ドラゴンゾンビ討伐 3
リオが炎の壁を作り出して、大軍を寄せ付けない。スカーレッドが上空からの光星で数を減らす。
この魔術の欠点は任意の場所に放てないところだ。肩を直撃させてほぼ半身状態になった程度でゾンビは止まらない。
「炎の壁に向かってくる……」
「アーミースパイダスも多いなぁ!」
四級の魔物といえど、群れてしまえば危険性は一気に跳ね上がる。湿原で果てた死体を食らう大蜘蛛だが、新鮮な肉があれば飛びつく。よってゾンビなどに目も暮れない。
「僕もクリードさんみたいな魔術で!」
リオは至る箇所に炎の柱を発現させる。口で宣言したものの、リオは不可能だとわかっていた。
正確には効果がないのだ。リオの魔術は炎であれば炎を認識させて、誤認させる必要がある。相手が間違わなければ、リオの魔術は幻でしかないからだ。
直接、物理的な影響を与えられない。認識させなければいけないという工程がある以上、即効性のある魔術の再現は意味がないのである。リオはクリードの背中を見て歯ぎしりをした。
「やっぱり本物の魔術師はすごいや……」
本物の魔術師。それを言えば、こけ脅しに逆戻りである。
リオはただちに自分の発言を撤回した。今は違う。自分が魔術師としてどうか、そんなものはどうでもよかったはずだ。
アルムを守ることができる魔術師になる。上が何であるかは二の次だ。エインが噛みしめた悔しさはリオも持っている。それがわかっているからこそ、リオは彼を認めたのだ。
「リオ! ほら!」
「……真紅の翼、舞え! 焦熱に抱かれし闇の眷属に慈悲なし!」
炎の壁が津波のごとくゾンビの群れを襲う。呻きや嘆き、還るべき死者達が再び死を思い出す。
感じるはずがない熱、恐れるはずがない炎。もがいた時にはすでに遅く、彼らが停止して腐った体を倒した。巻き込まれたアーミースパイダスも焼かれた感覚を味わいながら絶命していく。まさに一掃である。
リオは息を切らしていた。スカーレッドは息を飲む。
「リ、リオの魔力って……」
異様なのは魔術の規模だ。二百体以上の魔物がリオの魔術の影響を受けてしまったのだ。
いかに魔術式の構築や魔力の操作を工夫しようとも、最終的には魔力の絶対量によって効果は決まる。セレイナも言葉を濁したが、リオのそれは大海だった。
討伐中であるがスカーレッドはリオの立ち振る舞いに目を奪われてしまう。胸の高鳴りが収まらなかった。
「リオ、さすがだね! リオならすぐ一級になれるよ!」
「そうかな……」
スカーレッドの称賛の言葉を素直に受け取れないのではない。前方でドラゴンゾンビを迎え撃っているクリードに釘付けだった。
「陽熱」
ドラゴンゾンビの巨体の至るところがまるで消滅しているかのようだった。爆破というより、切り取りに近い。丸い破壊の跡が残る。
しかしドラゴンゾンビは怯まず、爪をクリードに振り下ろす。爆破で応戦して跳ね除けるも、一時しのぎだ。すぐに頭部からの噛みつきで、ドラゴンゾンビが地面ごとえぐり食う。
間一髪で回避したクリードはもちろん魔力強化で身体能力を底上げしている。
「チッ……ブレスこそないが、パワーはそこそこ残っているな」
クリードやスカーレッドの魔術による破壊は凄まじいが、ドラゴンゾンビは悠々と動く。リオはそれが不思議だった。
いくら痛みを感じないとはいえ、足が千切れたら歩けなくなる。ところがドラゴンゾンビは破壊の跡があるものの、動くのに不自由はない。
リオは凝視した。ドラゴンゾンビの欠損した部分が元に戻りつつある。
「あのドラゴンゾンビ、体が元に戻ってる?」
リオにドラゴンの未練が理解できるはずもない。元より化け物に人間のような思想などなく、言うなれば往生際が悪い。
クリードもそんな事は理解していた。だからこそ、完全に滅する必要がある。人里から遠いとはいえ、何かの間違いで人里に現れた際の被害は計り知れない。
大規模な討伐作戦が決行してしまえば、犠牲は避けられなかった。一級魔術師とはそんな災害のようなものに立ち向かえる魔術師である。
その時、ドラゴンゾンビの尾を受けたスカーレッドがリオの元へ吹っ飛ばされてきた。
「ス、スカーレッド!」
「ゲホッ……きっつぅ……」
「怪我してるんじゃない? あんなの受けたら……」
「だ、大丈夫。私だって魔力強化してるもん」
言葉とは裏腹に、スカーレッドはよろめく。一級魔術師の魔力強化をもってしても無傷とはいかない。
未だ動き回るドラゴンゾンビ、応戦するクリード。ややクリードとスカーレッドが優勢ではあるものの、消耗戦は避けられなかった。
「また行ってくるね。リオは安心して待ってて」
「僕も行くよ!」
「ありがと。でもここは先輩の顔を立てさせて。確かにあれは強いけど、しぶといだけだから」
同じ一級でも、アンデッドでなければとっくに終わっている戦いだ。
クリードの猛攻が激しさを増して、いよいよドラゴンゾンビは身動きを取れなくなる。不死身の肉体といえど、物理的な影響は避けられない。
爆風や爆破を立て続けに受けて自由を奪われてしまえば、後は消滅を待つのみだ。
「じゃあ、いってくるね! 終わったら近くの町で夕食にしよ! いい店、知ってるんだ!」
「あ、スカーレッド……」
再び戦場に飛び込むスカーレッドを見送ったリオだが、感情の高ぶりを抑えられない。
二人の魔術師の戦いを見ているうちに、リオはやはり高みを意識せずにはいられなかった。
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