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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第25話 神無き世界で運命の出会い

退院前日の夜、少女達は今後について話し合った。


「あたち、赤ちゃんのお墓作りたい。」

「そうだね、赤ちゃんの供養をしたいね。」

桔梗がポツリと漏らし、蒼が同意する。

望んだ妊娠ではないが、自分の胎内に芽生えた命に情が湧いていた。


「でもさ、取り返せるかな。」

「ダメ元で交渉しましょう。あたし達の赤ちゃんなんだから。」

茜の弱気を萌葱が励まし、自分達の所有権を主張した。


「私はどうでもいいかな。正直見たくないし。」

「夜花子の気持ちは分かるよ。

でもさ半分、わたし達なんだよね。

だからさ、男の子供じゃなくて、わたし達の半身の供養って考えようよ。」

「半身か、そうだね珊瑚、そう思うことにするよ。」

少女達は何としてでも、半身を取り戻そうと互いを鼓舞した。


「凄く大事な事なんだけどさ、聞いて欲しい。特に夜花子。」

「ついに来たかぁ。」

萌葱の真剣な眼差しに、おどけて見せる夜花子。


「あたし、狼牙さん好きになっちゃったよ。」

「分ってたよ、みんなもでしょう?」

一同の顔を見渡す。

目が合うと真剣な表情で頷いた。


狼牙は救出された日から、一日たりとも離れることなく少女達の世話を続けた。

情緒不安定の彼女らの世話は困難の連続であった。


幼児退行、過度の我儘、暴力や罵声を伴う八つ当たり、自傷行為、自暴自棄の性交渉の誘い等々、狼牙はそれらの行いに対して、常に冷静沈着に、思いやりを持ち、愛情を込めて優しく接した。


やがて、彼の行いが彼女らの心の傷を癒し、目に生気が戻った頃にはすっかり狼牙に惚れ込んでいた。


夜花子は日々、狼牙に想いを募らせる仲間を見て、自分一人の男と意識することを止める。

共にあの地獄を生き抜いた「心の家族」を悲しませる事など選択肢になかった。


そして自分の思いを仲間達に伝える、狼牙を柱にした家族になろうと。

決して離れ離れになる事の無い、いつまでも共に生きていく為の家族になろうと。

夜花子の思いに誰も異議を唱える者はいない。

その夜、六つの魂が一つに繋がり輪を作る。

輪は固く結ばれる為の柱を想い、明るく、無邪気にロンドを踊った。




「俺を君達の柱にしたいと言うのか。

俺が君達と家族になるのか、…分かった。

君達の家族になろう。

但し、俺は柱にはならない。」

一度、話を止めるとグッと力を込めた。


「俺は槍になる!君達を守り支え、寄りかかれる槍に!」

ドン!と効果音が聞こえそうなポーズを取る狼牙に、皆が一斉に吹き出した。


「プッ!何そのくさいセリフ!…でも嬉しいよぉー!」

少女達の嬉しき泣きの歓声がロビーに響き渡り、槍に六つの花が固く結び着いた。


少女達は我が子の弔いを狼牙に訴える。

狼牙は女医長に掛け合うが、胎児達は既に中央に送られ取り戻す事は不可能であった。


「その代わりにこれをお返しします。」

女医長は一人一人に小さな木箱を手渡した。


「それはへその緒よ。

あなた達と赤ちゃんを繋いでいた命の綱。

丁重に弔ってあげて。」

蓋を開けると、薄茶色に干からびた10cmばかりの管があった。


「本当はもっと残しておきたかったのだけど、それだけしか貰えなかったの、ごめんなさいね。」

「いいえ、何もないと思っていたのでとても嬉しいです。

先生、ありがとうございます。」

それだけ言うと夜花子は小箱を抱きしめ泣き崩れた。




山の季節は春に変わり、雪は消えている。

山荘に戻り、弔いの為の墓を建てる事にした一向は、山荘の玄関の脇に小さな塚を建てた。


「ここなら、いつでも声掛けれるね。」

石室に木箱を入れると、次は幸せな輪廻でありますようにと祈った。


門は依然として存在しており、その周りはコンクリートの建物で覆われ、何重ものバリケードが敷かれている。

日々、交代要員と補給物質が異世界に送られることから、中規模軍事基地のような有様になっていた。


「主人達は第一次派遣から参加して既に4か月になる。

君達は分かっているだろうが、こちらとあちらでは時間の経過に統一性がない。

俺が君達を助けた時、こちらでは5分程度の経過だったが、あちらでは少なくとも半年以上は経過していた。

しかし主人達があちらの潜入偵察を1ヶ月行い、帰還した時、ほぼタイムラグは発生しなかった。」


「以前、私達への報復手段で、転移させられたと聞きました。

そうすると魔法使いは、異世界転移を操作できるんでしょうか?でもママ達も報復対象だと思いますが。」

「夜花子の言う通り、主人達も報復対象だがまだ捕虜になっていないし、そもそも君達が受けた扱いが主人達にとって報復になるか甚だ疑問だ。」

肩を竦め、おどけた表情をする狼牙に皆がクスリと笑う。

狼牙のスマホに着信が入り、手短に応答を済ますとニカッと笑い、嬉しい報せを伝えた。


「今から主人達が戻ってくる。」

そう言うと玄関ホールから大声が聞こえた。


「ただいまー!ベイビー帰ってきたよー!」

少女達は直ぐに立ち上がると、ホール目掛けて駆け出す。

ホールからかしましい歓声がわき上がるのを聞いて、狼牙は腕まくりして立ち上がった。


「さて、今日はパーティーかな。」

一人呟き献立を考えながら、地下食料貯蔵庫に向かおうとした時、リビングから「お邪魔します」という男の声が聞こえた。

リビングを覗くと、中年男性と中学生らしき男の子が一人、狼牙を見てお辞儀をした。




山荘大浴場に雌ゴリラと六花、そして明らかに日本人に見えないアラフォーの女性と六花より少し年上の少女が6人、共にお湯に浸かっている。

女性の名前はソフィアと言い、6人は娘だと聞いた。


「ソフィアは異世界の元住人で、子供と共にこの世界に転移してきた。今は異世界での通訳とアドバイザーとして同行して貰っている。」

膝の上に乗せた萌葱の顔に頬を擦り付け、デレデレの顔で声だけ真面目に話す扶桑を筆頭に、雌ゴリラの面々はやはり自分のベイビーを膝に乗せ、最大限の愛情表現で愛でていた。


「私は神により、この世界で何か役割があると言われて、転移しました。

その役割が、私の生まれ故郷との橋渡しになるなんて、とても光栄なことです。」

ソフィアは手を組み、天に向かって祈りを捧げた。


「カミ?それ何?」

茜の質問にソフィアはニコッと微笑むと、立ち上がり歌うように神について説明を始めた。


「神は私達の創造主であり、無償の愛を与えてくれる大いなる存在!その大いなる愛は宇宙全体を包み、平穏と安息を人々に享受し、魂を更なる高みの次元に導き、人を愛を伝播する使徒に変え、永遠に争いの無い愛の世界を作りたもう尊きお方です。」

「ええ?!そんな凄い人がいるんだ!」

素直に驚く茜の脇で、ちんぷんかんぷんな桔梗が日向に優しく教えて貰い、ウンウンと頷いていた。


「こっちの世界にも、カミがいればよかったのにね!」

理解した桔梗が声を上げると、「私の愛はカミより大きいぞ!」と日向が桔梗の乳を揉みながら、深く口付けを始める。

驚いた桔梗だったが、次第に顔が惚けて互いに舌を絡み合わせた。


「待て!日向!落ち着け!

ここにはソフィアの娘さん達がいる!

お楽しみは夜まで待て!」

陸奥が日向の乳首をギュッと抓ると正気に戻り、辺りをキョロキョロと見回すと、ソフィアの娘達が手で顔を隠しながら、指の隙間からジーッと観察していた。


「コホン、そうなんですよね。

この世界は神無き世界なんですよね。

でも、愛は確実に存在している。

私からみたら不思議な世界です。」

ソフィアの発言に娘達がウンウンと頷いた。


「ソフィアさんはカミに会った事があるんですよね?

何がきっかけで会ったのですか?

どんな感じの人なんですか?」

萌葱の質問にしばしウーンと考え込む。


「あまり記憶が定かではないの。

ただ、死んだ後にある人に助けられたのよ。

その人が神の元に私を送ってくれて転生したわ。

神はそうねえ、優しいおじいちゃんね。

白髪で長い髭も白かったわ。」

「死んだ後に助けられたって、どういう事?」

珊瑚のツッコミに皆が頷く。


「私どうやら死んで悪霊になっていたみたい。

それで、私と娘を殺した男を呪殺したの。

それから、ある人に解呪されて人の魂に戻ったのよ。

その人を思い出せないのよね。

凄く大切な人だったんだけどね。」

しょんぼりとするソフィアに長女が続けた。


「私達も悪霊だったんです。

でもその人の、とても暖かい手で撫でられると、人の魂に戻れました。

でも、凄い不思議な事に今のお父さんが、その人にそっくりな気がしています。

お父さんに撫でられると、その人に撫でられた事を思い出すんですよね。」

娘達が顔を見合わせると「ネー!」と相槌を打つ。


「わあ!こっちの男性と結婚されてるんですね!」

「どんな男性なんですか?!」

蒼と夜花子がハモるように質問を被せた。


「私がこの世界に転移した時からの主治医です。

名前を「戌亥 和幸」と言います。

真面目でとても優しくて責任感の強い人です。」

恥ずかしそうに話し俯くソフィアに、娘達がからかうように続けた。


「結婚して、20年経つけど、最低でも週3回オセッセする、ラブラブ夫婦でーす!」

雌ゴリラからは「オー!」という感嘆の声が、六花からは「キャー!」という驚きの声が上がった。


女性陣が風呂から上がり、良い匂いに釣られ食堂に向かうと、なんとテーブルの上には和洋中華の料理が処せましと並んでいた。


「おかえり、今日は凄いだろ。この方々が手伝ってくれてな。」

エプロンを着けた狼牙がキッチンから顔を出すと、ソフィアの娘達から歓声が上がる。


「キャー!何このイケメン、イケボ、エプロンって!」

「いや~ん!鼻血出そう!」

「付き合ってください!いや!結婚してください!」

「おいくつですか?身長は何cmですか?年収は?」

「私は今日あなたに出会う為にここにいるのですね!」

「私まだ処女です!」

6人の娘が一斉に狼牙に声を掛け、近づこうとするが、六花が先に動くと次々と抱き着き口付けを交わした。


「ゴメンね~!この人、私達のものなの!」

舌なめずりしながら、高らかに宣言する六花に娘達は地団駄を踏んで悔しがった。


「ついでに言うと私達のものでもあるな。」

日向を筆頭に、雌ゴリラ達の激しい口付けの洗礼を受ける狼牙。

その様子を観察していた六花は、隣にいる者同士で口付けの練習を始める。

戌亥家一同は唖然として、見ている事しかできなかった。




「あー、私は戌亥和幸と申します。こちらは息子の信夫です。

ソフィアと共に異世界派遣使節として参加します。

よろしくお願いします。」

年齢は40台前半、凛々しい顔つきと優しい目尻、口の周りは綺麗に整えられた髭で覆われ、狼牙に劣らずイケメンである。


「戌亥信夫です。先ほどのお姉さま方の熱い家族愛を見せていただき、とても羨ましく思いますわ。

わたくしも、お姉さま方の熱い家族の一員になりたい!

ご教授、よろしくお願いいたします!」

父親に良く似た顔つきで中学生にしては背が高い。

アイドルと遜色ない容姿で、キュルンと効果音が鳴りそうなポーズを取ると、ウィンクをして手でハートを作った。


「驚きましたか、息子はLGBTなんですが女性に対して、害はありません。」

和幸が補足する最中も、信夫の視線の先に狼牙がいる。

狼牙はひきつり笑いを浮かべていた。


実は料理の最中も、和幸の目の届かない場所で、尻を触られ、股間を触られ、後ろから抱き着かれると股間の膨らみを尻に擦りつけられと、散々なセクハラを受けていた。


一方、信夫を見た雌ゴリラと六花は、妙な親近感を抱いている。

(こいつだったら、家族に加えてもいいかもしれない。)

そんな気にもなっていた。


かくして、二つの家族は運命の出会いを果たした。

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