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廃家敷 3

 リオとスカーレッドは屋敷を探索することにした。二人とも、老夫婦のアンデッドが気にかかっていたからだ。

 通常の魔物と違い、彼らはアンデッドになる前は人間だった。かつてはこの屋敷に暮らして、思い出もあったはず。

 なぜ惨劇となってしまったのか。二人が気になる理由はほぼ共通していた。


「スカーレッドさんも気になるんだ」

「うん……。仲が良かった夫婦という噂が本当なら、どうしても知りたい。それと私のことはスカーレッドでいいよ」

「わかった。スカーレッド」


 邪悪な気配が消えた屋敷で、リオは静寂と儚さを感じていた。自分とアルムの関係とどうしても比較してしまうのだ。

 家族というものが、どうしてそのような事になってしまったのか。寝室に入り、引き出しを開けて一つずつ確認した。


「僕、両親が早く死んじゃったからさ。どんな形でも、あんな風になっちゃうのは悲しいなって思って……」

「……そうなんだ」


 部屋を一つずつ確認していくが、手がかりらしきものが見当たらない。

 どうして屋敷がこんなに広いのか、リオには理解できなかった。こんなに部屋があって何に使うのか。どれだけのお金をかけたのか。

 それを踏まえた上でリオはやはり憂鬱な気分になった。


「どれだけお金を持っても偉くても、いつかはこうなっちゃうんだね」

「どんなにすごい力を持った国も、いつかは滅ぶ。それなのにあーだこーだって馬鹿みたい」

「え?」

「あ、リオ。なんかこの部屋だけ他と違うよ。たくさんベッドがある」


 広い部屋に複数のベッドが置かれていて、タンスの数も多い。

 朽ちているとはいえ、リオは初めて富を持っていた者の住居を目の当たりにしている。セレイナの家はこじんまりとした内装であり、ここまで広くなかった。

 トイレに行きたくなった時に大変だろうなと少年らしい感想を抱いていた時、スカーレッドが何かを発見する。


「タンスの奥から紙が出てきたよ。かすれて読みにくいけど、たくさん人の名前が書かれている」

「なんだろ。月日、ポーラ。火日、アニータ。水日、ロレンヌ……なにこれ?」

「あ、そうか。ここは使用人の部屋なんだと思う。ほら、老夫婦だけじゃ広い屋敷の管理や生活が難しいでしょ。これ何かの割り当てなんじゃない?」

「月日にはポーラという人が何か仕事をする予定だったのかな。あれ、まだ何かある……」


 リオが見つけたのは液体が入った小瓶だった。手で持って揺らしてみたが普通の水としか思えず、二人は顔を見合わせた。

 スカーレッドが開けて臭いをかぐ。


「くっさッ! 腐ってるけどこれ、栄養剤だよ。疲れた時なんかに飲むと元気になるの」

「そんなのあるんだ。大変な仕事だから、それを飲んで元気になっていたのかな。僕もほしいかも……」

「安いものじゃないからお勧めできないかな。それにしても引っかかるなぁ」

「何が?」

「この小瓶はともかく、仕事の日程ならなんでこんなところに置いたんだろ。普通に壁に張ったほうが皆が確認できてわかりやすい思うんだけど……」

「確かに……」


 疑問を抱えたまま、二人は使用人の部屋から出る。最後に見つけたのは老夫婦の部屋だ。

 キングサイズのベッド以外に目立つものはなかったが、リオにとっては未知のアイテムである。


「こんなに大きいベッドがあるんだ……」

「リオ、棚の引き出しからこんなの出てきた」

「また紙……。あれ、さっきの人達の名前が書かれて……でも×が書かれてるね」

「最後に書かれているのはハワルド……たぶん男性の名前だね。ええと、他には……きゃっ!」


 スカーレッドが見つけて手にとったものの、すぐに落としてしまった。老人の絵が描かれた小さな肖像画の目鼻、胸、局部すべてに錆びた針が何本も刺さっている。

 更に殴り書きで何かが書かれていた。


「……に手を出した。こいつで最後? き、気持ち悪いなぁ」

「こ、このおじいさんはきっとハワルドって人で、たぶんあのアンデッドの……」


 アンデッドの老婆が老人をナイフで刺していた。そしてリオは倒した直後の言葉を思い出す。


――ユル、ざ、ネェ……


「おばあさんはおじいさんを憎んで殺した……。おじいさんはおばあさんにとって何か許せないことをしちゃったんだ」

「何かに手を出した。こいつで最後。×が書かれた使用人……。ダメだ、わっかんないや」


 スカーレッドがくるりと回ってリオの手を取る。暗く冷たい屋敷の中でリオはスカーレッドの手の温もりを感じる。同時に妙に恥ずかしくなり、心臓が高鳴った。


「ス、スカーレッド?」

「もう出よう。ここでは私達にはわからない悲しい事件が起こった。それでいいよね」

「そうだね。僕も眠いし、帰ろう」

「後でリオの魔術について聞かせてもらうからね。私も光の魔術を教えるからさ」

「そうそう、約束だもんね」


 スカーレッドはリオの手を握ったまま歩く。離したほうが歩きやすいと思うリオだが、言い出せない。しかしこのままでも悪くないかなと、リオの顔は火照っていた。

 スカーレッドが壊した屋敷の出入口から外に出た時、二人を光が照らす。


「な、なに!?」

「オイオイ、まさかの先客かよ」


 屋敷の前にいた数人の人影。彼らは持っているランプの光を二人に向けていた。 

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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