第113話 ドリームランド編② 六花と槍の初出陣
「災難でしたなヨグ=ソトース殿、ナイアーラトテップ殿。
ともあれ無事で何よりです。」
四具祖とナイラーは依頼者と対面し度肝を抜かれる。
その姿は白色の直立したタコであった。
身長は2m程で頭部に金色に輝く2対の目と口元でタコの足のような触手がウネウネと動いている。
2対の手足と翼を持ち、白地に金糸で刺繍されたガウンを羽織り一見すると司祭のように見えた。
「申し遅れましたが私の名はクタニド。
覚えてないと思いますがあなた達が転生する前は仇敵としてよく相見えたものです。」
クタニドが目を細めて触手を激しく動かす。
どうやら笑っている仕草のようだ。
「クタニド殿、まずは助けて頂いたことお礼申し上げる。」
四具祖とナイラーは揃って頭を下げた。
「ヨグ=ソトース殿、ナイアーラトテップ殿、お気持ち確かに受取ましたぞ。どうぞ頭を上げてください。」
クタニドは先程の笑顔と違い何か納得したように目を細めた。
「ゼヒレーテ様のおっしゃられたことに偽りはないようですな、テラ。」
「ええ、あなた達の心は子供達により染め変えられてしまったようね。
母としてとても誇らしい気持ちです。」
クタニドとテラは意味深な笑みを浮かべて四具祖とナイラーを見た。
「先ほどから私をヨグ=ソトースとお呼びだが四具祖 空と申します。
こやつはナイラー・アトフト、私の秘書でございます。」
四具祖に紹介されたナイラーがニコリと引き攣り笑いを浮かべた。
「今はそのように名乗られておられるか。これは申し訳ない。
では今後はヨグソ殿、ナイラー殿と呼ばせていただこう。」
クタニドは再び触手をグネグネ動かし大笑いをした。
「あなた達の転生前は外なる神々の2大柱として我々から恐れられている存在でした。
それがついこの間封印が解かれ戦々恐々としておりましたが、全く動きを見せることなく、何と地球人に転生したとゼヒレーテ様に聞きそれは驚いたものです。」
四具祖とナイラーは前世を知り少なからず動揺した。
「そしてあなた達に邪気・悪意がないこと、人間を慈愛していることを聞き俄かに信じられませんでしたが、今日その疑惑は霧消しました。
確かにあなた達に邪神の気配を感じません。」
クタニドは興奮しているようで目が爛々と輝き触手が立ち上がっていた。
「そのように評価していただき恐悦至極でございますが、ここはどこでしょうか?何故私達はここにいるのでしょうか?」
ナイラーが一向に話しの先が見えないことに苛立ち横やりを入れる。
すると触手の動きがピタリと止まった。
「これは申し訳ござらん!そうでしたな!あなた達にとりそれこそが最重要事項でしたな!ではお答えしましょう!」
クタニドは一度動きを止めると呼吸を整えた。
「ここはドリームランド。
この宇宙の中心であり宇宙創造神ノーデンスの住まう星。
そしてあなた達がここに連れて来られた目的は覚醒前のあなた達から神格を奪い取り再び封印することです。」
「神格?封印?今の儂らにそんなもの関係ないのではないか?
少し格闘技に優れているだけで普通の人間じゃぞ?」
四具祖とナイラーは揃って手を振りナイナイと呟いた。
「それがですね、あの老害・・・失敬、ノーデンスがどうにもあなた達の事が信用できないらしく、この間も親善派のゼヒレーテ様と夫婦喧嘩をやらかしまして、更に息子に役目を負わせたことで切れて家出される始末。実のところあなた達に敵意の目を向けているのはノーデンスと一部の旧神と「大いなるもの」で大多数はゼヒレーテ様肯定派でございます。」
触手がシュンと垂れさがるところをみると気落ちしたらしい。
四具祖「儂らはどうしたら元の世界に帰れるんじゃ?」
クタニド「目覚めの世界で目覚めることができれば帰ることができますが、果たして目覚めることができるのか難しいところでしょう。
眠りの神ヒュプノス直々の眠りですので殺しても目覚めないかと。」
ナイラー「それは帰ることが不可能という事ですか?」
クタニド「方法が無い訳ではありません。」
四具祖「と言うと?」
クタニド「ノーデンスから許可を貰うのです。」
四具祖・ナイラー「・・・・・・・・・。」
「ともあれここに居る間は私が責任を持って匿いますのでご安心ください。それとゼヒレーテ様に何か別の方法での帰還案があるようですのそれに期待しましょう。
そういえば昨夜からお食事を摂られていないのでは?」
「そうですね、お腹が空きました。背中とくっつきそうです。」
テラが用意してくれた食事は殊の外美味しく、また気力や体力を急速に回復してくれた。
四具祖とナイラーはこの後起きるであろう出来事に備え、出来る限りの料理を腹に詰め込み夢の世界で眠りについた。
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卒業式も終了し、綾小路 理恵子、京極 恵三子の大学進学も決まり、六花の退学も正式に受理された。
4月から六花は政府からの正式な要請により、3チームに別れ大学に派遣されることが決まり、ママ達も表稼業に復職する事になった。
狼牙はママ達の非番に合わせ地獄での魔獣狩りに赴く。
トランスフォームを習得して以来、7人パーティーでは戦力過剰になりつつある今は2~3人で挑む位が手応えが丁度いいらしい。
住民に大きな被害をもたらす大魔獣は粗方討伐し終えたことも理由のひとつであった。
そんな春休みのある日のこと。
令嬢達は実家の要請で帰省し、古井 紗英と新井 知佳は地方ロケで不在であり、久しぶりに六花とママ、狼牙、薄葉、お糸だけの団らんであった。
広大なぶち抜きリビングスペースであったが、結局全員が一か所に集まることから巨大な座卓を設ける。
直径6mに及ぶ円形の座卓は夏は冷風、冬は温風を吹き出し、中央に立体映像プロジェクターを備えた特注品であった。
それぞれ座る位置が決まっておりお気に入りの座椅子と座布団が置かれ、帰宅するとするとほぼその場から離れずお喋りを楽しむ。
やがて周りに冷蔵庫やら食器棚が置かれるようになると、和風のどこにでもあるような居間が形成された。
使われないスペースは手合わせの場となり、令嬢や紗英・ 知佳を交えて鍛錬が行われる。
置かれた仏壇との風景も相まって、いつしか刀や薙刀、槍、弓矢、サンドバッグなどが置かれるようになり道場に変貌した。
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蒼「そういえば私達国家公務員だったのよね。」
夜花子「なんで大学なのかしら?」
扶桑「私達が年齢に合わせた現場派遣を提案したからね。」
山城「ベイビー達にはなるべく多くの経験をさせたいのよ。」
長門「修羅な経験ばかりだと人間性が歪んじゃうでしょ。」
陸奥「大した案件じゃないからキャンパスライフを思う存分満喫してきなさい。」
珊瑚「うーん・・・私は芸能活動に注力したいわ。」
桔梗「あたちも数式魔法の研究をもっとちたいでち。」
日向「ならば同好会を立ち上げてしまえばいい。」
伊勢「私らは格闘技研を立ち上げたぞ。それで皆と出会えた。」
萌葱「なるほど、生涯の友人との出会いの場でもあると。」
茜「もう十分出会ってるから必要ないんじゃね!」
狼牙「まあそう言わずに行くだけ行ってみればいいじゃないか。
俺にはそういう機会がなかったから羨ましいぞ。」
その一言で場が静まりかえり狼牙が慌てだすと薄葉が助け舟を出した。
「なら今からでも大学に行けばよいのではありんせんか?
習い事はいくつからでも始められるものでありんすよ。
大学とは何才からでも行けるのでありんすよね?」
皆の脳裏に「それだ!」と浮かび上がるがそれも一瞬のことで直ぐに最悪のケースに打ち消された。
「作戦ターイム!」
狼牙とお糸を除いた女性陣達だけで部屋の隅に固まり話し合いが始まり、取り残された狼牙はお糸を膝に乗せ頭を撫でた。
「狼牙君ごめんなさい!やっぱりあなたを大学なんて雌獣の群れの中に放り込むなんて事はできないわ!
大学は諦めてちょうだい!その代わりに通信大学で良い男の先生を付けてあげる!それで我慢して!」
六花・ママ総勢12名の土下座を見た狼牙は大奥での一場面を思い出し感慨に耽る。
結局扶桑の提案を受け入れ通信教育を了承するのであった。
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「萌葱ぃ聞いてくださいぃ!」
「モグモグモグ・・・何?」
しばらく家を空けていたゼヒレーテがお昼時に戻ってくると、げっ歯類ごとく頬を膨らませている萌葱に抱き着きついた。
「四具祖さんとナイラーさんがドリームランドに連れて行かれましたぁ!このままでは神格を奪われてしまいまぁす!」
「んぁ?!」
口を開けたまま箸が宙で止まる。
ゼヒレーテはマイ座椅子に座ると大皿の大学芋に箸を伸ばした。
「ちょっ?!一大事じゃんかよ!メシ食ってる場合じゃねえ!」
そう言いながら茜も争うように大学芋を頬張りはじめる。
茜に続き皆が慌てて箸を伸ばし頬を膨らませる。
暗黙の了解で大学芋は食事の最後に平等に分け合っていたが、外部勢力の介入で均衡が破られ、あっと言う間に大皿は空になりしばらくの間は咀嚼音だけが聞こえていた。
「ウグゥ!」
顔を真っ赤にした茜が胸を押さえると夜花子が立ち上がり冷めたお茶を手渡す。
流れるような一連の動作を見たゼヒレーテの心がほっこりする。
そして「この娘達なら必ず」と確信した。
狼牙「おいおいもうすぐ大学が始まるのに大丈夫なのか?」
ゼヒレーテ「心配ありませぇん。あちらで何年過ごしてもこちらではほんの数分でぇす。」
蒼「時間の進みが違うのね。なんてご都合主義?」
ゼヒレーテ「宇宙の中心点でぇす!バリッバリッの特異点でぇす!」
珊瑚「どうやって行くの?」
ゼヒレーテ「これで行きまぁす!」
魔法のランプを座卓の上に置くとにんまりと笑う。
萌葱「ならすぐに行きましょう!狼牙、おかあさん、お糸ちゃん行ってきます!」
薄葉「気を付けていってらっしゃい。」
お糸「土産楽しみにしてっぞ。」
「すぐに帰ってこれるんだろ、今回は俺も行くぞ!」
十分に実力を付けた狼牙は、これ以上六花に差を付けられていられない思いもあり同行を決めた。
「いってらっしゃい旦那様、家はわちきがしっかりと守りんす。」
狼牙の決意の籠った目を見て薄葉は送り出す事に決めた。
「久しぶりに旦那様とお出かけね!楽しみ!」
「デートじやないけど楽しみね!」
夜花子と珊瑚の顔がパアッと輝いた。
「新婚旅行みたいでち!」
「そういえばこのメンバーでパーティーを組むの初めてね。」
桔梗と蒼もワクワクとしていた。
「おい!お前ら!空爺ちゃんとナイラー姉ちゃんを助けに行くんだからな!それを忘れんなよ!」
茜は既に狼牙に抱き着き抱っこをしていた。
「そうよ!各自目的を忘れずに速やかに事案を収束させます。
気合を入れて頑張ろう!」
狼牙におぶさる萌葱が皆に宣言した。
「それではドリームランドに出発でぇす!アブラカタブラ!」
ゼヒレーテが呪文を唱えると一瞬で一行がランプに吸い込まれ消える。
そして、抜け殻となった六花と狼牙がバタバタと倒れた。
「?!!!!」
薄葉とお糸が慌てて駆け寄り、呼吸と脈を計り生きていることを確認し安堵した。
「不思議なこともあるものでありんす。」
取り合えず全員に布団を被せると、仏壇の前で無事の帰還を祈った。




