ドラゴンゾンビ討伐 1
向かう先はドラゴンゾンビ討伐。一級魔術師への討伐依頼であり、リオだけでは受けられない。
だからこそ、リオは緊張していた。クリードとスカーレッドの背中を見ながら歩いて、やたらとキョロキョロと落ち着かない。現地に着くまでは強気だったエインも、今は不安を隠せない面持ちだった。
クルワール湿原。一歩でも間違えば、そこは底なし沼だ。高難易度の討伐依頼で厄介なのは、魔物だけではない。
単純な魔物の強さとは別に、劣悪な環境に適応して進めるかどうか。だからこその一級への討伐依頼なのだ。
「おい、リオ。お前ら、いつもこんなところで魔物を殺してるのか?」
「こんなひどい場所は初めてだよ。うわっ! あ、足が!」
「ひぃっ!」
そこは浅い沼だ。クリードがリオを落ち着かせて、足を抜かせる。
釣られて情けない声を出したエインだが、事が解決するとなかったかのように気丈に振る舞う。
「フ、フンッ。大袈裟なんだよ」
「僕一人じゃ歩けないなぁ……。クリード支部長とスカーレッドはすごいよ」
まるで自分の庭であるかのように二人は歩を進めている。彼らの後ろにいれば、底なし沼にはまることはない。頭ではわかっていても、リオは神経が過敏になっていた。
この討伐依頼を選択したのはクリードだ。彼が同行しているとはいえ、本来は三級の魔術師と初等部の少年を同行させるべき場所ではない。
リオの真価が見たいという理由もあるが、それ以上にリオに場数を踏ませたかったのだ。湿原の安全地帯と危険地帯の解説を聞きながら、リオは熱心に頭に叩き込む。
「目安としては植物だ。まずは沼地に群生しない植物を頭に入れておけ」
「はい、あれとこれと……」
リオの左方向の沼がせり上がり、蛇の頭が現れた。長い胴体の半分が沼に沈んでおり、舌をちろつかせている。
エインは絶句して、リオがすかさず応戦。片手に炎を纏わせて、巨大蛇に見せつけた。
「ヒドラバイター、二級の魔物だな。生半可な魔術では止まらんぞ」
そう言いつつ、クリードはいつでも迎撃できるように準備している。リオの片手の炎が広がりを見せて、炎の爪のごとくヒドラバイターを襲った。
炎の爪に鷲掴みにされて、まるで炎そのものが食欲があるかのように巨大蛇を飲み込む。
よりリアルに見せるだけではなく、より恐ろしく見せるためにリオは炎の形を変えて放っていた。逃げ場がない、焼かれる、食われる。そう本能に訴えかけるのだ。
巨大蛇が頭部ごと焼き尽くされて、沼に沈んでいる胴体ごと沈んでいく。と、周囲は誤認していた。
「は、はぁ!? リオ、今のお前……すごすぎだろ!」
「そう言ってもらえると自信がつくなぁ。えへへ……」
エインはリオの魔術発同時、畏怖した。あどけない少年の顔だったが、炎発動と同時に険しくなる。炎に照らされたリオの表情がひどく残酷に見えた。
しかし決着してみれば、年相応に照れるリオがいる。
「学園の奴らなんか比較にならねぇ……」
「ま、リオならこのくらいやるよね」
「驚かないのかよ」
あっけらかんと述べるスカーレッドにエインが引く。
クリードはリオが魔術で魔物を討伐するところを初めて目の当たりにした。感想は手が込んでいる、だ。
味方にすら魔術の正体をばらさないように、実技の測定と同じく巧妙に隠している。魔術発動前のポーズ、魔力感知、残滓、すべてを統合してクリードはリオの魔術に見当をつけた。
特に発動前のとあるポーズが肝だとクリードは目星をつける。しかしやはり追及しない。
「二級のヒドラバイターを瞬殺とはな。魔獣ヒドラの頭一つ分に相当する魔物で再生力も高いというのに……」
「クリードさん。リオの魔術ってさ、なんか不思議だよね」
「そうだな。思わず目を奪われてしまった」
自分で発言しておきながら、クリードは二の腕をさする。それ自体が恐ろしいからだ。
戦いにおいて、一瞬が命取りとなる。幾度なく死闘を制して、数多の魔術を見てきた彼が一瞬でも見惚れてしまったのだ。
ヒドラバイターは生命力や魔術耐性も高く、一撃で仕留められる魔術師はあまり多くない。しかしリオは仕留めてしまった。
まるでヒドラバイターがリオの魔術に屈したかのように。リオの魔術の真相はできる魔術師であるほど身震いする。
「スカーレッド、我々も負けていられないな」
「そうだね。ここにはヒドラバイター以外の魔物も多いし、私達も意地を見せよっ!」
「オ、オレだって!」
エインが魔術の構えを見せる。再び現れたのは四級の魔物、アーミースパイダスだ。常に数匹で行動して、獲物を仕留めにかかる。
エインが格闘技のごとく拳を突き出すと同時に雷が放たれた。
「サンダーブリッツッ!」
一匹の蜘蛛が焼け焦がされて、続けて両サイドも同じ末路を辿る。一撃で三匹同時に仕留めたエインの魔術にリオは感動した。
スカーレッドの光の魔術に近い速度かつ威力、何より派手な見た目が気に入ったのだ。
「すごい! サンダーブリッツっていうの? エインなら免許を取ってすぐ活躍できるよ!」
「オイオイ、お世辞で上げようったってな」
「発動前にこう言うともっとかっこいいよ。天雷よ、仇を裁き穿て! サンダァァァブリッツッ!」
「……なんだって?」
「それもいいけどさ」
スカーレッドが加わり、こんな場所だというのに熱が入る。僕、私が考えたかっこいい魔術のセリフが次々と披露された。
クリードが小突かなければ、いつまでも続いていただろう。同じ歳でありながら、二人の世界はエインにとって未知だった。未知の世界が彼を刺激して、やがて染まる。かっこいいセリフも悪くない、と。
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