第106話 地獄巡りツアー②~罪と罰・それぞれの運命~
「それで今回はどのような面白い話を持ってきたんだ。」
ママ・狼牙の魔獣討伐以来、村長は六花の持ち込む話を楽しみにしている。
更に新しい顔ぶれが12人、これで何もない訳がない。
閻魔とサタンも期待に満ちた顔をしていた。
「では私から説明させていただきます。」
蒼が立ち上がり同行者の紹介をすると、「地獄の地獄巡りツアー」の概要を説明した。
「それはとても興味深い提案ですね。
私個人の意見ならば「アリ」です、むしろ全面的に推しです。」
閻魔が杓で膝を打ち大きく頷いた。
「善人が増えヘルの負担が減ることは大いに喜ばしいことです。
ここ100年の間、罪人の数が爆増で何か手立てはないモノかと悩んでいたところです。」
サタンは諸手を上げて提案に賛成した。
「それでその者たちが予行の参加者なのだな。
「さぁ、お前の罪を数えろ」だっかな?
どれ、閻魔とサタンの前で己の罪状を告白してみせるがよい。」
手始めに茜が挙手して「善一が倒れた時救急車を呼ばなかったこと」「祖母の死を看過したこと」「母親と恋人の邪魔をしたこと」「アリンコの巣を水責めしたこと」「オークの肉を食べたこと」「教師と肉体関係を持ち失職させたこと」「邪神を殺しまくったこと」「空飛ぶ蛇を食べたこと」などなど1時間にわたって話し続けた。
そのあいだ閻魔とサタンはそれぞれ手鏡を見て、帳簿になにやら記帳しては互いに見せ合いあーだこーだと意見調整を行っていた。
「茜よ、そなたの告白しかと聞き入れた!これよりそなたへの裁定を言い渡す!」
どこからか聞こえてくるドラムロールが最高潮に達した時シンバルが盛大に鳴り響いた。
「朱殷 茜!そなたに第6次元への昇華を申し付ける!」
「えっ!なんだ!第6次元?地獄じゃないのか?!」
「茜の魂が地獄なわけなかろう。
純粋無垢さらに修練を経た魂が次の段階へ進化しておる。
これほどの進化は仏となられたブッダ以上だ。
このまま進化を続ければどこまで昇華するか見当もつかん。」
閻魔はやれやれと杓で肩を叩いた。
「それと六花の告白は必要ないぞ。
君達は揃って同じ上位次元への昇華が決定している。
この先この宇宙を滅ぼしても昇華は決定事項だ。
君らにはそれを決定する力がある。
まあ、願わくばそうしないことを祈るがね。」
サタンは六花に向かい頭をさげて願いを告げた。
「そんなことするわけありません。」
萌葱が即答するとサタンは口角を上げて「頼みます」と告げた。
「さて次はお前さん達だが全員の告白を聞いていたら1日では終わらんな。大王まとめてお願いできるかの?
儂はこのあと萌葱と風呂に入りたいんじゃ。」
「えっ?入りませんよ。」
「そう冷たい事を言うな。
実はこの日の為に新作の風呂を用意したのじゃ。
絶対に最初は儂と萌葱とで決めておる。」
「・・・信用してますからね。」
「萌葱は儂にとって大切な孫だ!爺を信用しなさい。」
「わかりました。」
2人のやりとりを聞いていた女性陣は「もしかしてチョロイン?」と思いはじめていた。
「それでは五頭首だったか?
きさまら全員「無間地獄」行き、刑期は2億年といったところだな。
通常なら3億1996万年のところを最近の善行を加味しての大甘裁定だ。
六花に感謝するのだぞ。」
裁定を聞いた五頭首は言葉なくその場に崩れ落ちた。
「そんな!頭首さん達はなにかと私達に協力をしてくださいます。
もっと軽い裁定になりませんか?!」
即座に夜花子から弁護が入り、場に緊張が走った。
「残念だが彼らの罪はあまりにも多くまた重大である。
一番の罪は異星人の企みに加担し地球文明の衰退に寄与した事だ。」
「ですがそれは洗脳を受けた結果であり自ら進んでした事ではないのではありませんか?」
「そうとも言えるが実は分かっていながら加担したのではないか?
西園寺よ其方の口から真実を述べよ。」
閻魔の杓が西園寺に向けられると俯いたまま告白をはじめた。
「その通りでございます。ドラコニアンと呼ばれる異星人と度々接触し彼らの思惑と真実を聞かされておりました。
私は戦後まもない焼野原となった日本の復興を餌に彼らへの忠誠を誓いました。
そして人々を欺き財を奪い、アメリカと共謀してドラコニアンにとり都合のよい管理システムを構築し、国民を隷属化してまいりました。
今の個人主義、資本主義、少子化、貧困化は全てドラコニアンの思惑通りでございます。
戦前の気高き大和魂を精神を奪い去った張本人は私でございます。
私は裁定に反論はございません。
甘んじて罰を受け入れる所存でございます。」
西園寺の告白に全員が衝撃を受け黙り込み、五令嬢からはすすり泣きが漏れ聞こえてきた。
「閻魔様!ならば救済手段はないのですか?!」
「無くはないがそれでも刑期を短縮させるだけに過ぎぬ。」
僅かな光明に寿子が希望を見出し閻魔の前に駆け寄った。
「閻魔様お願いです!どうか救済手段を教えてください!
大罪を犯したとて私の大切な祖父でございます!
少しでも罪が軽くなるのならば私が責任をもって償わせてみせます!」
寿子は畳に頭を擦りつけ閻魔に願った。
「寿子よ頭を上げなさい。
其方に頭を下げられるとちと気まずくなる。
先に申しておくが其方ら7人は今後の地球文明発展の為に、己の人生を捨てて尽力する運命にある。
それは永久とも言える長い時間を地球人類のために費やすという事だ。
ある意味地獄で無限の時間を過ごすことと同義である。
いつしか地球文明が上位次元に進化するまで続く苦行である。
逃げ出すことも死を選ぶこともできぬ。
よくよく覚悟しておいて欲しい。」
閻魔から運命を聞かされた7人は激しく動揺するが、自分達の行いが地球文明の進化に寄与することに高揚感を覚えた。
「さて救済手段であるが実はあるようで無い。
それはひとえに其方らが如何に早く地球文明を上位次元に進化させるかに関わっている。
上位次元に進化させることは地獄の存在を必要としなくなることと同義であるからだ。
地獄は人の魂の浄化と再生を受け持っている。
異星人の洗脳しかり人の原罪しかりだ。
上位次元への進化で地獄もまた進化し在りようを変えるだろう。
其方らは私達地獄の民にとっても希望であるのだよ。」
閻魔は寿子の目を見つめ優しく語りかけた。
「ならよ!とっとと洗脳された奴らに地獄見せて解きまくろうぜ!
頭首爺ちゃん達があんだけ凹んでんだ!他の奴らならイチコロだぜ!
そうだろ閻魔様!」
「そうだな茜の言う通りだ。あなた達の言う事はいつも正しい。
それこそ神の福音であろう。
私はあなた達に出会えた幸運を神に感謝いたします。」
サタンは片膝を着くと天に向かい祈りを捧げた。
「これは驚いた!まさに地獄の風景!」
「本や絵画で見た風景がそのままで驚きました。」
この日、一行は地獄とヘルを見学し罪人が裁かれる姿を見て回る。
ここヘル第九圏 裏切者の地獄 「コキュートス」では生きたまま氷漬けにされ、首だけが露出し永遠の飢えと寒さで後悔の涙を流し続けていた。
「教科書や辞典で見たことのある人がたくさんいるね。」
戦争で多くの人命をうばった指導者、大財閥の創始者、非道の限りを尽くした皇帝・妃などが見られた。
「アドルフ・ヒトラーもここにいるのかな?」
「奴はここにいない。ヒトラーは当時敵対異星人の多くに目を付けられていたユダヤ人の説得を要請していたアンドロメダ星人と接触をしていたが、彼のいきすぎた正義感が彼を狂わせ大虐殺の道へと進ませた。
そのことに責任を感じたアンドロメダ星人が彼の魂を母星へと持ち去り以後行方が分からぬ。」
サタンはとても悔しそうな顔をした。
五頭首が送られることが決定している地獄の第8階層「無間地獄」に至っては全ての地獄の集大成であり、見るに堪えない風景が延々と続く。
ここでも歴史上の戦争犯罪者や暴虐の限りを尽くした支配者が地獄の責め苦に後悔の涙を流していた。
五頭首は震えあがり孫を見つめ「なるはやで頼む」と懇願した。
見学を終えた後、女性陣の猛抗議を受け皆で村長の新作風呂に入ることになり萌葱がホッと息を漏らす。
風呂は南国のビーチを模しており、解放感からか男女問わず全員全裸で入浴した。
「ヌーディストビーチみたいで楽しいですね。」
「慣れって怖いよね。」
男性の前で裸になる事を恥ずかしがっていた沙也加と優だが今は大股を開いて砂浜に寝転がってた。
「砂が砂風呂になっているのね。」
「これ位大きければ理恵子の人生変わってたかもね。」
首だけ出した理恵子の体の上に恵三子が大きな二つの隆起を作る。
「私達の未来ってどうなるんだろう?」
「きっとバラ色よ!なんてたって六花と一緒なんだもの!」
湯の中で五頭首、地獄三長と話しをする六花を見ながら康子がポツリと呟くと侑加が能天気に答えた。
「みんな恥ずかしがってちゃダメよ!六花を見習いましょう!私達もあの輪に加わるの!がんばりましょう!」
胸と股を手で隠しながら真っ赤な顔の寿子が皆に気合を入れる。
「言葉と行動が一致してないんだけど?」
侑加が勢いよく立ち上がり駆け出すと皆が一斉に後を追いかけた。
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地獄に2日滞在し現世に戻ると年が明けていた。
一行はそのまま薄葉亭で正月を迎える。
筆頭メイド長はすでに正月の準備を済ませ薄葉・お糸とすっかり打ち解けてよもやま話で盛り上がっている。
主達の帰還を察知するとおせち料理や寿司、雑煮を用意し無事の帰宅を笑顔で迎え入れる。
全員で仏壇に向かい新年の挨拶を済ますと宴がはじまった。
「今日は無礼講だ、君らも一緒に楽しもう。」
頭首達は居間の隅で待機するメイド長達を宴に誘う。
とんでもないと固辞するメイド長達の手を引き、なかば強引に食卓に座らせた。
「君らには長いこと本当に世話になったありがとう。」
西園寺頭首はメイド長に向かって手を着いて礼を述べる。
主が頭を下げたことに驚いたメイド長の思考が停止する。
周りを見るとお嬢様方が優しい目でその様子を見ていた。
「ご主人様お止めください!お嬢様方の前です!」
実はこのような場面は過去何回かあったがそれは人目のつかない場所で秘密裏に行われていた。
「いいんだ、孫は儂の真意を理解してくれている。
これからも動けるうちは孫の力になってやっておくれ。
よろしく頼んだよ。」
ギュッと握りしめる手が今迄ないくらい優しさに満ちていることにすこしばかり不安を覚えた。
今年の正月はメイド長にとって数十年振りのゆったりと時間の流れる3日間である。
片付け、用意の全てを六花とお嬢様が行い、動こうとすると頭首が手を握り離さない。
酒を飲み料理をつまみ昔話で花を咲かせる。
奉公に上がりたてでまだうら若き少女時代、同年代だった故に淡い恋心を抱いた青春時代、主が嫁を娶り叶わぬ恋と知り涙を流した成年時代、お嬢様が生まれ世話を任された乳母時代、結局婚期を逃し一生涯仕えると心に誓ったお局時代、それも昔の話で今は後進が育ち自分がいなくても家事は滞りなく回る。
それも全てメイド長の努力の賜物と頭首が褒めちぎった。
「儂は今日を以て頭首を辞める。」
正月も明け1月4日の日、徳を積む決心した五頭首が引退を宣言する。
財産等は全て孫娘に譲渡する手続きを弁護士に任せ、息子達の引き留めに「悪事を止め心清く生きよ」と言い耳を貸さなかった。
数日後、懇意にしている高野山の寺に手ぶらで出家し二度と経済界に姿を現すことはなかった。
メイド長は役目を後進に託すとお嬢様専属のメイドとして主を変え、以後お嬢様を名前で呼び主も名前で呼びはじめる。
主は自ら抱える秘密の全てを話しそれを聞いた専属は後進の育成に尽力した。




