第115話 ドリームランド編④ 狼牙、始祖星母と対話する
ペントハウスからの眺望にガッカリし、興奮が冷めた六花は空腹をなことに気付き腹のムシを鳴らせはじめる。
一行は早速ベルボーイに聞いた99階レストランを訪れた。
「これはフードレプリケーターといいまぁす。食べたい物を注文してくださぁい。ちなみに無料でぇす。」
「何個でも頼んでいいのか?!」
「いいですよぉ茜。但しお残しは厳禁でぇす。」
「うん!わかった!」
茜が早速「カツ丼」を注文すると機器内に青い光線が高速で走り、SF映画で見た3Dプリンターのようにカツ丼が生成された。
「・・・これ、食えるのか?」
出来上がりは茜が理想とするカツ丼であり、湯気が立ちのぼり良い匂いが漂ってくる。
しかし生成場面を見た後ではおおよそ食べ物に見えなかった。
「食べてみればわかりまぁす。何事も経験でぇす。」
茜は渋々カツ丼を取り出しテーブルへ向かう。
9台あるフードレプリケーターでそれぞれが注文を生成し終えると茜の座ったテーブルに集まった。
「それではいただきまぁす。」
皆が手を出すのを渋るなか桔梗が注文した「鶏の唐揚げ甘酢マヨネーズ丼」を掻き込み始める。
皆の視線を集めながらカッカッカッと3口ほど頬張る。
ハムスターのように頬を膨らませモグモグと動かす口が止まると困ったような顔をして首を捻る。
そして水を含むと胃に流し込んだ。
「たちかに食べ物でち。普通においちいでち。でもなんか変でち。食べ物の偽物?でちか?」
桔梗の感想に興味を覚えた皆が恐る恐る料理を口に運び同じ感想に至った。
「桔梗よい感想でぇす。そうこれは原子から料理を構成した偽物でぇす。だからといって毒ではありませぇん。
余分な原子を排除し脂質増加を押さえ血液をサラサラにし免疫強化もしてくれる優れた食品でぇす。
でも不思議ですね、体に害を与えるモノを取り除くと、どうしてこんなにも味気なくなるのでしょうねぇ。」
ゼヒレーテは蕎麦を箸で摘まみツユに3度浸すと豪快に音を立てて啜った。
エネルギー補給のような食事を終え部屋に戻る。
六花はシャワーを浴びるとすぐにベッドに潜り込み寝息を立てた。
「話をしてもいいですか?」
狼牙は窓際で寛ぐゼヒレーテの向かいに座り語りかけた。
「どうぞでぇす。待ってましたでぇす。」
萌葱と瓜二つの顔をしているが滲みだす雰囲気は、悠久の時を経た自然そのものに感じた。
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「率直にお聞きします。彼女達に何をさせる気ですか?」
「何かをさせる気はありませぇん。全ては六花次第でぇす。」
「先ほど「大いなるものども」との和解を依頼していましたが?」
「あれは解決への最適解でぇす。他にも方法はありますがお薦めできませぇん。」
「それはどのような方法ですか?」
「・・・神殺しでぇす。」
「?!・・・神を殺せるんですか?」
「できまぁす。現に1柱抹消してまぁす。」
「情報共有されていませんし・・・本当ですか?」
「あなた達の次元レベルでの記憶・記録は全て抹消されたでぇす。
ですがアカシックレコードの記録を削除することはできないでぇす。」
ゼヒレーテは足を組み変えニコリとほほ笑む。
その仕草ひとつが雲が流れる風景を連想させた。
「狼牙は神をどのような存在と思うでぇすか?」
「・・・俺達の世界に神は存在していませんでしたが、色々と聞いた話をまとめると、この宇宙の創造主であり絶大な力を持つ不老不死の超越者でしょうか。」
「概ねその通りでぇす。神はこの宇宙を創造し生命を生み出し全てに平等な生と死と愛を与えまぁす。
神は肉体を持たない高次元生命体であり不老不死、そして宇宙の事象すら自在に操る事ができるのでぇす。」
想像以上の答えに狼牙の頬がヒクついた。
「全ての物質を構成する源がクォークである事を知ってますねぇ。
高次元生命体は次元が高くなるほどフォトンに近づいていきまぁす。
なのでクォークで構成された肉体を維持できなくなるでぇす。
フォトン体になると自分が意識しなければ人から視認される事も無く、どの場所、どの時間にも存在するようになるのでぇす。
外なる神の主神4柱はそのレベルにいまぁす。
ヨグソとナイラーはその内の2柱でぇす。」
「ええ?!」
とんでもない事実を聞かされた狼牙は驚くことしかできなかった。
「六花が抹消したのは「下級の外なる神」でぇす。
それでも神に違いありませぇん。
さて、どうしたら神を殺せるか説明するでぇす。」
覗き込むように見つめられた狼牙の動悸が恐怖で早くなった。
「この宇宙の神はフォトンに神格を記録し概念として存在するでぇす。
目に見える時は粒子化し見えない時は電磁波化していまぁす。
なので粒子化している時に反粒子をぶつけられると対消滅を起こし存在を抹消されてしまうのでぇす。
でもそうなる前に電磁波化したり次元転移して逃げまぁす。」
「しかし、そうすると何故彼女達が神殺しをできたのか、ますます疑わしくなりますが。」
「そこなんでぇす!フォトン体の透過阻止や次元転移を防ぐ手段なんて聞いたことがないでぇす!どうしたら電磁波化を止めることができるのでぇすか?!」
「ええ?!俺が聞きたいです!」
「そこでアカシックレコードを調べていくうちに「死神」という概念に辿り着きましたでぇす。
彼らはあらゆるモノに死をもたらす神とありますが、それ以上の記録は無く私達の眷属でもないでぇす。
多分、私達の知らない間に偶然に誕生したでぇす。
偶然に誕生したのであればそれは六花であると私は思うでぇす。」
狼牙はクークーと可愛い寝息を立てる六花を見て「あれが?」と、俄かには信じられず首を振った。
「六花は「下級の外なる神」の構成クォークであるダークマターの反粒子を用いて対消滅させた以外に考えられないでぇす。」
狼牙はいつの間にかソファーの上で正座をし背筋を伸ばしていた。
「暗黒物質とかいうやつですよね?宇宙の8割を占めているとか。」
「そうでぇす。宇宙の開闢時、ダークマターは存在しませんでしたぁ。
元々この宇宙はフォトン溢れる光の宇宙でぇす。
ダークマターは外なる神によって持ち込まれたでぇす。
この宇宙と外なる神について話しをするでぇす。」
「お願いします!」
神に宇宙について話を聞けるなど考えていなかった狼牙の好奇心が頂点まで高まった。
「ビッグバンから80億年位の宇宙はフォトンで満たされていて、生命の誕生と繁栄が盛んな時期だったでぇす。
その頃ですねぇ外なる神が訪れたでぇす。
初め彼らはこの星に奇襲をしてきたでぇす。
でもあの頃のパパさんバリバリの現役で、星辰天軍を従えて4柱相手に互角に戦ったでぇす。
かっこよかったでぇす。」
一瞬遠い目をしたゼヒレーテだったが直ぐに帰ってきた。
「その時の戦いでダークマターが発生したでぇす。
ダークマターはクォークを結び付ける真空力場を消失させ、原子崩壊を誘発し全ての物質を消滅させたでぇす。
以前はこの星の周りに銀河があったのですが全て消滅したでぇす。」
狼牙は銀河を消滅させた規模の崩壊を聞きグビリと喉を鳴らした。
「崩壊の速度は光速を超え今も宇宙に広がり続けているでぇす。
いずれ宇宙全体が真空崩壊に巻き込まれ、この次元の宇宙は終焉を迎えるでぇす。」
宇宙の最期を聞いた狼牙は酷く後悔をしたが、「あと100億年後位」と聞いてホッと安堵した。
「狼牙?あなたに寿命は無いでぇす。不老不死になったことを忘れましたかでぇす。」
「そうだった!」
狼牙は頭を抱えて蹲った。
「この星の周りは対ダークマターシールドで覆われていてダークマターを無力化しているでぇす。
いずれあなた方がこれを発明すれば滅びずに済みまぁす。」
「技術提供して貰えないのですか?!」
「設計図を渡してもチンプンカンプンでぇす。
この技術は同程度の科学力がないと理解できないでぇす。」
狼牙は思わず桔梗を見ると両手を合わせて拝み込んだ。
「残念ですがこの宇宙は終焉を迎えるでぇす。
原因はダークマターの予想以上の増殖拡散もありますが文明の短命さもあるでぇす。
しょっちゅう他文明同志で争って共倒れしていたら文明は進歩しないでぇす。
一番先を進んでいる文明でさえ間に合わないと予測しているでぇす。」
そこでふと狼牙は気づく、ゼヒレーテが六花に望んでいた事を。
「宇宙の終焉は様々ですが、終焉を迎えた後はこの宇宙の次元の終着点にいる高次元体が新たなる宇宙を創造するでぇす。
ノーデンスもそのうちの一人でぇす。
パパさんは終焉を迎えたこの宇宙を破壊し再度創造するでしょう。
その時が私の最期になりまぁす。
私は初まりの星の母として再び生まれ変わるでぇす。
そして一からやり直しでぇす。」
この宇宙に生命を産み落とした母の悲哀が伝わってくる。
そうゼヒレーテはこの宇宙全生命体の母であった。
「そうならないように先入観を捨て相手を知り手を携え共に生きる。」
「おう!その通りでぇす狼牙!流石私が見込んだ六花の旦那さんでぇす!」
ガシッと狼牙の手を握るとブンブンと振り喜びを表した。
「ここからは私の憶測ですが、他の宇宙からの来訪者は知らずに何かしらの使命を持たされて訪れているのではないか?と思うでぇす。」
キリッと表情を引き締めて座り直す。
「例えば同じ遺伝子しか持たない種族が、ひとつの病原菌で全滅を防ぐ為に多種多様の遺伝子を取り込みまぁす。
同じことを私達より更に高位の者達がさせようとしているのではないかと思うのでぇす。」
「宇宙単位の遺伝子融合ですか。」
途方もなくスケールの大きい話に狼牙の思考がフル回転をする。
「マクロな視点でみればこの宇宙も単一の遺伝子でぇす。
そこに外の宇宙からの遺伝子が入り込めばより強固な遺伝子が誕生するでぇす。
それこそビッグクランチに耐えることができる遺伝子を持った生命体でぇす。
彼らとの戦いの後に発生したブラックマターも人でいうところの、外から持ち込まれた病原菌と考えたらどうでしょうかねぇ。」
「なるほど理にかなってますね。」
ゼヒレーテは今迄明かすことのできなかった思いを打ち明け興奮していた。
「外なる神を知ることで、いずれ訪れる宇宙の終焉を回避できる方法が見つかるのではないかと思うのでぇす。
パパさんは自分の作った宇宙を愛しすぎてしまい、外なる神を敵視しすぎて和解するなど到底できないでぇす。」
「彼女らにそれができると信じている?」
ゼヒレーテは力強く頷いた。
「根拠はありませんが、六花はいずれ私達を超える高次元生命体に進化する可能性を秘めていると、星母のカンが告げているでぇす。
どうか六花に和解の仲介をしてもらいたいでぇす。
願わくばこの宇宙の全生命がより長く生きられるための礎となって貰いたいと私は節に思いまぁす。」
「ゼヒレーテやるよ!私全宇宙の兄弟の為に頑張る!」
突然萌葱が起き出し声を上げた。
「そっかぁ!地球だけでなくて全宇宙が皆兄弟だったんだな!」
茜がベッドの上でピョンピョンと跳ねた。
「途方もないスケールの話だけど何故か信じられます。」
座禅をしていた夜花子の右手が口元に上がりアルカイックスマイルを見せた。
「神様や異星人も私の歌と踊りで虜にしてみせるわ!」
珊瑚がキメポーズを作った。
「外なる神とダークマターとビック・クランチ!本にしたら著名作家になれるかしら!」
蒼が伊達メガネをクイッと上げた。
「あたちガンバってダークマターシールドを作るでち!」
桔梗は早速ゼヒレーテの元に駆け寄りダークマターの特性の質問を始めた。
「こいつら狸寝入りしてやがったのか。」
まんまと騙された狼牙は苦笑いを浮かべて六花を見ていた。




