第33話 浅草寺で遊戯をする
仲之町通りから一葉桜・小松橋通り、千束通りを南下するとひさご通りの看板が見える。
ひさご通りのアーケード商店街に入ると、いよいよ人混みが増し並列で進むことが難しくなってきた。
「一列で進むぞ。先頭は俺、二番目は桔梗、三番目は夜花子。最後尾は萌葱だ。
桔梗は俺の服の裾を掴んで離さないように、夜花子は桔梗から目を離さないでくれ。
蒼、珊瑚は茜を挟んでくれ、迷子になったらこの場所に戻ってくること!出発!」
茜が後から文句を言ってくるが、聞こえないふりをして先を進んだ。
商店街を抜け、背後を確認すると見慣れた頭が6つあることに安堵する。
花やしき通りを進み浅草寺が見えた頃、再び振り返ると6つの頭が無い事に気づいた。
「あいつらー!」
狼牙は身体能力をフル活用して人混みをすり抜け花やしきに向かった。
「ちぇ!もう閉園時間じゃんかよ!」
茜の声がした方向を向くと、クローズされたチケット販売窓口の前で六花が固まっているのが見えた。
「おまえら!離れるなと言っただろう!」
「ごめんなさーいw」
六花は怒られたことをさして気にすることなく、狼牙の背中に並び直した。
「明日、絶対ここ来ような!狼牙!いいよな!」
「あたちあのジェットコースターに絶対に乗る!」
異常に興奮している茜と桔梗をガッカリさせるわけにもいかず、狼牙は生返事で「はいはい」と返した。
浅草寺本堂をお参りした後、仲見世を逆行して雷門に抜ける。
巨大な赤ちょうちんの前で記念撮影をせがまれ、ひとりづつ撮影した後全員の記念撮影を要求され、二人連れの女性に撮影をお願いした。
女性は狼牙のスマホを受け取ると数枚撮影したあと、自分達のスマホでも撮影を始める。
気がつくと見ず知らずの通行人や外国人観光客からも撮影されていた。
「あの女子、ダイナミック高い高いの女子じゃね?!」
周りから以前バズった投稿の話が聞こえてくる。
狼牙は自分のスマホを回収すると、六花を連れて逃げるように仲見世に戻った。
「旦那様、スマホを見せてください。」
人気の無い公園で一息つくと、夜花子が狼牙のスマホをチェックし始める。
夜花子は画像フォルダではなく、LINEの「友だち」画面を確認した。
「やっぱり、あのクソビッチ共!」
新規登録された複数の女性アイコンと、既にトークにデートのお誘いメッセージの着信があった。
「旦那様、私が返信してよろしいでしょうか?」
「え、削除すればいいだけじゃないか?」
六花がジト目で狼牙を見た。
「こういう輩はしつこいですよ。偶然街でばったり会って、偶然お時間がよろしくて、偶然お酒を一緒に飲んで、偶然帰り道にホテルがあって、偶然休憩したりしたらどうするんですか?というかしたいですか?偶然!」
蒼に一気に捲し立てられ、狼牙は反論を許されない。
夜花子は既に猛烈な速さで長文を打ち込むと、みんなとの自撮りを送信していた。
「君達、お腹は空かないのか?」
LINEの着信音が鳴りやむことなく既に1時間が過ぎている。
女性からの返信が返ってくるなり、「ムキー!」と声を上げた夜花子の指がスマホ上をとんでもないスピードで動き回る。
流石にひとりでは疲れたのか、蒼、珊瑚、萌葱を巻き込んでローテーションでトークバトルを繰り広げていた。
茜と桔梗はブランコを極限まで漕ぎ、飛距離を争っている。
案の定その周りではギャラリーが、スマホで写真や動画撮影を行いSNSに投稿していた。
店で食べることを諦めた狼牙は茜と桔梗を呼び寄せ、コンビニに弁当を買いにいくことにするが、ぞろぞろと後を着いてくる集団に辟易とした。
「君達可愛いNE!オレらと遊ぼうZE!」
チンピラ4人が声をかけてきたが、夜花子達は一瞥もせずガン無視を決め込む。
チンピラグループは、いくら声をかけても反応しない夜花子達に腹を立て、ひとりが珊瑚に抱き着こうと背後から迫る。
珊瑚は振り返ることなく足を後に跳ね上げ、男の股間を踵で蹴り上げると、男は悶絶して地面を転げまわった。
「うげえ、なんか気持ち悪いもの触っちゃった。」
足をプラプラさせて嫌悪感を露にする。
その行為に挑発されたチンピラ達が一斉に襲いかかってきた。
トークバトルの順番の蒼以外は立ち上がると、拳で相手の顎を打ち脳を揺さぶる。
男達は脳震盪を起こし、膝を着いて倒れ込んだ。
1分もかからず4人の男をのした女子に、またもや好奇の目が向けられる。
そして懲りずに、自分に過剰な自信を持つ男達が、ちょっかいをかけてくる。
撮影する者、ちょっかいを出す者で4人の周りに大勢の人垣が出来上がった。
一方、狼牙と茜、珊瑚は迷っていた。
コンビニで弁当を買い、待ち伏せしているギャラリーを撒こうとして、路地を走っているうちに現在地が分からなくなっていた。
「とりあえず浅草寺迄戻ろう。」
女性を避け、男性に道を聞くがどうにも要領が悪く、なかなか辿りつけない。
ようやく公園に辿り着くと、4人の周りを機動隊が取り囲み、今まさに連行される直前であった。
狼牙が戻ってくる30分前、始めの4人の後に6人現れ、1分も経たない内に地面に横たわった。
「夜花子!あと何人?」
「最後のひとり!このアマ、凄い強メンタル!クスリでもやってるんじゃない!もう面倒!ビデオ通話で片つける!」
夜花子がビデオ通話に切り替えると、相手もすぐに対応した。
「よう、クソガキ!さっさとウチに帰ってオシメ替えて寝ろ!永遠によ!」
開口一発、罵声を浴びせ掛けると中指を立てて、ピアスの付いた舌を出した。
「上等だメス豚ビッチ!てめえのドブ臭いマン臭がここまで匂ってくるぜ!さっさと屠殺場でくたばってこいや!」
夜花子の罵声が轟くとギャラリーから大歓声と応援の声が上がった。
SNSの影響で次から次へと男が集まってくる。
中には何を勘違いしたのか、外人観光客までもが腕試しとばかり絡んでくる。
いずれも大柄な体格で、入れ墨の入った陽気な男達ばかりだった。
萌葱、珊瑚、蒼は区別することなく丁重にお迎えすると、瞬殺して次の男を相手にする。
そして、いよいよ本職の男達が現れる。
男達は最初から刃物を取り出し、3人に脅しをかけた。
「お嬢ちゃん、うちのシマでおいたが過ぎるね。
死にたくなかったら大人しく着いてきな。」
サングラスを掛け、頬に刃物傷を残した男が唾を吐き捨て、三人に迫る。
三人はクスクスと笑いながら、ベタな脅しを嘲笑した。
「おじさん!夜なのにサングラスって前見えるの?!
もしかして老眼鏡?!」
蒼の煽りに本職の男達が切れて怒号が上がった。
「お前ら、クスリ漬けにして風呂落ち決定だ。マ〇コ壊されて、たっぷり後悔しろや!」
ナイフを持った若衆8人が3人に襲いかかってきた。
「刃物使うんなら手加減しないよ!」
萌葱は大声で忠告すると、ナイフを持った手を蹴り上げ、骨をへし折る。
ナイフが宙をクルクルと飛び、ギャラリーの中に落下する。
腕を押さえる時間も与えず、正拳突きで人中を強打すると、鼻血が噴き出し、萌葱の顔に降り注いだ。
珊瑚は突き出されたナイフを持った腕を脇に挟み、男の鳩尾に膝蹴りを入れる。
一瞬、宙に浮いた男の体重を利用して、腕をへし折り、横面を回し蹴りで一蹴すると、男は地面を転げピクリとも動かなくなった。
腹だめにナイフを構えた男が蒼に突っ込んでくる。
蒼はギリギリまで引き付けると、体を半身ずらしクルリと回転して、回し蹴りを後頭部に叩きつける。
男はそのまま地面に倒れ込み、腹に自分のナイフを突き立てもがき苦しんでいた。
「お前ら素人じゃねえな!」
成り行きを見ていたサングラスの男の声がうわずる。
躊躇した若衆の隙を見逃さず、一気に畳みかけ更に三人を行動不能にした。
若衆のひとりが、トークバトルで熱くなっている夜花子に目をつけ、ナイフを構えて襲い掛かるが、スカートの中から取り出した三節棍で顔面を殴打され、鼻血を撒き散らす。
血は夜花子に降りかかり、顔面に血の雫が流れ落ちた。
「ちょっ?!あんたその血は何!」
通話先の女の顔が青ざめた。
「ああ、今893の下っ端をボコったんだよ。ほら見てみ。」
夜花子はカメラを闘争中の三人に向ける。
一方的に男を叩きのめす少女達を見せつけられ声を失った。
「安心しなよ。別にあんたをボコったりしないよ。
このまま大人しく引っ込んでくれればね。」
夜花子の脅しと目の前で行われている一方的な蹂躙に女の戦意は喪失した。
「わ、悪かったよ。あんたらに今後絶対に関わらないよ。
だから、勘弁してくれ。悪かった!」
女の声は震えていて、哀れみさえ感じさせた。
「OK!じゃ、登録削除よろしく!」
ビデオ通話が切れ、念のため再発信するが繋がることは無かった。
「よしっ!完全勝利!終わったよー!」
夜花子の勝利宣言にギャラリーが歓声を上げた。
「こっちも終了!おつかれー!」
サングラスを真っ二つにへし折られた男の手に、ハジキが握られていたがハジキを向けることなく、手から離し地面に倒れた。
「全員確保ー!」
気付くと周りにギャラリーの姿が無くなり、機動隊が十重二十重と取り囲んでいた。
狼牙は隊長と思われる警官に、「自分は保護者だ」と話し同行許可を求める。
隊長は狼牙と茜、桔梗の訴えを聞き入れ同行を許可する。
六花と狼牙は同じ護送車に乗せられ、上野署に連行された。
「全く、ちょっと目を離した隙にこれか。」
狼牙は返り血を浴びた四人を見てため息をついた。
「旦那様、ごめんなさい。トークで熱くなってたところに、ウザイ男共が絡んできて、ついカッとなってやってしまいました。」
「ごめんなさい。」
四人が頭を下げて狼牙に謝った。
「みんなお腹空いてないの?」
「そうだよ!おまえら楽しんでたからいいけど、オレら腹ペコだぞ!折角チンッして貰ったのに冷め冷めたぞ!」
桔梗と茜が手にしたポリ袋を突き出した。
やり取りを聞いていた監視員が、署に着いたら食事時間を取れるように手配すると、気を効かせてくれた。
「じゃあ、電子レンジも使わせてください!」
茜のお願いに監視員は思わず、プッと噴き出して笑った。
やがて護送車は上野署に到着する。
時間は午後20時を回っていた。




