慕われる者
王都の支部に帰ってきたリオ達は異変に気づく。支部の前に人だかりが出来ていたのだ。
全員が未成年であり、リオと変わらない年齢の少年や少女達にゴドルが何かを説明している。
「あ、クリード支部長! ちょうどよかった!」
「ゴドルさん、何があった? この子達は?」
「それがですね、どうも学園の生徒達みたいなんですよ」
「学園の? もしやエイン絡みか?」
クリードの予想通り、生徒達はエインを見つけるなり群がってきた。もっとも驚いているのはエインだ。
生徒達と親しい間柄というわけでもなく、助けてほしいと目でクリードに訴える。
「お、おい! 何なんだよ!」
「君がエイン君か?」
「そうだけど……」
「エイン君、オレを覚えてないか? いじめられているところを助けてくれたよな」
「上級生に盗られたお金を取り返してくれたんだよね!」
「両親を馬鹿にした奴らをボコボコにしてくれた時はスカッとしたよ!」
生徒達が口々にエインに礼を言う。内訳は男子生徒や女子生徒と様々だ。小さな下級生も含んでおり、どれだけの人を助けたのかとリオとスカーレッドが眺めている。
当のエインはやはり何の事だという顔だ。少しの間、困り顔を見せた後でどこか納得した様子で頷く。
「そんなことあったような……?」
「お礼を言っても無視されちゃったからね」
「そうだっけ?」
「オレ達さ、エイン君が停学になったって聞いて慌ててさ……」
生徒達の中にはエインの名すら知らない者が多かった。助けてもらった礼をしたくても学年すら知らない。
各々がエインを捜索しているうちに知り合い、全員で協力することになった。しかし突き止めた時にはすでにエインは停学。
エインに助けられた生徒がこれだけ大勢いると互いが認識して、彼を救いたいと願って動き出した。停学とはいえ、内申点に響けば只事ではない可能性があるからだ。
教師、親。あらゆる人脈を駆使して訴えかけた結果、彼らはついにエインの下へ辿りつく。その導き手が支部の中から姿を現した。
「大勢の生徒が家に押しかけてきたって、エインの母親が言うんだよ。ビックリさ」
「ドマリア本部長、こちらの子達はあなたが?」
「私があれこれ気を回すまでもなかったね。ババアはどんな時だっておせっかいさ」
ドマリアとクリードの目線の先には大勢の生徒に囲まれるエインがいた。気恥ずかしさから、全力で謙遜の言葉を並び立てている。
リオは学園というものの本質を見た気がした。そしてエインが生徒達に感謝されている場面を見て、彼を尊敬する。
誰かを救って感謝されることの本質は魔術協会の魔術師とて変わらない。報酬や実績にならなくても、エインはすでに実行していたのだ。
理解者がいない状態であろうが停学になろうが、彼は自分を貫いた。そんなエインをリオは誇らしく思う。
「だーーーっ! だから別にオレはそういうアレでそうしたわけじゃないんだって!」
「君のおがけで勇気が持てたんだ。いつも怯えていたけど、これからは立ち向かおうってさ」
「オレのおかげで?」
「怖い最上級生にも立ち向かっていったじゃないか」
エインが誰かに勇気を与えた。リオはたまらず生徒達の群れに入っていく。
「エイン!」
「うぉっ! なんだよ、リオ!」
「やっぱり君はすごいよ! 免許なんかなくても立派な魔術師だ!」
「お前までオレを持ち上げるのかよ!?」
リオの乱入に生徒達が口々に誰だと囁き合う。エインはたまらずリオを押して生徒達の輪から外す。
「あのな。お前にいくら褒められても、褒められた気がしないんだよ」
「そ、そうなの? じゃあ、もっと褒めればいい?」
「そうじゃねぇ。お前は魔術協会の三級魔術師、しかもあれだけの魔術を使う。実力差はハッキリしてる。しかも同じ歳ときた。オレは悔しいんだ」
「エイン……」
「だからその程度じゃなくてな。オレはもっと強くなる。お前と同じくらい強くなるからよ。その時はまた褒めろ」
リオは考え直す。確かに立派な魔術師というのは、いささか上からの物言いだ。先輩面しすぎたかもしれないとリオは反省した。
「うん、わかった」
「……まぁ、悪い気はしねーんだけどな」
頬を指でかいたエイン。そしてスカーレッドに視線を向ける。
「お前はあいつとらぶらぶしてもっと強くなれ」
「またらぶらぶ?」
「最強の魔術師になる秘訣は女とらぶらぶすることだってオヤジが言ってた。けどオレはそんなナヨナヨしたのは勘弁だからな。オレのやり方で強くなる」
「そ、そうなんだ」
「はいそこまで!」
スカーレッドが二人の会話を中断させた。リオを力づくで移動させる。意外と簡単に持ち運ばれてしまったリオが彼女の力に驚く。
「リオはそのままでいいからね?」
「う、うん」
「アハハ……青臭いね」
一部始終を見ていたドマリアがリオの前に立つ。スカーレッドはやや不機嫌になるも、相手が相手だ。
魔術協会本部長にして元最強。セレイナに続いて、強い女性魔術師というものに一定の敬意を抱いていた。
「あんたがセレイナの弟子のリオかい。ふーん……」
「あの、あなたは?」
「魔術協会本部長をやってる者さ。あんたの報告は聞いているよ。その歳で三級なんだってね。大したもんだ」
「あ、ありがとうございます」
「代表の座を狙ってるのかい?」
「代表?」
リオが何も知らないと見たドマリアはクリードの腕を引っ張る。何も説明してないのかいと言わんばかりだ。
とはいえ、クリードに説明責任はない。三級ではほぼ縁がない話だからだ。
「ちょうどいい。全員でランチタイムと行こうか。そこのメルティナ姫も一緒にね」
「ド、ドマリアさん! メルティナ姫ってなんのこと? 私は閃光のスカーレッド!」
「あんたのそれに付き合わされるほうも大変だねぇ」
「え?」
ゴドルやクリードが顔を逸らす。スカーレッドは察してしまった。正体など、とっくにバレていたのだ。
正体不明の少女魔術師スカーレッド。そういう設定だったのだが、周囲が合わせていた。本気で演じていただけに、スカーレッドは深い羞恥心の底に叩き込まれる。
「ウソ、ウソだ……ウソだッ!」
「スカーレッド?」
唯一、リオだけが蚊帳の外だった。
読んでいただきありがとうございます。
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