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ドラゴンゾンビ討伐 4

「彼方の断剣、裁くは揺蕩う汝の業! 光刃(エクスエッジ)ッ!」


 光がドラゴンゾンビを真っ二つにする。

 リオは気づいた。二人の猛攻のおかげで再生が少しずつ弱くなっている。陽滅(フレア)による爆破で巨体が揺さぶられた。

 両足が完全に破壊されて横たわる状態になるが、牙と尾は健在だ。二人は仕上げとして並び立つ。


「スカーレッド、一点集中だ! 合わせろ!」

「リオ、エイン! 目を瞑って耳も塞いで!」

陽滅(フレア)ッ!」

「彼方よりいずる断剣、裁くは」

「早くしろ!」


 こんな場面で目を閉じるなんてもったいない。リオは頑なに見開いていた。が、すぐに後悔する。

 強烈な光、爆音。更に追加で爆風がリオとエインを襲った。


「ちょ……!」

「うわぁぁぁ!」


 耐え切れず態勢を崩して吹っ飛んでしまった二人。光によって目を開けられず、リオは辺境の町のギルドで自分がやったことを思い出す。

 これは確かに効くと改めて光と音の効果を実感した。堪えているとクリードとスカーレッドが近づいてくる。


「ごめんごめん! ちょっとやりすぎた!」

「大丈夫……ドラゴンゾンビは?」

「仕留めたよ」


 ようやくリオが目を開けると、ドラゴンゾンビらしきものが残っているだけだった。

 千切れ飛んだ腕、かろうじて残っている頭部。まさに木っ端みじんだ。リオは生唾を飲む。

 不死の存在という、死に抗った理に反する異形すら黙らせたのが二人の魔術。物理的な影響を与えられない自分の魔術と嫌でも比較してしまう。

 剣や槍に取って代わった魔術というものの恐ろしさは、クリードとスカーレッドのような魔術師がもっとも体現している。リオは二人の魔術師に畏敬の念を抱いた。

 俯くリオをスカーレッドが覗き込む。


「リオ?」

「僕、まだまだ魔術師というものをわかってなかった。すごいんだね、魔術師って……」

「うん、だからこそ間違えちゃいけないなって思うよ。かっこいいだけじゃないんだよね」

「綺麗だよね」

「え?」


 まともな感想ではあるが純真すぎる。スカーレッドは自分でもよくわからない印象を受けた。

 そもそもリオは目を閉じていて見てなかったのだ。破壊による結果だけを見てそう思えるものは多くない。


「綺麗?」

「あ、やっぱり変だよね。それよりお疲れ様」

「うん、クリードさんも……」


 ふとスカーレッドはクリードに目を止めた。彼はまだドラゴンゾンビの残骸に対して警戒を解いていない。

 そして目をカッと開いたドラゴンゾンビの頭部。リオとエインは言葉が出なかった。あれだけの魔術を受けても、決着がついていない。

 どうすれば終わるのか。リオは真剣に考えた。


「心配ない。陽滅(フレア)で頭部ごと破壊すれば終わりだ」

「クリード支部長、僕にやらせてもらえませんか?」

「ダメだ。許可できない。朽ちかけとはいえ、頭部のまま襲いかかってくるような化け物だ」

「お願いします」


 クリードは咎められなかった。怒っているわけでもない。悲しんでいるわけでもない。

 リオの瞳は無機質でもあり、目標しか見据えていないように見えた。もし断ってもリオはそのまま進む。なぜか強い意思を感じてしまった。

 クリードが無言で身を引くと、リオが頭部の前に立つ。


「僕にはスカーレッドやクリード支部長みたいな魔術は使えない」


 リオは自身の固有魔術式を呪っているわけではない。むしろセレイナが見出すほどであり、誇りに思っている。

 だからこそリオは極めたかった。極めることでセレイナへの恩を返せる。自分というものを証明できる。魔術師として何かを残せる。リオは魔術師でありたかった。


「死というのが何なのか考えてたんだ。なんで死にたくないのかなって。それってやっぱり怖いからだよ。死んだら何もなくなる。誰にも会えなくなる」

「リオ……?」


 死。それはいつか生物が行きつく概念だ。最強種と呼ばれていようが抗えず、もしくはゾンビとなって蘇る。

 死は怖い。魔術による強さの証明とは死を感じさせることだ。魔術に限らず、力の本質のようなものだがリオはそう結論づけた。


「このドラゴンゾンビはどうやったらもう一回、死を感じるのかな」


 リオは魔術を発動した。頭部が闇一色に包まれる。


「く、暗くなった!? リオのやつ、何したんだ!」

「落ちつけ、エイン」


 クリードは平静を保っていた。これがリオの魔術によるものだとわかっている以上は、そうするしかない。一級魔術師として先輩として構えていけなければいけないのだ。


「何も見えない。何も聞こえない。何も感じなくなる。もう誰にも会えない。死んだら誰だってこうなる。だからこれが死なんだ」


 しばらく闇が維持されていたが、やがてしぼんでいく。残ったドラゴンゾンビの頭部の目は閉じられていた。

 一部が崩れて、やがて崩壊する。灰となり、やがて消えていった。リオはその様子を見下ろしていたが、やがて我に返る。


「……なんで消えちゃったんだろ?」

「リオ?」

「いや、暗闇でひとりぼっちになって誰にも会えなくなったら死んだも同じって思ったんだ。昔、見た怖い夢がそんな感じだったから……。消えたけど成功したのかな?」

「今の魔術ってさ。どういうの?」

「うーん、どういうのだろ?」


 固有魔術式のルール通りであれば、暗闇でドラゴンゾンビの頭部を包んだだけだ。何も見えなくなり、感じなくなる。

 それがリオが考えた死の概念だ。ドラゴンゾンビはそれを死として受け入れたと、クリードはさすがに確信した。

 リオの魔術には実体はないが、すべてを感じさせる。痛みや死、あらゆる感覚を叩き込む。受け手が感じた時点で終わりなのだ。


「リオ、セレイナはお前の魔術がどういうものか知っているのか?」

「はい。セレイナさんのおかげで使いこなせたようなものです」

「そうか……」


 セレイナに言わせればおそらく面白い魔術なのだろうが、クリードは真っ向から否定したかった。

 たとえ実体がなくても、すべてを作り出して感じさせてしまえば本物と変わらない。幻でも、すべてを創造できるのと同じだ。

 少なくとも今はアンデッドにすら死を受け入れさせた。極めてしまえば、リオの魔術はあらゆる生物を死滅させられる。

 何が面白いものか。魔術の域を越えている。憤るクリードだが、それでも相手はリオだ。魔術師として生きる選択をした以上、認めなければいけない。

 リオとスカーレッド、エインが帰路へと向けて歩き出す後ろで彼は呟いた。


「幻創の魔術師……」


 リオの背中に向けた言葉だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 幻創の魔術師。 なんと憎いことしますな! 文の最後に題名を呟くとは。 思わず鳥肌が… さあそれが主人公の通り名になるのか否か。 張り切って読み進めたいと存じます。
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