広場でのランチタイム
「リオ、筋がいいね!」
王都の広場にて、リオはスカーレッドから光を照らす魔術を教わっていた。
魔術式の知識はないが、リオの吸収力はセレイナのお墨付きである。固有魔術式によってすべてが幻となるが、光であれば関係ない。
以前は幻に加えて音と光しか放てなかったリオだ。スカーレッドのような恰好はつかないものの、片手で光の玉を浮かせることが出来た。
「スカーレッドみたいにこう……手を振って光を散らしたいなぁ」
「練習すれば出来るよ。ちなみに動きはこう」
「こ、こう?」
「もう少し腰を捻ったほうがいいかな。優雅に、それでいて華麗に」
光の魔術の本質とは離れた指導が行われていた。魔術を放つ際のセリフ、ポーズはすべてスカーレッドのオリジナルだ。
リオも最初は訝しんだが、今ではすっかりハマっている。互いにオリジナルのセリフを出し合って、互いに喜んでいる。
そしてもちろん、ここは公共の場だ。小さな魔術師二人が遊んでいれば目立つ。
「あれ、魔術師なのか? あんな子どもが……」
「あっちの女の子のほうは見たことあるぞ。確か閃光のスカーレッド……。わずか一年で一級にまで上り詰めた魔術協会創立以来の異才だ」
「まだ子どもじゃないか。それに魔女セレイナを差し置いて異才はないだろう」
「あれは別枠だよ。特級魔術師は他の魔術師と同列に並べちゃいけないって俺達マニアの間では常識だ」
スカーレッドに対する批評が囁かれているが、二人はすでに自分達の世界に入っている。雑音など聴こえていない。
「光り輝く我の魂よ! 闇を照らせ!」
「いいね。でも魂はちょっと大袈裟かな。もっとシンプルに『輝き! 顕現せよ!』のほうが力強くてかっこいいと思う」
「それかっこいい!」
マジか、という無言の突っ込みが二人に向けられる。リオがあらゆるポーズをとって、スカーレッドも対抗する。
広場の名物のようになってしまった二人は途端に落ち着き、スカーレッドがランチボックスを用意した。
「お昼にしよ。私の手作りでよかったらだけど……」
「もちろん! おいしそう!」
リオはサンドイッチを頬張る。その様子を凝視して、スカーレッドは感想を待った。
いつもは一人で食べている彼女だからこそ、この時ばかりは緊張する。ましてや相手は男の子、初めての相手だ。
「おいふぃっ!」
「ほんと?」
「おいふぃい!」
「ホントに!」
「ふぉんふぉに!」
リオが次から次へと齧っているのが何よりの証拠だった。セレイナの手料理とは違う味わい、そしてこの場所だ。
外で同年代の女の子と食事をするだけでも新鮮であり、幸福感に包まれていた。
「厨房を使わせてもらった甲斐があったなぁ」
「使わせて?」
「いやいや、そういえばリオはよくセレイナさんの弟子になれたよね。私も一度、お願いしたことがあったんだけど断られたもん」
「スカーレッドが? 僕もよくわからないんだよね……なんか惚れたとか面白いとかさ」
「……惚れた?」
それはやはりそういう意味なのか。スカーレッドは時が停止したかのように思えた。
セレイナはリオより年上であり、恋人としては不釣り合いだ。元々、いい加減な言動が目立つと評判のセレイナである。そういうことにしてスカーレッドは自我を保った。
「スカーレッドが断られるのかぁ。あの人、たまにっていうかいつもよくわからないんだよね」
「つまらないって言われちゃったなぁ。それから悔しくて練習したっけ」
「それであんな魔術を? 僕なんかセレイナさんの弟子にならなかったら今頃……」
「今頃?」
「何でもない。今度、セレイナさんに聞いてみるよ」
そう言いつつ、リオはセレイナの主張を思い出していた。威力至上主義、つまらない。自分の魔術は面白い。リオはしばしば考えることがある。
魔術革命によって魔道具などの技術が発達して、人々の暮らしは劇的に変わった。魔導列車が走るようになり、王都でも通りを走る魔導車がやや目立つ。
賢者は弟子達に魔術の効率化を教えた。しかし効率化は同時に大切なものを見失わせる。
安易な魔術による単調な攻撃魔術。魔導具による安価で質の悪い食品の量産、正しい技術の喪失。魔術革命以前に存在した職人達は今ではすっかり成りを潜めていた。
リオには魔術革命やセレイナの主張が正しいかどうかわからない。しばしば考えたところでまったく答えを出せなかった。
「魔術革命のきっかけを作った賢者ってどんな人なんだろう。どんな魔術を使うんだろう」
「魔術革命についてもっと知りたかったら今度、本を貸してあげるよ」
「いいの!?」
「でも本によって書いてあることがバラバラだし、あまり信用しないほうがいいかも」
リオはスカーレッドの素性について気になった。目元を覆った銀の面はかっこいいが、素顔を見ていない。
本音でいえばリオは彼女の顔が見たかった。顔を見てもっと話したい。スカーレッドと過ごす時間が楽しくてたまらなかったのだ。
「あ、ごめん。用事があるのを忘れてた。クリードさんとの約束もあるし、そろそろ行かなきゃ」
「そうなんだ。じゃあ、今日はお別れだね」
「リオ、また会えるよね?」
「うん。この王都に家があるんだ。妹もいるし、いつか遊びに来てほしい」
リオはスカーレッドに自宅の場所を教えた。しかし今度は彼女が気恥ずかしくなる。男の子の家に遊びにいくという事実だけで何故か緊張していた。
「じゃあね、リオ。また会おうね」
「うん」
スカーレッドは足早に去っていく。リオにはその後ろ姿が何かに押されて焦っているようにも見えた。
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