第23話 異世界との接触 ~散らされた六花~
2月13日、午後の鍛錬を休むと夜花子が皆に告げる。
理由を聞くと、チョコを作ると答えてきた。
「明日はバレンタインデー!」
パン!と手を叩いて珊瑚が声を上げた。
「わたち、みんなにチョコあげたい!わたちも作る!」
「桔梗、みんなに旦那様は入りますか?」
振り向いた夜花子の黒いオーラが立ち上るのが見えた。
「夜花子!義理だよ、義!理!
ほら、いつもお世話になってるだろ!
こんな時位しか、お礼の贈り物を渡せないじゃん!」
「そうそう、茜の言う通り。
感謝の気持ちしかないからさ、それ位大目に見なよ。」
萌葱の説得を渋々承知する夜花子だが条件を付けてきた。
「わっちの目の前で旦那様に渡すこと、わっちが毒見した物以外は、旦那様のお口に入れさせません。」
「そこ迄警戒する必要があるの?」
萌葱が訝しんだ。
「思いを遂げるために、唾液、血液、愛液、経血、毛髪、爪を入れるのはデフォです。
更に排泄物を入れる者もいますので油断はできません。」
「いや、わたしはしないぞ。
それってもはや犯罪行為ではないのか?
絶対に腹を壊すぞ。」
蒼が手を振り「イヤイヤイヤ」と否定する。
すると夜花子がニヤリと、とても不気味な笑顔を浮かべた。
5人はささっと集まり、緊急会議を開いた。
「やる気だ、あの顔全てを混入させる気だ。」
蒼のこめかみに冷や汗がツツッと流れ落ちる。
「でもよ、そこまでするか?排泄物って?!」
茜が舌をうべーと出して鼻にシワを寄せる。
「でも、あの二人エッチしてるじゃん。
それほど影響ないんじゃない。
マ〇コやチ〇コ、ア〇ルも舐め合ってそうだし。
お互いのおしっこの味も知ってそう。」
「珊瑚!言い方!そうだとしても食べ物は別でしょ!
あたしは異物混入、絶対反対!」
「あたちも萌葱ちゃんにサンセー!食べ物にいたずら反対!」
「安心しなさい、あなた達のは何も入れないわよ。」
ヌッと首を突っ込んできた夜花子に皆が飛び上がった。
「最近冷たくない?わっち仲間外れかしら?」
悲しそうな顔で呟く夜花子に5人の顔がアッと青ざめた。
「そんなわけないだろ!よし!
みんなで一緒にでっかいチョコケーキ作ろうぜ!
なっ!それを切り分ければ良くないか?!」
「茜!グッドアイデア!みんなで一緒だ!
いいだろ、夜花子!」
「うん。いいよ萌葱。」
かくして、初めてのケーキ作りが始まった。
作るケーキはザッハトルテ。
大きさは6号、直径18cmに決まる。
萌葱はオーブンの温度を調整。
珊瑚が板チョコを細かく刻み、レンジで溶かす。
蒼が卵を割り、黄身と白身に分ける。
黄身を茜が撹拌し、メレンゲを桔梗が角立てる。
グラサージュを夜花子が担当する。
溶けたチョコと卵黄を、茜が手際よく混ぜ合わせると、
桔梗をメレンゲと混ぜ合わせ、生地が完成する。
生地を流し込んだ型を萌葱が受け取りオーブンに入れる。
一方夜花子は小鍋で生クリームを温め、おまじないを呟きながら、チョコをゆっくりと溶かす。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ」
夜花子の呟きに、皆でおまじないを唱えた。
焼き上がったスポンジを軽く叩きつけて、焼き縮みを防止をして、型から出し冷蔵庫で冷やす。
冷ましたスポンジにグラサージュを一気に流しかけて、ザッハトルテが出来上がった。
「7等分は難しいな、8等分にして1個みんなで味見しよう。」
「賛成!」萌葱の案に皆が歓声を上げた。
綺麗に切り分けられたケーキを皿に乗せ、各自デコレーションを楽しむ。
ジャム、乾燥果物、アイスクリーム、生クリームと思い思いのデコレーションを楽しむなか、夜花子はポケットから小さな小瓶を取り出した。
「夜花子、それ何?」
珊瑚が気付き夜花子に問いかける。
「永遠の愛を紡ぐ魔法の薬。」
夜花子はニタリと笑い答えると、瓶の中身をケーキに垂らす。
赤く黒いドロッとした液体が流れ出る。
液体をかけた後、粉砂糖をふると爪やすりを持つ。
「夜花子、何するの?」
皆の視線が夜花子に集まっていた。
「永遠に一緒だよって証。」
そう言うと自分の爪をやすりにかける。
爪が粉になって、粉砂糖に交じり消えていく。
皆は見なかった事にした。
夕食が済み、いよいよ狼牙にザッハトルテをプレゼントする時がきた。
皆は緊張していた、(果たしてあのケーキを狼牙に食べさせていいのだろうか?)得も知れない罪悪感に胸の鼓動が高まる。
「旦那様、今日はバレンタインデーです。
みんなで一緒にケーキを作りました。
わっちからは永遠の愛を、みんなからは日頃の感謝の気持ちをプレゼントします。」
狼牙の前に夜花子特製トッピングされたザッハトルテが置かれると、皆に礼を言いながら一口頬張る。
(あ、たべた!)
皆がそう心の中で叫んだ。
「うん、美味いよ!すごいな君達は!この短期間でよくお菓子作りまでできるようになって、俺は嬉しいよ!」
感極まってパクパクとケーキを食べ終えた狼牙は、「ありがとう」と再度礼を言うとコーヒーを飲み始めた。
バレンタインデー以降、夜花子の精神はとても安定している。
狼牙の様子も特に変化は見られない。
変わった点があると言えば、肉料理にやけに生っぽいものが増たことだ。
血の滴るロースト、ステーキ、時には生肉の刺身。
それらを特に狼牙と夜花子が好んで食べていた。
狼牙曰く「とても精がつく」そうだ。
2月24日、最後のネット授業の後、高校入試試験が実施される。
マークシート式筆記試験とモニター越しの面談が行われ、その日の内に合否判定が出る。
全員合格の通知を貰い、公立高校への進学が決まった。
入学式は4月8日、1か月前の3月8日に帰宅が決まり、入学式までは春休み期間となる。
少女達は、ここでの生活が後わずかと知ると、やり残しがないように今まで以上、雪山に出掛けるようになった。
「なあ、あのキラキラなんだろう?」
晴れた日の朝、雪原に光の粒子が立ち上るのを茜が見つけた。
「ダイアモンドダストじゃない!綺麗!
もっと近くで見てみよう!」
蒼が側にいる萌葱の手を引っ張ると走り出す。
萌葱が珊瑚の手を、珊瑚が夜花子の手を、夜花子が桔梗の手を、桔梗が茜の手を握る。
蒼がダイアモンドダストに手を触れた瞬間、少女達の姿が消えた。
その光景を見ていた狼牙が、慌てて外に飛び出す。
恐る恐る近づき、手にしていたストックをダイアモンドダストに差し込むと先端が消える。
途端強い力で引かれるのを感じ、ストックを手放そうとしたが、頭の中で少女達の助けを求める姿が浮かび上がると、渾身の力を込めてストックを引き抜く。
すると、消えた時と身なりの違う6人が、ダイアモンドダストから引っ張り出された。
6人は狼牙の姿を見ると、号泣して抱き着いてくる。
汗と垢で汚れた粗末な貫頭衣を着用し、首輪を嵌められ、手首と足首に枷、逃げられないように腰の荒縄で6人は繋がれていた。
顔には殴られた跡、むき出しの手足には擦り傷や切り傷だらけで、とても痛々しい。
風呂に入っていないのか、肌が垢じみてすえた匂いを放つ。
髪は油とホコリにまみれ、しらみが沸いている。
布を巻いただけの足には血が滲んでいた。
「どうしたんだ!何があったんだ!」
少女達は狼牙にしがみつき、ただ泣きわめくだけで会話ができなかった。
西の空から回転翼機の爆音が聞こえてくる。
プロペラ機並みの速度で飛行するそれは、すぐに狼牙の頭上でホバリングを開始して、降下着陸をした。
機内から数十人降りてくると、6人がこちらに目掛けて、叫びながら走ってくるのが見えた。
「狼牙くん!その子達、ベイビーなの?!」
「クソッ!クソッ!間に合わなかった!」
6人は同時に駆け付けると、少女達を抱きしめた。
「医療班!すぐに来てくれ!」
4人が機器を運んで近づいてくるのが見える。
「雌ゴリラ」は各々のベイビーを抱き上げると、山荘に運び入れ、すぐに浴室に向かった。
その後、次々とオスプレイがやってきて、兵士や機器を降ろしては去っていく。
辺り一帯にテントが設営され、野戦基地が作られていく。
狼牙はダイアモンドダストの周りにいる、武装兵士に顔見知りを見つけ話しかけた。
「隊長久しぶりです。この騒ぎは何ですか?」
「おお、狼牙元気そうだな。それが俺も良くわからんのだ。
ただこの辺り一帯は戒厳令下にある。
お前さんの主が指揮官だ。そっちに聞いたほうが早いよ。」
「わかりました。あとで熊肉の燻製差し入れます。」
「そりゃ楽しみだ!よろしく頼む!」
二人は握手をして、狼牙はその場を離れ、山荘に向かった。
玄関ホールは土足で上がり込んだのか、泥水で汚れていて、その足跡が真っ直ぐ浴室へ向かっていた。
ダイニングへ行くと、4人の医者と思われる女性が機器を設置して、診療の準備をしている。
狼牙は一礼すると、少女達の状態を説明する。
女医達はカルテに書き込み、質問を投げかけてくると思い出せる限り答えた。
やがて、びしょびしょの全裸の雌ゴリラ達が少女を抱えて、ダイニングに現れる。
少女達は一様に脱力し、気力が失われ、目の焦点が合っていない。
体のあちこちに生傷が見られ、更に古い傷跡が幾つもあった。
形状から婦人科で使用されるもので、簡易診察台が3つ。
狼牙が出て行こうとするのを扶桑が止めた。
「狼牙くん、あなたには真実を知っていて貰いたい。」
狼牙は黙って頷くことしかできなかった。
夜花子、珊瑚、蒼が診察台に乗せられると、長門、陸奥、伊勢がそれぞれ側に付き手を握る。
女医の診察が始まると、少女達の身に何が起ったのか明らかになった。
3人は多人数による、長期の性的暴行を受けており、性器以外の外傷、性器の外傷、性感染症、そして妊娠をしていた。
性感染症についての詳細は、血液検査の結果を待つことになる。
萌葱、茜、桔梗も同様であり、特に茜は性器の裂傷が酷く縫合手術が行われた。
堕胎手術はその日のうちに行われ、開腹により胎から取り出された胎児は、研究用に保管されることになる。
胎児は人間の子では無かった。
あるものは豚の顔、あるものは角が生えたもの、あるものは鱗に覆われたもの、あるものは鳥の羽、あるものは蝙蝠の羽、あるものは体毛が生え蹄が見えた。
処置を終えた少女達は、2階で点滴を打ちながら眠っている。
その日の夜、責任者による報告会議が開かれた。
山荘の食堂にチーム雌ゴリラ、自衛隊特選隊隊長、女医長、諜報部特課長代理、公安特課長代理が顔を揃える。
狼牙はお茶と軽食を用意して、皆を歓待した。
「本件は真偽性が確認できなかった為、極秘裏に作戦が決行されましたが、少女達の持ち帰った証拠により、真実と判断され内閣総理大臣より正式に作戦遂行の許諾を受けました。
そして、これがその証拠です。」
山城の説明が終わると、伊勢と日向がガラス瓶にホルマリン漬けされた胎児の標本をテーブルに置いた。
「これは、天使か?こっちは悪魔?オークとリザードマン?オーガとバフォメットか?
つまり、あの向こうは異世界ってわけか?」
「いや、待て公安、奇形児ということは考えられないのか?」
「自衛隊さん、私も職業柄その手の胎児は見ますが、これは明らかに違います。」
初老の女医は力を込めて断言した。
「そもそも、何故ここに、何と言ったらいいんだ、門みたいのが開いたんだ、何故それを知ってたんだ。」
「それは私が説明しよう。」
自衛隊隊長の疑問に伊勢が話し始めた。
「蛟龍会と大陸の関係を調べていくうちに、大陸内部で権力抗争が起きている事が判明してな、どうもその黒幕が異世界人らしいと情報を入手した。
そいつらは魔法を使って人心を掌握するらしい。
それに抵抗するのが「三国志一派」まあ仮称だが、なんでも血縁らしくてな、情報をリークしてくれた。
蛟龍会の親戚筋が少女達を酷い目に合わせたいから、魔法でどうにかしてくれとな。
そこで怪しい奴を片っ端から捕まえて、今日に辿り着いた。
もっと早くにこの情報を入手できていれば、くそ!」
伊勢は振り下ろした拳をテーブルに叩きつける寸前に止め、代わりに自分の顔をパン!と叩いた。
「まさか、本当に魔法なんてもんを使えると思って無かったが、現実に目の前で見れば拒絶する訳にはあるまい。
そこで問題なんだが、この門は行き来できる。
但し、向こうから出てくるのには、こちらからの干渉が必要だ。狼牙がしていたように、手を差し出せばよいだけだがな。
門が今後どの期間、開いているのかは不明だ。
また、別の方法で向こうのやつらが出て来るとも限らん。
少女達が敵わない奴らだ、かなり厄介だと想定できる。
十分な警戒と協力をお願いします。」
日向は皆に向かい深々と頭を下げて、協力を願った。
会議が終わり、雌ゴリラ達は我が子の元に戻る。
元々は自分達が使っていた部屋であり、その部屋のベットに眠る子供達を見て、感慨にふけた。
伊勢は点滴に繋がれスウスウと寝息を立てる桔梗の顔を覗き込み涙を零した。
(まただ、どうしていつも間に合わない!どうしてこの子達はいつもこんな試練を与えられる!何をさせたい!何が望みだ!クソ野郎!)
天に向かい、心の慟哭と激怒をぶつける伊勢だった。




