第26話 酒と呪いとそれぞれの任務
雌ゴリラと戌亥、ソフィアで食前酒として、ワインで乾杯し互いの出会いを祝い、美味しい料理に舌鼓を打ち異世界について情報を交換し、今後の対応について話をしていた。
満腹になった六花が空いた皿を下げ、スイーツは別腹気分で冷蔵庫を物色するが、あいにく冷蔵庫に甘味が見当たらない。
ならば、地下貯蔵庫に!
興味を持った6人姉妹が合流して貯蔵庫に向かった。
「ドライフルーツ無かったっけ?」
茜が背伸びして棚を見渡すが、レーションばかりで食指が動かない。
「乾パンと氷砂糖ならあるよ。」
珊瑚が缶詰を持ってくるが、誰にも見向きもされない。
「この床下収納は見たことがないね。」
萌葱と蒼とで扉を開けると、大きいガラス瓶が幾つも並んでいる。
その内のひとつを取り出し、中に茶色の果実が詰まった、琥珀色の瓶詰を開封すると、甘いアルコールの香りと果実の爽やかな香りが鼻腔を刺激した。
「これは梅酒ね。」
匂いを嗅いだ長女が即答すると、酒かぁと残念そうに六花が答えた。
「あら、飲んだことないの?」
「なんだ、案外おこちゃまなのね?」
次女と三女が茶かすと、茜の負けん気に火が付き、試飲することになった。
ガラス瓶を持ってキッチンに戻り、柄杓でグラスに汲み取り分ける。
6姉妹がグラスに氷を落として、カラカラと撹拌するとクイッと一口飲み、歓喜のうめき声を上げた。
「ううん!美味しいー!これブランデーで漬けたのかしら!」
幸せそうな顔の6姉妹を見て、刺激された六花がグラスを手にした。
「わたしら、酒は飲んだ事ないよね。」
珊瑚がグラスをじっと見つめて躊躇っている。
「クソ親見てるとね。」
萌葱をはじめ、六花の母親達は皆、酒を飲み失敗をやらかしているため、酒に対しては忌避感があった。
「でもさ、ママ達も飲んでるし、バカ母みたいに理性を失わなければいいのよ。」
夜花子の意見に皆がコクコクと頷く。
その間にも6姉妹は次々とお代わりをして、陽気にはしゃいでいる。
「あたち、飲む!」
桔梗は宣言すると一気にグラスを空けた。
「あっ!」「おいちー!」
皆の驚きと桔梗の声が重なる。
「おいちいよ!すごく甘い!果物ジュースみたい!」
早速お代わりを作り、カパッとグラスを空ける。
皆は顔を見合わせると、クイッと一口煽る。
「美味しいー!」
彼女らの合唱で狂宴が始まった。
12人の少女達はあっという間にガラス瓶を空にすると、争うように甘く漬かった梅の実を食べる。
「全然足りない!」
全員の意見が一致すると、少々危なげな足取りで地下に降りる。
そして、一人一瓶抱えてキッチンに戻った。
瓶の中身は、ウメ、ビワ、ミックスベリー、プラム、リンゴ、アンズ、スモモ、ミカン、サクランボ、コケモモ、クワ、キウイであり、少女達にはスイーツの瓶詰にしか見えなかった。
最初のうちこそ恋バナやこちらの世界の体験談で、ワイワイと盛り上がっていたが、酔いが回るにつれて、異世界の体験を語り始め皆でひとしきり涙を流し、慰め合っているうちに悶々とした気分になり、長女と萌葱がキスをし始める。
それを皮切りに、それぞれがペアを組み、互いにキスを交わし、体を愛撫しながら服を脱がし始めた。
やがて、甘い嬌声が上がり始め、絶頂を迎える声が山荘何に響き渡る。
「何事!」と、大人達がキッチンに慌てて駆け付けると、全裸で淫らに絡み合う少女達を見つけた。
幾つも空になった果実酒の瓶と、体を痙攣させている少女達を見て、手分けしてベッドに運び、急性アルコール中毒の症状が出ないか徹夜で看病する事になった。
翌日、少女達は酷い頭痛と吐き気に襲われ目を覚ます。
用意してあったバケツにゲーゲーと戻し、ベットの上でもがき苦しみ、初めての深酒の洗礼を受けた。
「お酒こわい、もう飲まない。」
少女達は例外なく酒の恐怖を訴え、その日の夕刻までベッドで丸くなっていた。
その日、扶桑、自衛隊門専守部隊長、国防省門対策部長が門監視指揮所に顔を揃える。
扶桑は萌葱の介護が出来ずに少々イラついていた。
「あーお忙しいところ、招集に応じていただき誠に申し訳ない。」
対策本部長の、明らかに扶桑に対する詫びを込めた挨拶で会合が始まった。
「先日、八百万の神の一柱、倶利伽羅及びその家族が協力を申し出た件について、扶桑君に意見を聞きたいと思ってね。
実際、どうなのかね?彼らは信じられるのか?」
「ああ、やっと決心しましたか。彼らは信用できると思います。
なにせ、倶利伽羅はベイビーの命の恩人です。
まあ、こちらの人的損害をマイナスしても、大きくプラスになると考えてよろしいかと。
早々にこちらの世界に連れてきて、対魔法装備の開発に尽力して貰いましょう。
そうしましょう。」
一刻も早く萌葱の元に帰りたい扶桑は、話を切り上げるべく賛成の意を示した。
「それとな、例の呪いの治療法なんだが、知っているそうだ。」
扶桑を留まらせる為に部隊長が切り札を晒すと、雰囲気が一変して椅子に座り直した。
「続けましょう。」
扶桑の殺気にも似た気配にビビリつつ、部隊長は話を続けた。
六花に巣くう病は病気ではなく、呪いの類と潜入調査で判明していた。
反乱軍に入隊する際、裏切りや逃亡を防ぐ為に呪術により「呪い」を掛けられる。
「呪い」の効果は腎臓に石を作り、尿路結石を発症させる。
定期的に解石薬を接種しなければ体に発生した石により、地獄の苦しみを味わう事になり、重症化すると体内から石化が始まり死に至る。
その「呪い」は性交による精子からも二次感染も引き起こす。
感染した六花の腎臓は結石が確認されており、衝撃波結石破砕術を既に三回施術しているが、それも時間稼ぎにしかならなかった。
「ドラゴンの出汁?」
「老化を遅らせ、万病を治癒し、あらゆる呪いを解呪する万能薬だそうだ。」
ドラゴンがPCモニターに映し出されるが、どう見ても10代の少女にしか見えない。
金の瞳の可愛らしい顔、黒髪ショートボブ、小柄でありながらメリハリの付いた肢体を惜しみなく晒す、純白のマイクロミニのチャイナドレスとオーバーニーソックス。
「どこにドラゴンの要素が?人間にしか見えませんが?」
「頭部を見てくれ、ほら角が見えるだろ?この白いやつだ。」
「えっ?どこ?」
「ほら、ここです。」
「えー?」
3人で頭を突き合いながらモニターを覗き込み、カーソルが頭部をクリックして拡大した。
「この子がドラゴンとして、出汁とはなんですか?」
「この娘を湯で煮込めば出汁が取れる。らしい。」
「風呂に入れるということですか?」
「いや、沸騰した湯に漬けるとのことだ。」
「分りませんが、分りました。
それでこの子はどこにいるのですか?」
「魔王軍首都で屋台を営業している。
そこから、説得して連れ出す。」
「屋台?説得?囚われているのでは?」
「自発的に首都に残り屋台を続けているとの事だ。
ちなみに屋台の名称は金龍亭、ラーメン屋を営業している。
どうだ行くかね?」
「勿論。首に縄を着けてでも連れてきます。」
扶桑は敬礼をすると作戦室を後にした。
その日の夕食時間、食堂で今後の予定について両家揃えて調整が行われる。
少女達は互いに気まずそうな顔で席に着き、狼牙と戍亥が調理してくれた特製の粥を啜る。
「2日後、雌ゴリラ、戌亥殿、ソフィアさんでチームを組み特命ミッション任務を開始します。
目的地は魔王軍首都、目的はドラゴンの連行です。
先発隊は既に首都潜入を果たしており、道中の安全は確保されています。
戍亥6姉妹は、後発の親善大使の付き添い任務が発令されますので、それまではこちらで待機をしていてください。」
「扶桑ママ、魔王ってラスボスみたいなもの?」
「茜ちゃん、それがねよく分からないのよ。
魔王と言っても特に悪政とか、粛清をしたりする訳ではないのよね。」
「その質問に関しては私から説明しよう。」
伊勢が説明を引き継いだ。
「今迄の情報から導き出された見解では、「魔王は何もしていない」だ。
異世界の反乱軍は魔王を「神殺し」と呼んで非難し討伐を企んでいるが、どうにもやり方がまずい。
一般人を巻き込んで、力づくで物資や兵力を強奪している。
君らが拉致された砦も反乱軍の拠点で、周りの町村から略奪を行い、女子供を奴隷にして悪逆非道を行っていた。
そこを魔王幹部である倶利伽羅に襲撃されたというわけだ。」
「それは神がいなくなって無法化した世界を、現地人がヒャッハー!してるだけ?!」
「そうだな、蒼のいう事が一番しっくりと当てはまるかな。
ただ、何者かが裏で手引きをしている確信はある。
そいつらが、大陸で暗躍している者達と共通点が多いことから、関係者だと予想を立てているな。」
伊勢が親指を立てて蒼にGJ称賛をした。
「親善大使ですが、どの勢力と親交を結ぶのですか?」
長女が手を上げて質問すると、山城が答えた。
「政府は中立である、組合連合と不戦協定を取り交わす予定よ。
冒険者、商業、飲食業、運送業が中心となった連合体ね。
彼らは、反乱軍こそ害悪と考えているようね。
肝心の魔王は実態が見えないから、接触すらできないわ。
とにかく親善団には、危険が及ばないように手を尽くすから安心してね。」
6姉妹は、山城の話を聞いてホッとした表情になった。
「わたし達に何かできる事があるんですか?」
「萌葱、今のところ何もないわ。
あなた達は呪いを重症化させないことを優先して。
つまり、適度な運動とシュウ酸を含む食物の摂取を控え、水を1日2L飲む事。了解?」
「了解。」
可愛らしい敬礼をする萌葱を思わず抱きしめる扶桑だった。
狼牙は悩んでいた。主に食生活について。
シュウ酸を含む食物はことのほか多い。
ほうれん草、筍、キャベツ、レタス、なす、ブロッコリー、カリフラワー、さつまいも、バナナ、ピーナッツ、アーモンド、チョコレート、ココア。
「あいつらブロッコリーとか、よく食べてたからなぁ。
キャベツ、レタスもだめか。
サラダの難易度が上がるなぁ。
ベーコンとハムもまずいのか?
しょうがない、加工肉は駐屯地に配るか。
お茶とコーヒーもか?
コーヒーが飲めないと夜花子が荒れそうだな。」
ぶつぶつと呟きながら、空のクーラーボックスに禁忌食物を詰め込み、フゥと息を吐いた。




