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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第16話 雪山の修学旅行 ②

狼牙報告書


AM6:00 起床

トイレ争奪戦が始まる。

珊瑚と桔梗が我慢できずに外で用を足した際、雫が凍りついたと大騒ぎをして霜焼けになる。


AM6:30 生活環境の保守組と朝食準備組に分かれる。


茜、珊瑚、桔梗の当番で料理初日、無難に卵焼きを選択するが問題が発生する。

まず卵が割れない。

力加減ができないのか、シンクに叩きつけては粉砕する。

片手割り、両手割りを試して握りつぶす。

殻に指を突きさし、中身が零れ落ちる。

15個を無駄にしてようやくボウルに中身を落すが殻入りになる。カラザ取りは断念する。

調味料を入れすぎてやり直すこと5回。

ホイッパーで泡立てるが、中身が外へ飛び散り消える。

卵焼きを断念して、目玉焼きに変更する。

フライパンに殻入り卵を3つ投下、焼き上がるまでの間にポトフを温め直すが、目を離した隙に火力を最大にして、黒こげ目玉焼きが完成する。

彼女ら曰「火を強くすれば早く出来上がる」との事だ。

今日はこれ以上の料理を断念して、見学をさせる。

なお、黒こげ目玉焼きは私が食した。


AM7:00 朝食開始

献立 パン、ポトフ、卵焼き、牛乳、ブルーベリージャム掛けヨーグルト。

毎回、彼女らの食欲に驚かされる。

早食いを止めさせるように、噛む回数を決め守らせる事にする。


AM8:00 オンライン授業開始 

50分授業10分休憩の4セットで実施される。

教科毎に個性的な教師で見ていて飽きない。


PM12:00 昼食開始

リクエストによりチャーハンと野菜炒めを用意する。


PM13:00 掃除開始


PM14:00 自由時間

揃ってダイニングで昼寝を始める。


PM14:30 外に出て自主練を始める。


PM15:00 稽古開始

驚いたことに全員が気のコントロールを身に着けている。

組手で発勁を放ってきたが、打ち消さずにまともに受けたら気絶は免れない。

螺旋の動きも相まって、かなりの威力が予想できる。

なお、実戦以外の金的攻撃は禁止にした。


PM17:00 稽古終了

入浴及び洗濯開始。

どうやら下着を風呂場に持ち込み、手洗いをしているらしい。


PM18:00 夕食開始

献立 マガモ・コウライキジ・エゾライチョウの鳥鍋、白菜、キノコ、大根、長ネギ、豆腐の白味噌仕立て、〆にうどんを投入。

あまりの食べっぷりに、滞在中の食料が不足する可能性あり。


PM19:00 自由時間

本日は1時間程、天体観測をした後、再度2時間の入浴。

女性の風呂好きは老若共通と理解する

 

PM22:00 就寝

依頼のあった寝顔の写真を添付する。


平日は実に規則正しい生活を送らせ、家事のノウハウを根気強く教え込む狼牙の報告書を読み、ママ達は羨ましく思うと同時に深く心で感謝する。

そして、寝顔の写真を見て目尻を下げた。




土曜日の午後、狼牙のアドバイスを受けて、スノーボードを始めて体験する。

初めのうちだけへっぴり腰で転倒し続けていたが、1時間もするとオリンピック選手顔負けの安定感で斜面を滑り始めた。


狼牙は好きに滑ることを許可すると、少女達は大喜びで斜面を滑り降りて行った。


6人は横一列になり、滑降速度を競う。

雪の上の軌跡が交差し、時に一つに纏まり、また6つにばらける。

方向を変える度に、雪が舞い散り、その中を誰かが突っ切りると順位が変わる。

崖のような斜面を、一列に並んだ少女達が滑り上がり、頂上で大きくジャンプすると、思い思いのスタイルで回転して着地した。


夢中で滑り降りる少女達の前方に、木立が見えてくる。

減速することなく、木立に侵入すると蝦夷鹿の群れに遭遇した。


「鹿発見!」

茜が大声を上げて鹿の群れに突進する。

少女達に気付いた鹿が一斉に逃げ始める。


「鹿を捕まえて今日のご飯にしようぜ!」

とんでも無い事を言い始める茜に皆が驚くが、高揚した心を抑えきれずに狩人の血が覚醒した。


少女達は二手に分かれると、鹿を追い詰めていく。

先回り組の萌葱、蒼、桔梗は直線的な滑降で木立の間を猛スピードで駆け抜け、鹿の先頭に先回りをする。

追跡組の茜、珊瑚、夜花子はわざとジグザグに動き、鹿の進行速度を遅らせる。

先回りされた事を鹿が気付き、スピードが緩んだところで、茜が一際大きな牡鹿の背に飛び乗った。


茜は雄鹿の角を握りしめ、頭頂に気を纏わせた拳を叩きつけると、脳震盪を起こしたのか膝をついて崩れ落ちた。

茜は投げ出されたが、空中でクルリと回転すると見事に着地をして、牡鹿に近づいた。


「さーて、オレらのご飯にさせて貰うぜ!」

止めをを刺そうと近づく茜を見て、牡鹿は悲痛な叫びを上げ、悲し気な瞳で見つめる。

茜はその瞳を見てしまい、しばし動きを止める。


「おまえ、オレの子分になれ!」

牡鹿はコクコクと頷く。

その姿を見た少女達は「えええ?!」驚いた。


「鹿に言葉が通じるとは知らなかった。」

呆然とする夜花子をよそに、茜は牡鹿の鼻面に指を近づける。

牡鹿は指先をペロリと舐める。

その瞬間、光が輝き何か契約じみたものが結ばれたと確信した。


「よし!お前の名前はETだ!ET、お前の群れに俺達を背に乗せるように命令しろ!上の山荘まで乗せて行け!」

牡鹿は頷くと、一声鳴く。

すると、体の大きい牡鹿が集まり、膝を着いた。


「みんなこれでリフト代わりが出来たぞ!」

上機嫌で牡鹿の背に乗り、皆に別の牡鹿の背に乗るよう急かした。


少女達が恐る恐る牡鹿の背に乗ると、ボス牡鹿の一鳴きで一斉に駆けだす。

振り落とされないように、しがみ付いていたが揺れにも慣れると歓声を上げて楽しみだす。

木立の中を駆け抜け、雪原に出ると雪を掻き分け牡鹿の行進は続く。

その様子を黒い犬に似た大きな影が見ていた。


「あっ!黒いワンワン!」

いち早く気付いた桔梗が大きな声で皆に知らせると、影はあっと言う間に姿を消した。


「えっ?!どこ?見えないよ!」

「隠れちゃった!あそこにいたよ!」

珊瑚は桔梗の視線の先を見て、見つけられないことを悔やむ。


「こんなとこに犬がいる訳ないでしょう!

熊と見間違えたんじゃない!」

「もしかして狼かもしれないね!」

蒼の否定を萌葱がもしかしてと肯定した。


「明日は狼を探索をしよう!」

「賛成!」

皆は大声で叫び、明日が楽しみになる。

既に日は傾きかけ、黄昏時が迫っていた。


山荘の前で牡鹿から降りると「待ってろ」と茜が一声かけ、厨房の裏手に駆けて行く。


少女達は牡鹿の首を撫でて「ご苦労様」と労う。

茜がクズ野菜を両手いっぱいに抱えて戻ってきた。


「ご褒美だ!」

牡鹿の前にばら撒くと、夢中で食べ始める。

茜は満足そうな顔で牡鹿の姿を見ていた。


「また明日遊ぼうぜ!」

去っていく牡鹿に声を掛けると、返事をするかのように声上げる。

少女達は山荘に入ると、真っすぐに風呂場へ向かう。

洗濯カゴにインナーを放り込む。

萌葱、夜花子、桔梗は忘れずにナプキンを外してゴミ箱に放る。

湯舟には浸からずシャワーを浴び、下着の汚れの酷い部分を手洗いする。

少女達は少しづつだが、確実に成長していた。


「ただいまー!狼牙さん!お腹空いたー!」

「おかえり。今日はピザとグラタンだ。」

「やったー!」

狼牙は厨房から顔を出すと、大喜びする少女達を見て満面の笑みを浮かべた。




少女達は食事の後、自室のベランダで夜空を見上げる事が日課になっている。

テレビやネットが繋がらない山荘では、自然を楽しむ以外に娯楽がない。


そして、この後の入浴を120%楽しむために、あえて薄着で空を見上げている。

宙に見える無数の星空と、ミルクを流したかのような星の帯。

初めて天の川を見た時に、それが天の川とはわからなかった。


「天の川がミルキーウェイと呼ばれる訳が理解できたわ。」

そう呟いた夜花子の吐く息が真っ白に氷つく。

ジャージにマフラーという姿が、更に寒さを演出していた。


「あっ!流れ星!」

蒼の叫び声に反応して、視線を向けるが見ることができない。


「あれも流れ星かちら!」

桔梗の視線の先にゆっくりと移動する星が見える。


「残念だが、人工衛星だな。」

夜花子の回答に皆ががっかりとした。


「あれもそうかな?」

茜の指差す先に、三つの光点が三角形を維持しながら、ゆっくりと回転している。


「あれはUFOじゃやない?」

珊瑚が興奮した声で喋ると手を組み、何か呟きだした。


「何をしているの珊瑚?」

「萌葱、UFOと交信するの。みんなも祈って。

UFOに、宇宙人に会いたいって。」

皆は半信半疑でUFOに祈りをおくる、

すると不思議な事に動きを止め近づいてきた。


「なんか、近づいてきてない?」

「や、止めようよ!キャトルミューティレーションだよ!

お尻くり抜かれちゃうよ!怖いよ!」

夜花子にしがみつき、プルプルと震えだす桔梗。

UFOは少女達の頭上に停止して、ゆっくりと回転を始める。

カラフルな光源の回転にしばし目を奪われる。

やがて静止すると激しく明滅を始め、強烈なスポットライトを照射した。


「キャアー!ファーストコンタクトよ!インデペンデンス・デイよ!」

珊瑚が興奮してビョンビョンと飛び跳ねる。

難しい顔をしていた茜がUFOに向かい、奇妙なハンドサインを送りながら、メロディーを口ずさんだ。


「ソ・ラ・ファ ・低ファ・ド」

明滅が止まり、ライトが消える。

三つの光点がダンスを踊るような動きを見せると、瞬時に空の彼方へ飛び去った。


「茜、何したの?」

「珊瑚、あれは善一爺ちゃんと見た大昔の映画で、宇宙人と仲良くなる「おまじない」。なんか怒ってたみたいだから試してみた。」

この日の茜の交信が、地球の危機を救った事を誰も知らない。


翌日、少女達は自分の顔が、真っ赤に日焼けしている事に気がついた。


「なんでぇ!雪焼け対策してたのにー!UFO大嫌い!」

珊瑚は叫ぶと、急いでフェイスマスクを顔に貼り付けた。

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