第49話 学園編⑩ 茜、初めて胸で男を泣かす
部活動が終わり、毎日のルーティンを終了してカフェテリアへ出向く。
耳にイヤホンをはめ、マイクに語りかけると直ぐに返答が返ってきた。
「先生、オレの姿が見えるか?」
「ああ、見えるぞ。」
「これから矢吹先生と接触する。最後まで聞いてくれよ。」
「わかってるよ、茜。」
茜はイヤホンを外し、矢吹の座っているテーブルの正面に座った。
「初めまして、朱殷です。矢吹先生。」
痴態写メを提示すると矢吹はガクガクと震えはじめた。
「ほ、本当に生徒だったのね。」
手にしたアイスティーのグラスから、中身が零れ落ちるほど動揺する姿を見て、茜はざまぁと思う。
「何が目的なのかしら?」
「オレはあんたが多湖先生のフィアンセだと知っている。」
その一言で矢吹は動きを止め、信じられないものを見た目で凝視する。
そして、目からぼろぼろと涙を零し始めた。
「違うの、違うのよ!あなたは誤解しているわ!私は脅されたの!言う事を聞かないと多湖にばらすと脅されたの!私は被害者なのよ!」
「何故脅されることになった?」
「そ、それは、私が初めての主任作業でミスをして、南雲さんがフォローしてくれて、私がとっても辛い時に優しくしてくれたの。」
「多湖先生に相談しなかったのか?」
「したわ!でも彼はLINEでがんばれって返すばかりで、私に寄り添ってくれなかった!だから、南雲さんに頼ったの。」
矢吹は顔を伏せ、怯えではない震えで自分の体を握り締めた。
「初めはこんな関係になるなんて思ってもいなかった!
でも彼は真摯に私の悩みに応えてくれたわ。
だから彼の望みに応えてあげたくなったの。
一度だけという約束で抱かれたわ。
でも、多湖とは何もかも違い過ぎていたの!
私は南雲さんに抱かれて、初めて女に生まれて良かったって思った!
彼に抱かれると頭が真っ白になるの、嫌なことを全て忘れられるの!
こんな幸せなこと私は知らなかった!」
「多湖先生じゃダメなのか?」
グッと返答に詰まる矢吹だったが、覚悟を決めたのか本音を喋り始めた。
「多湖はね、下手くそなの。愛撫もおざなり。
私が濡れやすいからすぐに挿入して、すぐにイッちゃうの。
それも1回きり。私はいつも不満だった。
でも不満を口に出せなかった。
心が繋がってればSEXなんて必要ないって言うのよ。
酷いと思わない!自分だけさっさとイッて満足でしょうよ!
でも私の体の疼きはどうするの?!
自分で処理しろっていうの!酷くない!」
矢吹は徐々にヒートアップして、心の叫びを隠すことが無くなった。
「それに加えて、届かないのよ!私の一番感じる処に届かないの!」
茜はこれを聞いて矢吹に同情する心が少し芽生えた。
矢吹は今迄の不満、鬱憤をここぞとばかり垂れ流している。
こんな事を話せる相手はいないだろう。
例え親友でも話せはしないし、話したところで縁切りされるのが目に見えている。
彼女の言葉は全て、多湖に届いているだろう。
修復は不可能だと流石に茜も理解した。
もう全てが面倒くさいと思い始めている。
昨晩、寝ずに考えていた自分の行為がバカらしく思えてきた。
「もういいよ。矢吹先生の気持ちはよく分かったよ。」
「いいえ!分かってない!私はそれでも多湖を愛しているの!
心は彼にあるの!彼の子供を産んで幸せな家庭を作りたいの!」
2度堕胎している女が何を言っているのだろう?
少し芽生えていた同情心が雲散霧消する。
茜は目の前の女が同じ人間に見えなくなっていた。
こいつはどこぞの宇宙人に違いないと本気で思い始めていた。
(薄葉かーちゃん、オレには無理ゲーすぎたよ。)
茜は痴態写メを矢吹の目の前で消去した。
「これで、あんたを悩ませるものは無くなったよ。
それと今の会話は全部、多湖先生に知られてるよ。
後は好きにしてくれよ。」
「ちょっと待って!どういうこと!多湖がなんで!」
茜はマイクを矢吹の前に置くと、「多湖先生、ごめん」と言って席を立った。
「ちょっと待ちなさいよ!」
矢吹が茜を捕まえようとするが、躱され床に倒れ込む。
「触るな。」
茜は殺気を込めた目で矢吹を睨みつける。
矢吹は顔面蒼白になり、ガクガクと震え出す。
エレベーターホールに向かう途中で多湖と対面する。
多湖は涙と鼻水を流し、それでも茜に笑いかけている。
俯いて脇を通り過ぎようとした時、頭をポンと叩き、「ありがとう」と告げ、矢吹に方へ歩き始めた。
茜は振り返る事ができずに、エレベーターに乗り込んだ。
理事長室で茜と四具祖が激しくぶつかり合っている。
茜はあえて身体強化を発動せずに対峙していた。
四具祖も全力を出さずに、茜に合わせて体を動かす。
それでも油断すれば、茜のキツイ一発を貰うとなれば気が抜けなかった。
1時間ほど手合わせをすると、茜がペタリと床に座り込み号泣を始めた。
四具祖はアワアワと動揺をして、ナイラーに助けを求める。
ナイラーは「全く」と呟き、茜を抱き上げると気が済むまで胸で泣かせた。
「マスター、こういう時はたくさん食べるのが特効薬です。」
ナイラーに指摘され、四具祖は「大至急、ディナーを3人分だ!」とインターホンに叫んだ。
ほどなくして、幾つものワゴンを押したメイドが理事長室に押しかけ、あっと言う間に晩餐の席が設けられる。
ひとしきり泣き叫んで気が済んだのか、ご馳走を目にした茜は四具祖、ナイラーと共にディナーを心ゆくまで堪能した。
三人の食卓は傍から見ると、本物の親子の晩餐に見えたに違いない。
四具祖のオヤジギャグにナイラーと茜がツッコミを入れて、その度に笑い声が起る。
四具祖とナイラーは、茜が美味しそうに料理を頬張る姿に笑みを浮かべ、物足りなそうにすると、競って茜の皿に自分の料理を盛る。
そして茜は二人の行為に満面の笑みで応える。
その幸せな時間は、茜のスマホの着信音で終わりを告げた。
「オレ、ケジメを付けてくるよ。今日はありがと!」
2人は娘を送り出す気持ちになり、涙ながらに茜の背を見送った。
学園から出ると、ハチ公前広場に向かう。
茜は多湖の姿を見つけると、駆け寄り背中に飛び乗った。
「茜、降りなさい!」
「やだよ!」
多湖が体を振る度に、より強く抱き着く茜に観念して、おんぶしたまま歩きだした。
「婚約を解消して別れることにしたよ。」
「そっか。」
「茜のおかげで不良物件を掴まされなくてすんだ!感謝するよ!」
「強がってないか?」
「きついな!だが茜らしくて良い!」
二人してワハハと笑う。
「今回のことで、俺が女性の気持ちを理解できないポンコツだと良くわかった!もう当分女はごめんだ!」
「矢吹も酷いけど、多湖も大概だよな!」
「うむ!弁解の余地はない!俺は最低な男だった!」
「そうだな!恋人には最低だが、生徒には最高な先生だな!」
「そう言ってくれるのは茜だけだな!」
「なあ、多湖のチンコは小さいのか?!」
「今それを言うか!その件については、かなり傷ついているぞ!」
「よし!オレが確認してやる!」
「茜、傷心の俺にその言葉はキツイぞ。」
「オレはいつだって本気だ!」
「茜には将来を誓った男がいるのだろう。」
「いるのだが、オレが女の修行を積まないと相手にされない!オレの経験値の糧になってくれ多湖!」
茜は多湖の顔を掴むと捻り唇を重ね、舌をねじ込みからませた。
しばし舌を絡ませ合い唇を離すと、二人の間に涎が糸を引いた。
「茜はキスが上手なんだな。」
「経験値はオレの方が上だな!オレが女の扱い方を教えてやる!」
「よろしくお願いします!茜師匠!」
多湖は駆け足でラブホテルのアーチをくぐった。
ホテル備え付けのスキン2個と、茜が持っていたMサイズスキン2個を消費して、2人は落ち着いた。
「矢吹が言うほど小さくないぞ!オレに丁度良かった!」
「茜は体が小さいからな!しかし凄いな、女はあんなに何度もイケるものなのか!自信がついたぞ!」
茜の胸に顔を埋め、多湖は涙を流している。
自分より一周り以上年上の男を胸に抱き、肌を合わせる事がまるで夢の出来事のように実感がわかない。
それでもこの瞬間は、この男を愛おしいと思った。
多湖は救われるだろうか、自分は役に立っただろうか、そればかりが茜の気がかりとなっていた。
終電に間に合う時間に2人はホテルから出た。
「茜、ありがとう。」
多湖が神妙な顔で礼を告げる。
「元気になったか?」
「ああ、今までで一番元気を貰えたよ。」
「なら良かった!」
「明日、学園で会ったら生徒と先生だな!」
「そうだ!これはオレと多湖の一生の秘密だ!ばれたら刑務所行きだぞ!理事長に殺されるかもしれないぞ!」
「それは怖いな!今夜の出来事は俺の一生の宝物だ!」
最後に2人はキスを交わし、別々にホテルのゲートを通り帰路に着く。
多湖は遠ざかる茜の後ろ姿に深々と頭を下げた。
午前0時を過ぎて茜が帰宅する。
物音を立てないように扉を開け、忍び足で居間を通り過ぎようとすると、襖が勢い良く開き、中に引き込まれた。
「茜、お帰り。」
珊瑚が羽交い締めして自由を奪うと、桔梗が足を押さえ抵抗を封じる。
「コンドームはどこかな?」
蒼が頬を掴んで、尖った唇を弄ぶ。
「あったよ。」
萌葱がバックパックからポーチを取り出し数を確認した。
「2個使ってる!」
「くー!まさか茜が最初に使うとは!」
夜花子が畳に拳を打ち付けて悔しがっている。
「相手は誰なの?!」
「黙秘する!」
茜の返答に蒼がエキサイトし始め、手にバイブを持ち、舌なめずりを始めた。
「分かった。続きはお風呂で聞きましょう。連行。」
「やめろー!人権侵害反対!」
「そんなもん私達の間には無い!」
あっと言う間に裸にひん剥かれ、風呂場に連れて行かれると、桔梗に頭を洗われ、皆に体を洗われ、湯舟に放り込まれる。
既に薄葉とお糸が湯舟に浸かり、茜を見てニコニコと笑っていた。
「薄葉かーちゃん、オレを売ったな!」
「わっちは愛しい娘の成長を皆に話しただけでありんす。
皆がとても心配してやしたよ。茜が思いつめた顔をしてやすと。
皆を安心させてあげなんし。
茜が立派な女になった成功例は皆のお手本になりんす。
茜、ようやりんした。」
薄葉は茜を抱きしめ、いい子いい子と頭を撫でた。
茜は照れてはにかみ笑いを浮かべた。
「さあ、洗いざらい吐いて貰おうかしら!」
気が付くと皆が周りを取り囲んでいる。
茜は観念して、多湖と矢吹の顛末と、自分の胸で泣いた男の事を話し始めた。




