第20話 雪山の修学旅行 ⑥
午後15時、ラーメンを食べ終えた一行は近くの大型ショッピングモールに到着した。
山生活ばかりでは飽きてしまうだろうと、ママ達の配慮でお小遣い付きの自由時間を与えられた。
「無駄遣いするなとは言わないよ、全部使い切ってかまわない。
集合場所は駐車区画、時間は20時だ。」
狼牙はポシェット型のガマ口財布を各自に配った。
「すげえー!」
茜は札を出して数えると、壱万円札が1枚、千円札が10枚の計2万円入っていた。
「ありがとー!狼牙さん!」
「お礼は主人達に言ってやってくれ。」
少女達はブンブンと頷くと早速どこを回るか、モール内案内板の前に駆けていった。
「夜花子はみんなと行かないのか?」
「旦那様、わっちとデートしたくないですか?」
ニッと笑うと、夜花子の前に跪いて手を取り、甲にキスをした。
「お姫様、私とお付き合い頂けますか?」
「よろしくてよ。」
差し出された腕に自分の腕を絡めると、べったり引っ付き歩いていく。
「仲睦ましいのはいいけど、学校ジャージであれは不味くないかな?」
「うん、補導されるか、逮捕されるか。あ!警官に呼び止められた!」
顔を見合わせた萌葱と蒼は、ダッシュで二人の元に駆け寄る。
その後、陸奥の身元保証で何とか解放された二人であった。
どうしても腕を組んで歩きたい夜花子の望みを叶えるべく、婦人服売り場で大人の装いに変える事にするが、1時間経過しても未だに決まらない。
5件の店をハシゴしてまた最初の店に戻るを3回繰り返し、やっと決まった頃には17時をまわっていた。
「旦那様からの初めてのプレゼント。私の宝物です。」
白のニットとクリーム色のロングスカートの夜花子は一見すると、若奥様にも見える。
狼牙の腕にしがみ付くと、頬を染めてニヒッと笑う夜花子の頭をポンポンとすると二人は家電売り場に向かった。
「疑問なのですが、あの山荘はママ達が所有されているのですよね。
ならば、体重計が置いてあってもおかしくないと思いますが。」
「ああ、前は置いてあったが壊された。
なんでも飯が美味いのが悪いそうだ。」
ああ、と夜花子は合点した。
「なるべく正確に体重、体脂肪率、BMI、基礎代謝量、無脂肪体重、内臓脂肪、体水分率、骨格筋、筋肉量、骨量、タンパク質、BMR、体内年齢何かも計測できる物がいいですね。」
夜花子の希望に店員はニコニコしながら、最高機種を提示する。
狼牙は黙ってカードを店員に預けた。
「それでは、最後のお買い物を済ませてお茶にしましょう。」
「ん?何かあったけ。」
「もう!お忘れですか!避妊具ですよ!
旦那様のアレは標準よりかなり大きめですから、サイズがあればいいのですが、合うサイズがなければピルでも構わないです。
そうすると病院に行かなくてはならないでしょう?
そうすると今晩の営みに間に合わないでしょう?
そうするときっとわっち孕んでしまう気がします!
それでもいい気がしてきました!旦那様!」
夜花子の瞳にハートが浮かんでいる。
「心配しなくて大丈夫だよ、コンドームならグロス単位で在庫があるから。なにしろ一晩で6人相手にするとその位、どうした夜花子?」
夜花子の瞳のハートがドクロに変化した。
「あの大きすぎるベットはその為にあったのですね。
そうですよね、ママ達の体ならいくらでも相手できますよね。
…誰が一番気持ち良かったですか?
わっちより気持ち良かったのは誰ですか?
わっちは何番目ですか?
旦那様!誰が一番好きですか?!」
狼牙は失言を撤回する目途が立たず、思わず抱きしめた。
「夜花子だ!夜花子が一番だ!」
「…どこが一番ですか?」
「一番可愛い!一番若くて瑞々しい!一番締りがいい!
一番気持ちがいい!俺が射精のコントロールができないのは夜花子だけだ!一番好きだ!愛している!もう君だけしか抱かない!約束する!」
狼牙は思いつく限り夜花子を褒め称え、愛の言葉を囁いた。
「よかった、わっち、今夜、死ぬところでした。
旦那様のこれを嚙みちぎって、喉に詰まらせて窒息死するの。
そうすれば、もう旦那様は他の女を抱けないし、わっちのことずっと覚えていてくれるでしょう?」
力無くふふふと笑い、なかば正気を失いかけている夜花子を、お姫様のように抱きかかえると、多目的トイレに駆け込んだ。
一方、別行動をしている5人はゲームセンターへ来ている。
5人はそれぞれ幾つもの大きな手提げ袋に、クレーンゲームの成果をパンパンに詰め込み、ホクホク顔だ。
少女達は気を使いアームの操作を行うと、難度の高い景品を次々と落としていく。
高く積まれたお菓子類は気を当てて崩し、引っかかれば気を当てて落す。
ゲームセンター荒らしとなり、店員から監視されていたが、気は見えるものでなし、少女達は堂々と景品を入手していった。
「あんたら、さっきからやりたい放題だね!ここがあたしらの縄張りだと知って好き勝手してるのかい!どこの高校だよ!」
先程から5人の後を着け回していた、一目でヤンキーに見える女の集団が取り囲み、リーダーとおぼしき女がいちゃもんをつけてきた。
金髪と小麦色の肌、可愛らしい顔を台無しにするきついメイクに、耳には複数のピアス、背は165cmはあるだろうか。
日本人離れしたグラマラスなボディは、さらしで巻き付けられてなお、隠しきれない肉感を容易に想像させる。
自分とさして変わらない身長のヤンキー女の体を見て、蒼はムカムカと腹を立てた。
「そんなの知らないね、てか私ら中学生だし。
今時、特攻服着た女ヤンキーなんていたんだね。
天然記念物なんじゃね。
それにさらし?ぶよぶよの体、チャーシューにでもするの?」
蒼が反撃すると、更に女ヤンキーがいきり立つ。
他の4人は蒼に揉め事を任せて、ネズミ型人間の雄と雌のでかいぬいぐるみの攻略を始めた。
「てめー、中坊のくせに生意気だな!しめてやろうか!」
「やれるもんならやってみな!ぶよぶよオバサン!」
女ヤンキーが伸縮警棒を振り出し、蒼に先端を向ける。
蒼が空手の構えを取ると、男が一人、間に割って入ってきて二人の動きを止めた。
「止めるんだ樹里!それをしまえ!」
「な、和也!」
和也と呼ばれた男は蒼に背を向けて、樹里に対峙する。
身長は180cmあるだろうか、胸筋は厚く、肩から二の腕は大きく盛り上がり腹囲と腰は引き締まって、太ももがパンパンに張っている。
鍛え抜かれた体には、アイドル級の甘いマスクが爽やかな笑みを浮かべ、白い歯がきらりと輝いた。
樹里は顔を赤くすると、渋々伸縮警棒をしまい1歩退く。
和也は蒼に向き直り、顔を見ると体を硬直させてしまった。
「なんて美しい男顔の美人なんだ。
切長でクールな目元の一重まぶたに、しっかりとした形の良い眉毛、そして知的な印象を与える眼鏡。
サラサラで絹のような髪質、濡羽色の髪色、その特性を最大限に生かしたおかっぱボブ。
高身長でスリムな体形、そして貧、あ、いや失礼。
無駄な脂肪のない、なだらかな胸!
君こそは僕の探し続けてきたヴァルキュリャ!
結婚してください!」
それを聞いた樹里が、悲鳴のような声を上げて和也にしがみ付いた。
「和也!あたしと結婚するって約束したでしょう!
幼稚園での約束忘れたの?!
あたし、和也がくれた婚約指輪、大切に持ってるのよ!
大きくなって指に付けられなくなったけど、ほらこのピアス見て!
これが約束の証よ!
あたしずーっと待ってるのよ!
まだ処女なのよ!和也の為に大切にしてるのよ!
そんな今日会ったばかりの女なんて、信用ならないのよ!
ねえ!こっち向いて!私を見て!和也ー!」
樹里の必死の叫びに、面倒くさそうな顔で振り向くと、無表情、無感情で淡々と話を始めた。
「確かに幼い時に約束はしたよ。
でもね、僕は運命の人を見つけたんだ。
彼女は僕の理想とする容姿そのものなんだ。
君のように、女女したタヌキ顔で、無駄肉だらけの体とは大違いなんだよ。
だからね樹里、君とは結婚できない。
これからは友達関係だよ。
良い隣人、幼馴染としてお付き合いしていこう。」
和也の言葉と態度に、大きなダメージを受けた樹里は、力無く床に突っ伏してしまい、肩を震わせ咽び泣きはじめる。
するとヤンキー仲間が寄り添い慰め始めた。
「アンタ最低だね、恋人だったんでしょ。
よくあんな酷いこと言えるわね。」
「いやいや、僕は恋人と思った事は一度もないよ。
それに、恋人らしい事は何もしていないしね。
ああ、小学生低学年の時にキスはしたかな。」
「そもそも、私はアンタと付き合う事は無いから。
あの子を大切にしてあげなさいよ。」
「それはできない。
本意ではないが力尽くでモノにしてもいい。
君は空手ができるみたいだね。
勝負をしないか?
君が勝ったら僕は樹里と結婚する。
僕が勝ったら君は僕と結婚する。
怖かったら断ってもいいよ。
君を担いでこの場から立ち去るからね。」
「受けるよ、ただし準備がある。
1時間ほど時間を頂戴。
場所はアンタの指定した場所に必ず向かう。
私をお嫁さんにしたいなら、それ位信じられるよね。」
「了解だ、18時にまた会おう。」
和也はスマホで道場の場所を表示させると、一度樹里を見て立ち去っていった。
「ちょっと蒼、あんな事約束していいの?
ていうか、ぶっちするんでしょう?」
「しないよ珊瑚、あいつ強そうじゃない?
だからね試してみたいのよ、私の実力をさ!
降りかかる火の粉は自分で払い除けないとね!」
意気揚々と闘志を燃やす蒼は、準備の為にアパレルショップを見て回り、目的の服を手に入れた。
時刻は17時50分、10分前に主義の蒼は道場の戸叩いた。
「頼もうー!こちらの看板貰い受けに来た!」
凛と響く声で宣言すると扉を蹴り開ける。
稽古をしていた道場生が一斉に振り向いた。
彼らはロングチャイナとジャージ姿の5人の少女達を見る。
獲物を見つけた猛獣のような顔と、立ちのぼる殺気。
道場生達は恐怖の感情に捕らわれた。
少女達の初めての道場破りが始まろうとしていた。




