らぶらぶ討伐
「リオ、頼みがある」
スカーレッドと共に討伐依頼を吟味していたリオにクリードが話しかけた。隣にはエインがいる。
エインの目つきにリオはやや萎縮した。自分に対して挑戦的な眼差しだと感じたからだ。
「クリード支部長、何ですか?」
「実はこういう事情でな……」
クリードの説明を受けて、リオは情報の整理に苦労した。話には聞いていたものの、リオは学園という世界を知らない。
停学、つまらない同級生、すべてリオには縁がなかったものだ。基準や物差しが一切ないので、エインが何に不満を抱いているのか理解できなかった。
「えっと、そのエイン……君を討伐に連れていけばいいんですか?」
「もちろん今回は私も責任をもって同行する」
「クリード支部長と!? やった! ぜひお願いします!」
「クリード、話が違うぞ。オレとそいつを勝負させるんじゃなかったのか?」
いきなり口を挟んできたエインにリオは面食らう。リオにとってクリードはお世話になっている支部長であり、タメ口を利くなどあり得なかった。
辺境の町のギルドにいた頃から、リオはそういった礼儀を嫌でも学んでいる。学園ではそういうことを学べないのかと、リオはエインに驚くばかりだった。
「そんなことは一言も言ってない。ドマリア本部長からはお前に外の世界を見せてやってほしいとしか頼まれていないからな」
「討伐だか知らねーけど、そんなのより勝負させてくれよ」
「なぜ勝負したがる?」
「自分で強いとか粋がってる奴は全部、口ばっかりだ。強いくせに自分より弱い奴ばっかりいじめやがる。そんなのをぶちのめしたら停学だもんな」
クリードも始めて聞くエインの情報だった。学園は貴族や王族といった上流階級の者も通っており、権威や実力主義が蔓延している。それ故に格差問題が生じていた。
「エイン君はその、いじめられていた人を助けたの?」
「強けりゃ何をしてもいいってんならオレが挑んでもいいよな。それだけだ。お前も口だけのザコじゃないと願ってるぜ」
「そっか。わかった、じゃあ一緒に討伐に行こう」
「は?」
「あ、でも免許は持ってる?」
リオの人当たりのよさにエインが呆気に取られた。刺々しい態度を取れば、大体の者は反感を覚える。
大人であれば生意気なガキと見下して、同年代であればケンカ腰だ。そんな調子だったからこそ、エインは何も言えなかった。
「討伐への同行に免許習得の義務はない。それがまかり通らないのであれば護衛依頼も問題となるからな」
「じゃあ、僕とスカーレッドとクリード支部長で討伐すればいいんですね」
「討伐に参加するのも自由だ。ただし報酬の配当は認められない」
エインはリオとクリードの会話が新鮮に見えた。リオはクリードに敬意を払っており、クリードもまたリオを認めている。
身分が上だからといってお山の大将を気取っている生徒とは違う。歳上だからといって威張り散らす教師とは違う。
なぜこんなことが起こるのか。エインは未知の世界でも見ているかのようだった。
「あーあ、リオと二人っきりがよかったんだけどなぁ」
うまくまとまったものの、スカーレッドとしてはやや不服だった。しかし楽しそうにはしゃぐリオを見られて、これもいいかと妥協する。その笑顔だけでスカーレッドは自然となごむのだ。
* * *
「クリード支部長、今回の討伐対象なんですけど大丈夫なんですか……?」
「一級の私やスカーレッドがいる。最悪、私達だけで戦えばいい」
討伐対象がいる場所には魔導列車を使っても日をまたぐ。リオは窓の外を流れる風景に見惚れており、スカーレッドはさりげなく寄り添う。
正面の席に座っているエインがそんな二人を黙って見ていた。
「なぁ、お前ら」
「なに?」
「お前らってらぶらぶなのか?」
「ぶっ!」
スカーレッドが吹く。
「な、何を言い出すのさ!」
「だってスカーレッド、ずっとリオとくっつきたがってるだろ」
「く、くっちゅきたがってない!」
「そうか?」
スカーレッドは狼狽えるが、リオは頭の上にクエスチョンだ。スカーレッドの様子がおかしいと感じたリオが、彼女の額に手を置く。
「な、なな、なに!」
「え、なんか赤いから熱があるのかなと思って……」
「ないよ、ないから安心して。ないない」
熱がないならよかったとリオは安心する。まるでピクニックだとクリードは思うものの、いい傾向だと己の判断を信じた。
エインは粗暴な一面はあるものの、悪い少年ではない。むしろ父親に似て正義感が溢れる子だと、信じつつあった。
「なんでだよー。男と女はらぶらぶすれば強くなるってオヤジが言ってたぞ」
「エイン、らぶらぶってなに?」
「なんだよ、リオ。お前、そんなのも知らないのか?」
「リオは知らなくていいの!」
リオの疑問が解決されないまま、スカーレッドが話題を打ち切った。和気藹々とする未成年達をよそに、クリードは密かに企んでいる。
「リオ、相手は一級の魔物だ。私とスカーレッドが前衛を勤めるから、お前は後方から遠慮なく魔術をぶち込め」
「はい! がんばります!」
リオは討伐戦が待ち遠しかった。何せ以前から気になっていたクリードの魔術が見られるのだ。
一級のスカーレッドの光の魔術は強力無比で死体すら残らない分、残酷とすら思えない。それでいて光を行使するスカーレッドが綺麗で、リオはその姿を見るのが楽しみでもあった。
一方でクリードもスカーレッドとは違う強さの魔術を使うに違いない。魔術への好奇心はリオ本人の性格もあるが、固有魔術式が刻まれた本能からくるものとも言える。
その固有魔術式の性質故に、どんな魔術も実体化しない。ある意味、縛られているリオにとって他の魔術は憧れでもあるのだ。
「期待しているぞ」
クリードは密かに企んでいた。実技の測定以来、もう一度リオの魔術を確かめられるからだ。
そもそも彼はリオが足手まといになるとは考えていない。立場上、そう指示していただけだ。それはスカーレッドも同様で、クリードとは違った心境でリオに期待していた。
もしリオがクリードに力を見せつければ、昇級へ繋がるからだ。リオと並んで一級として肩を並べたい。スカーレッドはその日を心待ちにしている。
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