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廃家敷 2

 破竹の勢いで廃屋敷中のアンデッドを消滅させてきた二人だが、スカーレッドがふと考える。

 屋敷内の不穏な雰囲気がいつまでもぬぐえないのだ。一級魔術師としてそれなりに活動してきた彼女だからこそわかる。

 アンデッドは時として通常の魔物と同じように、ボス的なものに依存するのだ。


「ザコを倒しても一時的なものでしかない。どこかにいる大元のアンデッドを討伐しないと切りがないよ」

「どこかって、どこだろう?」

「これがアンデッド討伐の難しいところだよ。ビルギースさん達だって、ザコのアンデッド程度ならどうにかしたはず……あ、話を聞いてくればよかった」


 二人はしばし沈黙する。オークのボスならオークキング、しかしアンデッドとなるとリオには見当もつかなかった。


「しかも大元が残っていれば、また新たなアンデッドが呼び寄せられてしまうわけで」

「やっぱり住んでいた人が原因かな」

「老夫婦の貴族だっけ。領地も持たない貴族なんて記録にも残ってないだろうしなぁ。二人が何らかの未練を残してアンデッド化した可能性があるかも」

「まだ調べてないところがあるよ。弱いアンデッドも今ならほとんど残ってないし、チャンスだと思う」


 スカーレッドが頷く。二人は再び一階に降りて、朽ちた厨房や風呂を調べた。

 調理器具が赤茶けて錆びており、スカーレッドが手に取る。指で錆を触って匂いをかいだ。


「血だ……。食材のものとも思えない」

「鼻いいね……犬みたい」

「かいでみる? かいでみる?」

「いいよ、いいって!」


 スカーレッドがリオの鼻に指を押し当てる。その際にリオは床に不自然な箇所を見つけた。うっすらと四角のラインがあり、一か所だけ違う。

 リオはスカーレッドの手をどけて、床を手で探った。


「あ、これって開くのかな?」

「床下の地下倉庫かな。行ってみましょう」


 リオの予想通り、床を押すと音を立てて崩れた。経年劣化で朽ちていただけというのがスカーレッドのフォローだ。

 階段の下から立ち込める臭いを我慢して、二人は降りる。光の魔術のおかげで、降りた先の様子はすぐに把握できた。かなり広く作られており、二人にとっても用途がわからない空間だ。


「何もないね」

「いや、油断しちゃダメ」

「あ……!」


 地下の部屋の隅で何かが蠢いている。人の頭が二つあった。痩せこけた老婆と老人の身体が重なり合うようにして起き上がる。

 老人の腹には包丁が深々と刺さっており、持ち手には老婆の手だ。


「おごっおぼぼっ……」


 老人が吐き出した血が床に滴り、老婆が大声で笑いだした。ガタガタと揺れる二人の身体が本格的に合わさる。

 腕が四本、足も四本、頭が二つ。頭はそれぞれ背中、肩から生えている。出来の悪いオブジェのような、崩れた節足動物のような怪物がリオとスカーレッドの前に立ちはだかった。

 途端、二人が入ってきた地下室のドアが閉まる。ドアの役割を果たしている蓋は壊れたはず、リオは振り返ろうとした。


「気にしちゃダメ! 彼方よりいずる断剣、裁くは揺蕩う汝の業! 光刃(エクスエッジ)ッ!」


 スカーレッドの魔術は視認できない。光と共に終わるのだ。

 光の刃が異形のアンデッドをすり抜けて、地下室の壁をも通過する。光の速度と熱、切断という点においてもっとも特化したスカーレッドの魔術だが――


「がぼぼぼごっ!」

「ウソッ!」


 効いていない。何事も起きていないかのようだった。血を吐き散らしながら、アンデッドが複数の手足を動かす。

 次の瞬間、スカーレッドが突然吹っ飛んだ。


「ス、スカーレッド!」

「くっ……何あの魔術耐性……!」


 リオが話に聞いていた見えない衝撃だ。回避しようがない。すぐに起き上がれないスカーレッドに腕を伸ばしたアンデッド。


「こっちだっ!」


 ぴくりとアンデッドが反応する。そしてリオの眼前に手が伸びた。


「あぶなっ……!」


 魔力による身体強化のおかげで間一髪、回避。リオはすかさず自分やスカーレッドの分身を数体ほど用意する。

 スカーレッドとて、うずくまったままではない。分身の中に溶け込んで難を逃れることに成功した。アンデッドが惑わされており、片っ端から手を振って分身を狙う。

 リオの頭はフル回転していた。知っている事実を頭の中で並べる。まずスカーレッドの魔術が効かない。アンデッドは普通の魔物ではない。魔術で倒せる個体がいる。魔物の中には魔術の耐性を持つ個体がいる。

 魔獣がその筆頭だが、アンデッドにそれがないとは限らない。自分に出来ることをひたすら考えた。


「あの刺さってるナイフ、もしかしたら……」


 老婆と老人を繋ぐようにして刺さっているナイフ、吐き出される血。

 リオにアンデッドの事情はわからないが決意した。これしかないと、リオは片手に巨大な包丁を幻で作り出す。


「これで刺しちゃうよ」


 アンデッドの動きが止まった。リオ本体だけではない。分身もそれぞれナイフを持っている。


「痛いよね? これで死んじゃったんだもんね?」

「ごぼっ……ごあぼごぼぼっ!」


 大量の血を吐き出したアンデッドに吐き気を催すリオだが挫けない。それなりに討伐任務を終えたリオのメンタルは強固に仕上がっている。

 リオは幻の巨大ナイフをアンデッドに振り下ろした。


「ぎゃあぁぁあああぁぁぁッ!」


 ぶしゅりとアンデッドが切り裂かれて、二つの頭も分かれた。手足が取り外されるように、みるみると身体全体が崩れていく。リオはすかさず追撃を決意した。

 分身達が一斉に襲いかかり、アンデッドをナイフで切り刻んでいく。幻なのに物理的な現象が起きている。今はそんな疑問は頭の中で振り払った。


「あぎゃぎゃぎゃががっぎゃああああぁッ!」


 複数個所から血を噴き出して、アンデッドの身体が今度は透けていった。崩れた肉片から順次、消滅していく。

 やがて老人と老婆の頭が残る。老婆の頭がごろりと転がって老人を睨んだ。


「ユル、ざ、ネェ……」


 老人が怯えた表情を見せて煙のように消える。老婆の舌がだらりと伸びて、高速で腐敗するかのように溶けていった。

 メンタルが仕上がってきたとはいえ、さすがのリオもこうなると吐き気を堪えている。そしてすべてが終わり、空気が一変した。屋敷に漂う重苦しい空気はすでにない。

 魔術耐性を警戒して、二発目の魔術を吟味していたスカーレッドがようやく戦いの終わりを感じた。


「リオってすごい……」


 シンプルだが、今のスカーレッドにはそれしか言えなかった。

読んでいただきありがとうございます。

続いてほしい、面白いと少しでも思っていただけたならば

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