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ドラゴンゾンビ討伐 2

 エインは熱が入って乗ってきた。四級以下の魔物であれば、彼にも討伐できる。アーミースパイダスは彼が仕留めて、三級はリオ。

 同行という形のはずだがエインは負けじと気張っている。


「オレだって……!」

「エイン、前に出るな! ドラゴンゾンビが出てきたら死ぬぞ! 我々に任せておけ」


 クリードがエインを叱咤する。一級のドラゴンゾンビはその名の通り、最強種であるドラゴンの肉体が腐敗して蘇った魔物だ。

 なぜ死体が動くのか。原因はいくつかある。霊魂が乗り移ったり、ドラゴンの魂が死を認めず、肉体に執拗に残り続けるなど。代表してこのどちらかだ。


「リオ、お前が討伐したゴーストと違ってドラゴンゾンビは霊体ではない。しかし実態があるのもまた厄介だ」

「臭いから……ですか?」

「それもある。そんなものに顔を顰めないのが第一歩だな。蓄積したダメージがわかりにくい上、そのしぶとさは並みではない」

「ゾンビも攻撃すれば倒せるんですか?」

「器となる肉体を徹底して滅ぼさなければいけない。頭を潰せば死ぬ生物とは別次元の存在だ」


 そう説明を受けながらリオが歩いていると、沼地が目立たなくなってきた。ホッと胸をなでおろすも、今度は何かの集団がのらりくらりとやってくる。

 人ではない。左右に揺れながら、時につまづきそうにさえなる。目、腕、何かしらの箇所が欠損して腐敗した死体が迫ってきた。


「オークゾンビか。たまに低級の魔物がこの湿原に迷い込んで果てる。等級は生前のオークと変わらんが、私としては引き上げたほうがいいと思っている」

「あれもしぶといんですか?」

「沼地に足を取られても千切って抜け出す」

「ひぇぇ……」

「剣などの武器で討伐を行っていた時代はそれなりに苦労しただろうな。だからこその魔術だ」


 クリードが片手を振った瞬間、オークゾンビ達が爆破した。何一つ残らず、木っ端みじんとなったオーク達の足元すらも余波で爆心地のようになっている。

 リオはコメントの余地がない。炎の柱や爆破もリオは好んで使用しているが、クリードのそれは速度が尋常ではなかった。高威力の爆破が一点に凝縮されていて、一切の無駄がないのだ。

 

「ス、スカーレッドの魔術とも違う……」

「私の魔術は速くても攻撃の軌跡があるからね。だけどクリードさんの魔術は違う。何せ」

「スカーレッド、それ以上はやめてもらいたい」

「ごめんなさい」


 リオは見当がついていた。クリードの魔術には発射地点がないのだ。スカーレッドの魔術のように天から放たれたり、或いは彼女から放たれるものではない。

 目標そのものがある地点で発動する。スカーレッドとは違った性質の回避不能の魔術。リオは身震いが止まらなかった。


「ぼ、僕はすごい人達と一緒に歩いている……!」

「チクショウ……」


 リオの隣でエインがぼやいた。彼は現実を思い知ったのだ。クリードのような熟練の魔術師は予想以上であり、同年代のリオにすら驚かされる。

 学園内における価値観、カースト、彼はそれらを見下していた。しかしリオ達の魔術を真の当たりにして思い知ったのだ。

 自分は彼らより少し強いだけ。五十歩百歩。彼らを見下していた自分も、ある意味で同類。自分より弱い者達を下に見ていたという点においては何も変わらない。

 リオに勝負を挑んだ時も、そうしなければ己の存在意義を見出せなかったからだ。無意識のうちにエインもまた学園という箱庭に染まっていた。


「クソ……。なんだってんだよ……オレなんか、全然……」

「エイン?」


 リオにエインが打ち震える深い理由など知る由もない。ひたすら悔しくて仕方がない、察せられるのはその程度だ。

 辺境の町のギルドでの仕打ちを思い返せば、他人事ではない。その時の自分と重ね合わせて、リオはエインの手を握る。


「リオ?」

「たぶんさ、エインは僕を認めてくれたんだよね。僕もエインを認めているよ。だって僕にはエインの魔術は使えないもん」

「何を言ってやがんだよ……あんなすげぇ魔術を使ってるくせによ」

「うーんとね、僕も最近わかったんだけどさ。人を認めるってそんなに簡単じゃないんだ。僕も前は誰も認めてくれなかった」


 かつての境遇を思い返せば、リオも気分がやや沈む。蒸し返してはいけないのだが、この時ばかりは止まらなかった。


「皆に笑われて馬鹿にされて……そんな中、僕を見つけてくれた人がいた。その人は僕なんか足元にも及ばないくらい強くて……。魔術だけじゃなくてね。なんだろう、人として強いのかな。うん」


 エインは何も言わなかった。理屈は理解しても、すぐに受け入れられるものではない。

 クリードは黙って見届けていた。大人が口を挟むのも野暮であり、これこそが少年達のあるべき姿だと考えている。思い悩んで互いに励まし合い、それでも前へ進む。

 誰も認めることなく、ある意味で認められなかったかつての自分自身を否定してほしいと願っていた。


「かなり奥まで来たな。お出迎えも凄まじい」


 前方からやってくる大軍はゾンビだ。オークゾンビ、ゴブリンゾンビ、左右からはアーミースパイダス。クリードの指示により背中合わせでの応戦だ。

 ただし彼が警戒している存在は奥にいる。奥で揺らめく影が穴があいた翼を広げた。潰れた声帯から放たれる咆哮が生者に冥府を感じさせる。


「あ、あれがドラゴンゾンビ……」

「堕ちて衰えたとはいえ、元最強種だ。リオにスカーレッド、お前達は落ち着いて左右の敵に対処しろ」


 クリードが前方から迫る群れとドラゴンゾンビを迎え撃つ。リオの将来が有望とはいえ、現役の一級魔術師がここにいる。クリードもまたリオに感情を動かされていた。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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