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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第53話 学園編⑭ 「貴公子」シンドローム

学園地下駐車場に場違いな軽自動車が進入してくる。

区画に駐車すると男が降りてきて、助手席のドアを開ける。

男は見かけない生徒の手を取り、クルマから下ろすとエレベーターホールまでエスコートする。

エレベーターホールに居た数名のお嬢様方が2人に気付く。

お嬢様方は男の顔を見て惚けた顔になる。

エレベーターに乗り込み、扉が閉まる迄男から視線を外せない。

男は優雅なお辞儀をしてエレベーターを見送った。


エレベーターが動き始めると、お嬢様方はホゥと息を漏らし、見慣れない生徒を見た。

「貴女、お名前は?」

「何年生かしら?」

「あのお方は執事?運転手?」

「よろしければお友達にならなくて?」

お嬢様方が真剣な目つきで、遥に矢継ぎ早に語りかけてくる。

遥は改めて狼牙の破壊力を知った。


萌葱と桔梗が教室に入ると、妙にざわついている事に気付く。

生徒がスマホを片手に、地下駐車場での出来事を夢心地で語っていた。


「あんな素敵な殿方、生まれて初めてお目にかかりました。

私、あの方ならば家を捨てて、庶民になることも躊躇いません。」

確か中堅財閥の娘で資産数百億円の家だったと記憶している。

周りの生徒達の視線は彼女のスマホに集まっている。

生徒達はスマホの画面から目を離すことが出来ずに、持ち主の少女に転送を懇願していた。


萌葱と桔梗はどんな男だろうと興味を持ち輪に入り込む。

何とかスマホ画面を見ると、目をひん剥いて急ぎ輪から離れる。

ピタッと引っ付き、周りに聞こえないくらいの声量で話はじめた。


「なんで狼牙さんが写メられてるの?」

「誰を送ってきたんでちか?」

彼女らの話から推測するに運転手もしくは執事らしい。

やがてチャイムが鳴り、担任が編入生を連れてきた。


「皆さん、新しい編入生を紹介します。井上さん自己紹介を。」

井上と呼ばれた小柄で可愛らしい少女が、教壇の前に立って優雅にお辞儀をした。


「みなさん初めまして。井上遥と申します。よろしくお願いします。」

井上は教室を見回し、萌葱と目が合うとニコリと微笑んだ。


一時限目が終了すると、遥の周りに生徒が押し寄せる。

生徒達は狼牙の個人情報を聞き出そうと、話術巧みに話しかけてきた。


「彼は私の保護者の妹の友達です。従者ではありません。」

「では、婚姻を結ばれる関係ではないのですね?」

「紹介していただけるのでしたら、貴女方の家族、いえ一族郎党、私の派閥にお迎えしてもよろしくてよ。」

「あら私なら即あの方と結婚をして、全ての財産をお預けします。」

傍から聞いていると、恐ろしい言葉が次から次へと聞こえてくる。


「萌葱ちゃん、なんか怖いよ。あの子助けなくていいの?」

桔梗がぷるぷると震えている。

伊集院はその桔梗を抱きしめて悦に入っていた。


(ここは利用できるものは最大限に利用するか。)


「ねえ、伊集院さん。実は彼女、私達の知り合いなの。

桔梗がとっても彼女に懐いていて妹のように慕っているのよ。

なんとかならないかしら?」

萌葱が桔梗に目配せすると、コクコクと頷いた。


「侑加ちゃん!お願い!なんとかちて!」

侑加は桔梗をじっと見つめ、唇を尖らせた。

萌葱は桔梗にチュウの合図を送ると、躊躇いなく侑加の唇に吸い付く。

伊集院はハモッと桔梗の口を覆うと、桔梗の口内を舐りまくる。

伊集院の舌の凌辱を受け入れ、桔梗の目がトロンとする。

散々口内を凌辱して気が済んだ伊集院は、井上の周りの生徒に一喝した。


「いい加減にしなさい!あまりにも浅ましい!

井上さんは私が面倒をみます!下がりなさい!」

このクラスに伊集院に逆らえる者はいない。

彼女達は悔しさを顔に滲ませ、席に戻っていった。




「はじめまして。萌葱ちゃん、私は井上 遥。

あなた達の保護者とは、長い付き合いなの。よろしくね。」

昼休憩、萌葱は桔梗を伊集院に託して、遥と二人で食事の席に着く。


「扶桑に頼まれてね。あなたの捜査の相棒として着任したわ。」

「ええと、遥さんはママより年上なのですか?」

遥は萌葱に手招きをして、耳元で囁いた。


「実はね私、32なのよ。」

萌葱は驚きのあまりに口にしたパスタで咽た。

鼻からパスタが垂れ下がった萌葱を見て、パスタを掴んで引き抜いた。


「これからは私があなたの相棒として共に行動するわ。

これでも柔道と合気道の師範クラスだから、多少の荒事が起きても平気。

あなた、そういうのが好きそうな目をしてるわ。」

心の中を見透かされているように思えて目を逸らす萌葱。


「私、少年課勤務が長いから目を見るとね、なんか分かっちゃうの。

この子が何が不満で、何をしたいのか。とかね。」

「分かりませんよ。」

「ふふーん。」

遥はハンカチで萌葱の鼻の下を拭き取った。


放課後、桔梗は珊瑚に拉致され劇場に連れていかれる。

不満顔の伊集院が部室で萌葱に理由を問いただしてきた。


「実は珊瑚と桔梗はとあるダンスグループに所属していて、半年後に発表会があるらしく、でも桔梗があんな調子なのでなかなかうまく踊れなくて、猛特訓をしているんです。」

「それは部活動より大切なものなのですか?」

「はい。本人達はとても大切に思っています。」

「承知しました。あまりお休みが続くと退部となりますが、私が休部届を提出しておきます。」

「ありがとう。よろしくお願いします。」

萌葱が三つ指をついて頭を下げた。


「それと井上さんは茶道部入部をご希望かしら?」

「はい。茶道に興味がありましたし、萌葱さんと一緒に居ると、学園生活が心強いのでよろしくお願いします。」

遥も三つ指をついて頭を下げる。

伊集院はニコリと笑い、「ようこそ茶道部へ」と語りかけた。


部活が終わり、部室を出ると波多野 正美が待ち構えていて、萌葱の手を取ると顔を赤く染めえへへと笑いかける。


「あら、あなたが正美さんね。」

正美は萌葱の後から現れた遥に、突然名前を呼ばれ驚き振り返った。


「あなたは?」

「失礼。私は萌葱の友達で井上 遥と申します。

正美さん、私も正美さんの友達になりたいわ。いいかしら?」

見た目と裏腹にやけに堂々とした態度の遥に、少し気後れした正美は、萌葱に助けを求めるように視線を送った。


「大丈夫よ正美!彼女はとてもいい人よ。きっと良い友達になれるよ。」

萌葱の力強い笑顔に後押しされた正美は、遥に向き直り「お願いします。」と思わず頭を下げた。


3人はセンター街に繰り出し、マックでおしゃべりを楽しむ。

Lサイズポテト1つをシェアしながら、萌葱はコカ・コーラ ゼロのSサイズ、遥はプレミアムローストコーヒーのSサイズ、正美はアールグレイ アイスティー(ミルク)のSサイズを飲んでいた。


「遥さんが「貴公子」の知り合いだなんてびっくりです!それでどんな関係なのですか?!」

学園に突如現れた狼牙を生徒は「貴公子」と呼び、狼牙の写メ(少しブレきみ)を待ち受けにする生徒が爆増しているという。


「ええと、私の保護者の妹の友達です。登校初日なので親切に送ってくれました。」

「まあ、お優しい方なんですね!私、ちらっとしか写メを見ていないので、もし、写メをお持ちでしたら見せて貰えませんか?!」

興奮した正美が徐々に近づいてきて、今は鼻息がかかる距離にある。

遥はスマホを取り出し、萌葱と正美に見えないようにアルバムを開いた。


(あちゃー!刺激が強すぎるのばっかだ。やだ!こんなのいつ撮ったかしら?!改めて見るとホント大きいし形も最高だわ!こんなのが昨夜、私の体を弄んだのね!思い出すと膣キュンしちゃう!)

萌葱と正美はスマホを隠し見しながら、ハアハアしている遥に怪訝な顔をした。


「どうされました?遥さん?」

正美が席を立ち遥のスマホを覗き込もうとする。

遥は画面を見られないように、慌ててスマホを頭上にあげたが、萌葱にばっちりと見られる。

萌葱はスマホを取り上げると、立ち上がり画面をすばやくタッチする。

遥は取り返そうとしたが、身長差と動きの先読みをされて奪還は叶わず、やがて操作を完了したスマホを返却された。


「これなんかいいと思います。」

アルバムから昨夜の思い出が削除され、背景が特定出来ない狼牙の顔のアップだけが残っている。

ゴミ箱のデータも削除されていた。


「ああ!バックアップがされてない!」

クラウドが既に容量不足でバックアップできてない状態に気づく。

萌葱の獰猛な笑みを見て、遥は引きつり笑いを浮かべる。

その時、油断していた遥のスマホを覗き込んだ正美が絶叫した。


「きゃー!何ですか!何ですかこれ!こんなカッコいい人がこの世に存在するんですか?奇跡ですか?ください!この写メください!」

興奮してスマホをがっしりと握り締め、離そうとしない。

斜め前からの角度、視線はカメラを向いていない。

どこか遠くを見つめる目は、笑みを浮かべながらもどこか哀愁が漂う。

口元は少し開かれ、わずかに口角が上がっている。

カメラ機能最高の解像度で撮影された画質でも、毛穴の汚れや肌荒れが写し出されていない。

少し顔に掛かった髪の毛の一本一本が、見取れてしまいそうな程だった。


「わかったから!落ち着いて正美ちゃん!」

何とか正美を席に座らせ、アイスティーを飲ませて落ち着かせた。


「メールでお願いします!勿論最高画質です!」

正美のスマホにメールの着信音が鳴り、待ってましたとばかりに待ち受けに設定して、しばし見惚れていた。


「昨晩ですね。狼牙さんが拉致られたとタレコミがありました。」

「あれは高度な駆け引きによる政治的解決よ。正式な報酬よ。」

2人は正美に聞こえない声でこそこそと話す。

萌葱は半目状態で遥を見てふーと息を吐いた。


「狼牙さんが納得しているなら仕方ないですが、裸とかハメ撮りは止めてください。私達だってしてないですよ。」

「エッ?!あなた達、狼牙君としてるの?!」

「はい、隠す事でもないので言っちゃいます。全員、狼牙さんと婚姻関係(仮)です。いずれは正式に妻になります。」

「エエエ!?」

堪らず大声を出してしまい、辺りをキョロキョロと見回す。

正美はチラリと顔を上げたが、すぐにスマホに目を戻した。


「扶桑達は承知しているの?」

「はい。ママ達もいずれは妻になるんじゃないかと思います。」

「入れて!」

「はい?」

「あなた達のハーレムに入れて!」

「私が決めることではないので、狼牙さんに頼んでください。」

「狼牙君がOKすればいいの?あなた達に異論はないの?」

「妻にするしないは狼牙さんの判断です。判断に文句は言いません。」

「よっしゃー!狼牙君にハイと言わせてみせる!」

「がんばってください。」

遥は念のため、扶桑達にも承諾の言質を取ろうと考える。

あんな国宝級の男だ、独り占めしようとは思わない。

この先、月に1回、いや、半年に1回でも昨夜のような思い出が得られれば、そして狼牙の子供を産めれば、悔い無く幸せに生きていける。

遥は今後の人生設計を本気で考える決心をした。


時刻が18時になろうとしている。

正美は門限があるので、急いで帰った。


「萌葱!また明日ね!遥さん!写メありがとう!」

正美のポニテが嬉しそうに跳ねているのが見える。

姿が見えなくなると、萌葱が真面目な顔で遥に向かいあった。


「遥さん、そろそろ移動しましょう。今の時間ならメガドンキ辺りで釣りができると思います。」

「釣り?」

「ええ、ヤバそうな男をナンパして悪目立ちをします。そうして私を仲間にしようとする奴を釣り上げます。」

「囮捜査か。快く賛成はできないけど、私が行かなきゃ1人でもやるつもりでしょう?」

「はい。」

「OK、じゃ行きましょうか。」

「その前に準備をしましょう。」

萌葱が正美を連れて女子トイレに入ると、病みメイクとスカート裾上げを行い、チラ見えする下着をサテン生地の派手なものに履き替えた。


「驚いた。すごい詐欺メイクね、どうみてもメンヘラちゃんだわ。」

「狼牙さんには見せたくない姿です。」

「同感よ。」

2人はふふっと笑いあうとトイレが出ていく。

日はすっかり暮れ、街頭は人々の喧騒に満ちている。

早速、男が近寄ってくるがスカウトだと分かり無視をする。

目指すメガドンキがすぐ目の前に迫ってきた。

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