フランの夢想:sub
お待たせしました。
次回更新は24/3/17になりそうです。
他の作家の方のなろう小説を読む時はサブとかサイドを読むのが好きです。しかしいざ自分で書くと物語が進捗しないので歯がゆい感じを得ました。
これを書いたのはフランがどういう娘なのかわからず具体化したかったからです。
25/2/9 フラウにこんな一面があるとはたまげたなぁ。
「私は理想の王子様と結婚する!」
つい先日、私の友人であるルリコはその宣言を人生のやりたい夢として語ってから私に言った。
「フランの夢は? フランは将来どんなことをしたい?」
私はそれにどう答えていいかわからなかった。私の望みは強いて言うなら母さんのお腹の赤ちゃんが無事に生まれてくれることだ。それ以外はずっと皆と一緒にこのまま森でのんびりと過ごせれば良いな、という漠然な思いしかなかった。
後日、私は採取の帰りにいつもとは違う道を進んでみた。採取で一人の時に私はいつも違う帰り道を歩く。歩いている時に私は途方もない夢想をする。例えば自分が旅の踊り子で森をさ迷っていたら…などと夢想をしてもし本当にそうなったらどうするかと考えながら歩くのだ。
今日の夢想は旅の帰りに森の中に迷い込んだ芸人の一団が突如一人のエルフに出会う。踊り子はエルフに案内をしてもらいながら仲を深めるという設定だ。踊り子になり切った私は初心なエルフに蠱惑的な態度を取りながら本心を悟られまいとしながら、困っていることを解決させようと駆け引きをするのだ。そして道中に初心なエルフが知りたそうな恋や愛についてささやいてその純潔を脅かして見せて笑うのだ。そうしていながら仲間の男たちがエルフを冷やかそうものなら騎士の様に弁護する。
「黙りな男たち! この子は上等なんだ! 私達の様な石ころとは違うんだ! くたびれた靴の様に薄汚れた私達とは生まれが違うんだよ!」
…果たして踊り子が想定する騎士がこんなデリアの様な口を叩くのかはわからない。わからないからずっと考えるのだ。何でも自由設定できるからこそ、本当らしさを追及する。それが夢想の面白みというものだった。
でも今日、考えるべきことは自分の将来の夢についてだった。歩きながら私はそのことについて考えを巡らせることにした。
私の家族は大所帯でおじいちゃん、おばあちゃん、叔父さん、お母さん、お父さん、私が一緒に住んでいる。家族は私に「良い子」だから「良い嫁になる」とか「頭がいいから学者になる」と言う。だから私の夢はその中から選ぶ方が良い。問題はどれが一番良いか? ということだ。
もう一つの候補は友人からの意見。三姉妹やノワール、エスメラルダは私は治療師になるべきだと言っていた。治療師は森の薬草を煎じて塗ったり、お産を助けたりする仕事だ。友人たちは私は要領が良くて何事もソツなくこなすから向いていると言った。確かに自分の得意なことから夢を決めれば活躍できるだろう。
しかし私は役割も特技を活かすことにも前向きではなかった。私からするとそれは出来て当然のことだったからだ。歩いたり息をしたするのと同じ感じなのだ。歩いたり息をしてほめる人はない。何故なら出来て当たり前だからだ。私が思うに出来ないことを出来るようにすればそれは褒めるに値すると思う。私にできないこと、それは音楽と詩だ。音楽と詩の界隈に私の尊敬する人が居る。それは古々しき神たちと邪神との争いを描いた武勲詩を歌った吟遊詩人のゼルベールだ。子供の頃は頭に土器の皿を被り、木の枝を槍に、鍋の蓋を盾に見立ててルリコとチャンバラごっこをしたことがある。私はひそかにゼルベールの様に歌で皆に注目されたいと思っていた。問題はどうしたらそう成れるかはわからないことと、その夢を皆に打ち明けることが恥ずかしいことだ。
そんなことを考えているとふと私の足元に黒いモノが見えた。足元に深さ三m程の地割れが森を横断していた。
「あらまあ」
私は地割れの反対側を見ると木々が生い茂った森が立ちはだかっていた。森の中は日を遮り暗くてよく見通しがきかなかった。向こう岸を一通り見渡して斜め向かいの木に目が止まった。
「幹が赤茶っぽくて、肉厚な葉っぱ…未発見の木だったりして…?」
私は地割れに沿ってその木に近付いて観察する。できれば近付いて枝でも採れば新種の木かどうか長老に確かめられるのに…。地割れを見ると底は無理すれば脚が届くほどの距離となっているので最悪落ちても怪我はしても死にはしないだろう。更に地割れの幅は二m程なので走れば余裕で飛び越えられそうだった。
「本当に新種なら採取するべきかな…? でも叔父さんも忙しいだろうし…。だけど怪我もしたくないから一旦戻ろう…」
私は元来た道を戻ると、その途中何処からか青臭い臭いを嗅ぎつけた。この臭いはクリシダの香水で、夏草を刈った後に立ち込めるような臭いがする。
「この香水…近くにクリシダが居る…」
子供のころ私はルリコにクリシダを紹介されたことがある。だけどその後で家族や友人にクリシダとの付き合いは考えたほうが良いと言われた。何でも彼女の一族はこの森に呪われた一族だと言うのだ。
その時、子供心に私は森に呪いがあるなら私達は既にそれに侵されているのでは? と思った。その後私とルリコはクリシダの一族の偏見を晴らす為に行動を起こした。色々あって私達はエルフの森の呪いを解く為にあの暗い洞窟へと侵入することになった。その後のことを私は未だに思い出すことができない。どうやら幼少の私はあの暗い洞窟での恐怖を思い出すまいと記憶を封印したようだ。集落は私達の無茶に大激怒してしまい、ルリコは謹慎になった。暫く私達はほとぼりを冷ます為にクリシダと距離を置くことにした。私も母を泣かせるまでの事態になってしまって大人するしかなくて、その後どうなったかの顛末はうやむやのまま現在まで聞けないでいた。
だが、今となっては長老達はクリシダの一族を議会に入れることも検討されるようになった。それは議会がクリシダの一族を許したということだ。何より私自身がクリシダに久々に会いたい気持ちが抑えきれなかった。
「クリシダ―?」
何度か声を大にして叫ぶと「こっちだー」とクリシダの声が帰って来た。
私は声と臭いを頼りにクリシダのいる場所へと近付いた。森を分け入っていくと開けた空間が表れ、そこにクリシダと大きな狼が座っていた。狼は片目に大きな傷を負った特徴的な狼で直ぐにシルバーと見分けが付いた。クリシダの腹は臨月で大きく膨れていて地面にお腹の重みを預ける様に胡坐をかいていた。
「お久しぶりクリシダ」
近付こうとすると「ワフっ!」と狼が私に尻尾を振って近付こうとしてきた。
「こらっ」
クリシダは狼に声をかけると手元に抱き寄せ、首を両腕をかけるように抱いて座らせた。
「久しぶりだなフラン」
「うん」
久々のクリシダのとの再開に懐かしさを覚えた。相変わらの重たそうな髪と日焼けした肌であどけない笑顔が好ましかった。だが、視線を落とすとクリシダの腕や太ももにある生傷や青紫のシミの様な痕がどうしても眼に付いてしまう。
「…増えたね、傷」
クリシダは私の視線を追うと、ホコリを払うかのように手を振って行った。
「大分ハクが付いて来たかな? 安心してよ、お腹の子ができてからはやってないから」
クリシダの笑いで私は余計に痛々しい気分になる。それを悟ったのかクリシダは目じりを緩ませて言う。
「皆の安全の為に必要なパッチテストなんだからさ。納得してよ」
「それが趣味じゃなければ。もう私達の行動範囲に新種なんて滅多にないでしょ?」
「…」
クリシダは私の指摘に片手で口を抑えて肘をつくようにため息を付いた。
「…そう。だから、もう配合とか加工物をテストするぐらいしかないんだよ」
暫くの間私達の間に沈黙が流れた。
「此処まで身体を酷使しなくても…もう皆許してるよ」
「成程こんな危ない仕事から足を洗って、一族共に採取して、家を修繕して、子を育てろって?」
「何気ない日常でも、人の役に立ったり、皆と一緒に居れば満ち足りるものよ?」
ゆっくりと言い聞かせる様に言うとクリシダは私を見上げて言った。
「フラン。それはどうかな? 私達はこの集落を”退屈”だと思っているんじゃないかな?」
えーー。何で? 私は驚いて目を見張る。
「ここいらを散歩する時に私は君を見るが、君はいつも違った道を進んでるようじゃないか。それは君が毎日同じ道だとつまらないと思っている証拠だし、早く家に帰りたくないという意図があるんじゃないか?」
私はクリシダの言葉を聞いて「そうかもしれないね…」と呟いた。産まれてこの方私は集落の生活にそれ程不満もなかったけど、だけど満足だとも感じることもそんなにはなかった。そして私はクリシダに夢想に興じる姿を見られたかもしれないと思うと顔から火がでそうだった。だけど私は平静を保つ為に何気なく話を進めることにした。
そもそも私が思うに面白いことはそうはない。大抵は皆お嫁さんになって子供を作るか、採取と雑用の毎日を送るか、特別な役職を前任者から受け継ぐしかない。
「確かに退屈かもしれない。でも皆それを我慢して毎日を送っているの。皆が皆、つまらないからって外に出かけちゃったら誰が子供を育てるの? 誰が集落の取りまとめをするの? 誰が怪我を治す薬草を煎じるの?」
「誰も外に出ろなんて言ってないじゃないか」
「あっ…」
咄嗟に私は手で口を抑えた。
「私は君は外に出るべきじゃないと思う」
その言葉に私はクリシダを直視してしまった。クリシダも私をまっすぐ穏やかに微笑みながら私の視線を真摯に受け止めていた。
「どうしてそんなことを…言うのよ…」
言おうとするとクリシダは私に「まあまあ」と両手で仕草をした。
「私は相手を『こういう人だ』と仮説を立ててから話しながら修正するタイプなんだ。それが気に障ったなら済まない…」
少しカチンときていた私はクリシダとの再開をいい思い出にしたくて、トーンダウンを挟むことにした。
「…クリシダ…。『忌憚なき意見を言ってくれ』と言ってその通りに言うと怒る人っているじゃない?」
「あー…まあ居るには居るね」
「たまに居るよね、そういう人。だけどそういう態度を取る人は何時か誰からも忠告されなくなっちゃう。だから私はそうはなりたくないの。でも自分の中の感情を無視するのも違う気がするんだよね…」
「君はちゃんと皆の意見に耳を傾けているから、今悩んでいるんだ。感情も無視する必要はない」
「クリシダもそう思うんだ」
「うん」
先ほど私が来た方向へクリシダが指をさすとその手を反対側の肩に添えてさすりながら言った。
「君が外に出るべきじゃない理由はあっちにある。あっちに地割れがあっただろう? 君はそれをどうした? 君はいつもとは違う帰り道に地割れを見つけた。その時に君はどうしたのかな?」
私はクリシダの言わんとしていることがわかった。地割れが表れた時私はリスクを重んじて一旦戻った。もしこれが外の世界だったら、私はリスクが目の前に現れた場合リスクを重んじて来た道を戻ってしまうということだ。
私はクリシダに大げさにむくれ顔をしてみせる。なんとかしてその説明を否定する言葉を探した。
「…このまま集落に帰ってから皆と一緒に地割れを安全に渡ろうと思っただけ。どう? 結果的に渡れるなら安全なだけ私が賢いでしょ?」
「でもその頃にはルリコの様な人は君よりずっと先に行ってしまっている」
それはそうだろう。と、私は納得してしまった。
「私が思うに君が向いているのは、この集落の長老だろうね。それは刺激的で意義に満ちていて必要不可欠な役目だよ。ニコラスとルリコが舵取りしたら独裁傾向が強くなってしまうだろうしね」
「確かにそうかも…」
二人は没頭し始めれば報告や相談を省略して物事を進めてしまいそうだった。二人にしてみればそのつもりはなくても誰もついて行けなくなるのは眼に見えていた。あの二人がそうならないように止める役が必要なんだろう。
「ねえ、クリシダって夢はある?」
クリシダは私の言葉に肩をすくめながら両の手を広げる
「私が思うに女が夢を抱くのは難しい」
「何で?」
クリシダは自分の膨張した腹をさすって言った。
「こんな重い胎を抱えて居るからね」
確かにそうかもしれない。女の身体では遠出をするのは難しい。筋肉の発達もそうだけど、絶え間なく訪れる生理や妊娠に出産と閉経。やっぱり女には遠出は無理なのかもしれない。私もアキンボとかヒゲみたいに外の世界を見てみたいのに…。
「やっぱり女って不便だね…」
「…私の家の倉庫に今は亡き祖母のサンダルを見つけたんだ。皮がよれて、靴底は黒ずんでいて、切れた革紐を何度も結びなおしたようなくたびれたヤツ。私の祖母の意地でも履き続けるっていう執念を感じるよ…。でね、私は祖母の人生をそこに見出した気がしてよ。『あたしもこうなろう』ってね。」
そうクリシダは二の腕の痣をさすりながらにっこり笑って言った。私はクリシダのその笑顔に温かさと寂しさを感じた。何故クリシダがここまで身体を酷使するのかなんとなく伝わってきた。そして私はそんな風には生きることはできそうにない、と自覚して落ち込んだ。きっと私は我が身が可愛くて仕方ないのだろう。私は表情が曇りそうなのを悟られたくなかったので多少強引でも席を立つことにした。
「…ありがとうクリシダ、割と参考になった…。これからどうするかちょっと一人で考えてみるね」
立ち上がると私はクリシダにそう言って歩き出す。背後からクリシダの声はしなかったが見守る様な暖かい視線を感じた。私はこんな感じになってしまって、今度、一席を設けてクリシダとの旧交を温めることを記憶にとどめた。
暫くして私は地割れの前に再び立つとそこら辺で拾った太めの木の枝を対岸に渡した。手頃なのは二本しか見つからなかったが、枝を伝って歩けば向こう岸に渡れるのでは? と思ったのだ。しかし地面に落ちていた枝なのだから腐っていたり、虫食いがあるのでは思うと不安が隠せなくなった。試しに枝に足を添えて少し突いてみるとミシミシと音を立てたので直ぐに足を引っ込める。
そして私は頭を抱える。普通にこの下に降り立ってからよじ登れば簡単なのに! いや、そんなことしたら服が汚れる…? 泥の汚れを洗濯するのは本当に大変…ってだからそういうことじゃないんだって!
私は鼻で小さくため息をついて眼を瞑る。助走して飛べばいいのはわかっている。だけど私はそうしたくない。私は問題が起きると頭に打算的な考えが浮かぶ。それは母、エマの血だろう。母は皆に仕事を押し付けてサボったり、頼みごとを引き受けさせて楽をさせるように仕向ける。そしてそれを見ながら愉悦の表情を浮かべて愉しむのだ。そしてそれは同じような考えを持つ私のもわかる。
私はズルいエルフだ。私がルリコに頼めば赤ちゃんを見捨てる訳がないと計算して。泣けば断れないと計算してそうしたのだ。赤子の名付け親を頼んで集落に縛り付けようと企んだ。だけど、それらは友情への冒涜だ。こんな醜悪な自分を変えたい。どうすれば純粋に美しく生きられるのか? ずっとそれを考え生きてきた。
「う~ん。普通に下に降りてから登った方が効率がいいのはわかってるんだけどな…」
暫く膝を抱えて座り込んで、どうしよう…と途方に暮れていると、耳に虫の羽音のような音がすることに気付いた。
「…ラン。フランさ~ん」
私が顔を上げると目の前に背中と脇に荷物を抱えたルリコが立っていた。
「フラン! どうしたん? 大丈夫?」
ルリコは背中に変なフロシキとかいう布袋を背負って脇に両手でアカシアの枝葉を抱えていた。黙っていればルリコはシュッとした美人なのに今は引っ越しの時に重い家具を運ばされてる年増の女エルフの様な有り様だ。
でも沢山の荷物を抱えながらもその出で立ちからは自然に生きる野花の様な生命力を感じずにはいられなかった。その考えの間にルリコは地割れを「よっ」と簡単に飛び越えた。咄嗟に私はルリコを抱き止めようと思わず手を出してしまった。
ルリコが私の腕に飛び込んで抱き止めようとするが、踏ん張りがきかず転びそうになった。私はルリコにしがみついたまま倒れ込みそうになり「ああっ!」と目を瞑ってしがみついてしまった。
次の瞬間「フンっ!」という声と共に私の身体が浮いた感覚を味わうと脚のサンダルが脱げて抱き上げられた感覚がした。眼を開けるとルリコは私の腰を子供の様に抱き上げていた。
「サンダル! サンダル脱げてる!」と私が言うとルリコは「え、どこどこ」と私を抱えたまま振り返って地べたのサンダルを探し始める。すると私の眼端にルリコが捨てた枝葉の側にサンダルが見えて指さした。
「あ、あった。あそこ。片足で行けるから下ろして良いよ」
「はいよ」
そう言うとルリコは私を身体から引き離してゆっくりと地面に下ろした。その時私がルリコの身体をなぞった手が体中の筋肉の隆起を感じ取った。そう言えば昔ルリコはヒゲの訓練に泣きながら耐えていたっけ…。同時に彼女が木漏れ日を本を持って追いかけていたことも思い出した。私は彼女の身体から手を離すとサンダルの元へと片足で向かった。
「肩貸そうか?」
私はルリコの言葉に聞こえないふりをしてサンダルの下へと近づいた。私はサンダルを足に履かせると自分のいたらなさに何だか腹が立ってきた。私はルリコの枝葉を両手で抱える元の場所へ歩いて行った。私はルリコの抱える枝葉を指して言った。
「それ何に使うの?」
ルリコは抱えた枝葉を揺すって言った。
「ああ、ニットが獣臭いかもと思ってさ。この木の原料を煮詰めれば脱臭する素材が抽出できるかと思って」
私はルリコの言葉を聞いて心がチクリと痛む。毎日ルリコは夢の為に行動をしている。私がぼんやりしてる間にどんどん先に行っちゃう。ルリコが居なくなったら私は常に夢想で現を抜かしながら言われたことをするだけの存在になるだろう。
その時私の中の打算が囁いた。成れないなら付いて行けばいい。何も率先して先陣を切る苦労を買うこともない。後に続けば楽に行ける。
私はその黒い考えを振り払おうとしながらも、ルリコと一緒に居たいという一心でそれを拾った。
「私も手伝うよ」
ルリコは私のその様子に困惑したような表情をした。
「フランさん大丈夫? 持てる?」
「何が? これくらい私だって持てるよ」
「え…? 何か怒ってらっしゃる?」
ルリコは私の言動にとげとげしさを感じたのか、追いやられるように集落への道を進み始めた。私はその背中に話しかける。
「ねえ、ルリコ。私思ったんだけどさ」
「うん…」
「ルリコが王女様になったら私を宮廷で雇ってよ」
「あー…成程」
私はルリコの背中を追いながら、二人のお茶会を夢想した。
昔にルリコに聞いた人間の謁見の間にルリコと王様が座っていて、その側で私はローブを着てたたずんでいる。そしてその眼下には謁見に預かった…そう、踊り子の女の一団がいるというのはどうだろう。かつて森の中で出会った初心な女は宮殿の僧侶に出世したのか! と眼を見張るに違いない。
「私は貴方が暴走したらそれを抑えるから。それで宮廷で社交して、庭で二人でお茶とお菓子とかを切り分けながらお話しするの。そこは花園で私達はドレスを来てテーブルを囲んでいるの。そのテーブルの上には奇麗な茶器が乗っていて、私達はお嬢様の様にお茶を飲んでいるの」
公務の時は素っ気ないけど私達は個人ではよくお茶会をするのだ。天気のいい日は雑草を平らに踏み鳴らした絨毯の上に机とお茶をおいてお茶をするのだ。その時私たちは公務の様な服ではなく、動きやすい落ち着いた服を着ているのだ。
「あー面白いかも。でも私達二人で? お茶請けのお菓子は何を用意する?」
「私達は招待した人間のお友達を待っているの。素敵な娘。きっと貴族の子だしつまらないお菓子じゃ見向きもされないよね…」
そうなると、私達の服はやっぱり貴族の服の方が良いのかな? 夢想で着させてみるがまだまだ本当っぽさが足りない。そもそもまだ私は素敵なお菓子が何なのかも想像が付かない。でも、諦めたくない。だって、私がそう思うから。夢の細部まで拘る方がより、実現しやすい気がするのだ。
「そう、例えばパイとか。沢山あってどれを切り分けて自分の皿に盛るのか話し合うの。果物とか蜜芋とか包んであるような…とにかく甘いいモノがより取り見取りなの。私達五人はそれを囲んでそのパイ達をこう呼んでるの…」
「ガールズ・パイ」
私はルリコが妬ましくて羨ましくて…。だからルリコを利用することを考え付いてしまった。私の中の黒はルリコに追いつくための計算を粛々と進めていく。それはもう止められない。やっぱり私は黒い人間だ。きっとルリコのように純粋に生きられない。もう無理だ。だったらもっと黒くなってやろう。母よりもっと巨大な黒になろう。
もしかしたら私はルリコが宝を見つけたらその背中に短剣を突き刺すかもしれない。でもそうはらない。ルリコの巨大な野望には終わりがないから。私が終わらせないから。私がどんなにルリコを利用しようとしても利用尽くされないほどルリコを大きい存在にしてしまえばいい。そうすればずっと私達は白と黒で悠久の時の中で死んでも友達で居られる。
ごめんルリコ。私には夢がない。でも貴方のいない人生の虚しさに耐えられそうにない。だから私は貴方の夢を叶えて利用する。
訂正部 他の話の訂正がありましたので明記しておきます。
・6部のスカイとの会話でエルフの一族が森から出たことがあるという記述を追加しました。
・9部でクリシダの狼に特徴があることを追記しました。
・11部でライラがルリコにニコラスとの関係について言い含めた部分を改変しました。