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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
初恋の異性と結婚する確率はX%
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試飲会のフラン

23/8/7 改定

 それから翌々日私達はお疲れ様会を開くことにした。広場に立木の机と椅子を並べて。私、ニコラス、三姉妹にフランを呼んで祝うことにした。二つの机に三姉妹と私達で別々に卓を囲むことにした。今回の件にフランは関係ないが、とある理由で呼ぶことにした。


「今日は呼んでくれてありがとう、ルリコ」フランはそう言って机の木の花差しにイシヤの花を数本立てる。


 フランが私を見つめて来るので頷く。


「長老は誘わなくてよかったの?」私は肩をすくめて眉をよせるとお道化て言った。


「今日はお小言は聞きたくありません」フラウは口元に手を当て「おバカ」と笑う。


 イシヤの花はテッポウユリに似ているが、花の中に多く水が蓄えられた花だ。私は手を叩いて皆の注目を集める。


「本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。これから皆さんにはちょっとハチミツ酒の試飲を行ってもらいまーす」


「「「イエ―!」」」


 今日はお祝いとして土壺で発酵させていたハチミツ酒を試飲…と称して楽しむつもりだった。


「ちょっと癖があるかもしれないから、苦手だったらイシヤの水を足して」そう言って私は土壺の酒を木杯に注いで皆に配った。その後にニコラスが木のボウル皿を持って付いてくる。


「おー森カブトの幼虫じゃーん!」


 ネムはテーブルに手をついてぴょんぴょんと跳ねる。ニコラスは机の葉っぱの皿にソレを一匹ずつ手で配膳していく。私は笑顔に徹して言った。


「森カブトの幼虫の塩揚げですよ」


 私は自分の席にも配膳用の葉っぱが置かれているのを見て言う。


「ニコラス、私の分はいいからね?」


 それを聞いてフランはニヤリと笑う。


「あれ、まだ虫料理苦手なんだ? 美味しいのに」


 その通り。虫料理は苦手だ。


 過去に虫料理が出された時に無理して食べたが駄目だった。それ以来虫料理は視界にも入れたくないぐらい嫌いだ。フランの言葉を聞いてニコラスは眉尻を下げて言った。


「そうだったのですか? てっきり虫料理を提案してきたので克服したのかと思ってました」


 デリアは虫料理を食い入る様に見つめながら言う。


「揚げっていうのはわかるけど、この衣は見たことないね」


 私は虫を認識しないように目を細めながらデリアに向かって言う。


「ハチミツ酒は甘いんでその受けとして雑穀の粉に塩を混ぜて素揚げしたんですよ。塩気が効いてて甘い酒と合うと思いますよ」


 過去に食べた記憶では森カブトの身は芋のホクホク感とエビのプリプリ感を足したような感じだった。ハチミツ酒とあわないと思ったので塩気を足す為に塩揚げにしたのだ。因みに中に水気があるのでサッと揚げないと爆発する。フランは口元隠しながら笑って言った。


「嫌いな料理を改良するってどういうことなの? 変な人ねぇ」


 ニコラスとフランは微笑み合いながら、席に戻る。そして皆は立つと、乾杯の音頭を取る為にコップを手に持つ。


「では、ルリコ。乾杯の挨拶をお願いします」


「あたしっ!? じゃあえーと…えー皆さま今日は皆さまと…」


 と、前世で培った乾杯の挨拶をぶちかまそうとする。しかしそれを三姉妹がからかう。


「長い。早くしろー」「お酒が冷めるだろ~」「チューしろ! チュー!」


 酔っ払いののヤジかよ。


「うるせえ! 乾杯!」


 乾杯の音頭と共に私達は杯を交わしてお酒を飲む。ハチミツ酒への反応は色々で読めなかった。というより、酒への反応より、虫の揚げ物の味の方に関心がある感じだった。私の周囲でむしゃむしゃと食べる音が耳に響かないように虫に口をつけてないニコラスに話を振った。


「ねえ、ニコラス。お酒の味はどう?」


「そうですね」と呟くとニコラスは手で木の杯の酒を回し見て言った。


「所感だとお酒の澄んだ琥珀色が美しいと思います。心が踊りますね」


 なんか味の評価とは違う気もするが、フランにも振る。


「フランはどう?」


 フランは口元を隠しながら杯をそのまま口に運ぶと少しの間吟味する。


「甘くて飲みやすいし、女性向きなんじゃないかしら?」

 

 ニコラスとフランの蜂蜜酒の評価を聞いて顔を見合わせた三姉妹もそれぞれ続く。


 デリアは木の杯を掲げて言う。


「蜂が作った酒のせいかね、ふわふわと飛んでる心地だ。ブンブンってね」


「デリダに虫がたかってるー」デリダは自分の頭を急いで払う。


 そう言うとネムはカップを嗅いで一口飲んで舌を出す。


「なんか腐ってるみたいな臭いだし、薬みたいな味がする…」


 どうやらネムは酒が苦手なようだ。


 カームは一口で飲む。


「酒は発酵して出来るんですよね、腐らせている間に他の作業が出来る。だとすればこれは本当に新しい。これを腐らせておくのは勿体無いですよ。」


 …。


 何言ってんだコイツという風にカームの様子に皆顔を見合わせる。


「ごめん、酒は飲みすぎると転んで怪我したりするんだ。帰り道もあるから完全に酔っ払う前にいい塩梅で止めてね」と私は土壺を引き寄せる。


「いや、私は身体が大きいので酔いに強いんです。全然酔っていません」とカームはイシヤの花差しを自分の杯に傾けて溜まった水を絞るようにして流し込む。


「それよりルリコはどうなの?」


「私はまあ…空きっ腹に入れる酒は最高だなって」


 デリアは呆れた顔で「味は?」と聞くが、私は「私は酒は味より度数派ですね」と返す。それにネムは「こわ…」と呟く。


 フランは「やっぱり花を持ってきてよかったぁ」と笑う。それを尻目にカームはまた酒に水を足そうと残りの花に手を伸ばそうとして花瓶を倒してしまう。


 カームは倒れた花瓶を見て「アハハ」と笑う。私はカームを土壺を持って言う。


「カーム、ちょっとこっち来て」


 お代わりをくれると思ったのかカームは木のカップを持って立ち上がる。だが、その歩みは、酔っぱらっていておぼつかず、まっすぐこちらに歩いてこれない。


「連れて行って」


 カームは酒杯を持ったデリアとネムに腕を掴まれ地べたを引きずられていく。


「今日はありがとうね。また明日から協力させてもらうから、よろしく頼むよ。ほら、行くよカーム!」


「酔ってない! 私は酔ってないんダァあああ」


「わかった、わかった。戻ったら分けてやるから自分で歩けよ、デカブツ」


 私達三人はその様子に笑ってしまった。三人になって改めて歓談に拍車がかかる。長時間、雑談に花を咲かせて居たが、ふと会話が途切れて沈黙が流れる。


 何となく沈黙が気まずくなって花を見る。イシヤの花々はお互いの産毛に細かい水滴を纏って滴る。沈黙の間心地よい風が広場を撫でる。フランは花差しの花の茎を指で摘むと鼻先に持っていく。


「ずっとこのままなら良いのに」フランはそうポツリと言う。それを言われた私はヒヤリとした気分になる。


 ニコラスは私からフランに視線を移す。


「やはりお母様が心配ですか? そろそろ十ヶ月と聞きましたが。」


 フランは頭を降る。


「それもあるよ。でもね、それより産後のことがね。私は産後の二人を暫くお世話するから働けなくなるんだ。そうしたら男達だけでしょ? そうしたらこうやってゆっくり話もできなくなるなって…」


 エルフの妊娠期間は十二ヶ月だが、成人するまで百五十年もかかる。その間、世話する人はつきっきりで作業が出来ないことになる。


「その時は皆で手伝いますよ。困った時はお互い様なので」


 フランは心許なさそうに微笑む。


「お母様の出産祝いには是非二人で来てね」そう言うとフランは花の水を宙に蒔いた。宙に花のミストが充満してその香りに包まれながら私は目を瞑った。


 それから数日後、私はフランの母が早産したという報告を聞かされた。

次回投稿は8/30を予定しています。

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