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六花と槍の物語  作者: hiddenkai
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第117話 ドリームランド編⑥ ムーンビーストと桔梗

一行が船内に侵入するも警報も鳴らず船員も姿を現さない。

生体検知を行うと確かに複数の生命反応を感じた。


「中央に集まっているわね。」


「人数が分からないよ固まりすぎ。」


夜花子と珊瑚がおおよその位置を把握した。


「さあ行くよ!みんな何をみても動揺しないこと!

初対面の印象が大事!はい!口角上げて!ニー!」


「萌葱ちゃん、目が笑ってないでち。」


「エッ!本当?!」


桔梗に指摘され指で目尻を下げた。


ノックをするが返事がない。

意を決して珊瑚がドアノブを捻る。


結局目尻の下がらない萌葱に変わり、珊瑚がファーストコンタクト役を請け負った。


「こんにちわー!」


パパ活で鍛えた営業スマイルで室内を覗き込み瞬時に固まった。


「どうしたん珊瑚?」


蒼が肩越しにヒョコッと顔を出し固まる。

その後夜花子も覗き込み固まった。


「どうしたでち?」


珊瑚の股下から顔を出した桔梗が瞬時に発狂した。


「ギャアアアアー!」


突然叫んだ桔梗が四つん這いのまま物凄い勢いで這い出す。

バランスを崩した珊瑚は桔梗の背中にしがみ付いたまま運ばれる。

桔梗は群れて固まるムーンビーストの前で顔を蕩けさせた。


「ウサギさん!こんにちは!でち!あたち桔梗でち!仲良くしてねでち!怖くないでちよ~♡」


桔梗の豹変に先に戯れていたレン人の子供がドン引きして後ずさった。


「あらあらやっぱり支配されましたでぇす。」


満面の笑みを浮かべたゼヒレーテがムーンビーストの1人を抱き上げ頬ずりをした。


「むきぃぃぃ♡」


奇声を上げながら両手一杯にムーンビーストを抱き上げ顔を埋める。

スーハースーハーと息を吸い込みプルプルと身震いをはじめた。


「このウサギ達がムーンビーストなんですか?

ちっとも醜悪じゃないですよ。むしろ可愛いすぎます。」


「そうですよ夜花子。とても可愛らしいでぇす。

だからパパさんにいっぱい命乞いしたでぇす。」


「どうして醜悪な姿で強欲で我儘なんて言ったんですか?

人を支配する部分は共感しますけど。」


夜花子はムーンビースト抱き背中を撫でながら目尻を下げた。


「外なる神の宇宙では醜悪な生き物とされているでぇす。

この子達はその事でとても苦しんでいたでぇす。

外なる神が戦いに敗れた時彼らは捨て置かれましたでぇす。」


「そうなんですか、こんなに可愛いのにねぇ♡」


「種族によって価値観は様々でぇす。

そのことはよく覚えておいてくださいねぇ。」


「それで強欲で傲慢とは?」


「私達の愛情を独り占めして当たり前って顔をしているでぇす。」


「ごもっとも。」


2人は愛情たっぷりでムーンビーストを愛でた。


「きゃあ♡きゃあ♡」


六花の黄色い声が船内に響き渡る。

狼牙は1人ムーンビーストから離れて女性陣を見ていた。


「狼牙さんが近づくとこの子達が怖がるからそこに居てくださいでち!」


ムーンビースト達は本能で狼牙を捕食者と感じ、怯えて決して近づかない。

それを察した桔梗は狼牙の接近を禁じる。


子供と一緒に思う存分ムーンビーストを愛でているうちに、宙船は月に到着した。


ハッチが開くとそこには数えきれない数のムーンビーストが待ち構えている。

体中にムーンビーストを纏わりつかせた桔梗が再び発狂した。


「ここは天国でちか?!この世の楽園でち!」


ピョンと跳ね上がるとモフモフの群れにダイブする。

ムーンビースト同士が状況の説明をする仕草に狂喜した。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


「嫌でち!ここは天国でち!あたちは帰りたくないでち!ここに永住するでち!」


モフモフの山の中から顔だけ出した桔梗が帰還意見に猛反対する。

宙船を飛ばすことは可能だが月に一度だけ開かれるアンビリカブルケーブルは閉じられてしまい来月迄開かれることはない。


月はムーンビーストの牢獄でもあった。


「合体すれば帰れるかもしれないでしょう?桔梗お願いだから言う事を聞いて。」


萌葱が説得を始めるとモフモフの山の中に顔を隠してしまった。


茜「何で桔梗の周りにウサギ集まるんだ!」


蒼「もしかして体臭かしら?」


珊瑚「ああ、前に満員電車でオジサン達に寄り付かれたね。」


夜花子「ウサギと人間じゃ違くない?」


蒼「ウサギはとても性欲が強くて人間同様に死ぬまで発情するそうね。」


珊瑚「もしかして発情してる?求愛対象なの?」


夜花子「この子は雌かしらね。大人しいわ。」


抱いているムーンビーストは腹を見せすっかり懐いている。

半数近いムーンビーストは桔梗に興味を見せずに五花とゼヒレーテの足の周りを飛び跳ねていた。


「ゼヒレーテ、この子達と意思疎通はできないの?」


「萌葱それがですねぇ、私も何度か試しているのでぇすが感情レベルの共感しかできないでぇす。

好き、嫌い、お腹空いたとかが何となく分かる程度でぇす。

ちなみにあの山からは猛烈に好きが発せられているでぇす。」


「やっぱり求愛対象ですか・・・」


2人はもそもそと動くもふもふの山を見て苦笑いを浮かべた。


船内に何かを告げるアナウンスが流れる。

聞いたことも無い聞き取ることもできない言語らしきアナウンスに反応してムーンビースト達が一斉に移動を始めた。


もふもふの山も崩れ去り恍惚とした桔梗が体をピクピクと痙攣させながら取り残されていた。


「おい桔梗、大丈夫かよ。」


茜が桔梗を抱き起こそうとして触れるとギョッとして手を引っ込めた。


「こいつ犯されてるぞ!」


よくよく観察すると透明の液体まみれで全身がヌラヌラとしていた。


「おう!たいへんねぇ!」


ゼヒレーテが急ぎ手をかざすと桔梗の体が水玉に包まれる。

水玉はすぐに消え、ヌラヌラも消失していた。


「何をしたんですか?」


「洗浄をしたでぇす。体と衣服の汚れを除去したねぇ。」


「わっ!凄い便利な魔法!教えてください!」


「いいよ萌葱。生活魔法全般を教えてあげるでぇす。

これを覚えれば家事手抜きし放題でぇす!」

五花は桔梗そっちのけで盛り上がりはじめた。


「・・・まったく。おい桔梗起きろ。」


狼牙が桔梗を抱き起こし覚醒を促す。

目をパッチリと開くと大量の涙を零し、鼻水を垂れ流した。


「どうしたそんなに辛い目にあったのか?」


「えっ?なんのことでち?あたちの天国はどこ?」


「混乱しているのは無理もない。

あれだけたくさんのウサギに弄ばれたんだからな。」


「弄ばれた?誰がでちか?」


「桔梗、可哀そうにな。」


狼牙は桔梗をきつく抱きしめ頭を撫でた。


「狼牙さん誤解でち。あたちがお願いしたでち。」


「ええっ?!」


「ウサギさんチンチンが大きくなって辛そうだったでち。

だからあたちで抜いてってお願いしたでち。

そしたら体にチンチン擦り付けてきたでち。

手とお口とオチャンコとお尻だけだと足りないでち。

ちっちゃいチンチンだから目と鼻と耳も使ったでち。

全身愛されて気持ちよかったでち~♡」


狼牙は告白する桔梗の耳から透明の液体が流れ落ちるのを見た。


「ムーンビーストの精液って透明なんですね。」


「蒼それには訳がありまぁす。

彼らはとても繫殖力が強く、放っておくと無限に増殖するでぇす。

外なる神の奉仕種族とあってとても長命でぇす。

なので無暗に増殖しないよう雄はすべて無精子症にしたでぇす。

仔が必要な時は雌に人口受精するでぇす。」


「なんか可哀そうな気がする。」


「珊瑚、実はこれには深いわけがありまぁす。

月に幽閉した後しばらくの間、定量の食事だけ与えて放置したでぇす。

そうしたら爆発的に増殖して食料が不足したでぇす。

飢えた彼らは共食いを始め酷い有様になったでぇす。」


「そうだったんですね。何も知らずにごめんなさい。」


「気にしないでくださぁい。確かに可哀そうな事をしているでぇす。

できれば星の上で生きさせてあげたいねぇ。」


「お待たせしたでち。」


耳の掃除を終えた珊瑚が萌葱と夜花子に付き添われて現れる。

一行はムーンビーストが向かった場所を目指した。


「ああ、食事の時間だったのね。」


訪れた部屋は食堂で、ムーンビーストがペレットをカリカリと齧っている姿が見える。

運び込まれた野菜類は全て固形食料にされ配食されていた。


「か、かわいいでちぃ~♡」


小さな手でペレットを持つ姿に思わず癒された一行であった。


「お姉さん達これからどうするの?帰らないの?」


好奇心いっぱいで無謀な冒険に出たものの、やはり子供であり次第に心細さが増して元気を失っていた。


「ん~帰りたいのはやまやまだけど、ひとりここに残りたい子がいてね。

説得に応じてくれなくて困っているの。」


珊瑚が子供に説明しながらまたもやモフモフの山になろうとしている桔梗を見た。


「ねえ、あなたがあのお姉ちゃんを説得してくれない。」


「・・・分かった。やってみる。」


子供はムーンビーストから逃げ回る桔梗を追いかけはじめた。


「本気だしゃ余裕で逃げ切れるのに遊んでんな桔梗!」


桔梗はムーンビーストと追いかけっこを楽しんでいる。

一定の距離を保ちつつ、きゃあきゃあと叫びながら逃げ回っていた。


「お姉さん待ってよう!」


「ダメでち、止まったらまた集団で襲われるでち。

気持ちいいけど萌葱ちゃんに怒られるからもうしないでち。」


「だったらもう帰ろうよ!帰ればムーンビーストに追いかけられないよ!」


「でも可愛いから帰りたくないでち。」


「可愛いけどもう触れないんだよ!その方が辛くない?!」


「そう言えばそうでちね。」


「それにお姉さんは夢見人なんでしょう!

夢見人は果たさなければならない使命があるってお父さんから聞いたことがある!

使命を果たさなくていいの?!」


「ダメでち!あたちには宇宙を救う使命があったでち!」


桔梗は子供の手を掴むとひらりと舞い上がり宙に浮かびあがる。

その足元で目を血走らせたムーンビースト♂達が飛び跳ねていた。


「さあ!みんな行くでち!宇宙があたち達を待っているでち!」


「全く、調子がいいんだから。」


夜花子の呟きに皆が同意の頷きをする。

抱いていたムーンビーストを静かに降ろし「またね」と囁く。

ムーンビーストはコクコクと頷いた。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


月は失った太陽の代わりにフォトンを放出し続ける人工太陽である。

フォトンはダークマターの干渉を受けずにドリームランドを照らす。

ドリームランドに暮らす人々の生活サイクルを支える重要な建造物であり、それ故に強固な防衛手段を備えていた。


地表面は厚さ10kmのフォトン放射装甲に覆われ、上空500kmにA・D・M・S(対ダークマター・シールド)を常時展開し、外なる神の攻撃にも耐える。

また多数の自律式ドローン兵器がA・D・M・S内に侵入した外敵の迎撃を行う。

ロッガーロボは今まさに天使型ドローンの襲撃を受けていた。


狼牙「数が多すぎる!白が8分で黒が2分!全天がドローンでいっぱいだ!」


既に空は宇宙の黒さに変化し光輝くドローンを際立たせていた。


萌葱「ゼヒレーテ!本当に壊しちゃっていいの?!」


ゼヒレーテ「構いませぇん!既に70億年前のポンコツでぇす!」


蒼「凄い!それだけ経っていても稼働するなんて!」


珊瑚「感心してる場合じゃないでしょ!盾で受ける!」


無数に見えるフォトンビームが大きく広がった盾に阻まれ、瞬く間に全て吸収された。


桔梗「あの位のビームなら体に当たってもエネルギー転換するでち。」


夜花子「なら中央突破しちゃいましょう!」


狼牙「行くぞー!ウォリャアアアー!」


一気に亜光速まで達すると群れるドローンの雲に風穴を空ける。

ロッガーロボの発する力場圏内のドローンは瞬時にマクロ単位に崩壊し、発生したエネルギーは吸収される。

傍から見ると消滅したようにしか見えなかった。


A・D・M・Sに突入したタイミングで白菫花を発動し絶対防壁を展開する。

ダークマターが防壁を侵食することはなかった。


「これはどういう事ですかぁ?!私の出番がないでぇす!」


ゼヒレーテは個人携帯型A・D・M・Sを所持しており、それを使う機会を密かに待ちわびていたのだった。

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