遭遇、盗賊団
黄色と黒の縞模様のフードを被った男達はリオとスカーレッドを忌々しそうに見ている。リオは男達の魔力を探った。
セレイナの言いつけ通り行った瞑想にて研ぎ澄まされたその感覚は、相手が魔術師かどうか判別できる。
全員から感じた暴力的な魔力、スカーレッドの魔力のような頼もしさはない。触れるものみな傷つける、近付きたくない魔力だとリオは不快感を露わにした。
「まさかこんなところにガキどもがいるとはな。仲よく肝試しかぁ?」
「あー……そっか。あなた達、ベンガル盗賊団ね。まさかこんなところまで荒らしにきたの?」
「その銀色の面、お前もしかしてスカーレッドか?」
「私も有名になったもんだ」
ベンガル盗賊団。リオもその存在は耳にしていた。凶術師ベンガル率いるはぐれ魔術師で構成された盗賊団。
はぐれ魔術師とは魔術協会の免許を習得していない魔術師の総称であるが、彼らのような存在が差別に拍車をかけている。スカーレッドはその事実を踏まえて、男達を嘲笑した。
「魔術革命のおかげで魔術師になれたはいいけどいつまでもくすぶった挙句、盗賊落ち。さすがはぐれ魔術師、まともな魔術師に迷惑だよ」
「あーあー、はぐれ魔術師って言ったな? 人を差別しちゃいけないってお父さんとお母さんに教わらなかったのかな? オレ達と違ってまともな育ちしてんだろ?」
「相手が嫌がる発言をするのも処世術って習ったよ。まともな親じゃなくて悪かったね」
「確かにろくでもねぇな」
男達の声が低くなる。リオは迷っていた。これまで凶悪な魔物と対峙して討伐してきたが、今回は人間である。
魔物とは違って言葉が通じる相手だ。しかもエーベンやダッツと違い、こちらは明確に敵意を示している。辺境の町のギルドにいた魔術師とも違う人間の攻撃性をリオは目の当たりにしていた。
「スカーレッド、盗賊ならやっつけないと……だよね」
「リオは下がってていいよ。慣れてないでしょ」
「慣れてないからこそ、やらなきゃいけない。僕だって魔術師なんだもの」
「そうだよね。先輩面してごめんね」
二人のやり取りに男達はいよいよ青筋を立てる。全員の魔力が沸き立ち、リオとスカーレッドへの殺意として顕現していた。
「オレ達の邪魔をする銀の面をつけたガキの魔術師は殺せって言われてるんでな」
「そっちの男のガキは知らないが、仲良くする相手はもっと考えて選ぶんだったな」
「魔術協会の飼い犬は殺傷処分しろ、お頭の口癖だ」
リオは先手で炎の壁を作り出した。更に男達の周囲にも炎の柱を出現させる。
「なっ!」
「あの炎は男のガキのほうか!」
「上天より誘われし滅終の天使、あまねく仇に逃れる術なし……」
男達に慌てている暇はない。天を照らす光、それが彼らが最後に認識できたものだった。
「光星」
大地に放たれる数発の衝撃。地面から浮かされた男達。体を打ちつけて悶える者はわずかだった。
声を上げる間もなく、男達の大半が光の中で蒸発したからだ。苦しみどころか、死体すら残らない。スカーレッドの魔術でほぼ決着がついたようなものだった。
運よく当たらなかった男達にしても、すぐには起き上がれない。光で目をやられていたからだ。
「なんだ、なんだってんだよ!」
「燃えてる音がするぞ! さっきの炎か!」
「囲まれている!」
男達が阿鼻叫喚の中、リオは自分の魔術を行使していた。スカーレッドの桁違いの魔術に驚きたいのは山々だ。
声を押し殺して、あがく男達を囲む炎の壁を狭めていく。同時に炎の柱の一つを爆破、音と熱がより彼らを怯えさせる。
「わぁぁ! 逃げろ、逃げろぉ!」
「熱い!」
「助けてくれぇ! 悪かった! 降参だ!」
リオはその言葉を聞いて、一瞬だけ魔術の解除を考えた。しかしスカーレッドがリオの腕に手を置いて首を振る。
「解除しなかったら死んじゃうよ?」
「こいつら、今まで散々人を殺したり悪さをしてきた。ここで生かしたらまた誰かが犠牲になるよ」
「そうだけど……」
小声で話し合ったものの、リオは悩んだ。さすがに殺すのは抵抗がある。
こうしている間にも男達は本物の炎にあぶられていると勘違いして死ぬ。すでに焦燥しきっていて、汗を流し始めていた。リオは考えたところで、炎を解除する。
「死にたくない?」
「助けてくれ、悪かった……。もうお前らには手出ししない。見逃してくれ……」
「えー、どうしよっかな」
「頼む……!」
懇願する男達の前でリオは巨大ナイフを作り出した。老夫婦のアンデッドの時に生成したものと同じだ。男達の表情は恐怖で歪み、少年の前で泣き喚く。
「ま、待てって! わかった! 王国に自首する! お頭について何でも話す! だから」
「少しだけ動けなくなってもらうよ! 大丈夫、死なないから!」
「いぎゃぁぁああぁぁッ!」
男の腕に巨大ナイフを振り下ろす。幻の血が飛び散り、男はあたかも重傷を負ったかのようにみせた。
他の者達も叫んでようやく立ち上がって逃げ出そうとするが、再び炎の壁で阻まれる。振り返った男達の前には巨大ナイフを持った複数のリオだ。
「あ……あぁ……」
「大丈夫だって」
それぞれ急所を外した上での刺突だった。男達は泡を吹いて、いつかのリオのように粗相する。
リオは迷ったが、最初に斬った男のように同じく血で偽装した。スカーレッドにもまだ魔術の真相を打ち明けたくなかったのだ。
リオの目論見通り、スカーレッドはぽかんと口を開けたままだった。
「こ、殺したの?」
「死んだのかな? わからないけどこの人達、自首するって言ってたよね。王都に連れて帰ればいいの?」
「今のうちに拘束して歩かせれば大丈夫だけど、気が重いなぁ。でも、もしかしたらベンガルの情報を持っているかもしれないし……」
「ベンガルって盗賊団のボスだよね」
「そう、未だにアジトやボスの居場所がわかってないから国も手を焼いてる。だから生け捕り自体はかなり有効だよ。なかなか難しいからね」
実際、リオにも死んだかどうかはわからない。しかし自分の魔術なら直接、外傷がないから殺さないこともできると考えたのだ。
セレイナに鍛えられていた時も、森で生きていると気づかずにうっかり魔物に近づいたことがあった。寸前で助けられて、それからはきちんと生死を確認するようになったのだ。
リオの提案通り、スカーレッドは拘束作業に入るが何せ粗相直後だ。
「うぇっ……。何もお漏らしすることないのになぁ。リオって顔に似合わずえげつないよね」
「スカーレッドの魔術のほうがすごいよ……」
お互いを尊重して、或いは畏怖する。二人の小さな魔術師は無事、ベンガル盗賊団の者達を捕らえて王都へと帰りつく。
目を覚ました盗賊がまた発狂するが、そのたびにスカーレッドが光の魔術を暴発させて脅した。その様は完全に悪役であり、リオはあまり彼女を怒らせないようにしようと誓ったのだった。
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