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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
一対一対応の枕辺(まくらべ)
70/73

白百合のつぼみ咲く紙工場

次回の更新は3/15です

 その言葉にオバサンは丸っこい顎をプルンと揺らして言った。


「そりゃ構わないけど…私達には納めるべき労働ってのがあるんだ。それが終わらない限りは手を貸せないよ」


「はい。たった今それを無くしました。代わりに貴方達には紙作りをして欲しいんですよ」


「いや…それは構わないけどさ。それって必要なことなのかい?」


 それを言われて私は答えにきゅうした。


 そう言えば私とか君主みたいな人達の館って必要? なんだろうか? …ラッセルさんの言動を見るには多分必要なのだろうけど…。正直私は寝床と身体を洗う水場だけあればいいわけだし…。


「えっとですね…要は紙って神様の言葉を伝えるために”必要”なんです。貴方達がつくった紙に神様のことが載せられて大勢の方に伝わる。そうすればより多くの人が救われるんです。その為に必要なんですよ」


 するとそれを聞いたオバサンはため息をついて小声で言った。


「そういうおためごかしはよしてくれ。私達はアンタの言葉を聞きたいんだよ。私達はアンタのこれまでの行動を見てきたからなんとなくわかるんだよ。何か他の考えがあるんだろう?」


 そう言われて私は大きく深呼吸すると言った。


「…必要だと思ったからです。貴方達がこういった仕事を避ける為には」


 そう言って私は彼女たちの周りを見渡す。そこには大量のレンガ、水瓶、天秤棒が置かれている。


「私達に同情してってことかい? あのねぇ。お嬢ちゃん。こんなのは私達にはへいちゃらなんだよ。仮に私達がやらなきゃ誰かがやらないといけない。そんな下手な憐れみはよしてくれ」


 そういうオバサンの言葉を私はやんわりとさえぎると言った。


「いえ、そうじゃありません。ただ単に貴方達は力仕事より紙作りの方が効率が良いと思った。それだけなんですよ」


「効率?」


「男性は力が強いから力仕事の方が効率が良い。それに比べて女性は器用。だったら力仕事をさせるより紙作りをさせた方がより働けるってことです」


 そう言い終わってからのオバサンの顔はまだ厳しいままだった。


 まだ納得してない…。まあ、確かに。私は効率のことなんて本当はどうでもいい。本当は…。


「本当はそこの女性が大変そうで見てられなかったからです。このままだと壊れちゃうんじゃないかって…」


 私の脳裏に前世の仕事につかれた自分が浮かぶ。私は負けたくない。あんな思いは二度とごめんだ。でもそれは…私だけじゃなく、他の人もそうあって欲しい。もう誰も…。あんなことにはなって欲しくない。


「働くことは大事です。でも人生ってそれだけなんですかね?」


 そう言って私は意を決して皆の顔を見渡して言った。


「夢はありますか?」


「はあ…?」


「私の夢は…理想の男性と結婚すること…貴方達は…貴方達の夢はなんですか? 私は貴方達に仕事だけの人生を歩んでほしくない」


 それを聞いたオバサンは笑い声をあげて言った。


「ないよ。夢なんて小娘が見るもんさ。それに私達は全然辛くないよ。だって帰ればガキ達がアタシらを待ってくれてる。そんなあたしらの夢はガキどもを食わせること。これしかないよ」


 そう言われて私はそれもそうかと頷いた。それを見てオバサンは私に言った。


「でもわかったよ。アンタ。まだ小娘なんだね。よく見りゃそりゃそうか。まだ、アンタにはガキのままの世間知らずなんだ。まあ…アタシらだって子供の頃はそんなことを考えては野を駆け回ってたしね。だったら仕方ないか」


 そう言ってクスクスと笑い合う奥様方。その笑い声の中、ずっと黙っていた若奥様がぼそりと呟いた。


「お菓子の家…」


 突然話始めた若奥様にギョッとした奥様達が振り返ると更に若奥様は続けた。


「お菓子で出来た家のお菓子を食べたい、一生分。一生分食べたい…。もう無理…休みたい…」


 そうヘラヘラ笑いながら涙を流す若奥様を見て隣にいた背高の奥さんがオバサンを見て言う。


「放っておけば慣れるかと思ったけどやっぱこの娘、限界かもね」


 それを聞いたオバサンは大きなため息をついて言った。


「わかったよ…。アンタの話、受けるよ。お貴族様も悪かったね…。アンタの立場もあるってのにさ…。上の連中が何か言ってくるならアタシが…」


「大丈夫です。むしろ受けてくれるなら。明日から…よしなに頼みたい」


 奥様集団が後にした部屋で私達はピットにはられた紙料液を覗き込んでいた。


『…ねえ、たったこの程度の量じゃ足りないんじゃない?』


 隣で呟くフランに私も相槌あいづちを打つ。


『明日に備えてもっと紙料液作らないと…』


 そう言って外に出ると丁度バナナの幹が入ったカゴを抱えた褐色の若いエルフと眼が合った。


『あ、どうも』


 咄嗟に私が挨拶すると、彼は何かを言おうとして口を開けてから軽く咳をして言った。


『スカイ様から伝言です。そろそろバナナの木が少なくなっている。とのことです。これ以上取ると無くなってしまう。これが最後だ。だそうです』


 それを言われて一瞬、頭が真っ白になって我に返った。


 ああ、そうか…。バナナってそんなに簡単に生えないしな…。桃栗三年柿八年ならバナナは何年なんだろ…。これはいよいよクリシダの言ってた増産も考えないといけないのかなぁ…。


 私はフランを振り返って聞いてみた。


『ねえ、前言ってた品種改良ってバナナはどれぐらいかかるの?』


『わからないよ…。だってあのバナナって麦と全然違うじゃん。生態を確認するのも一苦労だと思うし…』


『…じゃあ量産は?』


『う~ん。それも家長に聞かないとわからないけど…一年ぐらいかかりそうだし。直ぐにはむりじゃない?』


『ああ、早くも紙作りに不穏の兆しが…』


 あーやっぱりバナナだけだと駄目だったか…。何とか変わりの素材を見つけないとなぁ。


『では私はこれで失礼します』


 そういうと褐色の若いエルフは下がる。見ると下がった先で若いエルフとヘルミが一緒に立っていた。ヘルミは若いエルフに木のコップを笑顔で差し出す。すると、彼はそのコップを受けッとってすぐに仰いで飲み干した。


「アリガトゴザイマス」


「それ井戸のキレイな水だから! 貴方がお腹を壊すことはないと信じてる。まあ、ついでで貴方喉が渇くかなって…」


「ウレシイデス」


「いや本当に! ちょっと近くによったのを汲んで来ただけ! 気にしないで! じゃあね!」


 そう矢継ぎ早にまくし立てるとヘルミはバナナの幹を抱えて走って行ってしまった。


 なんだあれ。え、アキンボに続いてヘルミにも春が…?


 そう思って見てみると、若い褐色のエルフは走り去るヘルミの後姿を笑顔で見送っていた。彼女を見る若いエルフの目はどんな感情も秘めていない冷たい目に見えた。


 クリシダの奴…。まーた裏でコソコソ変なことやってるな…。ヘルミに忠告してもいいけど…。下手な言い方すると傷つきそうだから迷うな…。


 そう思ってから私は若いエルフに近づくと足元にヘルミが残したバナナの幹を拾ってから言った。


『あの子に変なことしないでよね』


 そう言われた彼はニコリと笑うとカゴを背負ったまま頭を下げてから門の外に消えて行った。それを見ていた私の背後にアキレアが近づいて言った。


「あの男、眼に危険な光がありますね…」


 その言葉に私は振り返らずに若干呆れ気味に言った。


「きっと上司で苦労してるんだよ。まあ、釘は指しておいたから多分大丈夫。私達は紙料液作ろう」


 そう言って私達はヘルミが消えた先のカマドに向かって歩き出した。


 次の日、カマドの側で夜を明かした私とフランは日の出の光と共に目覚めた。鍋の中には夜の間に煮たたせた紙料液がかすかに湯気をたてていた。


 フランが起き上がるとおはよ、ヘルミ、アキレアとつたない言葉で呟く。その声にヘルミも振り向いて頭を下げる。


「おはよ。朝ごはんできてるよん」


 数日経って身分を気にして会話するのが億劫になった私達は自然とため口で話すようになっていた。


「おはようございますフラン様。ルリコ様」


 アキレアは夜通し見張りをしていたのか。昨夜と様子が変わっていない。


 まあ…ヘルミに比べてアキレアは未だに礼儀正しいままだけど…。でも最初の頃より笑顔が増えてきた気がする。


 朝食を食べた私達は冷ました紙料液をピットに流し込むと、それに合わせたかのように奥様方が工房に入って来た。


「やあ、エルフの嬢ちゃん方。カマドの煙を見てね。私達も駆けつけて来たよ」


 最近わかったことだが、砦の中では大体の動向は人に知られてしまう。食料は決まった倉庫に眠っているし、水くみ場も洗濯場も決まっている。何よりカマドから立つ火の煙と臭いはどんな物を誰が食べているかと簡単に見当がつくらしい。


「それで今日は何をすればいいんだい? エルフの嬢ちゃん方?」


 奥様集団のリーダーっぽいオバサンが汲んだ腕を見せつけるかのように突き出してくる。


「あ、その前に自己紹介しますね。私はルリコ、こっちがフラン。で、後ろの騎士がアキレアです」


 それを聞いたオバサンは笑って言った。


「ルリコ様はお貴族サマなのに随分と気安いね。私はグレーテ、こっちの細っこいのがミレ、こっちがヤスナ。そして一番最年少がポテさ」


 んーなんかグレーテさん以外は皆背が低くて身体も小さいな。やっぱり栄養状態が悪かったりするのかな? それに比べてこのポテって人は背も高いし健康そうな感じがするな…。


 見た感じグレーテは体幹も顔も丸みを帯びているが、ミレとヤスナは手先は土で汚れ顔もシミとそばかすだらけだった。一人だけ若いポテは顔はユリの様に白く頬には可愛らしい赤みがさしていてどこかつたさなを感じる。


「あ、よろしく…頼む。えーとそれでね…今日は紙を作って欲しいんだけど。この中で紙作りを手伝ったことある人ってどれくらいいる?」


 そう聞くとグレーテを始めとして皆次々と手を上げる。最後におずおずと若奥様のポテが上げると私は頷いて言った。


「ご苦労。じゃあ大体作り方はわかってるね。で、仕事だけど今日からは決まった枚数の紙を作るんじゃなくて決まった時間まで紙作りにを続けるやり方に変えて欲しいんだよね」


 私がそう言うと、グレーテはまた腕を組んで言った。


「それは構わないけどね…。なんで時間なんだい? 決まった枚数だけ仕上げたらアガリじゃダメなのかい? 私達にも畑やら子育てやらやることが多いからさっさと終わらせられるならそうしたんだけどね」


「えーと…それは…。できる限りは配慮しますけど。ゆくゆくは時給で給料を渡したいからきまった時間まで作業していて欲しいんですよね」


 その言葉を聞いたグレーテさんは片方の眉をひそめて言った。


「何故だい? 仮に時間を決めてやったとして…。その時間までいればいいってサボる奴がでてきたらどうするんだい? それよりも紙の枚数を決めてできたらアガリの方が皆頑張ると思わないかい?」


 グレーテさんにそう言われて私も首をかしげる。


 確かに言われてみるとそうだけど…。何で仕事ってある時間まで決まって仕事するんだろ? むしろ残業代稼ぎたい人は残業時間まで仕事を残したりしているし…。


 それを聞いて横に立っていたフランが答える。


「多分だけど、紙のノルマをこなしてもまだ残ってる仕事があるからじゃない? 例えば紙料液はずっと繊維を煮てなきゃいけないし、紙をすき終わってもそれを乾かす工程や、乾いた紙を片付ける人が必要でしょう?」


「だからその乾かしている間に畑とか家事をして、戻ってきて乾いた紙をしまえばいいじゃないか…」


「まあ、そこまで言うなら月給制のフレックス勤務でもいいですよ。あー…つまりグレーテさんの仰ってる通りの働き方でも良いってことです」


 それを聞いたグレーテさんは腕を組んだ肩を緩めて笑う。


「それなら構わないよ」


「あ、でも一つだけ…。実はこの紙ですけど開発期間は出来が結構バラけちゃってるんですよね。だから品質管理をしてくれる責任者を決めたいんです」


 私の言葉を聞いたグレーテさんは眉間のシワを揉むと言った。


「あんたが何を言っているのかわからないよ…。なんだいそのヒンシツとかセキニンシャとか…」


「よ、要は紙作りが上手い人に紙がちゃんとできているか指導して欲しいってことです」


「ふぅん…そのヒンシツとかセキニンシャもフレックスなのかい?」


 そういうグレーテさんは沢山出て来た難解な用語に頭を拳でコンコンと叩きながら話す。


「そ、そうです。とにかく最初はあまりかっちり決めずにゆるくやるつもりなんで…。当面は賦役ふえき扱いなので紙の品質以外は自由にやってくれて構いませんよ」


「そうかい? まあとにかく…。アタシらの中で紙作りが上手いのはポテだよ。っていうか手伝った女たちの中じゃ一番丁寧だってクリシダ様に褒められてたね」


「そうなんですね…じゃあ、ポテに頼もうかな…って…」


 そう言ってポテを見ると彼女は白い顔を青ざめさせたままこの世の終わりみたいな顔をして首を横に振っていた。私の様子を見てグレーテは後ろを振り返るとポテの肩に手を置いた。それを皮切りに若奥様は絞り出すように声を出す。


「ムリですグレーテさん私…。そんな大役やる自信がありません…。もし失敗したらと思うと…夜も眠れないと思います」


「大丈夫さポテ。お貴族様は最初はゆるくやるって言ってだろ」


 そう言うとグレーテは振り返って確認を取る様に目線を合わせたので私も頷く。


「ほらね。お貴族様だってああ仰ってる。それにあまりお貴族様を困らせちゃいけないよ。まあ…とにかくやってごらんよ。アタシたちもフォローするからさ」


 そう言って肩を優しくたたかれたポテはうなだれて「はい…」と答える。その様子は納得したというよりグレーテにまで言われては嫌とは言えないという感じだった


 お貴族様を困らせるって…。さっきまでゴネてたのはグレーテさんだけど…。まあいいか…。


「安心してくださいポテさん。私も厳しいことは言うつもりはありません。失敗しても別に怒ったり罰金をとったりしないと約束しますよ」


 私の言葉を聞いて観念したのかポテは背筋を伸ばして「承知しました…」とか細い声で呟いた。


「じゃあ早速で悪いんだけど紙作りお願いできるかな?」


「あいよ! じゃあ皆! とっとと終わらせちまうよ。まだ他の畑が残ってるんだからね!」


 私の言葉を聞いてグレーテさんは他の奥様方に指示を飛ばし始める。ふと作業台に近づいたポテが私を振り返ると「あの…なんですかこれ…」と怯えた声で聴いてくる。彼女の前にあったのは浴槽サイズのピットに注がれた大量の紙料液と大きな紙すき台だった。


「こんな大きなの…使ったことありません」


 そういうポテの顔は青ざめて震えていた。


「ああ、いや。大丈夫だよ。前使ってた小型の紙すきが大きくなっただけだから。…まあ、木枠はヒモで吊るされているだけだから。若干使いにくいけどごめんね…」


「ムリです…ムリ…」


 いきなり巨大な工程を任されることを知ってすっかり怯えたポテは嫌々をするように首を横に振る。


「うーんじゃあ…ちょっとお手本するから見てて」


 怯えた彼女を尻目に私は髪を後ろ手に束ねる。


「ルリコ様。失礼します」


 私が後ろ手にまとめたポニテ髪をアキレアが折り返してまとめ上げてくれた。


「ご苦労」


 私がそう言うとフランも袖をたすき掛けにしてくれる。


「ありがと」


 そう言うと私は紙すき台の前に立った。


「ポテさんよく見てて。見本を見せるから」


 そう言うと私は紙すきのピットに浮いた網を両手に持った。


「あんた…やるのかい? お貴族様が?」


 背後でグレーテさんが驚いた声を上げる。


 勿論紙作りなんて小学校の見学以来やったことがない。でも子供の頃に経験したことって大人になっても忘れないものだ。


「三つ子の魂百までってね…」


「ミツゴ?」


 フラン声を背に私は小学校の頃にやらせてもらった通りに網の持ち手を持ったら紙料液をまんべんなく網に行きわたらせ泳がせるようにしながら繊維を紙の形にする。


 今だ!


 私はピットから網を救い出して、スゲタに乗せたら枠を外して紙台に乗せる。


「できた…」


 私の紙を覗き込んだ奥様方は息を飲んで言う。


「お貴族様…アンタ…不器用だねぇ…」


「穴だらけ…」


「シワが出来ちゃってダメだねこれ」


 思ったより良くない出来に私は少し呆然自失してその場に立ちすくんでしまった。


 いや、まあ…。簡単にできるとは思ってなかったけど…。べ、別に悔しくないから…。


「大丈夫です。ルリコ様」


 私がかなり落ち込んでいるように見えたのか背後にいたポテがそう言うとピットの前に立った。


「見ていてください」

 

 それを見て何かを察したヤスナが私の失敗した紙を紙料液に戻す。それを横目で見ながらポテは人が変わったように落ち着き払っていた。


「いきます」


 そう言うとポテは網の持ち手をまるで波打たせる様に上下させ紙料液を均等に泳がせた。すると網の上にうっすらと紙の層が出来上がった。頃合いを見計らったポテはたまった水をピットに戻すとスゲタに上げて紙台乗せた。そこにあったのは私が子供の頃に見た和紙の様に綺麗な紙だった。


「ヤスナさん。この上に新しいスゲタを乗せて。ミレさんはそっちのカマドで紙料液を。グレーテさんは外に紙を干すのとカマドから紙料液を運ぶ係をお願いします」


 それを見てグレーテさんはニヤリと笑って言った。


「どうだい? お貴族様。ポテは凄く有能だろ? 普段は自信がなさそうだけどいざとなると頼りになるんだ。大したもんさ」


「そ、そんなことありません。からかわないで下さい」


 そういうポテの耳には朱がさしていた。そしてそんなことを言っている間もポテは見事な手さばきで多くの紙を作り上げていく。ものの十分もせず作られた紙を干して新しい紙台を用意しながら紙料液を切らさない様に補充するという流れの中でポテがひたすら指示を飛ばすという体制が出来上がっていた。


 なんか…最初にポテさんを見た時のオドオドした感じが全くない。むしろ生き生きしているように見える。今のポテさんは人の中に埋没してない。一人の人間としてここに居るって感じがするな…。良かった…。


 そう思って私が胸を撫でおろすと工房の外から低く、腹に響くような長い音が鳴り響いた。その音はどこか雄々しくも胸をざわつかせる。見ると工房で作業していたポテ達も怪訝けげんそうな表情で辺りを見回している。


 え、なんだろうこの音。


 すると上からデサの声が響いた。


「来たぞー! カラリリの騎馬商隊だ!」


 その声が響くと共に後ろの通路の入り口からクリシダが姿を現して行った。


「ルリコ様、カラリリ様の商隊が門前に到着しております」


「あ、はい。どうしましょう?」


 つい戸惑う私の肩にアキレアが手を置いた。


「落ち着いてくださいルリコ様。出迎えましょう。大丈夫、私が付いてます」


「わ、わかった」


 そう言うと私はアキレアと共に工場の外に飛び出た。

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