第114話 ドリームランド編③ ゼヒレーテからの課題
「ここは良い所だなぁ~」
「その意見に賛成ですぅ~」
四具祖とナイラーはソナ=ニルの海辺で南国リゾートを満喫している。
青い空、白い雲、透き通る海、珊瑚の砂浜にゴザを敷き果物酒を飲みながら日がな一日を自堕落に過ごしていた。
この地に保護されて既に30回の朝を数える。
今のところノーデンスの刺客との接触は無い。
クタニド曰く「結界に阻まれて見つけ出すことが出来ずにいる」ということだった。
「もうこのままでいいかもしれんなぁ~」
「そうですねぇ~」
ここはドリームランド南方の地。時も苦も死も存在しない夢幻の楽園。
人の身である2人には正に天国であった。
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一方、父ノーデンスから命を受けたオスカルト・エィロワ・アダイドゥ・アリトライ=ティイの「安定と秩序の四巨神」は、2人の行方を追って地底世界を訪れていた。
「へえ、確かに夢見人でやんした。ちっこいのにあっしの腕を折りやがりましてこの様でやんす。
あいつら「白い帆船」に乗り込み逃げていきやした。へい。」
2人に接触したガグから話しを聞きオスカルトは頭を抱えた。
(母上が一枚嚙んでいるなぁこれは・・・。)
「オスカルト、白い帆船と言えばあの方だよな?ゼヒレーテ様と親交の厚い星母の・・・」
「言うなエィロワ!それ以上聞きたくない!」
オスカルトは手を差し伸ばしその先を遮った。
「とにかく潜伏先の検討がついたんだ行くだけ行ってみよう。」
「南方はいいところだよねぇ・・・入れればの話だけど。」
アダイドゥとアリトライ=ティイに肩を叩かれ、オスカルトは重い足を引き摺るように踏み出した。
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「ここは北方のレン高原でぇす。
彼方に見える黒い山はカダスといいまぁす。
あそこの山頂に「大いなるものども」と呼ばれる星々の神達が住む縞瑪瑙の城塞都市がありまぁす。」
「そこに空爺ちゃんがいるんだな?!」
「いいえ!いませぇん!」
ゼヒレーテは悪気なくあっけらかんと答えた。
見渡す限りの灰色の荒涼とした砂地。
空は鈍色に濁りとても低く圧迫感を感じさせる。
空気は冷たく乾燥し身を切るような風が絶えず吹いていた。
「ちょっと!それじゃなんでここに来たの?!」
「珊瑚、私の話を聞いてくださぁい!」
口に人差し指をあてて沈黙を示した。
「パパさんの他にもヨグソを危険視する勢力はちょっぴりいまぁす。
その一大勢力が「大いなるものども」でぇす。
彼らはヨグ=ソトースとナイアーラトテップにそれはそれは酷い目に合いまぁしぃた。
その恨み辛みを忘れることはないでしょぅ。
そこででぇす!あなた達に彼らとの和解をお願いしたいのでぇす!」
「えーとっそれは可能なの?」
「わかりませぇん!全てはあなた達次第でぇす!」
萌葱の質問に気軽に返すゼヒレーテだったが、口調とは裏腹に目は真剣そのものだった。
「和解できない場合どうなりますか?」
「蒼!いい質問ね!その場合ヨグソ達は二度と現実世界に帰ることができなくなりまぁす!「大いなるものども」の1人ヒュプノスの催眠は神でさえ解除は不可能でぇす!死ねば解除されますねどねぇ!」
「ならよそいつブッ飛ばして解除させればいいんじゃね!」
「茜!脳筋思考は止めてくださぁい!そんな事するとあなた達が恨みを買って永久にここの住民になりまぁす!」
「次元転移すればよくない?」
「珊瑚!この星の周囲は真の真空状態でぇす!時空さえ存在できませぇん!故に外からの侵入及び外への脱出は不可能でぇす!」
「うーん・・・それほどの恨みをかっているとして、どうしたら和解できますか?」
「夜花子!ヒントを上げまぁす!「大いなるものども」には地球の神もいまぁす。まずは彼らとお友達になるのはどうでしょうかぁね。」
「ラブ&ピースでちね!いっぱいラブをあげればいいでち!」
「桔梗!ナイスでぇす!彼らはとても傷付いていまぁす!いっぱい慰めてあげてくださぁい!狼牙!女神はあなたに任せまぁす!」
「いっ?!女神?!神様の相手とかできるのか?」
「心配ありませぇん!心と心を通わせる。これがキモでぇす!」
「よし!桔梗のラブ&ピース作戦で行こう!みんなありったけの愛をばら撒くよ!」
「萌葱!その意気ね!期待してまぁす!」
皆で右手を振り上げて気合を入れる姿を見たゼヒレーテは宙母の笑みを浮かべる。
その笑みは限りない慈愛にみちた笑みであった。
「何か来るぞ!」
接近者の気配にいち早く気付いた茜が声を上げる。
指差す方向にかなり大きい生物の影が見えた。
「ここの住民でぇす。試しに話しをしてみたらどうですかぁ。」
「攻撃的でないですか?」
「萌葱、それは自分自身で確かめるのがいいでぇす。」
異形とのファーストコンタクトに良い思い出のない萌葱は、何時の頃からか敵対視するようになりそれをゼヒレーテは見抜いていた。
空を飛ぶ影が急速に近づきやがてその姿が露になり六花がウワァ!と驚きの声を上げた。
それは翼長が30mを超える馬頭と鱗に覆われた巨大な鳥であった。
「おや、こげなところに夢見人たあ珍しい!あんたはどき行くんか?」
巨鳥の背中から浅黒い顔のターバンを巻いた商人風の亜人が大声で話しかけてきた。
「ええっとカダスにいる神様に会いにいきます。」
「ほお!カダスは遠いいわあ!歩きやと30日はかかるちゃ!」
「それでも行かなくてはならないの!」
「そうな。まあ夢見人は訳アリでこき来るけん止めさんが、よかったらわしん村に寄っちいかんか?
見たところ手ぶらやし必要な物や食料ぅ分けちゃん。」
「あ、ありがとうございます!」
一行は亜人の好意に甘え村に立ち寄ることにした。
六花一行は巨鳥に吊るされた荷台に乗り空を移動している。
中々の速度で時々気流で跳ね上がりスリル満点であった。
「彼らはレン人でぇす。外見は地球でいうところ山羊に似てまぁす。
夢見人にとっても親切でぇす。」
「夢見人とは何ですか?」
「ドリームランドを訪れる人々の総称で色んな星の人がくるねぇ。
本人達は夢を見ている状態だから夢見人でぇす。
精神体だけど感覚は肉体と同じねぇ。
五感を感じるし、お腹減るし、眠くなるし、年を取らないねぇ。
但し肉体や精神体が致命傷を負えば死ぬでぇす。」
移動中夢見人について萌葱の質問にゼヒレーテが説明を始めた。
「ここではいわゆる超能力が封じられるでぇす。
元々超能力を持っている種族もここでは無力ねぇ。」
ここの住人に危害を加えられないようにとのノーデンスの配慮だった。
「私達の能力は封じられていないよ。」
「あなた達の能力は精神を源にしてるでぇす!なので制約を受けませぇん!」
「なるほど。うん?そう言えばアンジーが大人しい。」
「バイオコンピューターでぇすね!あれらは肉体の能力を最大限引き出し、精神体と同レベルにするためのアシストでぇす!
今のあなた達は肉体の制約から解き放たれた本来の力を発揮できますが、使用はお勧めしないでぇす。」
「どうして?」
「力を際限なく放出すると精神体が消滅しまぁす。
肉体はリミッターなので限界値がくれば放出を止めますが、今はそれがありませぇん。
とても危険でぇす!」
萌葱はフンフンと大きく頷いた。
「住人は私達を無力なただの人として見ているわけですね。」
「そうなるねぇ蒼。」
「やけに親切な理由が無力である他に何かあるのですか?」
「・・・ここに来る夢見人のほぼ全員が非業の死を迎える事を住人は知っているからねぇ。皆が自滅していくねぇ。」
「哀れみですか。」
「勿論親切心もあるねぇ。ここの住民のほとんどが牧歌的な暮らしをしているから根が親切なんでぇす。」
「不思議ですね、宇宙の中心が中世文明レベルなんて。」
「朝が来たら起きて夜になったら寝る。これが一番ストレスフリーな生き方と学んだ結果ねぇ。」
宇宙創成から存在する星の行き着いた先が、生物の生理サイクルに逆らわない文明だと知りなんと皮肉な事だと蒼は思った。
六花達はいらぬ混乱を避けるため能力を隠して普通の人として振る舞うことを決めた。
「あれがわしん村や!」
空から見下ろす光景は村というにはあまりにも洗練された超未来都市であった。
村を取り囲む50mを超える材質不明の壁は果てが見えない。
ゲートを潜るとそこは世界が変わった。
500mを超える高層ビルが立ち並び、くすみひとつない鏡面の壁が夕暮れの赤い光を反射している。
ガラス張りのハイウェイがビルの間を縫うように走り、地表は芝生と木々に覆われ通路にはショックを吸収する特殊な加工が施されている。
小型のロボットが植物の手入れや枯葉の掃除のために走り回っていた。
「凄い!これが村ってどういうレベルなんですか?!」
牧歌的生活と聞いて想像していた村と大きくかけ離れていることに蒼は驚愕し興奮していた。
「ここにどの位の人が住んでいるんですか?100万人レベルですよね!」
「いいや、300家族2000人位や。100万なんてカダスん城くらいじゃなあ。」
人口を聞いた珊瑚はあんぐりと口を開けた。
「さあ暗うならんうちに宿に案内する。」
レン人は夢見人専用の宿に案内をすると明日また来ると言い去っていく。
宿の受付カウンターには表面がツルツルの球体を乗せたロボットが静かに座っていた。
「これ機能停止してるんじゃないの?」
夜花子が肘をついて球体をのぞき込むと突然光輝き人間の女性の顔になると歓迎の挨拶をはじめた。
「ようこそいらっしゃいました。
お客様は8名様でよろしいでしょうか?
男性のお客様と部屋を別々にいたしますか?」
「8名です。部屋は一緒で。最上階の一番いい部屋をお願い。」
突然の反応に度肝を抜かれた夜花子に変わり珊瑚が対応した。
「かしこまりました。
お部屋は108階のペントハウスになります。
お荷物はお持ちですか?」
「無いわ。」
「かしこまりました。ご案内いたします。」
背後から声が聞こえると3Dホログラムのベルボーイが恭しく礼をするのが見えた。
部屋に入り目の前の窓から見る空は既に夜のとばりが落ちている。
六花は素晴らしい夜景を期待して窓際まで走り愕然とした。
「うわぁ、街が真っ暗でち!」
桔梗は窓にピタリと張り付き足元まで確認してガックリと肩を落とした。
「本当に夜になると寝るんですね。」
「そう言ったでぇす蒼。ここの住民はみんな星のサイクルと共に生きていまぁす。とても良い子達でぇす!」
ゼヒレーテはとても誇らしげに語った。




