第15話 雪山の修学旅行 ①
眠ったような、眠れなかったような、悶々とした一晩を過ごした少女達は、6時の目覚ましと共にベッドから抜け出し、ランドリールームを探し当て、自分達のジャージと下着が棚に畳まれ置かれているのを見つける。
夜花子は自分のパンツを手に取り広げた。
「クロッチにシミが無い…」
それは、手で揉み洗いされた事を証明している。
パンティーライナーなど使用していない。
排泄の汚れやオリモノの汚れはそのままクロッチに残る。
年頃の少女たちにとって、パンツの汚れを男に見られる程、屈辱的な事は無い。
少女たちはランドリールームに蹲り、恥辱に体を震わせた。
(生理間近だから、まっ黄色だったはず。
もしかしたら、茶色だったかも。
匂いもハンパないのに、それを見られた?嗅がれた?)
床を凝視しながら、夜花子の心臓がドッドッと激しく脈打つ。
「萌葱、あなた生理終わりかけじゃなかった?」
蒼の問いかけに萌葱の体がビクリと跳ねた。
「ナプキン、ちゃんと始末したよね?
まさか付けっぱなしとかないよね?」
「ああああああっ!」
萌葱は叫び声を上げると、床に頭を打ち付けた。
「死ぬ。もしくは責任取ってもらう。」
萌葱がぼそりと呟く。
「死んじゃうのはダメー!でも責任取らせるのはもっとダメー!
あたち、予定日ずれてドバドバ出したの見られてるのー!」
桔梗の悲痛な叫びに皆が顔を上げた。
「きっと、黒いカタマリも見られてる!あたちイッパイでるの!
ナプキンもオシメみたいな大きいのだったのにー!」
号泣し始めた桔梗に皆が集まりきつく抱きしめた。
「みんな、これから洗濯は自分達でしよう。
私たちの尊厳は私たちで守ろう。
それで、狼牙さんに謝ろう。」
夜花子の提案に少女たちは力強く頷き、心に深く刻み込んだ。
どんよりとした気持ちでダイニングに行くと、狼牙が爽やかな笑顔で迎えてくれた。
「おはよう、リトルレディ。
昨日はよく眠れなかったみたいだな。
どうした、ホームシックか?」
「ごめんなさい!狼牙さん!」
皆が声を上げて、一斉に頭を下げた。
「見苦しいものを見せてしまってごめんなさい!
今日から洗濯は自分たちでします!
それで、昨日の見たものは全て忘れてください!」
狼牙は目を丸くして驚いていたが、思い当たったようで、そっぽを向いて話だした。
「下着の汚れを気にしているのかな?可愛いね君らは。
俺の主人、君らにはママかな。
彼女らに比べたら大したことはないよ。
主人達の汚れといったら、君らの何倍も凄いからね。
ライナー付けろと言っても聞かないしね。
ああ、これは内緒ね。」
ウィンクすると、席に着くように指示される。
少女たちは自分達の何倍もの汚れに想像がつかずに、言われたまま着席した。
「きょうの朝食は、自家製鹿のベーコンの目玉焼きと、焼きたてのパン、ジャガイモのポタージュと朝採れ野菜のサラダだ。」
テーブルの上の料理を見ると途端に涎が湧き出し、腹が鳴った。
「頂きます!」
少女たちはホッとした気持ちで、美味しい朝食を食べ始めた。
「あの狼牙さん、ママ達の事と関係を教えてください。」
萌葱の質問に少し考えてから話始めた。
「主人達の事は君達が直接聞くのがいいと思う。
彼女らも話す事を楽しみにしているはずだ。
さて、彼女達との関係だが俺にとって命の恩人だよ。
今から10年程前かな、独りぼっちの俺を拾ってくれた。
まあ、色々あったけど、今となってはいい思い出だな。
その恩もあって、ここで住み込み管理をしている。
主人と呼んではいるが、上下関係がある訳ではないよ。
俺が勝手に呼んでいるだけだ。
彼女達は嫌がっているがね。」
ハハッと笑うと、少女達の目を覗き込むように見つめる。
「俺は君達の生い立ちと馴れ初めをある程度聞いている。
ここに居る間は頼ってくれて構わない。
俺も主人同様に君達を守り、導く所存だ。
よろしくお願いするよ。」
少女達はイケボの心地よい響きと蠱惑的な瞳に魅入られ、夢見心地となっている。
狼牙がパン!と手を叩くと、催眠から覚めたように正気に戻った。
「君達は純粋だな、とても危うい事がよく分ったよ。
さあ、食事を済ませなさい。
今日は日曜日だから自由行動の日だ、ここは楽しい所だぞ。
プレゼントされたキャリーケースは確認したかな?
まだなら、すぐに確認するといいよ。」
少女達は冷めてしまった朝食を急いでたいらげた。
部屋に戻りキャリーケースを開けると、防寒ウェアとインナーの上下、ジャージ、下着など1週間分の衣類が詰まっていた。
着慣れた綿パン、スポブラ、ジャージに着替えると、防寒ウェアを取り出した。
「これがあれば外出できるね。外は寒いけど何枚重ね着すればいいんだろう?」
「こういう時こそ、狼牙さんに聞いてみるのがいいと思うよ、珊瑚。」
「珊瑚、蒼、先ずは洗濯でしょう、洗濯の仕方知っている人、挙手!」
萌葱が確認するが、誰も手を上げなかった。
「誰も知らないかぁ、あたし達ってポンコツ女子だったのね。」
それぞれ洗濯物を持つと、狼牙の元へ向かった。
「早速自分達で洗濯をするのか偉いぞ!」
狼牙は少女達の頭をポンポンすると、洗濯機の使い方と染みの付いた洗濯物の処理を教えた。
「後は自動で乾燥までしてくれるから、このまま放置で良し。
2時間もすれば出来上がるから、その間は掃除でもするか。」
少女達の担当は2階自室、風呂場、1・2階トイレ、ランドリールーム、ダイニングルーム、1・2階廊下、階段に決まり、日替わりの当番表を作ると掃除を始めた。
「腰痛い!広い家に住みたいと思ってたけど、毎日掃除するとなると狭くてもいいかも!」
廊下を雑巾で拭き掃除をしていた蒼が、腰を叩き愚痴をこぼした。
「団地でもまともに掃除しないのに、一軒家なんて無理ね。」
「夜花子、蒼、そこは家政婦を雇える位のお金持ちになれば解決よ!私はでっかい家を建てて、優雅に生きるの!」
ダイニングから珊瑚が大声で叫んだ。
それぞれ狼牙から掃除の仕方を教わり終わる頃、洗濯物乾燥の終了を告げるメロディーが聞こえる。
洗濯物の畳み方を教わり、自室のクローゼットルームにキャリーケースの中身共々収納をする。
乱れたベッドの整え方、シーツや枕カバーを替えるタイミング、染みの取り方など、初めての体験に真剣に取り組んだ。
「狼牙さん、防寒ウェアの着方を教えてください。」
萌葱の質問に、実際に必要な衣類ベッドの上に広げ丁寧に説明をする。
「ウェアは気密性が高いので、外が氷点下でも運動をすれば汗をかくので、厚着しすぎると蒸れて酷い目にあう。
そこで、寒さより動きやすいものに重点を置く。
これはファーストレイヤーと言われる、吸湿性・速乾性がある素材のインナー上下だ。これを下着の上に着る。
次にセカンドレイヤーだが、これは外の天気と相談だな。
今着てるジャージでもいいし、暖かければ着なくてもよい。
このウェアは特殊な素材で作られているから、ファーストレイヤーだけで十分かもしれない。
試しにウェアとファーストレイヤーで、散歩してみるといい。
スノーブーツは玄関のシューズボックスにある。
俺はその間に昼食の準備をするよ。」
そう言い残すと、狼牙は手を振って出て行った。
「このインナー、不思議な素材ね。」
「体にぴっちり張り付くけど、抵抗感が全然無いぞ。」
軽く組手をして感心する茜と珊瑚。
「防寒ウェアも着ると体に張り付く見たいにフィットする。
胸と肘、膝、お尻にプロテクターが入っているみたいね。」
お尻を擦って感触を確かめる夜花子。
「なんかアニメのプラグスーツみたいでカッコイー!」
大はしゃぎする桔梗。
「このヘルメット、バイザー内臓してる!」
気に入ったのかバイザーを出し入れする蒼。
「このヘッドセットもしかして無線?!
みんなヘルメット被って。
ヘッドセットを引き出して、ここを押す。」
萌葱の指示に従い、ヘッドセットを引き出す。
ピッと音を立てて無線特有の雑音が聞こえる。
ドアの外へ出ると「聞こえる」と囁いた。
「聞こえるよ!萌葱!」
皆の興奮した声がはっきりと聞こえた。
玄関のシューズボックスには、それぞれのパーソナルカラーのシューズが置かれている。
足を入れるとプシュと音を立てて、全体が一回り大きく膨らみ、靴底が更に一回広がった。
「空気で寒気を遮断する仕組みたい、それにかんじきの役割もあるのね、ハイテクだわ。」
自分の足にぴったりとフィットし、靴底のクッションの快適さに感動する夜花子。
最後に鋲の付いた手袋をはめると、指先に温もりを感じる。
マフラーで顔を半分隠して外に出る。
僅かに露出している肌に、寒気が突き刺さるように感じる。
上を見上げると、抜けるような青空と調光バイザーを通しても眩しい太陽の光に目を細める。
少女達は一斉に大雪原に駆け出す。
足元を確認するように飛び跳ねる。
そして、合図したでもなく自然と組手を始める。
雪がクッションになる事を覚え、派手に投げ飛ばし、雪上に叩きつける。
やがて、疲れて雪上に円を描くように寝転んだ。
「北海道!サイコー!」
茜が大声で叫ぶと、皆で「サイコー!」と叫んで大笑いを始めた。
「おーい!昼食が出来たぞー!」
「ハーイ!」
空腹の少女達は跳ね起きると、山荘に向かって全速で駆け出した。




