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あなたに惚れた

「あの、冗談ですよね?」

「本気よ」


 セレイナの熱っぽい表情がリオに冗談の類でない事を暗に伝える。そんな二人を何度も見比べるアルム。

 リオは言葉の意味こそ理解したが、アルムの手を握るので精一杯だった。元々、理解の外にいるような相手だ。発言の真意は他にあるとリオは考える。


「あなたは、その。すごい魔術師ですよね。そんな人が僕に惚れたなんてやっぱり冗談では?」

「本気だって。今の模擬戦で完全に惚れたもの」

「今ので!?」


 セレイナがリオと目線を合わせる。リオは目を逸らせず、心臓の高鳴りが収まらない。

 リオにとってセレイナのような人間は人外に等しい。まともな魔術を使えない少年の前に、世界の誰もが賞賛する魔術師がいる。本来であれば一生のうち、一度すらないシチュエーションだ。

 気まぐれでガーズの誘いを受けて、この場に居合わせなければいけない。リオが考えている以上に、セレイナは興奮していた。

 セレイナがリオの中に何を見出したか。それは――


「格上相手にも諦めず、好機を探る。一矢報いる。これで惚れない女はいないわ。ボク、モテるでしょ?」

「そ、そんな事ないですよ! ろくに魔術も使えませんし……」

「えぇ? あんなに立派な魔術を使えるのに?」

「見せかけですよ……。音と光で脅かすだけで、あ!」


 その脅かした相手が正気を取り戻していた。血管が浮き出ている表情、握り拳、全身から殺意すら放っている。

 酒に酔ったかのような赤い凶悪な面構えは魔術師達すら畏怖した。彼を怒らせて対処できるものなどギルドの魔術師達の中にはいない。


「に、逃げないと……」

「どうして?」

「怒らせちゃったからですよ! 意地になってこうなる事まで考えてませんでした!」

「さっきのガッツはどこにいったの……と言いたいところだけど」


 憤怒の化身となったかのようなガーズがリオを睨みつける。セレイナがロングヘアーをかきあげて一息。

 リオの肩に手を置いてから、庇うようにして前へ出た。


「ギルド長のガーズさん。この子、スカウトしていい? 私、惚れたからさ」

「セレイナさん、いくらあんたでもこんな時に冗談はきついぜ。スカウトするならオレだろ?」

「いーえ、この子が好きなの」

「あん?」


 あまりの展開にガーズどころか魔術師達も呆気に取られる。今の戦いを冷静に考えた魔術師達からすれば高評価できるものではない。

 ガーズが怒るのも当然だとすら思っている。つまり彼らもガーズの後ろに並び立ち、険悪な雰囲気を作るのに一役買っていた。

 リオは我に返って完全に怯えつつアルムを守る。


「あなたはそこそこ優秀だけどつまらない。昨今の悪しき魔術信仰の体現って感じ」

「何だと……?」

「魔術革命以降、あなたみたいな高威力の魔術偏重主義が目立つのよ。私はそれが気に入らない。これで納得してもらえない?」

「高威力の何が悪いんだ! あんた、本当にあの厄災の魔女かッ!」

「ねぇ、この子さ。本当に落ちこぼれなの?」

「当然だろ! さっきみたいなこけ脅ししか出来ないんだからな!」


 セレイナがわざとらしく首を傾げる。その仕草に神経を逆なでされたガーズ達の怒りが頂点に達しようとしていた。

 元々辺境に集まったならず者に近い魔術師の彼らだが、プライドは高い。魔術師特有の選民主義が色濃く出ていた。


「じゃあ、あなた達。この子と同じ魔術が使える?」

「使えるに決まってるだろ!」

「同じ魔術よ。燃えない炎、出せる?」

「出せ……」


 ガーズの強がりが突然、消えた。セレイナの指摘は今まで考えもしなかった事だからだ。見せかけだけで威力がまったくない魔術。


――それって逆にすごくないですか?


「出来るに、決まって……」


 先日の新人魔術師の発言だ。発言した本人がもっとも理解している。やはりすごい事だったのだ、と。

 魔術は魔術式を構築してようやく発動させる。炎なら炎、水なら水とある程度の型はあるのだが燃えない炎の魔術式など誰も知らない。

 音や光だけならまだしも、完全に炎の形を保ったまま燃えない炎。ガーズ達は頭の中で魔術式を練るが、まったく進展しなかった。


「出来ても、かなりお粗末な形になるはずよ。だって普通に難しいもん。ね?」

「ね、と言われましても……」

「どこで魔術を覚えたの?」

「ずっと一人で練習しました」

「……自力で?」


 ガーズの怒りが再燃する。目線で攻撃指示を出して、他の魔術師達が構えた。

 完全に攻撃態勢に入った彼らを見て、リオはもはやセレイナに密着する。


「高威力上等だぁッ! 厄災の魔女がそこまで言い切るなら、これを凌いでみろや!」


 吠え猛るガーズの全身から魔力が放たれる。怯えるリオとアルムにセレイナがローブを被せた。一瞬、リオ達の視界が閉ざされた時だ。

 リオに聞こえたのは轟音と悲鳴のみ。はらりとローブが落ちた時、ガーズ達が焼け焦げて倒れていた。


「え? え?」

「あ、もしかして見えなかった?」

「はい……」

「単に魔術をお返ししただけよ。高威力偏重がどんな事になるか教えてあげようかと思ったんだけど……」


 かろうじて指先を動かしているガーズにセレイナが近づく。


「この子、連れていくけどいい?」

「い、い、です……」

「ありがと。じゃあね」


 踵を返したセレイナがリオとアルムの手を引く。申し訳程度の挨拶を済ませたセレイナにリオは慌てる。


「こ、これ、いいんですか? それに僕を連れていくって……」

「私が色々教えてあげる」

「いろいろって……」

「嫌?」

「嫌というか、その。頭が追いつかないです」


 何も返事をしていない上に、この惨状を放置していけるほど無神経ではなかった。

 ましてや今の今まで在籍していたギルドである。ひどい場所だったが、リオとしては思うところがあった。


「あの……!」

「あなたは希少な固有魔術式を持っている。私の元で学んでみる気はない?」

「僕が……セレイナさんに?」


 厄災の魔女は弟子をとらない。そんな彼女がなぜ。それともこれは冗談かとリオはあらゆる可能性を考えた。

 返事など出来るはずもない。あまりに現実離れしているせいで、夢なのではないかとさえ疑った。

読んでいただきありがとうございます。

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