第103話 歌舞伎町一番街の奇跡②
「総括!すぐにMXを見てください!珊瑚がライブをしてます!」
チームAリーダー新井 知佳から切羽詰まった声で連絡が入る。
この日、木荒 以蔵の事務所で甘い夜を過ごそうとしていた指差 莉乃AKBF総括は飛び起きてテレビを付けた。
「ああ!珊瑚ちゃん!みんな揃ってる!何をしてるの!」
全裸の指差が32型プラズマ液晶テレビにしがみ付き、ロングのチームRの姿を確認しはじめた。
「梨乃、裸のままだとお腹の子に悪影響だよ。」
木荒が厚手のガウンを肩にかけると直ぐに袖を通し前を閉じた。
「驚いたな、まさかお披露目前にテレビ出演とはね。
計画の修正をしなければならないかな。」
「そうかもしれないしそうでないかもしれない。
このライブの出来次第では写真集出版の前倒しを余儀なくされるかもしれない。もう!事前に相談してよ珊瑚ちゃん!」
木荒はソファーを引いてくると自分の膝の上に指差を乗せ、包み込むように抱きしめテレビを見つめた。
この日、AKBFのみならず全てのアイドルユニットがMX-TVに映し出されるチームRを見ていた。
「あのオープニングショーって合成?!」
「ライブ映像だから合成は無理ぽ!」
「画像にズレや乱れが無いから本物だよ!」
「ちょっと待って本物って魔法なの?!」
「現実的にあり得ない!なにかトリックがある!」
「現地にいる友達から魔法報告あり!」
「歌がはじまった!ウソ!生声?!」
「伴奏ラジカセのみだって!」
「けっこう歓声すごいよね!なんで聞こえるの?!!」
「スピーカー使ってないって!」
「なんなのあのダンス!動きがピッタリだよ!」
「あんなに体動かして歌いきれるの?!」
「えええっ!間髪入れずに次行くの?!」
「死んじゃうよ!私なら死ぬ!」
「ダメ!見てたら息切れしてきた!」
「酸素吸入しながら見るんだ!」
「ナイスアイデア!」
それぞれのユニットメンバーがテレビを見ながら感想をSNSに書き込む。
アプリは絶え間なくシュポシュポと鳴り続た。
しかしライブが進むにつれてそれも少なくなりやがて消える。
トップを目指す少女達はチームRのパフォーマンスに圧倒され、食い入るようにテレビを見つめる。
誰もがチームRをライバルと認め、また超えることができない高すぎる壁と認識していた。
ならば「少しでもいい彼女らのパフォーマンスに近づく」と思い直し、瞬きする瞬間さえ惜しみ画面を見つめた。
おおよその映像を映し出す機器にチームRの姿が映し出される。
人々は素晴らしい歌とダンスのパフォーマンスに心を魅入られ、なおかつ時折発生する不思議な現象を心待ちしていた。
「ああっ!お父さん!」
あるものは去年逝去した父親の姿を見る。
父親が「がんばれ!いつまでも見守っているぞ!」と語りかけてくれたと話す。
「珠子!」
3ヶ月前に事故死した娘が「お婆ちゃんとお爺ちゃんと天国で元気にしてるよ!心配しないでね!」と確かに語りかけてきたと、ある母親は涙を流しながら笑顔で語った。
数十万という人々が歌舞伎町に押し寄せてくる事態に都庁は戒厳令を敷き車両の通行止めを行うが、ライブの中断をさせることはしなかった。
「速やかに人命優先の交通整理を行うこと。
決してライブを中断する指示を出さないこと。
またライブの妨害をするものに対して全力で排除に当たること。」
内閣総理大臣の名前で出された指示書に都知事の異論はなかった。
警視庁は非番を含めて全力で応援体制を送出し、その甲斐あって事故・事案はライブ開始後一件も報告されなかった。
時刻は23時55分。
2時間超のライブがとうとうフィナーレを迎えた。
「今日のライブはこれで終了です!3月に横浜でまた会いましょう!今日は本当にありがとー!」
チームRと花魁・禿が横一列になり手を繋ぎ一礼をすると彼女らの周りに7色光が渦巻き天に向かって伸びて行く。
あまりの眩しさに目を瞑り再び開いた時、彼女達の姿は消えていた。
観衆は呆然としていたが身を刺す寒さに我を取り戻すと今起きていたことが夢のように思えてくる。
そして、不思議な事に彼女達の顔が思い出せないことに気付く。
しかし、確かにチームRは存在していて奇跡を見せてくれたことが心に刻み込まれている。
いつしかSNS上でチームRを天国からの救済「六弥勒」、そして花魁と禿を仏教の教えに例え「訶利帝母子」として呼び、記念すべき性夜を「聖夜」と変えそれは瞬く間に拡散し定着した。
「終わっちゃったね、寂しいなぁ。」
「でもさ3月に横浜でまた会えるじゃん!」
「すごい楽しみ!珊瑚ちゃん大好き!」
マリリンとカレンは待ち受けにした写メを見てピョンピョンと飛び跳ねるうちに男とぶつかってしまった。
「ごめんなさい!」
ぶつけられた男は彼女達の待ち受けを見て硬直していた。
「君達、その待ち受けは珊瑚さんだね。その・・・知り合いなのかな?」
「そうだよ!私達珊瑚ちゃんと友達になったんだ!」
「LINEも交換したんだ!」
「よければ少し話しをしませんか?そこのカフェでお茶でも飲みながら。」
「えー!おじさんナンパ?」
「失敬、僕はチームR親衛隊で五番組と言います。」
名刺を差し出し身元を明かすが少女達は警戒を解かない。
五番組が先ほど撮影したライブビデオを見せると少女達の様子が一変した。
「おじさん!それ見せて!そしたら話しを聞くよ!」
「よし、但し条件がある。これは親衛隊しか見れない特典映像だ。
君らも親衛隊に入ることが条件だ。」
「ええ?・・・入りたいけどお金無いし住む場所もないし無理だよ。」
「なんと家出少女か?」
「そんなとこ。」
「ならば我が家に招待しよう。僕は両親と同居しているがニートでも引きこもりでもないぞ!
それからこれは大切な事だが三次元の女に興味はない!
だが唯一例外がある!それがチームRで僕の推しは桔梗様だ!」
五番組は懐からパスケースを取り出し桔梗の生写真を見せた。
「わっ!桔梗ちゃんだ!かわいい!」
「そうであろう!彼女の可愛さはチーム1である!」
「えー!可愛いけど珊瑚ちゃんは綺麗さならチーム1だよ!」
「何!桔梗様の可愛さを理解できぬとはとことん議論が必要だな!」
「おじさんこそ珊瑚ちゃんの綺麗を理解できないなんてまだまだよね!」
3人は解釈違いの論議をしながら五番組の家に向かって歩き出した。
「どういう事?!顔が撮れてない!」
「いや!撮れてるけど写っていない?!」
編集室で小茂呂と嬉無が悲鳴のような声を上げる。
録画された中継映像とロケ隊が撮影した録画映像に異変が生じていた。
「どういう事だ?全てが別人の顔に入れ替わっている。」
表情の分かる映像になると少女達の顔が変わってしまう。
超高速でモーフィングするように、ごく自然に別人の顔に移り変わっていく様子はまさに魔法であった。
「コマ送りしても粗が出ません。CG合成なら必ず粗が出ます。」
編集スタッフの緊張がヒシヒシと伝わってくる。
小茂呂はアゴを押さえしばし考えこんだあと編集室を出て行った。
深夜2時、優しく愛された指差が木荒の寝顔を眺めていた時着信が鳴る。
見知らぬ番号を見て居留守を決め込み留守電になるまで放置する。
留守電に切り替わると相手は小茂呂と名乗り、ライブ映像について喋りはじめた。
「今夜のライブ番組は録画されていると思いますが、チームRの皆さんの顔は正常に録画されていますでしょうか?
当方で録画された映像全てに異常が発生しております。
私どもとしては折角の素晴らしいライブ映像ですので、一切手を加えずに特番としてお正月のゴールデンタイムに放映を予定しております。
ご本人達からは撮影許可をいただいておりますが、念のため総括である指差様にご意見をお聞きしたく電話を差し上げました。
後ほどお時間のある・・・」
「もしもし指差です。ご要望をお聞かせください。」
「早速の返信ありがとうございます。
指差さん、単刀直入にお聞きします。
彼女達は何者なんですか?」
指差と小茂呂のチームRを巡る長い夜がはじまった。
後日、ライブ映像から受けた影響について国の研究機関が調査をはじめ、この日映像を見た者は何らかの救済を受け、生きる希望と気力を貰ったと報告を上げ、日本のみならず世界中の政治・宗教団体間で物議が醸された。
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「トシちゃん!疲れた!」
「トッシー!休憩しようぜ!」
そろそろ梅雨も明けようかと思われる暑い日。
木陰で足を着いた自転車乗りの少女が二人、ピンクのロードスーツのマリリンとパープルのロードスーツのカレンがブラックのロードスーツの五番組に愚痴を漏らす。
「まだ2件配達しただけだろう!早い!あまりにも早すぎる!」
五番組に説教されるが華麗にスルーするとLINEを開き定時連絡を発信する。
結局マリリンとカレンはあの日以来五番組家に住み着き、フードデリバリをしながら親衛隊活動に勤しんでいた。
五番組の父母は驚きはしたものの家庭の事情を聞くと「何時までも居ていい!」と2人を説得し部屋をあてがった。
部屋は敏明の倉庫状態であったが、積極的に不用品を処分し部屋を整えた。
「なにかきっかけが欲しかったから丁度よいのである。」
かくしてマリリンとカレンは定宿と日に3度の食事を手に入れた。
「敏明、私達も働くよ。」
中学校に通うことを強く勧めたが本人達の意志は固く、フードデリバリで働くことを選択する。
身分証は同志によって偽造されたものを使用した。
「さあ、勉強の時間である!」
夕食が済む19時から22時の間は敏明が2人に勉強を教える。
敏明は2人に高等学校卒業程度認定試験を受けさせようと考え5か年計画を立てている。
焦らずゆっくり確実に学力を付けさせる思惑に2人も同意し真面目に向き合う。
3人は次第に打ち解け今では本物の兄妹のように暮らしていた。
「さあ、もうひと踏ん張りである!」
「ラジャラジャ」
3人は自転車に跨ると入道雲が高くそびえ立つ頂上を目指してペダルを踏み込んだ。




