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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第21話 雪山の修学旅行 ⑦

和也が立ち去った後、蒼はゆっくりと樹里の元に近づいた。


「なんだオメエやんのか!」

マスクピンク頭のヤンキー女が蒼の前に立ちはだかる。

蒼は手にした手提げ袋から、「テロルチョコ」を鷲掴みにして差し出した。


「食べる?」

「おっ?おう、ありがとぉ。」

手のひらいっぱいのチョコを見て、目尻を下げるマスクピンク頭にニコッと笑い掛けると、他のヤンキー女にもチョコを配って回る。

それを見ていた萌葱が「ピッツァポテト」を、茜が「チュパチャプラ」を、珊瑚が「白い変人」を、桔梗が「カルパッス」をそれぞれ、ごっそりと配って回った。


「お前ら、いい奴だな!」

ヤンキー女達は、貰った景品でパンパンになった大ポリ袋に喜びを隠せず、萌葱達に抱き着いてくる。

萌葱達は自分達もにたようなモノと、境遇を語り始める。

蒼は泣き伏せている樹里の顔を持ち上げると、口を開かせチョコを放り込んだ。


「甘い物食べると落ち着くでしょ。」

樹里はもぐもぐと口を動かしながらコクンと頷いた。


「ねえ樹里さん、さっきは成り行きであんな事になっちゃったけど、私は負ける気はないから。

だから、樹里さんも本当に愛してるなら諦めないで。

私、必ず勝つから。」

「あなた本気なの?!和也は強いよ!

和也に勝てるのは道場の師範くらいで、大人でも敵わないんだよ!」

樹里の真剣な眼差しで、ウソを言っていない事がわかる。

それでも蒼には勝つ自信があった。


戦装束と言い蒼が購入したのは、ロングチャイナドレスである。

両脇の切れ込んだ長いスリットを見て、「これだ!」と叫び、試着室から出るとそのまま購入してしまった。


「蒼、あたしが道場まで案内するよ。」

樹里は道案内を買ってでると、ヤンキー女グループも同行する事になった。


行く道、同じような境遇で育った少女達はすっかり意気投合し、時折笑い声を上げながら道を闊歩する。

当然のことながら、一般人は少女達を避けながら蔑んだ目で見送った。


「あれが道場だよ。」

和式の立派な建物が見える。

扉の脇には看板が掲げられており、あまりに達筆すぎて少女達には読めなかった。


「よし!これを持って帰ろう!」

蒼の掛け声に少女達は「オウ!」と叫んだ。




道場内には大人、子供合わせて30名ほどが修練に励んでいる。

突然の来訪に小学生以下の子供たち10名が怯えて隅に逃げ固まる。

中学生以上の生徒達は驚きはしたものの、相手が女だと分るとニヤニヤしながら近づいてきた。


「道場破り?こんな事初めてだ。面白そうだな、掛かって来いよ!」

血気盛んな、中学・高校生男子が構えをとる。

そこに、唯一の成人である男が待ったをかけた。


「君達、無礼にも程がある。今なら許してあげるから謝って帰りなさい。」

男は顔に笑みを浮かべながらも、強い威圧をかけてきた。


「あらあ、ここにいる男共は女の子と戦うのが怖い腑抜け揃いかしらぁ。

ここに和也っていう筋肉バカがいるでしょ。

そいつにお誘いされたんだけど、もしかして隠れてるぅ?」

蒼の挑発に男から笑みが消え、憤怒の表情に変わる。


「小娘、和也君は我が道場の顔だ。

彼をバカにするという事は、この道場をバカにすると同義である。

覚悟はできているのか?」

「プークスクス!あんなのが顔じゃ、大したことないね!

私一人で十分かしら。

怖かったら全員で掛かってきてもいいのよ?」

腰を振り振り、腕をクネクネさせる挑発行為に、切れた中高生の生徒19人が一斉に襲い掛かってきた。


「蒼!雑魚は任せろ!みんな必殺は無し!手加減しろよ!」

萌葱の号令で茜、珊瑚、桔梗が蒼の前に出ると、障壁となり生徒達の波を阻む。

萌葱は大振りの拳をスルリと避けると、顎を掠める掌底を放ち、たちまち2人を打ちのめした。


3人目と4人目の同じ年位の少女を見ると、悪戯心が沸き上がり、強めの寸勁を下腹部に当てる。

子宮を気で揺さぶられた少女達は、「あうん!」艶めかしい声を上げると床に突っ伏し、尻をビクビクさせるとお漏らしをして道着と床を濡らした。


同門の少女達の痴態を見た少年達が、股間を押さえ前かがみになると、その頭に順番づつ踵落としを決めていく珊瑚。

一瞬で5人の男子がのされた。


一方で、桔梗が両腕を大きく広げて、少年達に突進していくと、

隙だらけの構えにカウンターを入れようと待ち構える少年達。

あと3歩で突きの間合いに入ろうとしたその時、桔梗の体が沈み、背後から飛び出した「茜」と言う名の暴風に、頭部を蹴り付けられる。

脳震盪を起こした少年達は、低空のタックルをまともに喰らい、後から詰め寄ってきた少年・少女達を巻き込み、弾き飛ばされると、立っている中高生はいなくなった。


「驚いた、いくら子供相手でも10秒も持たないだと。

お前ら何者だ、本当に子供なのか?」

男が衝撃の光景にワナワナと震え、コメカミに青筋が浮き上がると、大きく踏み出した足を床が軋むほど叩きつけた。


「当道場主である儂が相手しよう。」

男は深く呼吸をして長く吐き、気持ちを落ち着ける。

その様子を見た少女達は突然じゃんけんを始めた。


「負けたー!」

茜が叫び、地団駄を踏んで悔しがる。

その間も「あいこでしょ、あいこでしょ」の掛け声が続く。

そして、チョキをかざした珊瑚が「勝ったー!」と絶叫すると、ぴょんぴょん跳ねて、謎ダンスを踊った。


「おっちゃん!お待たせ!」

「小娘!骨の2・3本は覚悟せよ!」

「いやーん、怖いー!」

次の瞬間、珊瑚の雰囲気が激変する。

今までの浮ついた言動が消え、気配が拡散していく。

ペコリと一礼すると、ボクシングスタイルを取り、トントンとリズム良く跳ねる。

道場主は今まで経験した事の無い、威圧を感じ脂汗を流した。


(儂がビビッているだと?!どう見ても中学生にしか見えない、小娘に恐怖を感じているだと?!)

道場主は大声を張り上げて、恐怖心を消そうとする。

目に汗が流れ込み、ほんの一瞬目を閉じ、再び開けた時少女の姿は消えていた。


風切り音が眼下に聞こえる。

自分の真下に潜り込んでいる少女と目が合う。

その目はとても澄んでいて、底の見えない海を連想させる。

股間に衝撃を感じる。

目の前を白く小さな足が過ぎ去る。

衝撃が脳に届いた瞬間、道場主は悶絶し失神した。


白目を剥き、泡を吹いて気絶した道場主の前に立つと、ペコリと一礼をして振り返る珊瑚。

次の瞬間、喜びを爆発させて「謎の踊り」を始めた。


「ぱん、ぱん、ぱん」

拍手が聞こえると、和也が道場の奥から姿を現した。


「君達、凄い強いね!びっくりしたよ!師範を倒すなんてね!」

「なんだ、やっぱり隠れてたじゃん。」

「ヴァルキュリャ、酷い言いぐさだ。

隠れてたんじゃないよ、トイレに行っている間に、全て終わってたのさ。」

「物は言いようね、で、どうするの?やるの?

言っとくけど、私この中じゃ一番弱いよ、多分。」

「それは良かった。僕でも勝てる見込みがあるね。

ああそうだ、実は僕、師範より強いよ。」

言い終わるより早く、一気に蒼との距離を詰める和也は、制空権に達すると怒涛のラッシュを打ち込んでくる。

拳の風切り音に一切の手加減は感じ取れない。

当たれば容易に骨を砕く威力を感じさせた。


蒼は足さばきのみで、拳をギリギリにかわしている。

体の至る部分で拳がかする音がする。

和也は徐々に壁に追い込む算段をつけ動きを止めない。

ビッと布が爆ぜる音がすると、ドレスの左肩の縫い目が解け、白い肩と鎖骨が剥き出しになる。

一瞬動きが止まった隙に、トンとバックステップで距離を取ると、スカートの裾をパッと捲りあげる。


和也の目が黒い茂みに釘付けになり、完全に動きが止まる。

右拳が顎、左拳が鳩尾、右足が金的に流れるように打撃を与え、うずくまったところで、とどめの踵落としを決めた。


しばらくの沈黙の後、意外なところから大歓声が上がる。

それは、道場の隅で避難していた子供達からであった。


「お姉ちゃん、カッコいー!」

「やったぁ!クソ和也をやっつけた!」

「お姉ちゃん素敵ー!」

子供達の歓声に気をよくした蒼が、勝利のフラダンスを舞い始めると、萌葱達も一緒に踊りだした。


「では、私達の圧勝ということで、この看板貰っていきますね。」

股間を氷嚢で冷やしている道場主は黙って頷いた。


「和也さん、あなた色々とやらかしていたみたいですね。

子供達からの評価は最悪でしたよ。

叩けばホコリがいっぱい出てきそうですね。

さて、どうしたものか?」(棒)

表情の無い顔で萌葱が淡々と喋り、樹里をチラッと見る。


「ハーイ!刑務所送りが言いと思います。」(棒)

表情の無い顔で茜が淡々と答え、樹里をチラッと見る。


「それは可哀そうだと思います。

でも、誰かが更生の機会を与えてくれれば、立ち直るのではないでしょうか?」(棒)

表情の無い顔で珊瑚が淡々と弁護して、樹里をチラッと見る。


「それは名案ですね。ですが誰が良いでしょうか。

できれば、被告を心から思っている人。

例えば樹里さんが適任ではないでしょうか。」(棒)

表情の無い顔で蒼が淡々と話して、樹里をチラッと見る。


「あたちは樹里ちゃんがそばにいてあげればいいと思います。

樹里ちゃんは絶対いいお嫁さんになると思います。

和也さん、樹里ちゃんをちゃんと見てください!

あたちたちが今日ここで知り合えたのは、何かのお導きです!

和也さんがいい子になるために、何かが会わせてくれたんです!

きっとこれが最後のチャンスです!

目を覚ましてしてください!和也さん!」(マジ)

涙と鼻水を流しながら、熱く語りかける桔梗は、和也と樹里を交互に見つめた。


「そんな事はわかってるよ。

樹里はイイ女だよ、俺にはもったいねえ。

その変な化粧も格好も、俺が冗談で言ったことを真に受けて始めた事だろう。

済まなかった樹里、許してくれ。

元の樹里に戻ってくれ。」

そして、和也は道場の皆に向き直ると土下座をして詫びた。




その後和也は警察に自首して、暴行、傷害、恐喝、器物破損、横領、窃盗の罪で逮捕される事になる。

それを聞いたのは、少女達がこの地を去る3日前の事だった。


樹里はすっかり装いを変え、本当に可愛らしい女性に変貌し、仲間だったヤンキーもすっかり普通のお嬢さんになっていた。


「あんたら見てたら、あたしらも変われるかなと思ってね。

今、あの道場に通って、精神を叩き直してもらってるんだよ。」

ピンク頭を元の黒い地毛に戻した女は近況を話してくれた。


「和也が収監されて、目の前から消えて、なんか憑き物が落ちたみたいな感じなのよ。

なんで、あんなに和也にこだわっていたのか不思議なくらい。

え?どうしようかなぁ。

なんか、本当に和也を愛してたのか疑問なのよね。

ただ、冷たくされてたから意地になって、執着してたのかなぁって、今は思うの。

最近、よくナンパされるのよね。

私ってモテるみたい。

このまま、大事な十代・二十代を無駄にするのはもったいない気がするの。

だって、和也が出所する時、私は30歳越えるのよ!

それまで処女なんてまっぴらごめんだわ!

もっと若いうちに子供産みたいし。

そういうこと。」

話を聞いて、ごもっともと頷く少女達。

桔梗は少し不満げだった。

樹里は輝く笑顔で、少女達に別れを告げて去っていった。

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