第18話 雪山の修学旅行 ④
「みんな、おはよう。」
「おはようございまーす!」
「あー、食べる前に聞いて貰いたい事がある。
今日は山を下りて、病院で健康診断を受けてもらう。」
既にハムエッグを口に頬張った茜の口が止まった。
「10時にここを出発するから、それまでに準備を済ませるように。
では、いただきます。」
シンと静まり返った食堂。
狼牙が野菜サラダを咀嚼する音だけが聞こえた。
「どうした、食べないのか?」
「酷いです、狼牙さん。」
珊瑚の暗い重低音の声が口火を切った。
「どうして!そんな大事な事を、予め教えて下さらないのですか?!旦那様!」
夜花子がテーブルをバン!と叩いて立ち上がった。
「健康診断といえば体重測定!腹囲測定!」
「私たち女子は、その日にベストな数字を出せるように追い込みをかけるんです!」
蒼に続き萌葱が立ち上がり、狼牙を睨む。
「あたち、お腹がパンツの上にちょっとはみ出してる。
こんな体じゃ体重計に怖くて乗れないー!」
桔梗は叫ぶと食堂を飛び出して行った。
「モガ、モグ、グブゥ、モガー!」
茜は口の中のハムエッグを、断腸の思いで飲み込むと、桔梗の後を追って行く、萌葱、珊瑚、蒼も食堂を出て行った。
「おい、おい?どうした?
たかが健康診断だぞ?夜花子なんなんだ?」
怖い顔のまま、狼牙に近づく夜花子は、気配が2階に集まっている事を感じると、狼牙の首に手を回してキスをする。
3度軽くキスした後、じっと狼牙の目を見つめる夜花子。
「旦那様、わっちらは常に殿方に美しい姿を見せる為に、それはそれは努力いたします。
美しい姿を見せるのは、特別な殿方以外でも同じです。
この山荘に体重計がございませんでしたので、少しばかり油断しておりました。
今頃、みんな美しくあり続ける為の努力をしております。
わっちもすぐに向かいます。
朝食は申し訳ありませんが、辞退させていただきます。
お許しください。」
「ああ、分かったよ。事前に連絡せずに申し訳なかった。」
狼牙は夜花子のウェストに手を回すと、軽く腹の肉をつまんだ。
「俺はこれくらい全く気にならないぞ。」
「旦那様、次したら人の姿に戻れない位「抜きますよ」。」
「怖いな俺の恋人は。
狼に戻ったら相手をして貰えなくなるかな。」
「あら、わっち、狼になった旦那様ともしたいと思っていますの。」
うふふと小悪魔的な笑顔を残して、夜花子は食堂を出て行く。
狼牙はテーブルに座ると食事を再開した。
夜花子が部屋に入ると、茜が全裸の桔梗の腹部にラップをグルグルと巻き付けていた。
「茜ちゃん、ぐるじいよぉ!」
「桔梗!耐えろ!冷静に見るとかなりヤバい!食べ過ぎだ!」
「だってぇ!ご飯が美味し過ぎるのがいけないんだよぉ!
でも、運動すれば太らないってみんな言ってたぁ!」
「お前が夜な夜な冷蔵庫の前でつまみ食いしてるの知ってんだぞ!」
「知ってるなら止めてよぉ!」
ギャーギャー騒ぎながら作業をしている二人から目を離して、萌葱達を見ると太ももにラップを巻き付けが終わったところで、インナースーツを着始めている。
もちろん腹にラップを巻き付け済みである。
「さて、わっちも支度しますか。」
夜花子は全裸になるとラップをピーと引っ張り出した。
二の腕、腹、太ももにラップを巻き付けた少女達はボディスーツのみで外へ出る。
出発迄2時間、休憩無しの本気の脂肪燃焼を試みる。
萌葱VS桔梗、珊瑚VS夜花子、蒼VS茜で始まった。
少女達はこの地の稽古で、それぞれに適した戦闘スタイルを身に着けていた。
萌葱は爺さんの教えを忠実になぞり、殴打・蹴りをバランス良く繰り出す。ゆえに継戦能力が高く、戦闘時の指揮を取るようになる。「流れ水」の継承を目指している。
桔梗はレスリングスタイルでマウントからの殴打ラッシュを好む。
低い姿勢からのタックルはそれだけでも脅威であり、金的に躊躇無く頭突きをする。
珊瑚はキックボクシングを見てから、キック主体のスタイルを会得して、最近ではムエタイの動きも取り入れ始めている。
夜花子は三節棍を本格的に使い出し、得物を通して寸勁のダメージを与えるスキルを取得していた。
稽古時はソフトプラスチック製を使用している。
蒼は実戦では奇策、奇襲を積極的に取り入れているが、空手を学ぶことで、奇策・奇襲の後に確実に相手に大ダメージを与えるスタイルを確立しようとしている。
茜は小さな体を生かし、俊敏でトリッキーなカンフーの動きで相手を翻弄する。
パワー・スタミナ不足が弱点ではあるが、回転と螺旋から繰り出される一撃は並の男性であれば行動不能に陥る。
普段の稽古組手では、顔を狙わない以外は全力で当ててくる。
練習用グローブを付け、プロテクターでダメージが減衰するが、まともに受けるとしばらく蹲るほどの攻撃力を各自は有している。
それ故に少女達は常に真剣に組手を行う。が今日は違った。
「もう時間がないから局部集中でいくよ!体の中のもん全部出す!
ターゲットは胃、膀胱、大腸!30回スクワットしながら交代で殴打!
腹筋緩めんなよ!脂肪燃やせ!始め!」
萌葱と桔梗が向かい合い、毎秒1回の速度で30回のスクワットの後、同時に正拳突きで胃を殴打する。
両者とも前のめりで、顔を雪に沈めるとゴフッと反吐を吐く。
ビクッビクッと痙攣すること1分。
ようやく面を上げると口元をぬぐい、ガクガクと震える膝に力を入れて立ち上がった。
「き、桔梗、手加減なしだね。」
「も、も、萌葱ちゃんこそ、胃がひっくり返ったよぉ。」
互いの肩を借りて、立ち上がり、額をくっつけあう。
はぁはぁとすっぱい匂いのする息を掛け合い、にやりと笑った。
「茜から、聞いたよ、つまみ食い、してるんだってね。」
「あたち、悪い子、でちた。おしおき、してください。」
再びスクワットを始め、互いに胃を殴打する事3回、双方胃液しか出なくなり、ターゲットを次の部位に変えた。
開始前に反吐で汚れた顔を雪で洗い場所を変える。
次のターゲットの膀胱は掌底で寸勁を放つ。
二人は互いの肩に頭を乗せ倒れることはなかった。
小便が勝手に溢れだし、ガクガクと震える股間と太ももに流れ落ちる。
雪を薄黄色に変え、湯気が立ち上る。
「もう、1発、いく、よ。」
「えへへ、きぜつ、したら、ごめんねぇ。」
2度目の膀胱殴打で二人は仰向けに倒れる。
小便ではない、体液が噴き出す度に体を痙攣させる。
萌葱は辛うじて気を保っていたが、桔梗は白目を剥いて失神していた。
口元から泡を吹き、腰が時折ビクンと跳ね上がり、体液が放出される。
萌葱は桔梗の上体を起こし、背後から活を入れた。
「桔梗、おねんねには、まだ、早いよ。」
「もう、らめらよぉ、あたち、いきすぎて、力はいんないよぉ。」
「仕方ないなぁ。」
へちゃと潰れたカエルのようにうつ伏せになる桔梗の腰部に、両手の掌底で寸勁を放つと、ぎひぃと叫び声を上げてブルブルと痙攣しながら放屁しはじめた。
「ごべんなざい、ぼらじちゃっだぁ。」
「はいはい」と声を掛け周りを見ると、茜と珊瑚がお尻を押さえながら、山荘にふらふらと歩いていくのが見える。
夜花子と蒼は雪に突っ伏し、ビクンビクンと痙攣していた。
(あの二人間に合えばいいけど。
狼牙さんにお湯シャワー引っ張ってもらわないとなぁ。)
そう思いながら、萌葱は桔梗を両手を持ってズルズルと山荘に引きずっていった。
「君達はやることが極端すぎないか?」
狼牙は汚物溜めから出てきたような少女達を見て呆然とした。
結局、珊瑚と茜は間に合ず、途中で行き倒れていたのを、萌葱が一人で引き摺り一か所に集める。
萌葱は狼牙に「洗浄お願いします」と言うと、こと切れたように珊瑚の隣に倒れ込んだ。
狼牙は物置からエンジン式高圧洗浄機を持ち出し、吸水管を風呂の湯舟に設置すると、マグロのように転がる少女達を洗浄する。
「狼牙さん、勢いもうちょっと緩くしてください。」
生き返った少女達は暖を取ろうと一か所に固まる。
狼牙は散水弁をひねり、なるべく全員にお湯シャワーが当たるように調整した。
「狼牙さん、後は自分達でします。ありがとうございました。」
少女達がスーツを脱ぎ始めたのを見ると、狼牙はお茶の用意をしにキッチンへ戻っていく。
少女達は全裸になると、順番に体や衣服の汚れを落とし、風呂場へ駆け込んだ。
出発時間を30分ほど押してしまったが、なんとか身支度を終えた少女達は無事、特別仕様ウニグモに乗り込んだ。
「白湯を用意したよ。脱水症状になると危険だから飲んでくれ。」
白湯と聞いて、各自用意された水筒の三分の一を飲む。
一息つき、安心したのかすぐに眠りについてしまった。
「美容とは命がけなんだな。」
少女達の寝息を聞いた狼牙は思わず呟いた。




