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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
一対一対応の枕辺(まくらべ)
61/65

夢見木の庭師達

次回の更新は1/4です。良いお年を。

 ノグルスは私にこの土地の地図の書き換えを事も無げに淡々とした表情で指示した。


 す、凄いなんか滅茶苦茶言ってる気がして…凄く説得力ある…。


「わ、わかったよ」


 そう言って羊皮紙を抱えて教会を出ると私は教会内を振り返った。私の背後をついて来ていたアキレアはその場で立ち止まる。そのはるか向こうには私達を案内してくれた墓守が横目で見送っていた。私はつい面白くなって墓守に手を振ると墓守は嘆息するように顔を伏せると組んだ手を小さく挙げてそれに応えた。


 もしかしたらあの人…いい人かもしれない。


 そんなことを考えながら私は紙作りの作業所に向かうと近くの水場で鍋を必死に磨いているヘルミの姿があった。


「ちょっとこの繊維鍋に引っ付いてとれないし! マジで!」


 そう愚痴を呟きながら鬼気迫る表情で鍋を磨いていたヘルミはボロボロになったヘチマのスポンジのような物を投げ捨てて天を仰いだ。そんなヘルミに私はご機嫌を伺う様にソロリと近づく。


「ヘルミお疲れー」


 そう言われてヘルミは私の方を向くと腰を叩きながら立ち上がって言った。


「ルリコさまさぁ。ウチマジ疲れたんだけど…」


「いやぁ。本当にお疲れ。でも申し訳ないんだけど明日以降も紙の素材づくり手伝って欲しいんだよね。私も他の仕事の合間見て来るからさぁ」


「それは別にいーんですけどぉ…」


 そう言うとヘルミは鍋を見下ろしながらため息をつく。


「別にいいけど…何?」


 憂鬱そうなヘルミの横顔に私は仕事辞めて転職しちゃいそうな新卒みを感じたので聞いてみる。


「いえ、なんていうか変わらないなぁって」


「変わらない?」


「私って借金が嫌で飛び出しじゃないですか? でも結局借金は借り換えみたいな形をして、またこうやって前の村みたいな炊事の仕事してるじゃないですか? だったら私が村から出でも変わらなくないですか?」


「うーんまあ、言われてみるとそうだけど…」


「借金取りに逃れるためにシハナカの放浪者に紛れた訳ですけど。あの人達と違って私はどこかの村に行けば”仲間”として扱ってもらえます。でもあの人らはそれがないわけで…。だから外に出たつもりなのに全然外じゃないっていうか…。結局ウチってどこ行っても飯炊き女でしかないなら。別に外出た意味なくね? みたいな?」


 そう言うとヘルミは炊き出しをしている奥さんたちを見る。


「なんかそう思うと…空しーなって」


 そう言うとヘルミはあらぬ方を見上げてため息をつく。


「でもウチってシハナカみたいに放浪するの根性もないし…。だから…」


 ――やっぱ私のやったことって無駄だったんだなって…。家族も友達も捨てて来たのに…。


 そういうとヘルミはため息をつく。


「もういいや…なんか疲れちった…」


 私はその横顔を見て若干の冷や汗を垂らす。


 アカン…。これは新卒のキャリア不安みたいなモノでは…? 何とかしないと…。


「ねえ、ヘルミ。ヘルミの夢って何?」


「夢?」


 ヘルミは手で涙を拭う仕草をすると私の方を見る。


「夢ってなに?」


 そのヘルミの湿った声に胸が締め付けられながら私は答える。


「夢っていうのは…自分の望んだことを叶えるための目標みたいなものかな…」


「ウチは別に…借金が嫌で逃げて来ただけで…別にやりたいことないし…夢なんて…」


「そんなことない。だってヘルミはまだ途中でしょ?」


「途中…?」


「うん。ヘルミは村から出てそこじゃないどこかへ行こうとした。だったらそこがヘルミの求めるものだよ」


「そこって?」


「村じゃないどこか。外の世界」


「でも…ウチは…」


「放浪しろとかそういう話じゃなくて…。この世界にまだない何か、ヘルミにしかできない何かだよ」


「でも…それがなんなのかわからない。どうしたらいいかもわからない」


「うん。だから私も手伝うよ。ねえ、ヘルミはさぁ。まだ地図にない世界を作ってみたくない?」


「地図にない世界?」


「うん、駅っていうんだけど」


「エキ? エキってなんですか?」


「エルフを訪ねてくる偉い人達の宿場みたいなものかな。ホラこの地図の南側の森の入り口に馬車の発着場みたいのを作ってそこの出迎えとか管理をして欲しいの」


「それは…良いですけど…。それで私は何をすればいいんです?」


 私は何かまだ落ち込んでる感じのヘルミを元気づける為に更に言う。


「何をすればいいと思う?」


「…? どゆこと?」


「駅をどういう風にするか。ヘルミが思う様にやってみたら?」


「思うようにって…どうすれば?」


「それはヘルミが決めて良いんだよ。ヘルミの駅なんだから」


「…」


 ヘルミは私の顔をぼんやりと見ながら不思議そうに尋ねた。


「何でルリコ様はウチにそこまでしてくれるんですか?」


「それは私がヘルミと同じでどこか遠くを夢見る人だからだよ」


「ルリコ様の夢ってなんですか?」


 私は若干赤面しながらもサムズアップして言った。


「私の夢は…今は王子様と結婚すること…かな」


 本当はニコラスのことがあるからこの夢はもう変えるべきなんだろうけど…。今はヘルミを励ますために夢はでっかく言っておかないとね!


「ハハ…なにそれ。バカじゃん」


 そう言うとヘルミはあらぬ方を見ながら微笑んだ。そして私の方を向いて言った。


「でもそれ超羨ましいかも。あたしは…。どうかな? わからない。わからないから。駅に来る人の夢を聞いてウチの夢を見つけたいかな…。今は多分。そう」


 そう言うとヘルミは笑った。


 その瞬間、私はヘルミがどこか遠くに行ってしまったかのような感覚に囚われて不意に寂しさに心が覆われてしまった。


 笑った後ヘルミは何も言わず、また鍋を洗う仕事に戻った。私も弱った自分を見せたくないだろうヘルミを気遣ってその場を黙って離れた。


 暫くの間、私は頭の中でヘルミの寂しそうな笑顔が離れないままに羊皮紙をデサの元に持って行った。私はデサの元についてもぼんやりとしたままで、デサが羊皮紙を白紙にする為の説明も、頭に入ってこないまま適当に頷いていた。何回か私が頷くとデサは小刀を取り出して羊皮紙の表面を丁寧に削り始めた。デサの手が動く度に地図から歴史の様なものが削り落ちていく様を私は呆然と見ていた。デサが削り切った羊皮紙を洗っているのを見てふと気づいた。


 今思うと…。これって取り返しのつかないことをしているんじゃないかな? この地図を作った人とか見ていた人の歴史とか思いみたいなものを消してしまっていいんだろうか?


 そんな私の迷いを断ち切るかのようにデサさんは洗った羊皮紙をピシャリと板に貼り付けた。


「昼頃には乾いているでしょう。また明日来てください」


 デサさんにそう言われた私はぼんやりとしながらギルドから出ると、宙はすっかり暗くなっていて、相変わらず星環が輝いていた。門まで歩くと途中アキレアが借りてきたシュラにまたがった。気づけば私は詫びジーちゃんの家の前に立っていた。そのまま私の記憶は切り取られたかのようにコマ送りに進んで行った。何が何やらわからないまま私は身体も拭かず、寝ているフランの背中にくっついて髪の香りに包まれながら眠った。眠りながら何故急に私はこんなに落ち込んでいるんだろうと考えた。


 ――だから外に出たつもりなのに全然外じゃないっていうか…。結局ウチってどこ行っても飯炊き女でしかないなら。別に外出た意味なくね? みたいな?


 眠りながら心で響くヘルミの声が私を虚ろにしていたんだと気づく。


 本当はわかっていた。夢を叶えるとか言って…。集落を出ても…。外に何かなんて無いって。王子様と結婚したってそれは…。奥さんになるしかないんだって。どこまで行ってもそこは…外じゃないんだ。


 私の脳裏に昼間の炊き出しでオロオロしていた若奥様の姿が思い出される。


 ああはなりたくないって思ったけど一緒じゃないか。誰かの奥さんになって…その何かをやらされる。何も違わない。森に留まって奥さんになって子供を産んで育てて家事をして…そして老いて死ぬ。


 ――同じことじゃね?


 ヘルミの言葉が私の頭に響く。私は頭をフランの背中に埋める。するとフランは朦朧もうろうな声を上げながら振り返って私の頭を抱きかかえて優しく撫でてくれる。私は自分の中の声を必死に打ち消そうとフランの胸に顔を埋める。


 ――転生したって結局同じじゃね? 生まれ変わっても私達は同じことを繰り返して死ぬだけ。


 私の脳裏に長い黒髪をヴェールの様に垂らしたアラバスターの少女が私を指さして言う。


 ――ひとつ予言してあげる。これは運命ではない。これは可変的な未来の中でお前らが自ら選択した末路なのだから。まるで虫ケラが生きる為に飛び回り最後は道に甲腹をさらして死ぬかのような存在論的必然なのよ。


 怖い。ただひたすらに。


 ――あたしは…。どうかな? わからない。わからないから。駅に来る人の夢を聞いてウチの夢を見つけたいかな…。今は多分。そう。


 そうだ、ヘルミは私と違って。先に行ったんだ。本当は外に行くのも本気で夢見るのも怖い私の言葉を聞いて。ヘルミは…本気で夢に向かって走り始めてしまった。私は…ヘルミに置いて行かれたのが怖いんだ。もし本当にヘルミが夢を叶えても私は…。私は本当に外なんてないのがわかっているから。


 私は頭をフランの背中に埋める。するとフランは朦朧もうろうな声を上げながら振り返って私の頭を抱きかかえて優しく撫でてくれる。私は自分の中の声を必死に打ち消そうとフランの胸に顔を埋める。


 私の見る夢は、既に誰かが見たことがある誰かの夢でしかない。私が叶える夢は、既に誰かが叶えた夢の後でしかないのだから…。


 そんな考えに身を震わせていたらいつの間にか私は眠ってしまったらしく、麻になって私は身を起こした。そして頭を掻きながら「まあ…いっか」と呟いた。


 何だろう。よくあるよね。夜になると将来が不安で仕方ないけど朝になるとどうでもよくなっちゃうやつ。多分あれだ。


 そんなことを内心呟きながら私はフランに髪をとかしてもらいながら昨日の鍋を温めておじやにしたものをかき込んだ。その後で身体を軽く拭いたらアキレアと一緒にシュラに乗って開拓地に訪れた。


「まだ日が昇って浅いから乾いてないですよ」


 カマドで紙の原料を煮詰めているヘルミがそう言う。昨日と変わりなくヘルミはヘルミのままだった。私はそれを尻目に紙の干し板を眺める。几帳面に貼り付けられた紙達はまだ水気を含んだままだ。


 紙が乾いてないってことは羊皮紙も乾いてないよね?


「そうなると午前暇だけどどうしよう?」


 そう言うと私の背後にアキレアが近づいて来て言う。


「ルリコ様それだったら用水路を視察されたらいかがでしょう?」


「あ、良いんじゃないですか? ヤナも魚を賞味するのもよさそうです」


「ヤナ?」


「水路に敷いた下駄に魚を追い込む仕掛けですね」


 あーあのアユを取る為の仕掛けみたいなやつか…。まあ、どうせ暇だし…。


「わかった行って見ようか」


 そう言って私は開拓地の砦の背後の麓に広がる水路を視察した。水路の管理小屋の役人さんに説明されながら視察しているとなんか偉い役人にでもなったかのようだ。


 まあ、私はただ立って聞いてるだけで、応対は殆どアキレアがしてくれてたんだけど。


 役人さんは最期にヤナの仕掛けも案内してくれたが「魚を食べたい」と言っていいのかわからなくてニコニコしていたら、アキレアが「ルリコ様に魚を馳走せよ」と言ってくれた。言ってくれたは良いけど、そこから火をおこしたり椅子や机を用意されたりとかえって大変になってしまって申し訳ない感じになってしまった。


 偉い人が魚食いたいってわがまま言って部下がてんやわんやするなんて落語の目黒のさんまみたいな展開だな…。


 結局魚が焼き上がる頃には青い芝の上に椅子とテーブルを構えて魚をナイフとフォークで食べるというなんともシュールな絵面になった。


 まあ、視察としてはよくわからんけど役人の人は真面目そうな漢字だったし…。ていうか仮に何か問題あっても素人の私じゃ気づけないだろうし…。…じゃあ視察って何の為にやるんだ…? なんていうか前世の現場に来てた社長ってこんな感じだったのかな?


 視察を終えて丘を降りる頃には中天から陽が落ちかけていた。ヘルミの居たカマドに近づくとデサとヘルミ、フランが私を待ってくれていた。


「あ、ルリコ。紙だけどいい感じじゃないかって。ちょっと見てよ」


 見ると紙はわら半紙のように薄茶色で紙の中にところどころ色の濃い繊維のようなものが浮いている。手で触ってみると和紙というより、画用紙に近い厚さでなんとなく薄さにムラがある気がした。


「書き味は?」


 私の問いにアキレアが細く削った炭をくれたので書いて見るとところどころ繊維にひっかかって線が震えた。


 うーん…惜しいな。色と繊維質が課題かな? こっから試行錯誤してもいいけど楽するなら…。


 そこまで考えて私の脳裏に訛りが強い巡礼者エルゼワードの顔が浮かぶ。


 ああ、そういえばあの人なんか紙に詳しいみたいなこと言ってたな…。


「ちょっと改善案に心当たりがあるから続けていて。ていうか今日はもうアガリで良いよ」


「わかりました」


 そう言うと紙の出来を見に来ていた人達もまばらに散って行く。私はアキレアに近づくと側で耳打ちした。


「エルゼワードに紙のことを聞きたいんだけど…尾行とか大丈夫?」


 それを聞いたアキレアも小声で返す。


「水路までは開けた丘なので尾行のしようがないですよ」


「それもそうかって…それって遠目から私達の動向が丸見えだから尾行の必要がないんじゃ?」


「…成程」


 うん、アキレアい奴。


「でもそれならエルゼワードの位置はすぐバレるハズでは?」


「ってことは…他に方法があるってことか」


「宿屋の女将に聞いた方がよろしいですね」


 そういうことになって宿屋に行ってみることにした。


「ここいらの暗渠あんきょは地下の井戸の水脈でいたる所に繋がっているんですよ。だからエルゼがどこにいるかはあの子達しか知りません」


 そう言ってエリゼの女将さんは店の外にいる子供たちをあごで示す。エルゼのお付きの子達は宿の玄関の外で何をするでもなく座り込んでいる。


 たしか、あの子達はエルゼワードさんと一緒に居た子供たちだ…。あの時はいつの間にか居なくなってたけど…。もしかしてずっと宿の外で野宿していたのかな?


 私は子供たちを見ると、二人は静かな目をしてこちらを見つめていた。前世の日本の無邪気な子供と違ってその目には警戒心と猜疑心さいぎしんが宿っていて無垢な感じは全然しなかった。


 何か前世で見た写真のスラムの子と同じで冷たい目をしている…。ていうかこの子達ちゃんと食べてるのかなぁ? 仕事は? …ってそんなこと考えてもしょうがないか。


「何か連絡があればあの子達に手紙を渡したらどうでしょう?」


「…わかりました」


 宿屋からカマドにとって帰すと、失敗作の紙に削った木炭で『色と紙質の改善点を教えてください』と簡潔に書くと牛革の布の中に返信用の紙何枚かと木炭を入れて折りたたんでヒモで縛って子供たちに渡して離れた。離れた先でアキレアは私に近づいて言った。


「あの子供たちは日ごろ皆と一緒に何かをすることはないようです。それは不健全に感じますね」


「ああ、確かに二人ぼっちだからね」


「いいえ、そうではありません。あのままではあの子供たちは無能になってしまう。誰かの下で仕事を覆えさせなければ。どこかに受け入れられるには仕事の技能が必要なのです。何も持っていない者は奪うしかない」


 成程そうか…この世界の一員になる為には、何かにならないといけないのか…。じゃあ私がこの世界に居るには貴族にならないとダメ…。もし王子様と結婚するならお姫様にならないと駄目ってこと…? でもお姫様って何するんだろう?


「ところでルリコ様。そろそろ羊皮紙が乾いた頃合いじゃないでしょうか?」


 アキレアにそれを言われて私は地図作りのことについて思い出す。


 そうだった…お姫様がどうとか言ってる場合じゃなかった…。


「そうね行きましょう」


 私達がデサの所へ行くと彼は乾いた羊皮紙を渡してくれた。一緒にインクと羽ペンを分けてもらった私は再び詫びジーちゃんの家に戻った。私はジーちゃんの机の上で地図の構想を頭に浮かばせながら木炭のうっすらとした線で下書きを始めた。


 まあ、地図っていっても森の部分をちょっと上にして、開拓地を地図の上側にするだけだから…できなくもないんだよね。…まあ、問題は大半の森の部分が何もないことなんだよね…。…繋がる道がわからないなら…中に何があるか描いても良いかな? そうか…そもそも絵地図みたいにすれば縮尺も適当でどうにかなるし…。


 そんなことを考えながら私はエルフの森がどうなっているかを思い出しながら描いてみた。


 確か東に大樹の村があって…西に呪霊の村があって…南に墓所で…北にはウチのエルフたちがやらかしてできた赤い汁が滴る樹がある血樹の森があってっと…。あれ…なんかウチの森って結構ヤバイスポットしかないな…。なんかもっとこう…そう泉があって…母さんが居た祠があって…広場の長屋も入れて…。


 描いていくうちにいつの間にか観光地にあるようなポップな感じの絵地図が出来ていく。


 いや…なんかコレジャナイ感がヤバいな…一応下書きで見せて確認した方が良いかな? っていうか…そもそも。


「そういえばウチの森って名前とかあるの?」


 私が顔を上げて振り返るとフランとアキンボはお互い顔を見合わせると言った。


「集落でしょ?」


「集落だったと思うけど…」


「うん。でも他の国は名前を付けるもんなんだよ」


「でも私達の集落って国じゃなくない?」


「いやまあ…そうなんだけど…」


「まあ大樹の森とか呪霊の村みたいな場所の名前はあるけどな…それらひっくるめて集落って感じで名前はないよな」


 まあ、確かにゲームとかで家を建てている時は名前なんてないけど…。ある程度建築物が集まったらエリアA、エリアBみたいに名前を付けるけどそれらをひっくるめてなんていうかって言われると「何が?」って感じになるもんね…。


「まあ…理屈は置いておいてさ…。多分これから色々やるにあたって多分名前はあった方が良いと思うよ…」


「いやぁまあ…でもなぁ」


「でもねぇ…」


 私達はお互いの顔を見合わせてデカイため息をついた。


「「「絶対揉めるよねぇ…」」」


 議会は揉めるだろうし。なんなら大樹と呪霊の一族はオウムアムアと大いなる母のどちらが起源かで大いにもめること必至だ。


 私は羊皮紙を丸めて机の上に置くと床に突っ伏した。


「とりあえず今日は疲れた寝て明日になったら聞いて見るよ…」


 すると突っ伏した私の横にフランが体を横たえると私を見て言う。


「ねえルリコ。なんだったらルリコが勝手につけちゃえば? そうしても多分エルフの皆は気づかないんじゃない?」


「いやぁそれはマズイていうか…。そもそもこんな地図作って大丈夫なの? って気がしてきた…」


「まあ…大丈夫なんじゃない? 多分」


「大丈夫かなぁ…?」


 不安な気持ちにさいなまれたまま私は目を閉じると眠りに落ちた。


「大丈夫ですよ」


 朝になって目覚めてから教会のノグルスに羊皮紙を見せるとすんなりとオーケーが出る。


「えっと…本当に? なんかちょっとポップすぎない?」


「ポップ…? はわかりませんが。別にいいんじゃないですか? むしろルリ姉にこんな絵心があるとは感心しました」


 昨日ぶりに会ったノクティスは聖具室の小部屋で大量の書物を寝っ転がって読んでいた。彼女は書物を読みながらでも会話に難が無いようだった。


「えっと問題は…名前なんですけど」


「そうですね、名前を付けると荒れるのであれば、名前はナシにしましょう」


「え、なくていいんですか?」


「はい、名前が無ければ対象になりません。税をかけるにも戦争を仕掛けるにも名前が必要です。だから無くていいです」


 え、でも前はエルフの歴史を未来に残すための地図とか言ってたような…。もしかしてその時はまた名前を消す気なのかな?


「じゃあこの地図にあるエルフの森の駅作ってください」


「え、でも奥方様の商隊が来るの今日ですよね?」


「そうですねー」


「今からじゃ用意するのは無理っていうか…どうやって駅まで誘導するんですか?」


「何もしません」


「え? 何もしなかったら多分商隊は開拓地に行っちゃいますよ?」


「そうでしょうか?」


「え、冗談抜きでどうするの?」


「…ではルリコさんはアキレアさんと一緒に駅の雨避けの出来を見てくれませんか?」


「出来を見るってそれだけ…?」


「はい、そうすれば奥方の商隊は駅に来ますよ」


 ええ…そうかなぁ? だって開拓地はこんなでっかい砦が立っていてこれ見よがしに旗も上げられている。それに砦の前の道は勾配がないのに対して私達の森は坂だから上りにくいんだから…。何かこっちも策を…。


「余計はしないでくださいね」


「え…でも…」


「ルリ姉。駅に行く方がマシって思わせるんです」


「マシ?」


「兎に角。私の計なのです。ですがルリ姉の中止するというならそれまでの話です」


 そういうとノグルスは書物に没頭して反応しなくなってしまった。

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