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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
夢寝子ラブトロジー
41/66

さえずる鳥に冷えたアクアパッツァ 姉妹の流儀

次回の更新は10/17日です。

 門をくぐると、邸宅の庭は想像よりもずっと広く、そして静かだった。白亜の壁に淡い藍の屋根、噴水のきらめきが涼やかに揺れる中庭。遠目には控えめだった。店の中に一歩足を踏み入れれば、絨毯じゅうたんの色、燭台しょくだいの配置、調度品の一つひとつに至るまで、洗練と格式が積み重ねられているのがわかる。


「これが元海賊の経営する料亭? 半端なさすぎるでしょ」 


 まるで聖域のような静けさの中で、私はニコラスと腕を組みながら歩を進めた。館の奥には、かすかに甘い香が漂っている。香辛料や酒精のにおいとは違う、もっと古く、けれど上品な気配が空間全体に満ちていた。


「ご到着、お待ちしておりました」


 迎えに現れたのは、年若いが身のこなしに無駄のない女性。肩までの髪を後ろに撫でつけ、白の制服に身を包んでいる。彼女は私達の服装に眼を向けると、数度のまばたきの後、軽く会釈した。


「オーナーよりお話は承っております。どうぞ、お足元にお気をつけて──こちらへ」


 私達は給仕の後に続いて歩き始める。玄関からホールまでの道中の棚には美術品が置かれている。その中でひときわ目を引いたのは壁に立てかけられた北海の地図が気になった。立ち止まって見てみたかったが、案内の邪魔になりそうなので一旦スルーした。


 メインホールにたどり着くと、食事の席に着いた何組かの貴族のカップルたちが天井を見上げていた。つられて私達も見上げると天井から吊り下げられた巨大な魚の骨が見えた。壁のランタンに照らし出された白骨は天井の大海を優雅に泳ぐように背骨をくねらせた形で吊るされていた。肋骨と頭部の太い骨はその魚が巨大な生物であることを物語っていた。


「もしかして…クジラ…?」


 女性の給仕は私の言葉に眉をピクリを動かすが、左手をメインホールの階段に向けて言った。


「お二階にVIPルームを用意しております。当邸が誇る最奥のお部屋、“海楼”をご用意しております。波の囁きとともに、特別なお時間をお楽しみくださいませ」


「どうぞよしなに頼む」


 うん、落ち着いたら絶対貴族言葉を練習しよう。


 二階に上がるとそこは窓から波止場の船と河川を一望できる席だった。私はニコラスが引いた椅子に座ると対面に彼も座った。アマナさんは私の後ろに、ナタリアさんはニコラスの後ろに控えた。私達は給仕にドリンクをオーダーすると魚介のコース料理が運ばれてくる。前菜のカルパッチョにスープ、鮭のムニエル。


 私達はそれを静かに食していく。私はニコラスのテーブルマナーを盗み見るが、いつの間にかニコラスはナイフとフォークの使い方を覚えたらしく、特におかしい点は見当たらない。


 良かった…後はなんの心配もなく、私は食事を愉しめばいいだけだ。


 …いや、食を楽しめばいいだけなのに…。いや、美味しい。…美味しいんだけどさぁ…。せっかく異世界来たんだからもうちょっと異世界ならではの珍味も食べてみたかったよね…いやまあ、虫出されるよりいいんだけどさ…。


「お次はメインの特製白味噌仕立てのベーコン鍋でございます」


 そう言うと給仕がメインの鍋料理を運んでくる。その背後には男装のスーツ姿のエイリスも現れる。私はエイリスに何かを言おうと口をパクパクさせるが、彼女は何も言わず頭を下げるだけだった。


 そうか…そういえば私はここに情報を取りにきたんだった…。忘れてた…。にしてもベーコン鍋? ベーコンって鍋にあうのか?


「既に煮立たせてあります。お召し上がり前に山椒と辛みの香草を加えてお召し上がりください」


 あ~ミソのいい香り。異世界に味噌って普通にあるんだな。お土産に買って帰ろう。

 

「いただきます」


 そう言うと私はまず鍋の汁を少しよそって飲んでみた。


 うん…味噌だ…。そりゃそうか。ていうか味噌のコクと山椒の雑味も相まって凄いことになってるな…。美味いかと言われると美味くないな…スマンけど。


 次に私はニラと人参とキャベツっぽい野菜と共にメインのベーコン肉をよそって食べてみた。スプーンですくった肉はさじの上プルプルと踊るように震えて、脂身がキラキラと光っている。私はそれを思い切って一口でいってみた。


 なんだろうこれ? レバーっぽい生臭さというか…豚っぽい脂身っぽさというか…。クセのある感じ…だけど。なんか懐かしいような…。なんだこれ?


 私がエイリスさんをちらりと見ると彼女はニコリと笑って頷く。


 いや、何の笑顔?


 ニコラスの方を見ると肉を一口にしただけで、器に戻していた。


 まあ…、エルフはこの獣臭い肉は苦手な人も居るかもしれないな。にしても何の肉だろう牛でも豚でもなさそうだし…今まで魚介系がおおかったから…魚? …もしかして。


「クジラ肉?」


「ヒットです。流石の慧眼けいがんですルリコ様。いえ、金穂の楯とお呼びした方がよろしいでしょうか?」


 エイリスが頭を下げると両隣の給仕も拍手をする。


「い、いやぁ。ただのカンですよ」


 そういうと私は、またクジラ肉を口に入れる。


 そっかぁ…クジラ肉か。この懐かしさの原因は給食に出された時の思い出の味だったからだ。でもその時はクジラの竜田揚げ揚げだったんだよなぁ…。


 私の中で懐かしさと一緒にもう一度食べたいという欲求が高まっていく。


「ああ…クジラの竜田揚げが食べてぇ~…」


 私のその言葉に一瞬で場が凍り付く。私もつい出た言葉に口を押さえる。


「…今すぐ、ルリコ様のご所望の品を用意せよ」


 エイリスは給仕を振り返って指示を出す。給仕は顔を青くしながら頭を下げる。


「オーナー…。申し訳ありませんが…タツタアゲなるものがわからないのではご用意できません」


「口答えをするな、わからないならわかるまで戻ってくるな」


 おいおい…ちょっと口走っただけでこんな剣呑な雰囲気になるもんかな?


「お許しを…お許しをオーナー。私を見捨てないでください。今、ここで放逐ほうちくされてしまったら私は城の外をさ迷うしかなくなります…どうか…」


 アカンッ! 私のせいで職を失う娘が出てしまうっ!


 私は給仕の湿った声に、身を乗り出して言った。


「エイリスさん、私ってVIPだよね? 多少のワガママは許されるよね」


「申し訳ありません、ルリコ様。勿論貴方のご要望はどんな手を使ってでも叶えてみせます」


「いやいや、そうじゃなくてさ。だったらさ、厨房貸してくれない?」


「はいぃ?」


 突然の提案に流石のエイリスさんも声を裏返す。


「少し時間を貸してください、美味い竜田揚げを用意しますよ」


 私はそう言うと、立ち上がろうとした。


「お控えください、ルリコ様」


 そう言うと、アマナさん私が立とうとした椅子を掴んで、戻した。


 か…かっこよく決めようとしたのに…。


「どうして? アマナ?」


「揚げとは揚げ物のことでしょう? そんな料理をして貴方の服や肌に油が跳ねたらどうするんですか?」


 オッシャルトオリデス…。


「でも…」


「ワルス様の教えをお忘れですか? 何かする時は、手下にやらせるようにと。ルリコ様は指示をしてください。不肖、アマナ、ナタリアがそれに全力で答えます」


 そうか…その手があったか…!


「よかろう、アマナ、ナタリア。私の指示の下! 竜田揚げを作るがよろしい!」


「承知いたしました、ルリコ様」


 うん、もう貴族言葉とかフィーリングでいけるんじゃね!?


 私達は一階の厨房に向かうとアマナとナタリアは厨房でエプロンを借りると、髪をポニーテルに上げて、手を洗うと調理に取り掛かった。


 アマナさんのポニテ―ル…うなじ…。イイッ…!


「まず、クジラの肉を一口大に切って下味をつけてください。下味は…魚醤ぎょしょうと果実酒に山椒と塩を加えて」


 アマナさんが切った肉をナタリアが桶に敷き詰めて下味の様の調味料を加えていく。


 本当はショウガとかニンニクがあればいいんだけどなぁ…。


「肉はしばらくそのままにして、クジラ肉の脂身を鍋で温めて油を抽出して。ナタリアさんはう~ん、そこにあるキャベツを刻んで、野草をちぎってたら、塩、果実酒、酢を混ぜてサラダにして」


「承知しましたルリコ様。キャベツにそえる野菜はこの辛みのあるカイワレがアクセントになってよろしいかと思います」


「いいね、やって」


「ルリコ様、油の温度はこの程度でよろしいでしょうか?」


 アマナさんの鍋を見ると既に半分ほどの油が抽出されている。


「うん、そしたら暫く温めて百八十度…って言ってもわからんか。菜箸をいれて小さい泡が出るぐらいが頃合いかな。その間、下味をつけた肉を米粉と小麦粉を敷いたまな板に置いて両面に塗して…うん。そしたら肉を鍋に入れて行って。火傷と火事に気を付けてね」


 アマナさんが菜箸で肉を煮えたぎった油に沈めると厨房内に香ばしい臭いが充満した。それを遠巻きに見ていた料理人たちが口々にその出来がどんなものかを予想してささやき合う。


 調理を見ていたエイリスが私達に近づくと言った。


「ルリコ様、もし差し支えなければ我が家の厨房にも少しばかり真似をさせていただけぬかと。お客様にもきっと喜んでいただけるかと存じます」


「モチのロンだよ」


「モチ…?」


「勿論だ」


 イカンイカン。つい、テンションが上がって余計なことを言ってしまう。


「よし! 野郎ども! 見ていた通り、このタツタアゲを真似してお客様に振舞うんだ! ルリコ様の直伝だ! 余計なアレンジなんて加えたら承知しないからね!」


 いや、別に好きに作ればいいと思うけどな…。


「ルリコ様! この揚げ物はいつ鍋から上げればいいですか? 指示をください」


「ああ、身が浮いて、衣がきつね色になったくらいかな」


「き、狐は見たことがありません」


「うん、まあ今の感じで大丈夫だと思うよ。そしたら一旦皿に上げて予備熱で温めたらもう一回揚げて完成かな」


 そう言うと、私はエイリスさんを振り向いて言った。


「一旦アレ試食してみてくれません?」


「試食ですか? あれはルリコ様のものでは?」


「そうですけど…お客に出すなら味を確かめておいて欲しいんですよね」


「成程…承知しました。おい、料理長! 副料理長! こっちへ」


 二度揚げが終わった竜田揚げを皿から取って口に入れる。


 うーん、揚がり具合は完璧だけど、やっぱり山椒のせいか苦みがちょっとあるな…。でも塩気と肉っぽさは完全に竜田揚げだね。


「ちょっと苦みがあるけどまあ…」「美味しいです!」


 私が竜田揚げの苦みについて言及しようとすると、料理長がうなりながら絶賛する。


「この塩気は酒の友に最適ですね」


 エイリスは私に頷きながらにこりと笑う。ニコラスも私に何か言いたげな目を向けていたので聞いてみる。


「ニコラスはどう?」


「不思議です。先ほどの癖のある胸焼けする油感が抑えられている気がします。なにより、この付け合わせのサラダの酢を合わせるとより油がサッパリと洗い流されそうな気がします」


「そうですよね! ニコラス様! そのサラダはこのナタリアがてづから作ったものですよ!」


「はい、ありがとうございますナタリア」


 ナタリアはニコラスに笑いかけられるともじもじしながらニヘラ顔をさらす。


「ど、どういたしまして…エヘヘ…」


 気が付けば厨房内は煮えたぎる油と肉を切り分けサラダを盛り付ける戦場と化していた。あまりの喧噪に私達が混乱していると、エイリスが横に立って言った。


「お騒がせして申し訳ありません。当厨房は腕利き揃いなのでルリコ様の手本を忠実に再現するでしょう。それまでは控えでお待ちください」


 え、控えってことは…もしかしてあの残してきた鍋は捨てられちゃうのかな…? それは勿体ないから…。


「わかった…では…残した鍋は…テイクアウトで頼む」


「は、ハハ…承知しました」


「ルリコ様、私達の為にありがとうございます」


「そ、そうだ。あの鍋は侍女たちに食べさえて味を再現しようと思ってな…だからついでクジラ肉も…」


「ンンッ!」アマナさんは私がこれ以上何か言う前に、咳払いで止めさせた。


「勿論ご用意いたしましょう…さあ、こちらでどうぞ」


 私達が通されたのは応接室の様な部屋だった。


「どうぞおかけください」


 エイリスは私達を座らせると、立ったまま言った。


「あらためまして、本日はご足労いただき誠にありがとうございます。ここからは、例の“銀目の品”についてのご報告があります。ただ、この件は当店でもごく限られた内々の取り扱いでございます。誠に恐れ入りますが──お連れ様には、少しだけ席を外していただけますでしょうか?」


 そう言うと、エイリスは後ろで控えるアマナとナタリアをまっすぐと見た。


「アマナ、ナタリア下がりなさい」


 二人は私の指示を受けて扉の端まで下がる。すると背後でエイリスの給仕たちが防音用の幕を閉じるような音がした。


「さて、ルリコ様。ここからは…仕事の話といこうか。まずは、あたしが用意したコース料理、どうだった? …楽しんでくれたなら、こっちとしても上々なんだけどね」


 私はニコラスと顔を見合わせると頷いて言った。


「思った以上にね。まさか北海で捕鯨した肉を卸せるなんて貴方本当に情報屋?」


「昔の伝手でちょっとね…」


「その伝手って海賊?」


「おや、耳が早いね。流石金穂の君だね。でも海賊家業からは足を洗ってる。今はさるお方の下で業務委託の個人営業って感じかな」


 異世界にも業務委託あるんだ…。


「まあいいや。それで腕を見せてくれるんだよね?」


「ハハッ。ルリコ様はことを急ぐタイプかな? ではこちらもハンドを見せましょう」


 そう言うと一瞬の間をおいてエイリスは静かに言った。


「黒いワインについて調べたけどね。何もわからなかった。なーんもね」


「…ふーん噂も?」


「そうだね」


「それって変。だって、何故私があの店に来たと思う? この耳で聞いたからだよ」


 私は自分のとがった耳をピンと弾いてみせる。


「あの店ってどの店?」


「どの店って…昨日会ったじゃない。五杯目のことだよ」


「あー…あの店ね…。実は昨日の夜に火災できれいさっぱり消えちゃった」


「はあ!?」


 驚いて私はエイリスの眼を見る。エイリスも私の目を思わせぶりに見つめ返してくる。


 あの時エイリスは黒いワインについて知っている風だった。だけど今になってそれを「知らない」と言い張っている。それどころか店が消えた…。いやもしかして…消された? 黒いワンってそんなヤバイ案件だったのかな…? あれ、でもそれなら私は…? あー…そうか貴族だから消すわけにいかないんだ…。ってことは…相手は貴族よりかは立場が低い…? ん…? だから来店した時に微妙な空気だったんだ。…いやちょっとまて…黒いワインがヤバイブツなのだとしたら…。それを貴族が探しに来たら…。あ、あ~。これ私のせいかぁ?


 私がエイリスの眼を見ると彼女は満面の笑みを浮かべる。


 恐らくだけど黒いワインはヤバイブツでそれを貴族の私が探しに来たから関係者が消されたっぽい?


 あー…。あーこれ何も言えない…。エイリスさんは業務委託って言ってたからその上司か上が絡んでる案件っぽい? あー…。普通に北海まで行って捕鯨委託できるっていったら結構デカそうだけど…。ワルスさんは違うよね…。じゃあ誰が…? いや、今はそうじゃない。今考えるべきは…。


「…クラリネは?」


 私はクラリネから黒いワインについて聞いたのだ。エイリスは彼女を知っているのか?


「クラリネ? 誰ですかそれ?」


 ああ…そういうことか…。クラリネは消された…いや、消される? 消されたら今ここで言う必要ないよね? あー…成程。消されるから…ってことか?


「そう…で…。銀目イワシはどこ?」


 エイリスは私に大仰に頭を下げると言った。


「ええ、商人街の鍵付き倉庫なんですけどね…。実は他にも欲しいってお客が何人も居まして…」


「何人? どんな人?」


「五人の水兵さんでして…」


 その言葉を聞いて私の脳裏にクラリネと広場で一緒だったマルコと言う男の顔が浮かぶ。同時に師匠が「アイツらには勝てない」と言っていた水兵達のことも思い出す。


「先方とは話せないの?」


「先方さんは…倉庫の中に直接買い付けに来る程に銀目を強くご所望でいらして…」


 あー…。商人街の倉庫を占拠してるってこと? いや、潜伏か? なんか剣呑な感じなのか…。何する気なんだよぉ…。


「…銀目のイワシというのは走らせて捕まえる…というのが主流でして…」


「走らせる?」


「あまりに元気がいいので直ぐには釣れません。だから暫く海を泳がせて疲れせさせてから捕まえるのです」


「…つまり銀目は捕まえられると?」


「です」


 私は椅子に深くもたれかかると天井を見た。


 そっかー…。捕まえられるんだぁ…。じゃあ、後は私と師匠とベラで見張って…。いや…何かこのまま終わる感じがしない。絶対何か起きる気がするんだけど…。


 再び私はエイリスさんをチラリと見ると、彼女はニコニコと笑っていた。


「で、報酬は?」


「それはいただけません。実はその倉庫に私の古なじみが居まして…。巻き込まれた形で…。聞けばエルフの方々には新しい土地が与えられるとか…」


 あー…。要するに匿って的な話なのか…。でもなぁ…。前科者はなぁ…。


「差し支えなければエルフ様の領に海産物を卸すというのはどうでしょう?」


 あ、それいいな…。


「わかった…うちの領に海産物を卸して。…5%ぐらい?」


 それを聞いたエイリスは大げさに胸を撫でおろして言った。


「それでしたら可能です」


「じゃあ、交渉成立で」


 私が手を差し出すとエイリスさんはそれを不思議そうに見ていた。


「これはお互いの信頼の証みたいなものだよ」


「左様ですか、では遠慮なく」


 私とエイリスさんは握手をするとお互いの目を見て笑った。


「なんだかこっ恥ずかしいですね」


「うん。だから記憶に残るんですよ」


「成程、正直効果は大ですよ」


「それが狙いですから」


 そう言うと私達は笑い合う。そしてエイリスは真面目な顔になると言った。


「どうか私の古なじみをよろしくお願いしたします。五杯目の店主は私の仲間なので」


「…善処しよう」


「…後、銀目のことは極秘でお願いします、他に知られると困ることがあるのでね」


「あ、わかりました」


 私達は握手を解く。するとエイリスは私の腰に手を当てて言った。


「さあ、ではこれからはオーナーエイリスとしてルリコ様にご挨拶をお願いしたく」


「挨拶?」


 私達は応接室から出て廊下を抜けると、メインホールから万雷の拍手が迎えた


「皆さん。お待たせいたしました。今日、初めて紹介に預かりました「金穂揚げ」の考案者である「金穂の楯」エルフのルリコ様とニコラス様のご登場です!」


 どうやら私達が話し込んでいる間に、クジラの竜田揚げが私の料理と称して振舞われていたらしい。私とニコラスはわけがわからないまま、笑顔で手を振る。エイリスさんは私に向かって言った。


「ではルリコ様、なにかご挨拶をお願いいたします!」


「本日、皆さまとこの席を共にできましたこと、心より嬉しく思います。 この佳き日に巡り合えたご縁に感謝し、ささやかではございますが──本日は私より皆さまに一献、差し上げたく存じます。 どうか杯をお取りください。それでは、今日という日を祝い、乾杯!」


 つい、勢いあまって酒を奢ってしまった私は、邸宅に帰ってからその領収書を見たリュシュアに滅茶苦茶怒られた。


「まだかな?」


「お待ちください」


 邸宅に帰った私は、ベラにエイリスが教えてくれた倉庫への内偵を頼んだ。


 「できる?」みたいなノリで頼んだら普通に「かしこまりました」とか言ってたけど…。できるんだ…って感じだよね。にしても向かわせてから結構時間が経っている。正直今日中に森に帰る予定もあるけど、ベラの帰りが遅くて心配だ。


「ベラだって女の子なんだよ? 心配だなぁ」


 私は中庭のテーブルの周りを行ったり来たりして報告を待って居た。


 ああ、何故こんなに時間の余裕がないのか…。


「うろうろとうっとおしい弟子だな。安心しろ、力比べならともかく、あの女は俺たちより機転が利く」


 師匠は酒瓶をあおりながら気だるそうに言う。


「ていうか師匠。シーブ長老の具合が悪いのはどうしてなんですか? やはり長旅の疲れですかね?」


「さぁな。まあ、あれも年だからな。ただ、まあ寝つきが悪いとかなんとか…。まあ、具合が悪いとか言いながら果物をバカみたいにたらふく食ってたから当分くたばることはないだろう」


 師匠はシーブ長老をあんまり気にしてない風だったが、現場に出向かないってことはやっぱり相当心配しているのかな?


「で? エイリスはどうだったんだ?」


「ああ…。情報屋としては確かに凄いって言うか…。情報屋以外も凄いって言うか…」


「アイツの目的は俺たちの立場と土地だ。その餌をぶら下げている間は本気だろうさ」


 私は師匠が珍しく饒舌じょうぜつなのを見て、気になったことを聞いてみる。


「エイリスはマルコ達を泳がせるって言ってましたけど…。それってマルコが城壁外への逃亡をはかるってことですよね? それって防げるもんなのですか?」


「お前、普段は小難しいこと言ってるくせに何故それがわからん? 商人倉庫を占拠ってことは商隊に紛争して脱出でも狙ってるんだろう。まあ…上手く偽装すれば出れるだろう。というか出すだろうな」


「ええ? 出しちゃったら逃げられちゃうんじゃ?」


「出たところで門番の騎兵に直ぐ追いつかれて終わるよ。進路を塞がれて停止させられて終わりだな」


「へーそんな簡単に終わるんですか」


「そりゃそうだろ。方や荷車引いたシュラ。もう一方はシュラの騎兵だぞ?」


「じゃあ私達何もすることなくないですか?」


「そうだよ。だからエイリスは任せろって言ったんだ」


「つまり騎兵が抑えたところで私達が登場して貴族パワーで店主とクラリネの二人を匿う…って感じですかね」


「そういうわけだからお前はさっさと鎧を着ろ」


「わかってますよ…」


 私が椅子に座っていると側にナタリアとエルヴィ、ジルタが来て行った。


「ルリコ様とニコラス様。着替えの準備が整いました。早く着付けをしましょう。今からシュラの乗り方の稽古をしますから」


「う…わかったよ…」


「まずは皮鎧の下履きでよろしいかと。着付けはこのナタリアめが請け負います」


「よしなにたのむ」


 そう言うと私達は離宮の中で着替えることになった。


「イデデデ! ちょ…! キツイ! キツすぎるって!」


 何故、着替えに三名の侍女がついて来たのかわかった気がする。侍女は三人がかりで私の胸のさらしを思いっきり締め付けてきたのだ。


「胸が潰れる! 乳もげる!」


「少々ご辛抱ください! ちゃんと固定しないと馬上では揺れて痛みますよ!」


「さあ、いきますよ! せーの!」


「ああ! ナタリアさん! ルリコ様の玉体を足蹴にするなど」


「こうしないと締まらないんです! あなたもしっかり身体を持って!」


 こうして私は小一時間さらしと格闘することになった。ナタリアは汗だくなりながら言った。


「よし、これで腹を切られても内臓ポロリは避けられます!」


 ポロリもあるよってそっちのポロリかーい。


「うえーん。ナタリアさんこっからまだアンダーがあるんですけどー」


 ジルタはナタリアに泣きを入れる。


「ここまでくればもう終わったも同然! さあやりますよ!」


 そういう訳で私はロングジャケットに下は防塵布。下は白いタイツにロングスカートを着た。頭には黒いハットと黄色い羽を付けて、赤いマントを付けた。


「前線に出ないなら軽装の方がよいでしょう」


「これどうやってトイレ行くんだろう…」


「アハハ、淑女はトイレ何て言わなーい。ていうか極力トイレは我慢してくださーい」


 エルヴィはおさげをくるくるといじりながら言う。


「出陣前に行ってもらいます。もし、戦闘中に催した場合はそのまま…」


「いや、言わんでいい…我慢するから…」


 部屋から出るとホールでノンノが待って居て、走り寄ってきた。


「あ、ルリ姉さま! カッコイイ装いですね!」


 ノンノは私に抱きつくと言った。


「ルリ姉さま! 今度、質店のミル・エトワールに行く場合は私も連れて行ってくださいまし!」


「うん。わかった。でも私は暫く地元に帰るから手紙出しておくから、ニコラスと行ってきな」


「わかりました! ありがとうルリ姉さま! やったー! ニコちゃまとデート!」


 実は私はノンノにクラリネのことは話していない。まあ、一番の理由は話すと心配になるからだ。もし、万が一のことがあったら大変かもしれないがそうならないように最善を尽くすつもりだ。


「私はシュラの稽古があるから」


「そうなの? だったら、私もご一緒するわ」


 私達が中庭に出ると、既にニコラスは鳥馬のシュラに乗って邸宅内を歩かせていた。因みに恰好は例の曰く付きの一対の服に外套を付けただけだ。どうやらニコラスは思った以上に着不精みたいだ。側にはリュシュアとサムがついて補助している。ニコラスが私にシュラを寄せると馬上から声をかけてくる。


「随分時間がかかりましたねルリコ」


 その言葉にノンノはムッとして答える。


「ニコちゃま! 女の子は時間がかかるものなのですよ!」


「そうでしたね、ノンノ。どうぞルリコ。結構気持ちが良いですよ」


 そう言うとニコラスは私に手を差し伸べて馬上に誘った。私は彼の手を借りてそのままシュラの首にかぶりつく様に乗ると背筋を伸ばす。


「おー…結構視界広いね」


「いいですか? まずは全体の体重移動と足で鳥をフィーリングで操作する感じで」


 言われて私がシュラを足で蹴ってみると前に動き始める。


「手綱で方向指示ですね。でも手綱は見ずに前方を見ながら操作してください」


 成程、車の運転と同じで手綱は見ないで操作する感じか。後は体重移動で方向指示して…。足はギアみたいな感じか?


「もうちょっと加速できない?」


「でしたら足をこう…」


 突然の加速に私の身体は後ろに引かれてニコラスの前身に身体を預けてしまう。


「おっとゴメン…」


 私はニコラスのふとももに手をついて姿勢を直す。鳥馬は『歩く』から『ちょっと走る』にギアチェンジした感じだ。


「あーこういう感じか。めっちゃオモロ…ん?」


 もっと楽しもうとすると、鳥馬が急に止まる。そしたらニコラスはシュラから下りてしまった。


「申し訳ありません。少し疲れたので休みます」


 そう言うと、ニコラスは離宮の壁際に反省の芸の猿のように動かなくなってしまった。その隣でノンノが「ニコちゃまズルい! ノンノも一緒したい!」と叫んでいた。


 …もしかして股間でも打ち付けたのかな…? まあ、それはともかく…。ちょっとコツ掴んだし…。もうちょっと運転してみようか。


 試しに私はシャンを足で小突いて邸宅の庭を歩いてみる。


 感覚的には自転車と同じくらいの速度? ちょっと試しに速度上げてみようか…。


 途端に速度が二十キロ程に加速したので手綱を使って庭の中をカーブする。


「おっとっと…ちょっと危ない感じだったな…」


 止めたシュラを私が庭で撫でていると、ホールからベラが歩いて来た。


「あ、おかえりなさい」 


「只今戻りました」


 ベラは私を半眼で見上げると憮然とした態度で言った。


「潜伏場所は直ぐ見つかりました。内偵の結果あの女とも接触できたのでコトの段取りは伝えてあります」


「そう、ご苦労」


「やはり痴情のもつれですね。マルコはクラリネと宿を経営という寝物語を信じていたようです。それでラッセルとの結婚の報せを聞いてあのような暴挙に出たようです」


 あの女とはクラリネさんのことだろう。前回ベラはクラリネと一回話してあまり良い印象を持たなかったようだ。


 うーんていうか、やっぱりクラリネさんとマルコの痴情のもつれかぁ。まあ、ところ変わっても男と女のいざこざは共通か。


「五杯目の店主って居た?」


「はい、倉庫内には奴と人質の商人、水兵、あの女含めて総勢八名となっております」


「やっぱり交渉はムリそう?」


「兵隊とは一種の家族のようなものなので、こういう時も一緒に行動をすることが多いのです」


「そっか…じゃあ作戦は上手くいきそう?」


「マルコ達の計画は大分楽観的です。十中八九門の騎兵に無力化されるでしょう。作戦の主要はルリコ様が然るべきタイミングで主導権を握り、クラリネと店主を捕獲することです」


「うーん…わかったよ」


「はい、そのためにはシュラで走れるぐらいまでにはなっていただかないと」


「う…わかった」


「では、一旦門の外の野原で練習しましょうか」


 というわけで私とニコラス、ベラとジルタはそれぞれのシュラに乗って門の下に向かった。ベラとジルタはいつもの侍女の服に外套とスカートの下にズボンを履いている。開かれた門からは沢山の人間が往来している。門の側には物乞いっぽい人、日雇い労働者とその子供、商人達が出入りしていた。


 なんか割と好きに出入りしているみたいだな…。


 ベラは私を門の側の机で羊皮紙に書き込んでいる書記官の前に誘った。


「こんにちは。お名前と目的地をお願いします」


 私が何か答える前にベラは書記官の前に出ると言った。


「こちらワルス様のお客人の第六石エルフのルリコ様である! こちらがワルス様の紋章だ。今から鐘が一鳴りするまでにシュラの稽古をするので道を開けよ!」


 ワルスさんの名前と私の階級を聞くと書記官は立って頭を下げた。


「承知いたしました。衛兵! 道を開けよ! お貴族様のお通りである!」


 その言葉を受けた衛兵は「下がれ下がれ!」と門の前の道を開けてくれた。


「何で門から出るのにいちいち仰々しんだろう?」


 それを聞きつけたベラは答える。


「城下町の貴族や町民は君主の支配権下にあるので移動は制限されているからです」


「え、じゃあ自由に移動できないんだ?」


「そうですね、外出するにしてもあのように記録を取られますし、戻らなければ衛兵が追手をかけてきます」


 う、うーん。結構中世って不便なんだな…。


 門から出た私達は堀の橋を越え、城の外の街を越えた郊外の草原でシュラの練習を始めた。


「ルリコ様! まずはまっすぐ走ってみてください!」


 ジルタは私と並走しながら指示をだす。ベラが言うにはシュラの操作はジルタが一番うまいらしい。私は足を使ってシュラを加速させていく。加速するたびにシュラの身体が上下してお尻を打ち付けられ、振り落とされそうになる。


「ルリコ様! 身体をシュラの動きに合わせるのです!」


 そう言いながらジルタは私の側に着て手綱を操作して減速させて安定させたりして何度もチャンレンジさせた。


「一回見ていて下さい。人馬一体! こうです!」


 そう言うと、ジルタはシュラを加速させると、まるでシュラの背中の一部のように身体を上下させた。


「よし、私も…!」


 私も速度を上げてジルタに追いつこうとするが、全く追いつけない。むしろジルタは減速させて並走してきた。


「お上手です! ルリコ様…。では減速してください…」


 ジルタの言われるがままに減速をする。その時には私の手や足とお尻、背中が筋肉痛だった。


「では次はあの草むらを障害物に見立てて飛ぶ練習です。ちょっと見本見せますね」


 そう言うとジルタは私のシュラに歩いて近づくと、手綱を握って頭を下げさた。その首に足をかけると頭を上げさせて首から滑るように私のシュラに乗り移った。


 す、すげぇ…。完璧に乗りこなしてやがる。ジルタ…恐ろしい子…。


「まずはまっすぐ進んで障害物の前で手綱を使ってこう! 体重は前に寄せず平行に! ね? 簡単でしょう? ちょっとやってみてください」


 どこの絵画教室だよ。全然わからないよ!


 そう思いながらも私は何とか見よう見まねでやってみる。するとシュラはピョンとジャンプしてくれた。


「お上手です、お上手です!」


 そう言うと、即座に手綱のコントロールを奪って自分のシュラを追いかけると目にも止まらぬ早業で乗り移る。


「因みに慣れればこんなこともできますよ」


 そう言うと、ジルタは手綱を操る。すると止まったシュラはその場でピョンとジャンプする。


「これで何度もジャンプさせながら槍を振りますと遠心力がかかって大変よろしゅうございます」


「そ、そう…」


「あとは、こうすれば…」


 今度はシュラが羽を広げて上下させる。すると砂埃が舞ってシュラの身体がふわりと浮いて後ろに着地する。


「こうすれば矢や馬の騎兵を避けられたりします。後は、足の爪を使って歩兵をひっかくこともできますよ」


 そうすると、ジルタはシュラを走らせてからすぐに止めるとその低い姿勢から斜め上に手を上げて言った。


「こうすれば低い姿勢から打ち込むこともできます! 凄いでしょう!?」


「ジルタさん?」


「さらにこうやって一か所でぐるぐる回しながらジャンプすれば! どうです? 回転しながら飛べたでしょう!?」


「おーい、ジルタさん?」


「更に、こうすれば斜めの斜面を走った後にジャンプして滑空しながら平地に着地とかもできてですね!」


「ジルタ!? ジルタ!」


 白熱していたジルタは私の声でやっと我にかえったみたいだ。


「あ、ルリコ様! どうですか!? シュラって良いですよねぇ!」


「そ、そうだね。でもちょっとまだ私には早いかなぁ~とか」


「あっ! す、すんません! わ、わだすったら……! 本当に申すわげねぇ、ルリコさまっ!」


「いや、まあいいんだけどね。大丈夫だけどね」


 うん。ジルタは凄いな…。頭下げるときもシュラも一緒に頭下げてるんだもん。


 私達が話しているとニコラスとベラが近づいて来た。


「これぐらいで十分かと思われます」


「そうだね。後は相手が動くの待つだけ…なんだけどね…」


 ベラは私が腕を組んで悩んでいるのを見て聞く。


「何かございますか?」


「いや…まあ、安全を最優先にするべきとはわかっているんだけどね…。そろそろ私も地元い帰らないといけないんだけど相手が動かないと何もできないっていうのがね…」


「成程…。承知しました。では相手の潜伏先を叩いて巣穴から出させるのはどうでしょう?」


 ベラは私に伺いを立てるかのように視線を向ける。


「…正直それは考えていたけどね…。でも人質の安全を考えるとあんまりやりたくないような…」


「とりあえず一旦戻りましょう。馬上に居るだけで体力を消耗してしまいますから」


 私達がシュラに乗って再び門に戻ると「金穂の君のお帰り! 道を開けよ!」と兵士が声掛けして道を開けてくれた。そのまま、邸宅に戻るとアマナとリュシュアが私達をお出迎えしてくれた。シュラをベラとジルタに預けると、アマナが私とニコラスの側に来て言った。


「ルリコ様、ワージ様とお連れの方がお待ちです」


 それを聞いて私はアマナさんの顔を見ると、彼女の顔はどこか強張っていて緊張している様だった…。


 アマナさんの様子がおかしいけど、何かあったのかな…?


 声の方を振り返るとホールの応接室の入り口にワージとしょんぼりしたラッセルが立って頭を下げた。私が二人に近づこうとすると、その二人を押しのけるようにノンノが前に出て仁王立ちすると言った。


「ルリコ様、一体どういうことですか?」


 さっきと変わってノンノは私を責めるような半眼で見つめている。態度も余所余所しくいかにも怒ってますという感じだ。


 あれ、ノンノったらどうしたんだろう急に。


「どうしたのノンノ?」


「とぼけないでください! お姉さまのことです!


 私はノンノに「お姉さま」と呼ばれ、思わず自分を指差す。だが、彼女は首を横に振った。


「あなたではなく! クラリネ姉さまのこと!」


 私はノンノに遠回しに姉ではないと言われたようでショックを受ける。同時に何故彼女がクラリネのことを知っているのだろう? と議論の穴を突かれた様な気分になって内心慌てる。


「えっと…それは…」


 しどろもどろになりながら私はワージを睨む。するとワージは頭を下げて言った。


「申し訳ありません、ルリコ様。てっきりもう話してあるものとばかり…」


 ということはワージ達は今回の一連のことは知っているのだろう。見ると後ろのラッセルも私をすがるような目つきで見ている。


「安心して、クラリネの所在も安全も把握しているから」


「浚ったのはあのマルコじゃないですか。アイツら水兵は、自分の言う通りにならないと、すぐに怒鳴ったり物に当たったりするんです! それのどこが安全なの!?」


「わかってる。だからこうして今作戦を進めているの」


 ノンノは自分の胸に手を当てて言う。


「ルリ姉さま! 私にも何かさせて! 町で噂ぐらいなら集められるわ!」


「ゴメン。それはできない。今、貴方が動いてマルコの仲間に勘づかれたくないの。わかって頂戴」


「やっぱり私を仲間外れにするんですね。クラリネ姉さんは私の家族なのに」


「クラリネもそうだけどノンノも危険にさらしたくない。お願い、私に任せて。絶対、貴方のお姉さんを失わせたりしない」


「嘘。だってクラリネ姉さんはコイツと結婚するでしょう!?」


 そう言うと後ろでにラッセルを指さす。


「そしてクラリネ姉さまはルリコ様の領土に行っちゃうんでしょう!?」


 私はノンノの側で下肢づいて目線を合わせて言う。


「そうじゃないよ。クラリネは貴方のことを思っていた。私だってそう。約束する。絶対、貴方を一人にしない」


「…じゃあ、ルリコ様。私にも何かやらせて。お願い」


「…わかった…じゃあ…」


 私はベラを振り返る。ベラは頷く。


「クラリネの家に行って手がかりを集めてくれない? 勿論ベラと一緒じゃないとダメだよ?」


「はい! わかりました! 絶対ルリコ様のお役に立ちます!」


 私はノンノに「ルリコ様」って言われて凄く寂しい気持ちになる。


 もう、ルリ姉って呼んでくれないのかな…。


 背後からニコラスが私の背中に手を置いて言った。


「ノンノ、私も行きます」


「え…ええー!? にこちゃまと一緒に同伴なんて…! いいんですか!?」


「何か問題ありますか?」


 ノンノはさっきのシリアス路線はどこへやら髪の毛を手櫛で直しながら私達の顔を交互に見比べる。私はノンノに頷く。


「いえ! 何も問題ありません! でも私達…噂になっちゃうかもしれませんね…」


「私は気にしないんで大丈夫ですよ」


「はい! 私も気にしないんで行きましょう!」


 そう言うとノンノはニコラスの腕を抱いて引っ張るように門の外へと誘う。


立ち上がった私にベラが近寄って言った。


「夜になると門が閉まるのでその前に事態は動くと思われます。段取りはアマナとナタリア、ジルタに共有してあるのでコトが起きたら一緒にシャンで門の外へ向かってください。私も後からニコラス様と共に合流します」


「うん、気を付けてね」



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