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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
一対一対応の枕辺(まくらべ)
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半銀貨の林檎

先週はインフルエンザに罹患してしまい、体調不良のため更新ができませんでした。

楽しみにしてくださっていた方には申し訳ありません。


現在は回復しておりますので、今週から通常通り更新を再開いたします。

引き続きお付き合いいただければ幸いです。


次回の更新は2/8です。

『あーやっぱり酒なんて飲むんじゃなかった…最悪だよ。頭痛い…』


 あの後泥パックをして水浴びをした私達は酒を持って現れたクリシダと共に夜通しの酒盛りをする羽目になった。酒を進めるクリシダに私達は明日会議があるからと断ったのだが、付き合いで一杯だけとすすめられ気が付いたら出来上がってしまったのだ。


 ああ、頭が痛い…。クリシダの奴…。あの酒の量と塩辛い森豚の塩漬けの薄切りは絶対飲ませる気だったよなぁ…。何考えてるんだか…。


『ねえ、頭痛くて仕方ないから人間の市で果物でも買おうよ。朝食の森豚の油で胸焼けしそう…』


 私の横でフランはうんざりとしたような声を上げる。それに私も呼応するかのように唸りながら言う。


『そうだね…ちょっと贅沢だけどそうしようか』


 そう言って詫びジーちゃんの家を出た私達は開拓地の城壁で開かれている朝市に向かった。朝市に近づくと市場の端の方に異様な人だかりができているのが見えた。近づいてみると人々は普段はまばらな割高な商人のテントの前に人だかりを作っていた。


 おかしいないつもだったら個人経営のテントの方が盛況なのに…。


 そう思って見てもやはり個人経営のテントは閉まったままだ。


『何なの…あの人だかり。本当うるさい。頭痛い…』


 頭を抱えるフランとアキレアを引き連れて私が商人のテントに近づくとテントの机には大量の食糧や果物、雑貨が所狭しと積まれていた。そのテントの向こうでもろ手を広げて立っていたのはケペンの娘さんのヘネシーさんだった。


「皆さん、親愛なる開拓地の皆さん。どうぞ見て行ってください! 我らゴールドピム社は貴方達の欲しいものを即座に用意させていただきます! どうぞなんなりと仰ってください!」


 その声に呼応して群衆の中から女性がヘネシーに声をかける。


「いや、そりゃ商売繁盛は結構なことだけどね。パンが一つで二十マナだって? 計算間違えてないかい!? いつもよりえらい高いじゃないか!」


 そう叫ぶ奥さんにヘネシーさんは困り顔で周囲を見渡しながら言う。


「良いところに気づきました奥さん! 何故パンが高いのか? それは此処に居る皆さんがパンを欲しいと思っているからです。しかし人はパンだけで生きていくわけでありません。野菜もあります! 果物も塩漬け肉も!」


「いや、野菜も果物も全部高いじゃないか!」


 そう言って民衆がヒートアップしそうになるとヘネシーさんは芝居がかった様子で両手を前に出して抗議を止めさせると言った。


「わかりました! そこまで言われてはゴールドピム商会一世一代の大特価祭り! こちらにある商品すべて代金はいりません。”後払い”にて取引させていただきます!」


 そう言われて取り囲んでいた民衆は我先にと食料や雑貨に飛びつく。


 え…後払いってマズくない…? 要は借金ってことでしょ? 利息とかどうなってるんだろ…?


 私がそう思って周りを見てもそのことについて気にしている人は少ないようだった。むしろ「この食料や雑貨を買い占めて転売すれば儲かるぞ!」とか「金が足りなくなったら来年の分に上乗せすればいい」と相談している始末だった。


 ア、アカーン。このままじゃあ開拓地の人達皆借金漬けになってとんでもないことに…。


「あ、あの…ヘネシーさん…お疲れ様です…」


 私は群がる人込みをかき分けてヘネシーさんに近づくと彼女は大げさに驚く仕草をすると言った。


「ルリコ様! お疲れ様でございます! フラン様もアキレア様も! お騒がせして申し訳ありません!」


 私はヘネシーの芝居がかった様子に嫌な予感を覚えながら聞いた。


「う、うん。それはいいんだけどね…この店、凄い繁盛しているけど…。あのこの商品って後払いできるみたいだけど…。それってつまり借金…? ツケだよね?」


「はい、左様でございます!」


 左様でございますって…。じゃあやっぱり…。


「利息って…まさかトイチだったり…?」


 私の言葉を聞いたヘネシーさんは大げさに片手を動かして笑って言った。


「いやいやまさか…。そんなワケないじゃないですか…」


 あ…良かった…借金漬けの開拓民は居なかったんだね…。


「月二割から五割ってところですかねー」


 やっぱり利息あるんじゃねーか!


「えっと…もし払えなかったら…どうなっちゃうのかなーって…」


「ご安心ください! その時は証文を破いて…我らゴールドピム商会のしもべになってもらいます!」


 な、成程しもべか…それだったら…。いや、やっぱダメだよ。だってそれって人材流出? ってこと? もしこの開拓地から人が居なくなったら…。結局私達の国造りも滞っちゃうわけだから…。それはマズイ…。


 平静を装いながら私はヘネシーさんの顔を盗み見ると彼女は満面の笑みを私達に向けていた。その弾けるような笑顔が逆に身心を寒からしめる。


 う、う~ん。ど、どうしよう…。ちょっとこれはノグルスに相談した方が良いかもしれない…。


 そう思って私は咄嗟とっさに貨幣の入ったポーチを手に取って言う。


「え~とじゃあそのリンゴめを貰おうかな…幾ら?」


 そう言うとヘネシーは満面の笑みで言った。


「エルフ様からお金を取るなんて! 私達は全てをエルフ様に捧げると約束しました! タダで持って行って下さい!」


 う、ウワー! ヘネシーさんやっぱり私達が接収したこと怒ってるのかなぁ…?


「そ、そうなんだー。ごめんねー。で、でも一応市場調査的な意味で値段を教えてくれないかな~って」


 そう言われたヘネシーは頭を低頭させヘーコラしながら言った。


「一個五十マナで取引させてもらっています!」


 う、うっそぉ…リンゴ二つで簡単な舟買えちゃうぐらいするじゃん…。


「へ、へー。成程なぁー。そういうことかぁ…。そういう感じかー。わかったありがとねー」


 そう言ってリンゴ二つを両手に抱えたまま商会のテントを離れた私はきりきりと痛む胃を抑えながら歩いた。


『どうしたのルリコ?』


 私は貰ったリンゴをフランに渡しながら言った。


『ヤバいよ…あの商会の人達…私達が持ってきた物資を接収しちゃったから…持ってきたお金でここいらの物資を買い占めて高値で転売して開拓地の人達を借金漬けにして連れ去ろうとしているかも…』


『あーそうなると私達のお手伝いさんが減るからヤバイってこと?』

 

 そう言うとフランは皮のついたままのリンゴに小さくかじりつく。


『そうだよ…』


『ふーんじゃあ…借金帳消しにしちゃえば?』


 そう言われて私は某ゲームの借金帳消しするカードを思い浮かべた。


 ああいうゲームにそういう効果のカードがあるってことは事例としてアリってこと…? …でも借金帳消しなんてしたら益々ヘネシーさん達がヤバイ手段に取りそうな気がするし…。


『と、とりあえずノグルスに相談しよう。こういうのって連絡、相談、報告が重要だから…』


 そう言って私はキリキリ痛むお腹を抱えながらノグルスの元へと急いだ。


『借金帳消しなんてダメに決まってるでしょ』


 経緯を聞いたノグルスは聖具室のベッドに寝ころんだままそう一蹴した。


『で、デスヨネー』


 私は何故ダメなのかわからないままに首をガクガクと振って頷く。狭い聖具室の中では修道服の女性達が文字が刻まれた石板を椅子の上に置いて、ノグルスが読み終わったら抱えて出て行って新しい石板をどこかから運び出していた。それを胡乱な目で見つめながらノグルスはため息をついて言った。


『いいですか? そんなことしたら商人たちの間で私達の国は商売の邪魔をすると噂をされて誰も来なくなってしまいます』


 そういうノグルスに私は口角を尖らせながら言う。


『そ、そもそもノグルスが商人さん達から物資を取り上げるからそうなったんじゃん。あれがなければあんな無茶しなかったんじゃない?』


 ノグルスはベッドの上のクッションの上に四肢投地ししとうちのような姿勢のまま石板を眺めながら言った。


『でもあえて損させればそれを取り返そうとまた来ますから』


 私の聞く限りではノグルスの説明に隙は無いように聞こえる。


 うーんノグルスのやり方って頭のいい人だったら反論できたかもしれないけど…。領地経営なんて私にはさっぱりだしな…。


『じゃ、じゃあどうすればいいのさ』


『まあ、何とかしますよ』


 そう言うとノグルスは『ルリ姉、フラン姉』と呟いた。そして自分の口角を指で押し上げると笑みを作って言った。


『今日の会合。ルリ姉もフラン姉には何も心配せず笑って居て欲しいのです』


『お、おう…』


『わかった』


 しどろもどろに答える私に対してフランは事も無げに答えた。


 聖具室から出た私達はもとは教会だった連なった側廊を通って一番端の側廊にたどり着くと、厚いヴェールの裏に身を潜ませた。ヴェールの裏の奥の壁には穴が穿たれていて、そこを覗くと守護者エマの椅子を覗き見ることができた。私達は息を潜めながら穴から本堂を覗いていると、静まり返った本堂をしずしずと衣擦れの音を立てて守護者エマが入ってくると、椅子に座った。エマさんが椅子に座ってから暫くすると後から続々と会合の出席者が足音を忍ばせながらエマの元に参列していく。


 最初に姿を現したのは青黒い司祭の服に身を包んだエルゼワードだった彼は卍のような渦の印を胸に垂らしていて、宿で出会った軽薄な雰囲気と違った厳粛げんしゅくな雰囲気だった。しかし私が壁の穴から覗いてるのを見ると片目でパチリとウィンクを送ってくれた。


 よかった…。エルゼさん無事だったんだな…。


 私が胸を撫でおろしながら頷くとその後に続いたのは半鎧と儀礼剣を帯刀した白銀のリリア団長と副団長だった。


 その後を歩いてきたのは茶色い外套を着た茶髪の大きな一本のおさげを下げたたおやかな女性だった。その女性は深緑色の落ち着いた服の上にプレートを付け、儀式剣を帯刀していた。


 多分あの人はマーガレットさんかな? 確かに垂乳根たらちねっていうほど胸はあるけど…ってそうじゃなくて…和服? ズバイダ様と同じ? なんで?


 マーガレットさんの後、暫く間が空いて誰も歩いては来なかった。すると反対側の側廊から修道女が忙しなさそうに後ろへと下がるとその方向から「あら? 次は私?」という気だるそうな声がした後にノシノシと足音をさせながら十二単みたいに布を何枚も重ね合わせた猫背のカラリリが現れた。カラリリは白銀のツインテールの毛先をメッシュで染めた髪を落ち着かない様に弄りながら歩いている。一見すると彼女の恰好は様々の色彩とバランスが不調和を起こしている様でそれが奇跡的に調和を維持してファッションショーの奇抜なデザインの様な先進性を感じさせた。何よりその奇妙な恰好に対して顔立ちは恐ろしく整っていて彼女の自由奔放さに説得力を持たせていた。ただ、リリア団長に比べるとその目や顔色には生気が感じられずまるで死人のように肌が白かった。


 カラリリの後ろを立って歩くのは黒い聖職者風の恰好をした初老の男性だった。男性は背高で白髪をオールバックが厳格な雰囲気を出している。黒い外套の裾からは手に持った杖の先が覗いている。


 なんかあの人…カラリリのお父さんっぽい雰囲気だけど…確かお父さんは病気で倒れたって言ってたから違う人かな?


 その後を身体を硬直させながらロボットのように歩いてきたのは商頭のケペンさんだった。ケペンさんはいつもの恰好と違って毛皮の外套と下にダブレットを来ていた。ケペンさんは動く度に突き出た腹と顎のぜい肉がプルプルと震えているのが印象深かった。


 ケペンさん頑張って…。


 その後を歩いてきたのは大きな石板を抱えた修道士の女性だった。


 その後ろを裸足でトテトテと歩いてノグルスが付いて来る。そしてまたノグルスの次が開いた。


 あれ…? 次は誰だろう? 


 そう思って私が窓から顔を覗かせているとその場にいた皆が私の方を向いていた。とっさに私は自分を指さして「私!?」と顔で聞くと皆が頷く。


 次は私か!


 そう思った私は咄嗟に側廊のベールから滑り出るとそのまま足を教会の円柱にぶつけた。突然走った痛みに屈みこみそうになるのを必死にこらえると私は笑顔を取り繕った。


 その一部始終を見ていたノグルスは天を仰いだ。石板を抱えた修道士のお姉さんはポカンと口を開け、ケペンさんは手を温めるかのように心配そうにさすり、マーガレットさんは厳しい一瞥を寄越した。その向こうでリリア団長は微笑んでおり最奥のエマさんは顔を隠して笑いを必死にこらえていた。背後からはフランの呆れる様なため息が私の間抜けさを責め立てている様に感じられた。


 その列から顔をヒョイと出したカラリリは私の顔をまるで品定めするように真顔で覗き込んでいた。その視線に気づかない様に私は最後の側廊の柱の前に立つと「コホン」と咳をした。


「…はい。静粛に」


 ぎこちなく硬い声と共にエマの後ろからサザエさんみたいな金髪の巻き髪のウィッグを付けた幸薄そうな女性が一歩前に出る。


「守護者エマ様に代わり、本会合の進行を務めます。文官、レーデル・ノイエンです」


 レーデルがそう言うとエルゼワードが嬉々とした声で言う。


「この娘、実はなぁ。王宮の書記官やったんだけど、ウチの随行やらされてここまで来たんやで。ホンマめっちゃ優秀やねん」


「まあ、実質体のいい左遷させんですけどね」


 エルゼワードの言葉にレーデルは不愛想に答える。二人の会話に一同は誰も反応せず堂内はシーンと静まり返ったままだ。それを見てエルゼワードもバツが悪そうに頭を掻きながら「シャレの通じない奴らやなぁ」と呟いた。


 エルゼさん! 私は頷きましたよ!


 そんな空気もいざ知らずレーデルは「コホン」と咳をした後に高らかに声を上げた。


「本件は、ラヴェルヌ家によるストーンハース家領への侵入について。正当性の確認を要する案件として、守護者様の裁量に付されております。結論から申し上げます。本件につき、守護者エマ様の裁定が下りました」


 そう言うとレーデルは一拍置いて言った。


「ラヴェルヌ家によるストーンハース家領への侵入は、正当性を認められず。即時撤退が命じられております」


「なんですと…!」


 アーレンの言葉にカラリリのお付きの男が驚愕の声を上げる。


「また、マーガレット家は本戦闘において生じた被害について、ラヴェルヌ家に対し賠償を求めないこと。両家はこれをもって、和平を成立させるものとします。以上です」


 レーデルの言葉に堂内のしぃんと静まりかえるしかなかった。

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