第118話 ドリームランド編⑦ 大いなるものと六花
「何故A・D・M・S[アンチ・ダーク・マター・シールド]を所持してますかぁ?文明レベルと嚙み合ってないでぇす!」
「想像力でち!想像力は無限でち!こうちたい!こうあってほちい!
そう想像しちながら数式魔法を計算すると答えが導き出されるでち!
でも白菫花に同じ効果があったのはビックリでち。」
(この娘の思考の源は何ですか?
もしかしてアカシックレコードに繋がっているのですかぁ?
人がそんな事をすれば情報過多でパンクするはずでぇす。
・・・でも、もしそうだとするとでぇす。
この娘の想像力は神の創造力に匹敵するでぇす。)
無邪気に笑う桔梗をじっと見つめ、本気で脳を調べようかと思い始めた。
「ゼヒレーテ、目が怖いよ。」
指で目尻を下げているロッガーロボを見ると思わず吹き出し我に返った。
ロッガーロボはドリームランドのA・D・M・Sを突破すると、迎撃ドローンに補足される前にレン村に瞬間転移し子供を帰す。
その後、高速移動で瞬時にカダス城塞都市に到着すると合体を解除し、城門と思われる見慣れた門の前に立った。
空から一瞬だけ見た城塞都市は一辺が100m程の石壁で六芒星の形で囲まれ、100万人以上が住む街に到底見えなかった。
「なんで雷門?」
夜花子がアゴに人差し指を当て首を傾げる。
あざとい仕草を姉妹達は真似をした。
「あなた達にはそう見えるのねぇ。フンフン。」
「見え方が変わるんですか?」
「そうねぇ、まずは「大いなるもの」について説明するでぇす。」
大いなるものとは星に仕える大地の神々を指し、同じくこの宇宙で生まれた四大霊ほどの力を持たない。
始祖星母が撒いた生命の種を星母と共に育て、見守り、導く役目を負っていたが、外なる神の襲来によりドリームランドで保護され現在に至る。
神という導き手を失った星の多くは破滅や衰退に陥り、外なる神に与した星は邪な進化を遂げる。
その現状に大いなるものは嘆き悲しみ、外なる神に消えることの無い憎悪を持った。
「大地の神は星における担当が決まっているでぇす。
例えば地、海、大気、太陽、月、光、闇等々細かく分類されているでぇす。縦割り管理なので横の連携が弱いでぇす。」
「日本のお役所みたい。」
「そうなんですねぇ珊瑚。まあ時々担当違いで揉めたりするけど概ね仲良く星を育てていたでぇす。」
「宇宙中の星の神を集めると凄い数になりそう。」
「ふふ、そう思うでぇすか蒼。実はでぇすね・・・この宇宙で地の神は一柱づつしかいないでぇす。同様に海や大気の神も一柱づつでぇす。」
「えっ?どうやって?光年単位の距離ですよね?」
「神は同時にどの星にも存在できるでぇす。
大地の神々がここに避難する前は例え呼び名が違えど、星の子供達はそれを理解していたでぇす。
ですが神が不在となり宗教が興ると、それぞれの教義に都合よく改変されていったでぇす。
あなた達が信奉する仏もでぇす。」
「別に信じちゃいないけどな!」
「あらそうなの茜、まあこの先は自分達の目で確かめるでぇす。」
一行が雷門を抜けると風景が一変する。
果てしなく広がる緑豊かな草原、彼方に青く浮かび上がる山並み。
空は天に抜けるように青く澄み切っている。
その空を2頭の天馬が翼を羽ばたかせながら優雅に舞い飛び、七色に輝く極彩色の極楽鳥の群れが後に続く。
地上では白馬と黒馬の群れが草を食み、こちらに気付いた白馬が嘶き近づいてくる。
最初白馬はカッポカッポと機嫌が良さそうな足取りだったが、突如一角を突き出しギャロップをしてきた。
「あいつは処女厨の厄介モノでぇす。非処女に容赦ないでぇす。
非処女をあの角で串刺しにすることを使命にしてるでぇす。」
ゼヒレーテはやれやれと肩をすくめる。
すると突然一角獣の罵声のような念話が聞こえてきた。
(ビッチ!絶許!串刺し!排除!殲滅!)
どうやら一角獣は六花の皆殺しを企んでいることが分かった。
「あいつと話し合い必要?」
「殺さない程度に好きにしていいでぇす。」
萌葱の冷めた声に応えるように半殺しの許可を出すと、一角獣を見て呆れた溜息をついた。
一角獣は飛び上がると角を萌葱目がけて突き出す。
萌葱は避けることなく腕を伸ばすと角を掴んだ。
「初めては合意の無い無理やりだったの。私が悪い?」
(非処女!罪!弁解!無駄!死!死!)
「分かった。聞く耳なしということね。」
萌葱は腕を振って一角獣を投げ飛ばす。
角が根本からポキリと折れて10m程宙を飛び背中から落ちた。
(ビッチ!汚物!用無!呪!死!)
よろよろと立ち上がると振り向き捨て台詞を吐き捨てた。
「忘れ物よ。」
萌葱は手にした角をスナップだけで軽く投げ返す。
角の根本が一角獣の尻穴に30cmほどめり込むと「ブヒヒィィン!」と
絶叫を上げて群れの中に逃げ帰っていく。
その姿を冷めた目で見送った。
次に2本角も黒馬の群れが近づき、萌葱の前で恭しく頭を下げ前足を折り跪いた。
(お見事ですレディ!どうぞ私の背にお乗りください!)
「その子はバイコーンでぇす。
酸いも甘いも嚙み分けた女性を好むでぇす。とてもいい子でぇす。」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
女性だけを乗せたバイコーンが草原を疾走する。
その走りは乗り手に負担を与えないとても紳士的なものだった。
その後を狼化した狼牙が気持ち良さそうに追いかけている。
体高2mを超える漆黒の狼にバイコーン達は内心冷や冷やとしていた。
「とても快適!あなたがお馬さんでなかったら惚れてたかも。」
珊瑚がお世辞まじりの礼をバイコーンに告げた。
(お褒めの言葉をとても光栄に思います。
私は恋愛対象に種族を問いません。如何でしょう?
今晩刺激的な夜を二人で過ごしませんか?
貴女様ならばきっと気に入ってくれると確信いたしますが。)
「ごめんね、後ろの狼は私達の旦那様なのよ。
流石に旦那様の前で愛し合う事はできないわ。」
珊瑚の話しが聞こえていたかのように狼牙が遠吠えを上げる。
バイコーン達の足取りが目に見えて早まった。
バイコーンは大地の神々の住まう村に着くと、六花達を降ろし早々に立ち去っていく。
狼牙はそれを見送ると狼化を解き人の姿に戻った。
「妬いてくれたのかしら?」
夜花子が狼牙をからかうと「そうだ!」とはっきり告げられ、逆に真っ赤になりモジモジし始める。
六花は黙って狼牙の周りに集まり抱き着いた。
「あー、とても歩きづらいんだが。」
六花に纏わりつかれる狼牙が愚痴を漏らすが誰ひとり、離れようとする者はいなかった。
広がる田園、緑なす山々の背に入道雲が立ち上る。
ヒグラシの鳴き声と肌に纏わりつく暑く湿った空気、季節が夏に変わっていた。
流石に暑いと感じた六花が狼牙から離れる。
汗が額を流れる。
10分程歩くと田んぼで幾人かの人影を見つけ近づき声を掛けた。
「こんにちは!」
狼牙が声を掛け振り向いた顔を見て茜が叫んだ。
「お釈迦様がいる!」
普段から仏壇を拝んでいる茜は釈迦の顔を覚えていた。
「ほう?あなた方には私がそのような存在に見えるのですか。
それはとても興味深いことです。
して、異界の夢見人が何用ですかな?」
釈迦は背筋を伸ばすと腰をトントンと叩いた。
▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽
六花達は釈迦に案内され寺院大本堂に通される。
黄金で装飾された室内は絢爛豪華であり、どこかで見た事のある風景を思わせる。
やがて主要な仏や明王が集まり大本堂が埋め尽くされた。
「さて、私達に願いがあるとの事ですが聞かせて貰えますか?」
釈迦の声色は優しく穏やかで心を落ち着かせる。
萌葱は一度深呼吸をすると喋りはじめた。
「私達の恩師2人が実は外なる神の転生者でした。
名を四具祖 空、ナイラー・アトフトと申します。
2人は現在ドリームランドに囚われ、ノーデンスに神格を狙われております。」
名を聞いた大いなるものから大きなざわめきが起こる。
口々に「ヨグ=ソトース」「ナイアーラトテップ」と呟きが洩れ、次第にざわめきに怒りの感情が見えはじめた。
「まあ、待ちなさい。最後まで話しを聞こうではありませんか。」
釈迦は努めて冷静に話すが怒りで語尾が震えていた。
「2人には本当によくしていただきお世話になりました。
私達にとって友、いいえ家族と言ってもさしつかえ無い関係です。
そこで皆さまにお願いがあります。
私達の家族となった四具祖とナイラーの前世での罪を許し、今生を人間として生きていくことをお許し頂きたいのです。
どうかよろしくお願いいたします。」
萌葱が土下座をすると姉妹と狼牙が続けて頭を下げる。
場は一瞬静かになるがすぐに罵声と怒号に包まれた。
「あ奴らの罪を許せだと!あ奴らが今に至るまでどれほどの悪逆非道を尽くしてきたか知った上での発言か?!」
不動明王が片膝を立て床に拳を叩きつけて叫んだ。
「あ奴らが虐殺した生命は兆では済まぬぞ!その生命達の無念は今も私達の心に語りかけてくる!決して許さないとな!」
降三世明王が滂沱の涙を流しながら訴えかけてきた。
「私達はあ奴らの神格が存在する限り永久に許す気は無い!
ノーデンス様が直接手を下していただけるのであれば全面的に支持する!
外なる神抹消するべし!」
孔雀明王の叫びに呼応し如来を除く大いなるものは立ち上がる。
そして足を床にドンドンと打ち付け「抹消するべし!」を叫び続けた。
(みんなー!聞いて!)
初めての人からの念話に驚き沈黙すると突然六花が歌いはじめる。
それは六花と四具祖達が互いを思いやり慈しみあってきた家族の歌であった。
歌詞に合わせて思い出の情景が映画のワンシーンのように次々と浮かび上がる。
喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、そして愛情。
六花の思いをまざまざと見せつけられた心に暖かな小さい光が芽生える。
小さい光は失われた生命達の暗い思いを次々と浄化し大きな光に変えていった。
やがて心の光が大いなるものを包み込む本来の姿へと変貌させる。
それは様々な色に輝く光の玉である。
光の玉に同じ色は存在せずそれぞれが自分の色を持っていた。
「なんと!生命の思いと絆を浄化してしまいおった!」
光輝きながらも辛うじて姿を保持する釈迦が立ち上がり一歩踏み出す。
途端に足の輪郭が崩れ光の粒子に変わった。
「光の神よ、あなた達を縛り付けていた因縁は消え去りました。
長い時間苦しめてしまいごめんなさい。
大いなるものを直接知る生命体は全て始原に戻り、今までの役目はこれにて終了です。
一度ゆっくりとお休みなさい。
またあなた達が必要となる時が訪れるでしょう。
その時はよろしくお願いしますね。」
「おお!始祖星母様!勿体ないお言葉!さすればお言葉に甘えさせていただく所存!またお会いできる事楽しみにしております!」
数多の光玉がゼヒレーテの口に吸い込まれ全て消失した。
全身全霊を込めて歌った六花は精神を極限まで失う。
バタバタと倒れる姿を見たゼヒレーテがアワアワしながら取り乱す。
狼牙が回復を施すが失った精神は戻らず体が透けて見えた。
「ゼヒレーテさん!まさかこれが目的だったのか!」
「違うでぇす!
心のわだかまりを少しでも解して貰えればと思っていたでぇす!
まさか浄化するなんて想定外すぎるでぇす!」
ゼヒレーテの焦りようが演技に見えない。
ひとまずは信じることにした。
「どうしたら元に戻りますか?」
「失った精神は時間を掛けてゆっくり自然回復するでぇす。
しばらくは絶対安静でぇす!」
狼牙はどこからか布団を持ってくると昏睡状態の六花を寝かせる。
穏やかな寝顔を見る狼牙は「夢の世界でも夢を見るのだろうか?」と漠然に思いながら一人づつ頭を撫でて回った。
「あのね狼牙、実はあなた達に話していない事があるでぇす。」
突然ゼヒレーテの告白が始まった。
「実はあなた達の星の生命は私の種ではないでぇす。
ある日突然あの星に芽吹いたでぇす。」




