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石中の恋歌  作者: モノノベワークス
夢寝子ラブトロジー
39/65

さえずる鳥に冷えたアクアパッツァ 和解と決裂

次回更新は8/10日です。ちょっと物足りない気がするので、今回はもう一話更新します。

 雨は相変わらず降っていた。私達が離宮から侍女の居住塔にたどり着くと、地階へエルヴィとベラを物見で向かわせた。待って居ると地階から二人は言い争いをしながら帰ってきた。


「だから! 勝手に動くなと言っただろうが!」


「ええー? でもそしたら敵の油断をさそえないじゃん」


「カバーする方の身にもなれ」


「ふん、私はルリコ様のカナリアだもん」


「そうだ、その命はルリコ様のものなのだ。いたずらに危険に晒すのはやめろと言っているのがわからないのか?」


「ベラこそ私の忠誠をわかってない」


 一緒即発の二人に私は割って入る。


「やめなさい。今はそんなことをしている暇はない。それでナタリアは無事なのね?」


 私が声をかけるとベラは背筋を伸ばして報告した。


「はい、ナタリアは無事で中に敵は居ませんでした。背後は私が固めますのでルリコ様はナタリアを迎えに行ってください」


「わかった。任せるよ」


「ルリコ、待って下さい」


 そう言うと、ニコラスは私の側に来て言った。


「ルリコ、ジルタですがもしかしたら厨房にいるかもしれません。見てください。あの煙突から煙が上がっています」


 見ると壁から出た煙突から白い煙がもくもくと立ち上っていた。


「確かに人の気配があるね」


 私はベラを振り返ると彼女は頷く。


「間者の罠の可能性もありますが、恐らくジルタでしょう」


「では私がエルヴィと厨房を見てきますのでルリコはナタリアを迎えに行ってください」


 その言葉を聞いたベラはニラコスに言う。


「おやめ下さいニコラス様! もし万が一敵だったらどうしますか!? ルリコ様がナタリアを出したら後で私が確認しますので…」


「いえ、ジルタはルリコにとって大事な人なのでジルタの安全確保は優先度が高いです。ですがそれ以上にルリコの安全は重要です。なのでベラはここを護ってください。私が厨房の様子を見てきます」


 それを聞いたベラは不服そうにうつむいた。それを聞いたエルヴィがあっけらかんとして答えた。


「大丈夫。その時はエルヴィが敵にしがみついてでも止めるから。だから安心してよベラちゃん」


 エルヴィはそう言うとベラにニコリと笑いかけた。


「…承知しました」


 ベラはエルヴィにそっぽを向くとニコラスに頭を下げた。エルヴィはニコラスと厨房に遊びに行くのかというぐらい嬉しそうに服の裾を掴んで笑顔を向けていた。私はニコラスの顔を見て言う。


「気を付けてね」


「勿論です」


 私達は冷たい石段を下って行く。地下階におりきる前にアマナがナタリアの扉に近づいて鍵を開けてくれた。中に入るとナタリアが正座したままうなだれていた。私はナタリアの前に立つと肩に手をかけて言った。


「ナタリア、すまない。私が間違っていた。本当にごめんなさい」


「ル…ルリコ様…」


 面を上げたナタリアは泣いて腫れあがった眼を上げて言った。


「でも、ナタリア。途中で逃げようとしたの。あれはダメだよ。あれで私は貴方を本当に信じて良いのかわからなくなっちゃったからね…」


「も、申し訳ありませんルリコ様。私は貴方が貴族になって日が浅いからと…何も知らないからと女だからだと侮っていました…。ですが、途中でこのナタリアは貴方の賢明さに気づいてしましました。しかしそれ故に貴方様にお見限りになられてはこの先はないと思い込んで…先走って余計な真似をしてしまいました…」


「それはこっちもだよ。私も貴方たちが慣れているから指示がなくても動けるって思い込んで放置して不安にさせてしまった。それで独自判断で動いた貴方達を私は勝手な人と思い込んでしまった」


 ナタリアは頭を下げると言った。


「ルリコ様。私はどのような罰を受けても構いません。しかし…どうかもう一度貴方にお仕えする機会をお与えください。貴方の側に仕え、学び、習いたいのです」


「奇遇だね。私も同じことを考えてた。私はまだ貴族として未熟だからナタリアもアマナさんも他の侍女からも貴族が何たるかを教えて欲しい。そう思っていたんだ」


「ルリコ様…」


「ナタリア…」


 ナタリアが私を見つめる。その顔はいつもの仏頂面と違って悲しみの感情があらわになっていた。私はナタリアの子供のような表情に胸を打たれて抱きしめて安心させようと思った。すると抱いたナタリアは身を固くして言った。


「ル、ルリコ様…! こ、光栄なのですが…身に余ります…」


 え…こういう時ってハグするんじゃないのか…。


「す、すまぬ。ついて感極まってな。驚かせてしまったか?」


「いえ…。大丈夫でした」


 ナタリアは眉をひそめて困惑している様で口元はニヘラと笑みを浮かべた。


「ナタリア。私は貴方に正しく仕えて欲しい。確かにジルタは身分が低い。だから貴方には彼女を正しく言葉で導いてほしいんだ」


「…確かに、私はジルタを正しく導くべきですね。承知しました」


 そう言うとナタリアはその場で深々と頭を下げて平伏した。


「ルリコ様」


 ナタリアが頭を下げると背後からリュシュアが私の側に来て言った。


「ナタリアは罰を受ける必要はありません。今回の件は全て私の原因です。だから私が罰を受けます。私はジルタに謝罪をした後、この身を貴方様の判断に委ねたいと思います」


 私はリュシュアを座ったまま振り返ると言った。


「私はリュシュアが全面的に悪いとは思っていません。夢遊病は病気だからです。もし、なんらかの判断を下すなら私は貴方に夢遊病の治療を望むでしょう」


 とはいえ私は夢遊病の治し方なんて知らない。こういう場合一体どうしたらいいんだろう?


「ルリコ様。よろしいでしょうか?」


 私達の間にアマナが入って来て言う。


「皇国の北の深い森の中に夢治療を行う夢治癒士達の神殿があると聞いたことがあります。リュシュアをそこに連れて行けばその病も治るやもしれません」


「へー。じゃあ、罰ってわけじゃないけどリュシュアはそこで治療してもらう…ってことにしておこうか。本当に悪い病気だったら嫌だからね」


「なんと慈悲深き差配。このリュシュア、ルリコ様の行くところ、どこまでも付いて行きます」


 部屋にノックの音が響き、隔離室の入り口の前にニコラスが立って居た。


「ただいま戻りました。ジルタは生きていたそうです」


「そう、よかった」


「聞けばジルタは目が覚めて自分が誰かに首を絞められたことを思い出して怖くなって居住塔に戻ったそうです。でも誰も居なかったから予言の日が訪れたと思ったようです」


「予言の日?」


「凍土で氷河期を終わらせた救世主が予言した最後の日だとか。その日になると神の国が現れて永遠の平穏が訪れる。ジルタは、私たちが神の国に行ってしまい、自分だけが置き去りにされたと思い込んだようです。実際には、殺されたショックで混乱していたのでしょう。悲しみに暮れた彼女は…」


「え?」


「食糧庫のイモをすべて使ってポテトフライを作ったそうです」


「ええ…」


「割と食べきれない量の…」


「そっかぁ…じゃあ皆で食べようか…」


「貴方ならそう言うと思っていました」


「昨日はジルタも大変だったしねぇ…」


 ベラと私の間にアマナが一歩前に出て言う。


「承知いたしました。朝食は山もリポテトフライで」


「お願いねアマナ」


「はい、お任せくださいルリコ様!」


 私達が台所に向かうと山もりポテトフライの山の前で顔を手で覆っているジルタの姿があった。それを認めた時、私の中でジルタに対する愛おしさがつのる。顔上げたジルタの側にリュシュアが近づくと頭を下げる。


「ジルタ、ごめんなさい」


 リュシュアはジルタの横に立つと頭を下げた。それに続いてナタリアも頭を下げる。ジルタは謝る二人にジルタは手をワタワタとさせながら立ち上がる。


「リュシュアさん、ナタリアさん。頭を上げてください」


「いきなりあんな目にあわされて怖かったよね…本当にゴメン」


 するとジルタはモジモジしながら言う。


「確かにあの時はちょっと怖かったです…もう二度しないで下さい」


「うん、今度は勝手に出歩かないようにベッドに自分を縛り付けておく。約束する。それでね…償いとして貴方に私の知識を教えるってのはどうかな…? 私は経理も礼儀作法もできる。ルリコ様に仕えるならあって困る技能じゃないと思うんだ」


「本当ですか? それならまあ…わかりました。許します。私もルリコ様のお役に立ちたかったので…!」


 ナタリアもリュシュアの後ろから出て言った。


「そ、それなら私も護衛術や騎乗を教えてあげます! それでどうか!」


「な、ナタリア先輩は何もしてないじゃないですか…。別に良いですよ」


 私もジルタの前に立つと言った。


「ジルタ…私も…」


「ル、ルリコ様まで止めてください! もう、いーがらっちゃ! やめてけろ!」

 

 こうして明け方、雨の止んだ中庭で、私達は大量のポテトを囲んで食べた。ポテトは太めのホクホク、細めのカリカリ、皮つきガーリック風味と多様を極めた。私達はポテトを囲む中、ジルタは私の隣で顔を真っ赤にしてうつむきながらポテトを食べていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夜の風は吠え、森は身悶える。母シーブが腕に抱くは死に行く我が児アナン、顔は冷え、声は弱り、なおも熱にうなされて、末期をささやく。


 母よ、母よ、聞こえませぬか。木立の彼方より、名を呼ぶ者があり、白き衣を風にひるがえし、我を招きて手を振る──あれは誰ぞ、あれは死の者か?


 何を申す。ただの風よ。月が木洩れ、幻影が戯れておるだけじゃ。心を強く持て、我が子よ。


 母よ……やはり、声がする。背にぬるりと触れる手が、わたくしを、連れ去らんと──。


 耐えよ、もう間もなくだ。家の灯が見える。炉も、床も、おまえを待っておる。さあ、しっかと、この胸に掴まれ──。


 シーブは馬を駆ける。息子を死の者から遠ざけんと──。


「ああ、ちょいと失礼、マダム。御取込み中のところすまんのう…。あまりにその…声をかけにくくて…」


 突如、老人がシーブが走らせる馬の横から顔を覗かせる。老人はシーブに尋ねる、何をそんなに急ぐのかと。


「ふん。夢の見手よ。妙な注釈をつけるでない。ワシはお前の思い通りにはならん。マダム、見なさい。この道は家などに続いておらん。ずっと同じところをぐるぐると回っている。機械仕掛けの競馬場のようだ」


 アップから全景ハイアングルへ。シーブと息子は朽ちたメリーゴーランドの木馬にまたがっている。静かに軋む音、風、錆びた遊具。シーブは息子を送り届ける時間を永遠と繰り返していた。


「ハッ。解説どうもありがとうよ。さあ、マダム。もう、その息子さんを休ませてあげなさい。息子さんは貴方が苦しみから解放されることを望んでいる。違うかい?」


「…わかりました」


「ワシも手を貸そう。そら…」


 場面は変わって、森の中でシーブは沈痛な面持ちで息子を棺の舟に寝かせられている。舟の底には、白く咲き誇る花々が敷き詰められている。傍らにはエルフ達が佇み、見守る。花は死を悼むのではなく、夢の中で息子を眠らせるための供物。


 音楽なし。風と水音のみが場を満たす。


 その葬儀の列に老人が出て来て言う。


「いい加減にこのマダムの悲しみをもてあそぶのは止めろ! でてこい夢の見手よ! でてこないならこちらから向かうぞ!」


『待ちなよナイトクロス。今は長老さんが先だろ?』


 突然森のどこからか声が響く。まるで天の声の様にその場に響く。


「ふん、お主の声だってどこから響いておるじゃろうが。まあいい、それで…あーお主の夢名は何て言ったかのう…?」


『ドリームステラー。間違っても本名はやめてよね。僕までそっちに引きずり込まれてしまう』


「そうそう、ドリームステラーな。そうは言ってもこのマダムの夢は誰かの影響を受けておる。それを取り除かないとにはな。見手の座標はわからんのか?」


『深度、高度、緯度の一切が不明だね』


「しかたあるまい、夢にグムの象徴を作るぞい」


『無軌道に移動されたら追うの大変なんだけどな…』


 ナイトクロスは源流グムの印である渦を作り出す。


『どんな悪党でも無意識下にはグムの象徴が刻まれているから宗教的な連想が繋がる…未開の人だったら無理だけど…』


「移動した。どこじゃここは…?」


 ナイトクロスは映画フィルムのスクリーンから現れる。彼の前には無人の客席が並んでいる。ここはフィルムの上映館。作品「シーブの人生」絶賛上映中。


「他人の人生の悲劇の見物など悪趣味極まりない、その腐った性根を治療してやろう」 


『ナイトクロス! 二階に誰かいる! 急いで!』


「急かすな急かすな。今ジャンプするわい…っと。…さっきまでここに誰か居たみたいじゃのう。なんじゃこれは…一人手に動く糸車か? 不気味じゃのう」


 ナイトクロスは映写室に移動する。映写室にはスクリーンにシーブの葬送を映す映写機が一人でにカチリ、カチリと無機質な駆動音を響かせている。


『ナイトクロス、自分から悪夢を連想するような言葉遣いはやめなよ』


「一人手に動く糸車を怖がるような年じゃないわい。ドリームステラー、夢の見手はどこだ?」


『目の前にいない?』


「…この糸車に人の魂でも宿っているとでも?」


『夢の中で自分をシュラだと思い込んでいた人の事例があるね』


「あの鳥馬にか? まあいい。ではこの糸車の高度を上昇させるぞ。見ろ、糸車、これは鏡だ。どんなに強力な夢の見手も鏡に映った自分の姿は上手く映せない。曖昧になった自他の境界が逆に自己を浮き彫りにする」


 ナイトクロスは映写機の前に鏡を作り出す。映写機が映し出すのはシーブの葬送のシーンだ。


『さっきからこの夢の見手はかなり夢をコントロールできているね。明晰夢の使い手なのかな?』


「だったら、この糸車を叩きのめすのみ。どんな者も原始的な暴力に恐れを抱かずにはおれん」


 ナイトクロスは映写機に杖を振り下ろして床に倒す。映写機は稼働を停止して部屋の灯りが落ちる。


「んん…?」


 クスクスクス…。


「い、イカン。暗い…あ、灯りを」


『落ち着きなよナイトクロス。既に鏡を造っただろう? 鏡から灯りを連想するんだ』


「あ、ああ…鏡…」


 ナイトクロスが見た鏡にはシーブの葬送が映し出されている。映写機が倒れているにも関わらず、映像は全く乱れていない。ふと、ナイトクロスは葬儀の奥の森に少女が立って居ることがわかる。黒髪に白いアラバスターの肌を持った少女だ。少女はソロリソロリと木の陰から姿があらわして近づいて来る。


「…! や、ヤバイ…暗闇がアイツを連想してしまう!」


『落ち着きなよナイトクロス! 真の闇なんてずっと昔の話だよ 見るな! 瞑想して悪夢の連想を止めるんだ!』


「わかっておる! だが、ワシらには二度とあのような過ちをするべからず、と教育で刷り込まれておる! それどころか、文字を読めない者ですら暗闇を恐れる…! ワシらの本能が…」


 夜が――来る――。


『ナイトクロス! 戻ってこい! 今までの連想を逆行させるんだ!』


「む、ムリじゃ…いつの間にか手足に髪が絡みついておる…。部屋の絨毯は奴の髪だった。こ、この夢の見手は奴なのか? もういい、ステラー。夢との繋がりを切れ! お前まで巻き込まれるぞ!」


『その必要はないよ…リーダーとルーメンがそっちに向かった!』


「ル、ルーメン。頼む灯を!」


 映画のスクリーンから現れた存在は場内をまばゆい光で照らす。老人はその光に吸い込まれるように消えた。光が消えた後には何も残らなかった。


 …。


 戻ったのね。随分とお騒がせな人達だったわ。


 ねえ、シーブ。貴方がアナンを生んだ時、心の底から幸せだったわよね? 貴方はその命を離さないようにって強く抱きしめてたわよね…。それを奪われるなんて…。苦しかったよね…悲しかったよね…。


 お母さんずっと泣いてたわ。貴方が初めて子供を産んだ時、感動しちゃった…。その大事な子供を奪われた時も一緒に泣いていた…。


 ウフフ…ッ! アハハ…ッ!


 嗚呼、なんて美しいのかしら。その無垢なる魂を失って涙に濡れる愛しい我が子…。大丈夫。お母さんはずっとここにいて貴方達を守ってあげる…。どんな不条理、どんな暴力からも…貴方達の魂を守ってあげる。だから行きなさい…本当に可愛い…私の赤ちゃん達…。たとえどんなに美しさをむさぼり、けがされ…踏みにじられたとしても…。貴方達はきっと立ち上がる。だから頑張って…。ずっと美しく在りなさい…。


 嗚呼、皆さん! ご覧になりましたか? 我が美しい子供たちがむごたらしく、涙に濡れて、蹂躙じゅうりんされ! それでも…それでも…美しくあろうとしたその健気な姿を! これこそが! そう! これこそが! 私の子供! 我が愛! 私の作品! どうか引き続きご覧ください! 私の子供が…このクソみたいな世界に美しく生き抗う様を。どうかご照覧あれ! 外なる神々よ!


  フフ…! アハハ…! アハハハハハハ…! アーッハッハッハッ…!

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