第51話 学園編⑫ 頂点奪取オペレーション発動
その夜、山城を迎えての宴会になり、翌日が休日ということもあり大いに盛り上がり、一杯だけとの約束で六花も酒を飲んだが、一杯で済むはずもなく瞬く間に一升瓶を空けてしまう。
追加を所望されるが、狼牙は断固として拒否をして、ほろ酔いの六花を裸に剥き冷水シャワーを浴びせかけた。
「ひゃああああ!」
揃って湯舟に飛び込み批難の声を上げるが、「フン!」と一瞥すると戸を閉めて去って行った。
「お邪魔しまーす。」
入れ違いに山城が、見事なプロポーションを隠すことなく入室してくると、その後を薄葉とお糸が着いてきた。
「お背中流しまーす!」
六花は即席三助になると、三人の体を洗い始めた。
「異世界の方は白虎さんが五虎将と一緒に反乱軍を抑え込んでいるわ。
五虎将強くなったわよ、一皮剥けたって感じね。
戍亥夫妻とお子さん達は、駐在員として当分帰れそうにないわね。」
茜を膝に置いた山城がニマニマしながら萌葱達を見た。
「五虎将からビデオレター預かってきたから後で渡すね。
先に言っておくけど、決まりで検閲されるから返信する時に、Hな写メを添付すると係員に見られるから注意してね!
それと、今夜は狼牙の部屋で寝るから、茜ごめんね!」
「いいよ!ママからいっぱい元気を貰ったからさ!
ママも狼牙からいっぱい元気貰えよ!」
「ありがとー!茜!」
自室に戻りPCの電源を入れログインをすると、渡されたメモリースティックを接続する。
フォルダーを開くと、「致我亲爱的萌葱.avi」のファイルがひとつ。
クリックして動画を再生すると、更にワイルドになった関勝の緊張した顔が映し出される。
しばらくモジモジして長い髭をいじっていたが、近況と異世界の経験を話し始める。
萌葱はその様子をニコニコして見つめる。
シークバーが残り30秒になると、萌葱への想いを語り出し「我爱你萌葱」で締めくくられた。
「私、告白された?」
ふふ、笑うと自分の想いをメッセージに込めて、動画の録画を始めた。
翌朝、山城の帰還を見送りに全員が玄関前に並ぶ。
「みんな、元気でね!狼牙くん、薄葉さん、お糸ちゃん!子供達をよろしくね!それじゃ茜またね!」
茜の唇に「ちゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ」と吸い付き、「ポンッ」と音を立てて離れると、黒塗セダンに乗り込んだ。
「ううっ、唇が痛え。」
腫れた唇を突き出しながら、遠ざかるセダンに手を振り続けた。
午後から六花全員でAKBF劇場を訪れる。
関係者出入口で指差と木荒が出迎え六花を驚かせた。
2人は全員の姿を見て大興奮をして、指差は一人一人にハグをして回り、木荒はその様子をカメラに収めていく。
「あの2人の距離近くない?」
「なんかエッチい感じがちます。」
珊瑚と桔梗が顔をくっつけて、同じ目線で2人を観察する。
指差と木荒は時折指を絡ませ、見つめ合い2人のゾーンを作った。
「エヘン!」
珊瑚が咳払いをすると慌てて離れるが、また指を絡ませて手を繋ぎ、イチャイチャしながら歩きだした。
レッスンルームに入ると、チームAのメンバー10名がペアを組んでストレッチを行っている。
指差の姿を見ると直ぐに5名2列に整列して直立不動の態勢になる。
指差は木荒と離れ、厳しい顔つきになり、メンバーの前で仁王立ちになると、六花の紹介をはじめ、その様子を木荒が撮影していた。
「みんな、楽にして聞いてください。珊瑚のお友達の皆さんです。
今日は特別にレッスンに参加することになりました。
実力はみんなも知っての通りチームAクラスです。
では、時間がもったいないので早速レッスンをはじめましょう。」
ピリピリとした空気の中、六花が3列目に並ぶ。
スピーカーから大音量で曲が流れると、チームAが流れるような動きでフォーメーションを組み、ステップを踏み始めた。
珊瑚を前に出し、5人が下がった位置で横一列に並び、指示通りに曲に合わせてダンスの反復練習を行う。
前方では左翼、右翼に割れたチームAが中央で交差して、ひとつにまとまると一糸乱れぬ動きでダンスをはじめ、サビ直前で左右に割れる。
その間を3人2列で六花が進み、最前列に出ると横一列に拡がり、珊瑚の指示に合わせてフォーメーションを変え、最後まで踊り切った。
「大したものね、初合わせでこの完成度。もう2、3回合わせれば完璧なんじゃない。」
指差のべた褒めに、珊瑚以外が恐縮した。
「当たり前ですよ!この私が鍛えてるんですから!」
珊瑚の発言にチームAのメンバーの表情が歪んだ。
「珊瑚!口が過ぎるよ!サッシーさんに失礼じゃない!」
チームリーダーが珊瑚の肩を掴んで睨みつける。
珊瑚はその手をパンと叩くと、リーダーの頬を掴み顔を近づけた。
「あんたらがダラシナイから、ヒットチャートから脱落したんだろうが!
坂道シリーズだか何だか知らねーけど、お前らが出来ないから私がやるんだよ!
いつまでもサッシーさんに甘えてるんじゃねー!プロなんだろ!」
珊瑚の言葉にリーダーは、顔を歪ませ「殺してやる!」と言わんばかりの視線を返した。
「いい面じゃん!気に入ったよ!その顔で踊れよ!ヘラヘラしたバカ面よりよっぽどイイ顔してるぜ!」
リーダーはダン!と足音をさせると、メンバーにポジションに戻れと指示を出した。
再びレッスンが開始されると、珊瑚の言葉に発奮したメンバーの気迫がダンスの表現力を格段に向上させる。
指差は六花の参加が間違いではなかったと改めて確信した。
「あんたら腹式呼吸が下手なんだよ。リーダーちょっと来てみ。」
続けざまに3曲こなした後、チームAは息切れを起こして動けなくなる。
六花は額に汗をかくものの、動きに支障はない。
珊瑚がリーダーに六花式腹式呼吸の仕方を教えると、すぐに要領を覚え、チーム全員に実践するように指示を出した。
「わたしらのデビューは口パク無しでよろしく!」
「上等よ!あんたらより完成度の高いパフォーマンスを披露して、空気にしてやるよ!」
珊瑚とリーダーは腕を組み合わせ、獰猛な笑顔を見せた。
レッスンが終了し指差に呼び出され支配人室を訪れると、息の荒い、指差と木荒が待ち受けていた。
(してたね)(してたな)(覚えたての猿ね)(換気しろよ)
(5分くらいしかなかったのに)(うらやまちい)
それぞれが心の中で呟き、相応の視線を送る。
視線の感情を読み取った2人は顔を見合わせ頷いた。
「実は隠そうかと思ったけどあなた達には言っちゃうね。
私達は婚約をしました。そして半年後に結婚します。」
指差の爆弾発言に六花は一瞬だけ言葉を失ったが、その後怒涛の質問攻めをはじめた。
「ちょっと待って!落ち着いて!それはおいおい話すから!
先に私の話を聞いて欲しいの!」
指差はドウドウと手振りをすると、六花がピタリと大人しくなった。
「結婚にあたって私達は契約をしました。
半年後の横浜アリーナ公演で六花がデビューを果たし、ファンに受け入れられ、写真集が完売すること、これが実現しなければ婚約を破棄してお別れします。」
「僕たちは君らのお陰で出会い、君らに夢を託し、その夢を実現させることで永遠の絆を結びたい。
僕の夢は君らの華々しい生涯を撮り続けること。
彼女の夢は君らをトップスターにして、永遠にAKBFを存続させること。
僕はね君らならこの途方もない夢を実現できると思っている。
どうだろうか僕らの夢のために力を貸して欲しい。」
2人は立ち上がると六花に対して深々と頭を下げた。
「私達が嫌って言ったら、お別れじゃないですか。
それでいいんですか?」
「良くはない。でも私達はプロ、勝てない勝負に賭けたりしない。
あなた達と私と木荒が組めば必ず勝てる!」
萌葱の質問に勝負師の顔で指差が答えた。
「そうよね、その勝負、珊瑚は絶対に乗るでしょう。
萌葱と桔梗は契約してるし、珊瑚の期待を裏切れない。
そして、私と夜花子、茜は3人を放ってはおけない。」
「うん!詰んだね。」
蒼と夜花子はお手上げのポーズを作った。
「ちぇ!大人は狡いな!オレらの弱点を突いてくる!」
茜は山城の言葉を思い出していた。
「みんな!あたしは絶対にAKBFをもう一度頂点に返り咲かせる。
だから協力して!指差さんの夢はあたしの夢でもあるの!
お願いします!」
珊瑚が皆の前に立ち、頭を下げた。
「珊瑚ちゃん、あたちたちはいつでも一緒だよ。珊瑚ちゃんひとりにするわけないよ。ね!みんなもそうだよね!」
桔梗は珊瑚に抱きついて背中を撫でた。
「あたり前じゃない!AKBF頂点奪取オペレーション発動するよ!」
「応!」
萌葱の掛け声に全員が決意を込めた声で答えた。
「花園さん、ご、ご一緒していいかしら?」
部活が終わり、茶道部室を出る萌葱に生徒が声を掛ける。
今日、桔梗はダンス集中特訓で珊瑚に拉致され、萌葱ひとりで部活に参加していた。
「私、2-Eの波多野 正美と申します。」
特別可愛いわけでも、スタイルが良いわけでもない、ごく普通の少女だった。
「えーと、何かご用でしょうか?」
ニコリと笑って問い返すと意外な答えが返ってきた。
「花園さん!その、お、お友達になってください!」
萌葱がポカンとした顔で波多野を見る。
「と、突然、こんなこと言って驚かれるかもしれませんが、私、その、お、お友達がいないんです。よろしくお願いします。」
波多野は真っ赤な顔で声を絞り出すと俯いてしまう。
萌葱は理由を聞きたいと、波多野をスタバに連れ出した。
2人ともメロンフラペチーノをオーダーして、窓際の席に座り、しばらくはメロンフラペチーノをネタに話を続けていたが、やがて波多野が理由を語りはじめた。
「私、別にお嬢様でも何でもなくて、ただの普通の庶民なんです。
中学は公立で成績もスポーツも特段優れていた訳ではありません。
お父さんではなくお父様が取締役社長に就任して、私の進学先がここに決まりました。
私は嫌だったんですが、お父様の期待が大きくて、断ることができずに入学しました。
でも周りはみなお嬢様ばかりで相手にされず、結局1年で友達は出来ず、クラス替えで期待したのですが、やはり相手にされませんでした。
お父様は学園の友達は将来の財産になる、友達はできたかといつも聞いてくるのに、うんざりしていました。
そこへ、花園さん、杜若さんが編入してきた話を聞き、2-Fを覗いてみたら、既に伊集院様のお手付きになっているのを知り諦めていました。」
萌葱はズズッとストローを啜り、片肘をつきながら聞いていた。
「お手付きって!別に伊集院さんの専属って訳じゃないから。
私が同じ庶民だから、お友達になれるかなーとか思って声かけてきたんだ。ふーん。」
「そ、それだけじゃありません!今、伊集院様をさん付けで呼びましたよね。この学園ではありえない事なんです。
この学園のスクールカーストは絶対なんです。
それに逆らおうとすれば、親の立場も危うくなります。」
「まあ、うちらに立場がやばいくなる親なんていないし。
別にあいつが困ろうが、心痛まないし。」
「そんな!親が失職したら生活が成り立たなくなります。」
「それは大丈夫だよ、あいつ自由職だから。
それにあいつからは一切援助受けてないし。」
「その、親御さんはなんのお仕事をされているんですか?」
「ソープランド嬢。」
「そおぷらんど?何でしょう?石鹸をお売りになってる?」
「あんたも大概お嬢さんだね!金で男とSEXをする商売だよ。」
「売春ですか?」
「なんだ、知ってるじゃないか。」
波多野の表情が引きつる、手がワナワナと震えている。
怒って帰るかな?と予想した萌葱は残りを全て吸い上げた。
「かわいそう、花園さんがかわいそう。」
怒り出すと思いきや、波多野は涙を零しはじめた。
予想外の反応に萌葱が狼狽え、水を飲もうと出した手を握り締められた。
「辛い人生を送ってらしたんですね。
私がお力になれる事はありませんか?
おばあ、いえ祖母が口癖のようによく言っていました。
辛い人生を送っている人に親切にしてあげなさいと。
私、花園さんのお力になりたい!
お願いします。お友達になってください!」
強い信念を持った目で凝視され、萌葱はただただ「面倒くさい」と思った。




