくらい近づいた。


「お前動じないな。俺が怖くないのか?」

「全然。」

「はは。大抵の女はビビッて震えるんだがな。

お前グループに所属していないのか?」

「なにそれ?」

「ドンキでおっさんに声を掛けられていたろ。」

「ああ、なんか訳の分かんないこと言ってたね。」

「とぼけるな。」

「私はナンパされたくてうろついてただけだよ。」

「ウリはしないのか?」

「興味はあるかな?お金欲しいしさ。」

「なら稼がせてやる。お前ならすぐ人気者になれるぞ。」

「ホントに!でも、オッサン相手にするのは嫌だな。」

「バカ言え、オッサンだから金持ってるんだよ。」

「うーん、ちょっと考えさせてよ。あの子にも相談したいしさ。」

萌葱は1人飲み続けている遥を見る。

既にボトル1本を空にして2本目を手にしている。

周りの男達はドン引きをしていた。


「おいおい、あれ1本8万だぞ。」

「あら、驕りでしょ。」

「お前らプロか?」

「冗談!あんなのと一緒にしないでくれる!」

萌葱の瞳に一瞬憎悪が浮かび上がる。

男は見慣れたはずの憎悪に毛が逆立つのを感じた。


(こいつは面白い。ウリを憎悪しているのに俺に接触してきた。

なんか訳アリか?退屈しのぎに使えるかもしれないな。)


「グループに入る気になったらここに来いよ。

俺の名前はレオン。受付で言えば出入り自由だ。」

「そん時はよろしく。」

萌葱はニッと笑ってソファから立ち上がろうとするが、腕を強く引っ張られ、抱きかかえられると口付けをされた。


「何するのよ!」

萌葱はすぐに立ち上がると唇を拭いレオンを睨みつけた。


「酒の代金の代わりだ。安いもんだろ。」

「?!」

萌葱は遥の腕を掴むと引きずるように部屋を出ていった。


「萌葱ちゃん凄いわね。よくあんな男と対等に話せたね。」

クラブを出るまでベロンベロンだった遥が、素面に戻り話しかけてきた。


「遥さん酔っぱらってたんじゃないの?」

「あれ位で酔うわけないでしょう。」

遥は俗にいうウワバミであり、あの程度では食前酒替わりにもならない。


「まさかと思うけど、グループに入るつもり?」

「わかりません。」

「あいつは相当の悪よ。もう関わらないで。

ここからは警察の仕事だから。

さっきの情報で内偵を始められる算段がつくわ。

すぐに尻尾掴むから自重してね。」

渋谷駅に着き、萌葱を改札まで見送ると遥は渋谷署に向かった。




「ぶはは!井上なんだその格好は!」

組織犯罪対策部 警察庁刑事局、鹿島刑事は遥の姿を見て盛大に噴き出し、腹を抱えて転げ回った。

遥と同期であり、警察学校卒業後も何かと絡んできた鹿島に、うざい奴という印象しかない。

しかし、責任感が強く義理人情も厚い鹿島に、信頼感を持っていることも確かであった。


「笑うな!可愛いだろう!ほれほれ!」

スカートの裾をヒラヒラさせてパンチラをすると、真剣な顔になり遥の手を押さえて「やめろ」と凄んだ。


「相変わらず固い奴だな。」

「そういうのは本物のJKがすることに意義がある!」

「なにおう!」

遥が鹿島のネクタイを引っ張って首を絞めると、ギブギブと遥の頭をポンポンと叩いた。


「井上警部補、お楽しみのところ悪いがこれを見てくれ。」

局長がおほんと咳払いをして、遥に写真を差し出した。


「そうです!こいつです!レオンです!」

「局長、先ほど話とこれまでの調査で令状を取れますよ。」

「そうだな鹿島。井上警部補お手柄だ。体を張った甲斐があったな。

清水!令状至急だ!磐田!非番を含めて全員集めろ!鹿島!手隙をレオンのマークに当たらせろ!お前が指揮だ!」

局内の刑事がそれぞれの職務を全うするべく一斉に動き出した。


「井上、お前はどうする?」

「この件に1人の少女が関わっている。その少女は自らを犠牲にしても解決を図ろうとしているんだ。

私は一刻も早くレオンをパクッてその子を楽にしてあげたい。

私も行くよ。同行させてくれ。」

「お前ならそう言うと思ったよ。同行を許可する。

但しその格好は不味いな。着替えてきてくれ。」

「了解。ちとドンキにいってくる。」

その後、遥はスーツ姿で鹿島と合流を果たした。




翌日、遥から欠席すると連絡があった。

本業に駆り出され手が離せない、くれぐれも先走らないようにと警告をされたが、萌葱は従う気がなかった。


部活を終え、目の下にクマを付けた正美とマックへ向かう。

萌葱は目の下のクマについて質問をした。


「ずっと「貴公子」を見てたら凄く幸せな気分になって、気がついたら朝になってたの。

もし、私と結婚することになったら、どういう家庭になるのかなって。

きっと私、旦那様のために毎日ラブラブなお弁当作って、旦那様は私のものよってアピールするわ。

夜の生活は旦那様が満足するように、本とかネットで猛勉強して、いろんなテクニックを覚えるの。

勿論体形を維持するためにダイエットして体を鍛えて、飽きられないようにがんばるわ。

子供は何人でも欲しいけど、旦那様のお世話もあるから2人かな。

旦那様そっくりな男の子がいいな。

女の子だと旦那様を取り合いになるから絶対男の子!

お家は郊外の一軒家であまり人がいない所がいいかな。

だって、旦那様を好きになっちゃう女は少ない方がいいでしょう。

でもね、旦那様はずっと私だけを愛してくれるの。

私がおばあちゃんになって、若い女が近寄ってきても見向きもせずに、私ひとりだけを死ぬまで愛してくれるのよ!」

狼牙との甘い妄想で夜更かしをして、今も胃もたれしそうな妄言を吐き続ける正美に、萌葱は後悔をしつつ腹を立てていた。


萌葱の夢は、生涯ただ1人の男と結ばれ、その男を夫とし、正真正銘の男の子共を産み、共に慈しみ育て、終生愛し合い、男の最後を不貞と無縁な自分誇りながら笑顔で看取ることだった。

その夢はもはや叶わない。

思えば、強さを求めたのは、自分の貞操を守りたいから。

結局、その強さは役に立たなかった。


萌葱は正美が自分の真実を知ったらどう思うのだろうと考える。

正美のことだ、きっと可哀そうと言って慰めるだろう。

所詮は他人事、自分が同じ立場にならなければ、これからも偽善を撒き散らして生きていくのだろう。


(私と同じ目に合ったら、可哀そうなんて言えるの?)

萌葱の心がどんどん暗い闇に包まれていった。


「ねえ、正美。これから面白い所行くけどあんたも来る?」

萌葱は邪悪な笑顔で歪んでいる顔を見られないように、俯いたままで正美に話しかけた。


「ええ、どこかしら?」

いまだ狼牙との妄想から覚めきれない正美が惚けた顔で問い返した。


「秘密!でもきっと気に入ると思うな!」

「門限までに帰れるかしら?」

「大丈夫よ!すぐ終わるから!」

「分かった。私も行くね。」

正美の承諾に萌葱はとびきりの笑顔を作り顔を上げた。


「よく来たな。今日は化けてないのか、地味なお友達も一緒か。」

正美は真っ白な顔でガタガタと震え、声も出せずに怯えていた。


「それで、グループに入る気になったか?」

レオンはソファーに体を埋めたまま足を大きく開き踏ん反り返り、たばこの煙を2人に吹きかけた。


「グループには入らない。ウリもしない。」

「あっ!じゃ何しに来た!」

「遊びにきた。あの子も一緒に遊んでよ。」

「プハッ!遊びにきた?!おまえ本気で言ってんのか?!」

「本気だよ。」

「頭ぶっ飛んでるな!俺たちと遊ぶ意味が分かってんのか?!」

「知らない。だから教えて。」

「ははは!気に入った!よし!極上の遊びを教えてやる!」

レオンは立ち上がると部下にクルマの用意を指示し電話をかけた。


「兄貴、今夜のパーティーに女を追加します。

ハイ、JKが2匹です。1人はかなりの上玉、もう1人はヴァージンですね。ええ、もう怯え切って可哀そうなもんです。」

「可哀そうだって。正美、可哀そうだって。」

ニヤニヤしながら語りかける萌葱の頬を正美がひっぱたいた。


「お友達だと思ってたのに!何でこんな酷いことするの?!」

「何言ってるの正美、これからだよ、酷い事をされるのは。」

萌葱の感情の無い声に絶望した正美は、膝を着いて号泣をはじめた。




「扶桑!萌葱ちゃんが暴走した!ごめん!」

「虫の知らせが役に立ちました!今ヘリで渋谷署に向かっています!」

「どゆこと?!」

「今日、萌葱の夢を見ました!助けを求める萌葱の姿が!」


時刻は午後17時。

2完徹をこなし、昼過ぎに眠りについた扶桑は夢を見る。

(助けて、助けてママ!)

必死に手を伸ばし助けを求める萌葱が闇に飲み込まれていく。

跳び起きるとタンクトップとショーツ姿のままで、駐機してあるオスプレイを起動させ離陸させた。


「どうした扶桑!」

無線から日向の声が聞こえてきた。


「萌葱が助けを求めてる!すぐに行かなきゃ!」

「わかった!各所への手配はこちらで済ます!急げよ!」

「ありがとう!」

日向からヘッドセットを取り上げられた通信士がポカンとしている。


「あの、よろしいのですか?無断で飛ばしたりしたら上から」

「構わん!ベイビーの非常事態は何よりも優先される!そこを変わってくれ、襟裳 第36警戒隊、緊急飛行計画通達、感明おくれ。」

駆け付けた伊勢と山城が別席の通信士をどかし、航空警戒管制団にオスプレイの飛行ルートの通達を、長門、陸奥は電話で木更津駐屯地、警視庁本庁、渋谷署へ状況説明をはじめる。

雌ゴリラ指揮による緊急ミッションが開始された。

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