第31話 親子デート再び
2台のランドクルーザーに分乗して山道を下る途中、エゾシカの群れに遭遇した。
「ET!」
茜が声を掛けると1頭の牡鹿が近づいてくる。
茜が窓を開けると、牡鹿が窓の中に鼻面を押し込んできた。
「ET、オレ達東京に帰るんだ!寂しくなるけど、元気でな!
またこっちに来たら遊んでくれよな!」
鼻面を撫でながら話すと、コクコク頷く。
茜がおやつに持ってきていた塩せんべいを開封して咥えさせると、仲間の元に戻り小鹿にせんべいを与えた。
「バイバーイ!」
六花の別れに牡鹿は鳴き声で答えた。
昼前に道場に到着すると、蒼が看板を持ち六花全員で門をくぐる。
看板が掛けられていた扉横には、スマホを2台を縦に並べた位の小さな看板が替わりに掛けられている。
小さな看板を手に取り、大きな看板に掛け直した。
「これなら邪魔にならないし貰っていこうか。」
「いいんじゃない。」
蒼が小看板で肩をぺちぺちと叩きながら言うと、夜花子が興味なさげに答える。
六花は道場に一礼すると道場を後にした。
昼時に一行は大型ショッピングモールに到着する。
まずは全員で昼食を取り、その後はペアを組み各自バラバラで行動することになった。
「ジンギスカンはまだ食べた事がないでしょ?」
長門の一言で昼食はジンギスカンに決定した。
「ベイビー達には色々と経験させてあげたいのよ。
食べ物、遊び、お酒はまだ早いかな。
東京に戻ったらたくさんお付き合いしてね。」
山城のお誘いに「はーい」と答えるとのれんをくぐった。
鉄鍋の穴から滴り落ちる油が炭火で弾ける。
肉を焼くとたまらなくいい匂いが胃を刺激する。
ラム肉、マトン肉を交互に味わう。
次々とお替りの皿が運ばれ、あっと言う間に空になる。
肉ばかりでなく、野菜もしっかりと食べる。
山荘での食生活でバランス良く食物を摂取することを覚えた。
「私はやわらかくてクセの無いラムが好きかな。」
「あたしはマトンの独特のクセと旨味が好きかも。」
萌葱と珊瑚の食べ比べを、扶桑と陸奥がウーロン茶のジョッキを傾けながらニヤニヤと眺めている。
こんな日が来た事を雌ゴリラは心から喜んでいた。
「桔梗は可愛らしいものが好きなんだな。」
桔梗と日向はファンシーショップに来ていた。
今日の桔梗の衣装は、白のヘッドドレス、白のレースが何層にも重なったワンピース、 ピンクのフリルとリボンをあしらったジャンパースカート、白のロリィタタイツ、 ピンクのロリィタシューズと完璧なロリィタ ファッションで、周りから視線を一身に集めていた。
一方の日向は黒のタンクトップに黒のジャケット、黒のレギンスパンツに黒のスニーカーと黒づくめである。
筋肉が隆起する185cmの身長は店内では異様を放ち、別の意味で視線を集めていたが、本人は全く動じていなかった。
「これかわいい!」
桔梗がウサギをモチーフにしたキャラをあしらった、髪留めを手にしている。
「桔梗に良く似合いそうだな。買ってやろう。他に欲しい物はあるか?」
「やったー!じゃこのノートも!この子のママなんだよ!」
手渡されたノートを見てギョッとしたが、なるほどと感心した。
「一度や二度の失敗でくよくよする男を掴んだら一生の不覚」
「男はねプライドを傷つけられるのが一番こたえるの」
「女はねダメな男ほど放っておけないものなの」
日向はノートに書かれた名言を読み、クククと含み笑いを漏らした。
店を出るとベンチに腰掛け、早速髪留めを開封する。
髪留めは同じものが2つあり、一つを日向に手渡し「つけて」とお願いされると、でれでれの顔で桔梗の前髪を留めた。
「友子ママ、頭を下げて。」
催促するように伸ばされた両手に頭を預けると、桔梗はもう一つの髪留めを日向の前髪に留めた。
「これでお揃いだね!」
ニコリと花のような笑顔を見せる桔梗に感極まった日向は、桔梗を抱き上げ宙に放り上げた。
天井近くまで放り投げられた桔梗が笑い声を上げながら落下してくる。
日向は優しくキャッチすると再び放り上げる。
ダイナミック高い高いは館内警備員が止める迄続けられた。
「蒼よ、こっちのパンツルックはどうだろう?」
「だめよ!真弓ママには絶対にスカートを履いて貰います!」
伊勢からパンツルックの裁縫マニュアル本を取り上げると本棚に戻す。
蒼は伊勢がスカートを履いたことが無いと聞き、なんとしてでも履かせたくなっていた。
二人ははじめにアパレルショップへ向かった。
伊勢の服装が男物のジャージ姿だった為、好奇心で女らしい服を持っているか聞いたことが発端であった。
結果、所持している服は全て男物で生まれて此の方、スカートを履いたことがないと知る。
ならば、私が見繕うと奮起してショップを訪れたはいいが、既製服ではサイズが無い。
187cm、広い肩幅、分厚い胸筋と背筋、引き締まった腹囲、丸太のような上腕、引き締まった尻に太ももは蒼のウェスト程ある。
そもそも、女性服で合うサイズがあるはずもなく、ならば私が縫うと結論に達し本屋で裁縫マニュアル本を探していた。
しかし、中々良いデザインが見つからず諦めかけていた時、1冊の本に目に止まった。
「これなら、今すぐ作れるかも!」
蒼は伊勢の手を引いて裁縫用具店に向かう。
店に着くと店員に話しかけ、バックヤードを貸して欲しいと交渉をした。
「いつもたくさんお世話になっているママにプレゼントを贈りたいんです。よろしくお願いします!」
中年の女性店員は伊勢を見て琴線に触れたのか、場所の提供とお手伝いを申し出てくれた。
早速、幾つもの生地をバックヤードに運び込み、伊勢に布を当てて出来上がりの雰囲気を確かめる。
店員が裁断した生地を下着姿の伊勢に巻き付け、安全ピンで仮止めを行い針と糸でちくちくと縫い始めた。
「あなた、裁縫が上手ね。今時の若い女の子にしては上出来よ。」
感心した店員が縫い方のアドバイスをしたことにより、更に作業スピードが上がり、1時間もするとサリー風の服が出来上がった。
数種類の薄い青い生地を幾重にも重ねることで、下半身のラインを隠し、ベールで肩の盛り上がりが見えないようにする。
それでいて豊満な乳房と引き締まった腹囲は強調する仕上がりとなった。
「真弓ママ綺麗!凄く似合ってる!」
「本当に!お嬢さんの見立て通りとてもお似合いですよ。」
蒼と店員の誉め言葉に半信半疑で姿見の前に立つと、これが自分なのかと衝撃を受けた。
支払いを終え、店員に見送られ店を出ると、衆人の視線が一斉に集まるのを感じた。
「みんな真弓ママの美しさにびっくりしてるよ。私とっても鼻が高いわ!」
無い胸を張る蒼を見て、伊勢は心から蒼に出会えた事を喜んだ。
そして、蒼を抱えると宙高く放り上げた。
「きゃあああ!」
最初驚いたものの、何回か放り上げられるうちに、自然と笑い声に変わっていった。
翌日、SNSにダイナミック高い高いの動画がアップされ、全部で6人の少女が確認されると大いにバズった。
集合時間になり、駐車場に到着する面々はいずれも幸福オーラに包まれていた。
扶桑・萌葱はお揃いのメイク。
山城・茜はお揃いのセクシーランジェリー。
長門・夜花子はお揃いの香水。
陸奥・珊瑚はお揃いのネイルアート。
伊勢・蒼は手作り衣装とお揃いのヘッドベール。
日向・桔梗はお揃いの髪留め。
「馬子にも衣裳と言うがこれは?!」
日向が伊勢を見て大層驚いた。
他の雌ゴリラも「女に化けた」など驚きを隠せずにいた。
「いいだろう!」
そう言うと伊勢は妖艶に腰を振りながら、クルクルと回転してキメのポーズを作る。
六花から歓声と拍手が沸き起こるとニカッと笑う。
すると予想外の所からも拍手と歓声が送られてきた。
見るとお腹の大きな女性と線の細い男性、それを取り囲むように5人の女性が見ている。
伊勢はお礼とばかり軽くステップを踏み、お辞儀をするとあちら側もお辞儀を返して去って行く。
その後伊勢はベリーダンスという新しい趣味を持った。
「萌葱、妊婦さん見た事ある気がしない?」
「あたしもそう思ったよ、茜。」
「二人もそう思った?誰だったけな?」
蒼が眉間を指で押さえて唸る。
「なんか、道場に関係があったような?」
「そう、道場だよ!珊瑚!」
「蒼ちゃん、樹里さんでちよ。」
「それだー!」
皆が思い出し大声を上げる。
夜花子「ちょっとみんなどうしたの?何盛り上がってんの?あの人達知り合い?」
萌葱「夜花子がヤンデレしてた時に知り合ったの。
クズ男が蒼に一目惚れして結婚するって言いだしてさ。」
珊瑚「そう、それでさっきの人、樹里さんが幼馴染で恋人だったのよ。で、蒼が勝ったら結婚する、負けたら樹里さんと結婚する勝負になってね。まあ蒼が当然勝ったけどね。」
蒼「あいつ、うーん、思い出せない。まあいいや、切り捨てたんだね。よかった!まあ、あれは無いよね。
いくらハンサムでもクズだし。刑務所送りになったのかな。」
茜「旦那さん見た目、真面目で優しそうだったな!あと他のねーちゃん達もヤンキー辞めたみたいだし、万々歳だな!」
桔梗「でも和也さん、ちょっと可哀そうかなぁ。いっぱい樹里さんが好きだったのに。あたちだったら待ってるかも。」
不穏な発言に六花のみならず、雌ゴリラの表情も険しくなる。
山城がどこかに電話を掛け和也について調べ始める。
その間、日向が桔梗の恋愛観について問いだした。
「んーとね、あたちをいっぱい好きになってくれたら、あたちもいっぱい好きになるの。」
「その「いっぱい」とはどのような一杯なのだ?」
「好きっていっぱい言ってくれて、いっぱいギューしてくれて、いっぱいチューしてくれて、いっぱいエッチしてくれるの。」
「その男が禄でもないクズ男だったらどうするのだ?」
「えーそんなのわかんない!」
「例えば、浮気したり、借金したり、暴力を振るう男ならだ。」
「他の女の子と仲良くしても、あたちをいっぱい好きなら仲良くしてもいいよ。
お金はあたちもがんばって稼いで一緒に返してあげる。
痛いのはイヤだけど、いっぱい好きならガマンする!」
皆の頭に「ダメ男製造女」の単語が浮かんだ。
「和也って奴、数え役満のクズだね。20年は檻の中だ。」
山城の報告に桔梗以外がふうとため息を吐いた。
「いいか、桔梗は致命的に男を見る目が無い。
近づく男、選ぶ男は総じてクズだと思った方がいい。
狼牙がいても、目を離せば貧困シングルマザー一直線だ。
くれぐれも監視の目を緩めないように。」
日向の言葉に、家族の結束をあらためて認識する一同だった。




